常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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十七:偽恋

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「ま、ちょっとした出来心だ! そうだ。帰るなら、あっちの世界の服に着替えるだろう? 汚れたのを洗ってあるから、持ってきてやる!」

 あきらかに誤魔化しながら、建速がどこかに去っていってしまった。
 出来心にしては、しっかりと協力者はいるし、計画が練られていたようだが。
 あくまでも出来心と言い張る姿は、いっそ清々しい。

「……まぁ、結果的に良かったんじゃないかな。一度は、奏採をこっちに来させたかったんでしょう?」
「八千矛さん。まぁ、そうですね。この剣の事もありますが、ここに来なければ、こんなに早く仕事の事も理解してもらえなかったかもしれませんし。……ね? 奏採?」

 ……それに関しては、確かに同意。けっこう、序盤はずっと夢だと思っていたもんな。

「そうかも……」

 その通り過ぎるが、曖昧にして、目が泳がせながら答える。

「そうだ。弓矢の調子はどう?」
「最近、遠距離戦がないので使ってないんです」
「じゃ、太刀の形代にする?」
「いえ。奏採が剣なんで、サポートにまわるから弓で……」

 さっすが。分かってる!!

「へへへー」

 陽尊と一緒に戦うとか、仲良くなれるに違いない共同作業が嬉しくて、笑いながら陽尊の腕に絡まる。

「楽しみ?」
「もちろん! だって、別に死なないんでしょ?」
「……まぁ、普通の戦闘なら。怪我はするけど、致命傷はないかな」
「じゃ、ワクワクする」

 その様子をぼんやり見ていた八千矛が、驚いたように目を見開く。

「昔も、そんな性格だっけ? もっと大人っぽくて喋るタイプじゃなかったよね、たしか。今の彼、すごい可愛いなぁ」
「手を出さないでくださいよ。貴方はすぐ、いろんな人に好かれてしまうんですから」
「それは、奏採が決めることだよねぇ。……どう? 俺みて、何か思わない?」

 ……えっと。

「思わないです」
「えっ!? 本当に? ……陽尊、すごいよ。この美しい顔と優しい性格で、どうやったって、みんなから好かれてしまう俺をなんとも思わないなんて」
「確かに、その通りですけど。過去未来永劫、全宇宙で一番、奏採を好きなのは俺なんで。絶対に近づくのはやめてくださいね」

「え…………」

 突然の陽尊からの激重告白に、ここにいる自分だけが動揺している。
 何回か言われてるような気がするけど、それでも、そんなに、さらっと流さないで。
 時間を巻き戻して、もう一度、聞きたい。

「お願い! もっかい、ゆっくり言って。幸せを噛み締めたいから」
「…………しあわせ?」

 陽尊にとっては、心の中で当たり前の事を口にしただけらしく、首を傾げている。

「うん。必要とされるのって嬉しい」
「奏採、僕の願いを叶えてくれるの? 最後は、一緒に死合わせで、終わりたい」
「……終わる? いや、終わらないし。せめて、大学卒業させて?」

 どうも、いちいち陽尊は壮大なスケール言葉を使うんだよな。

「はいはい。そこ、離れて離れて。今、失恋したけど、あきらめてないのがここにいるよ」
「……八千矛さん。戦いますか? 奥の手、ありますけど」
「ちょ! ちょっと、やめて。だから、平和にいこう」

 奏採は、二人の間にはいって、手をワタワタさせる。人生で、一番のモテ期にどうして良いか分からない。
 その様子を助けるように、陽尊の服を持った建速が戻って来た。

「ほらよっー! 服、持ってきたぜ。良いよなぁ、そのお前の生きてる世界の服。俺もこの体で着られるの欲しいわー」
「……ありがとうございます。あなたに酒を浴びせかけて、大量に飲まされた後、服にかけられてビショビショになったから着替えたんですけどね」
「恨みがましいな。……まぁ、あれだ。出来心だ」
「はい。わかりました」

 ピシャリと、会話を打ち切る。
 なんか、もっと、この世界の人とよそよそしいのかと思ったら、人間と同じように、じゃれ合ってて楽しそうだ。
 うん。
 なんだか、学校生活を思い出すな。 

「ね、なんか、仲良さそう!」
「必要に駆られてだよ?」

 だが、即答されてしまった。

「じゃ、ごめんね。奏採を一人にさせちゃうけど。急いで、着替えてくる」
「わかったー! その、古代風の服も似合ってるけどね」
「ん。ありがとう。……でも、こっちの服は持って帰られないから。戻った途端、警察に捕まりたくないからね」

 ……たしかに。

 物陰に隠れていく陽尊に大きく手を振って見送る。
 陽尊が見えなくなって、すぐに俺のジーンズの後ろポケットに建速が手を突っ込んでくる。

「…………なぁ、そのポケットの中、何が入ってんだ?」
「わ、わわ!! 何も、入ってない! ……っ……くすぐったい!」
「良いな、これ。くれない?」

 お尻のポケットに手を突っ込んだまま、建速がニヤリと笑った。

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