常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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十六:嘘憑

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「何で、僕には連絡がきてないのに」
「どうやら、大切なお土産が持ってこられなかったみたいだけどなぁ」
「え……?」
「お前と顔を合わせづらいんじゃないのか」

 ……ということは、例の食べ物の話だろうか?
 元の世界に帰ることが出来なくなったと、2人の会話を聞いて推測する。
 なんとなく他人事のように聞いていたけど、それは大変だ。せめて、長くなりそうなら大家さんに一言入れたい。

「陽尊……」
「大丈夫だよ。まだ、手はある。社長の所にいけば、」
「それは、無理だろうよ。一歩も動けないし、こちらから上に行くことも出来ないんだから。まぁ、気にするな。すぐに、帰られるから」
「建速さん。そんな、一時しのぎの嘘やめて下さい。」
「……えぇ?嘘じゃないぞ?陽尊」

 地下で、そんなにここは明るくない。
 その暗がりの中でも、はっきりと分かるように陽尊の顔色が悪い。

 なんとか突破口はないのだろうか?
 励ますように、思いついたことを言ってみる。

「あ、あのさ。俺ら、こっちで生まれたんだろ? なら、その時に元の世界に行った時の方法を使えば?」

 奏採はそっと声を掛けるが、陽尊が下を向いて唇を噛むだけだ。

「バッカだなぁ。その方法は大変なんだ。その為に、陽尊はあんな死に方をして、いろんな神々たちを俺が巻き込んで、大事になったんじゃねーか。脚色されて、史実にもなるしさ……、って言うか、そもそも帰られるって!」
「……それ以上、やめて下さい。奏採が混乱する」

 どういうこと?
 そうだ。俺を生き返らせるためだけなら、別に別世界に移動する必要はない。
 なにか、他に理由が?

「陽尊は死んだんだよ。自死で」

 そっか。俺を追って、自分で七支刀で……。

「人間を依代にして、別世界を行き来が出来るように亜神になったんだ。奏採と一緒に。神ではないが、もう人間ではない」

 ……じゃあ、普通って言っていたのは?
 普通の家族に生まれて、普通に育ったって言ってた。

「ごめん、奏採。ただ信じて。普通の生活をしているのは事実だ。それが、ただの箱庭のようなものでも」
「分かった。俺は、陽尊の言葉だけは信じる」

「あのさぁ、何度も言ってるけど、俺も信じろよ!」

 建速がドンッと足で地面を強く叩き、そう、吐き捨てながら、何処かへ向かった。

「何を言ってるんですか。親友なら、こんなひどい茶番劇を長い間やらないと思いますよ?」

 いつの間にか、根の国の門の所に誰か立っていた。
 それは、とても優しく穏やかな雰囲気で、にこやかに笑いながら、建速をたしなめる。

「……茶番劇?」

 陽尊が、いぶかしげに、深く思案をしている。

「そろそろ、良いと思いますが。勘違いを教えてあげても」
「そうだなぁ。確かに、奏採がこっちの世界に呼ぶっていう希望が叶えられたからな。もう、勘弁してやるか」

 建速は豪快に笑っているが、俺には何のことか分からない。
 陽尊は何か察したのだろう。
 嬉しいのか悲しいのかよくわからない表情で、目の前にいる人を紹介してくれる。

「こちら、八千矛さんです。何かとお世話になってます。……帰られるように食べ物を持ってくるなんて、嘘だったんですね」
「陽尊、ごめんね。自分ほどの神霊に耐えられる人間見つけて向こうの食物を持ってくるなんて、そんな難題はそもそも無理だよ」

 陽尊は、少しだけ睨むように建速に振り返る。

「あなたの目的は、奏採を連れてくることだったんですね」
「まぁ、それだけではないが」

 俺を抜かして話が完結に向かいそうなので、おずおずと建速に質問をする。

「……なんとなく、騙されていたってのは分かりましたけど。どういうことですか?」

 やっと、話を聞く気になったかと、建速が満面の笑みで大きくうなずいている。

「ここは根の国だろ。黄泉は、あの大っきな門の中。そこには生きている人間は入れない。そして、入ったら出られない」

 陽尊が、口元に指先を当てて考えている。そして、何かに気づいたように、こっちを見て、まばたきした。

「……そうか。なんとなく、馴染の場所だったから勘違いしてた」
「……というと?」
「黄泉から出ている時点で、俺たちは『黄泉の竈』で作った料理を食べてない。全部、建速のついた嘘で、誘導尋問で答えさせられていた」
「……じゃあ、さっき口にしたのは?」

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