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十八:転移
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「あげられるものなんて、ない!」
「あるだろ? ここに……」
だから、ないって言ってるのに。まだ、ポケットから手を離してくれない。
身長高くて、体格が大きい人に急接近されると、自分がどれだけ弱い立場なのかを思い知らされて、恐怖感が出てくる。
密着された状態だと話も出来ないから、分厚い胸板を必死に押してみるが、全く動かない。
……こわい。
陽尊も、背が大きいけれど抱きしめられた時に安心しかなかったのに。
「陽尊……、」
そう、弱々しく呟くとシュンッと、横に風が通った。
「早く、奏採から離れてください」
陽尊が弓を引いている。そして、また、弓矢は正確に、建速の頭上を狙っていた。
万が一にでも俺に弓が当たらないようにだろうか、なるべく上を向けて。
さっきの風は、この弓を最初に射った時に出たものだったのか。
「そりゃ、誤解だな。確かに可愛いお尻だけど、興味はない」
「では、何故? そんなに、近づく必要が?」
「それは、これこれ。な、奏採さぁ。これ、ちょーだい。美味しそうなやつ」
笑いながら、ゆっくりとポケットから手を出す。
その時にカサリとビニール袋がこすれるような音がした。この世界では存在していないはずだし、何だろうと思って音の先を見る。
すると、手のひらには、さっき食べようとしていた飴があった。
「あ」
危険はないと確信したのか、陽尊が弓を体内収納して、小走りで近づいてくる。
「それ、飴? 持ってきてたの?」
「うん。通ってる病院で貰ったから。貴重なカロリー源だし」
「病院から? ……そうか。なら……あるかもしれない」
なにが、あるのだろうか。
まぁ、別にもともとは自分のものでもないし、あげたって構わないものだ。
地上に出たら、果物がいっぱいなってるし。それを、食べればいい。
「あげる。なら、先に言って。いきなり尻つかまれるから、焦った」
「お、サンキュ! 陽尊は食物を持ってきてくれないし、あきらめてたんだよな。しかも、2個もあるじゃん!」
それが、どうしたというのか。
ずっと、後ろの方で黙っている八千矛の方を見てみると、今までの飄々とした表情から一転、何か含みがある顔をしている。
そして、俺の顔を覗き込んだ。
「奏採は、俺たちに恩を売っておいた方が良いと思うよ?」
「……はぁ」
「だから。これは、もらうね」
そう言って、2つあった飴の内、一つを掴んで封を切る。
「これで、本当に行けたらすごいな」
「……ですね」
2人同時に、口の中に入れる。……で、どうなるというのだろう。
ぼんやりと経過を見ていても、何も変わらない。でも何か確実に変わったのか、2人共、とても悪い笑みを浮かべている。
その様子を見て、陽尊はあきれたように腕を組んでいる。
「あの、別に、いつでもこっちに来てるじゃないですか? 向こうで実体化する必要ありますか?」
「あるね」
「あるに、きまってるじゃねーか!」
当たり前の問だったらしく、食い気味に返した。……ってことは。
「……え? それ、食べると、行き来が出来るようになるって事?」
話の展開から、そう推察する。自分も、この世界のことが分かってきたのか、なんとなく予測ができるようになってきた。
「気にしないで。僕達の生活には、関わり合いないようにしてもらうから」
「……無理にでも、関わっていくわ。お前だけの特権なんて、許さねぇからな」
建速が鼻息荒く言うと、八千矛が大きく「その通り!」と援助した。
「……まぁ、これも、こうなるのが仕組まれてる流れだと、思うよ?」
「そっか? ……それにしても、陽尊の服、なんかオシャレだな」
「いま、そこ気になる?」
「なんか、かっこいいな! 都会っぽい」
「…………それは、嬉しいけど」
表参道とかに売ってそうなお洒落な服を見る。
あきらかに、自分には買えない種類の服ではあるが、古代風の服よりは何だか自分と同じ世界の普通の人間みたいに思えて、安心した。
終わりよければ、すべて良し。
そろそろ、この地下にいるのも、気が滅入ってきた。
褒められて恥ずかしいのか頰を赤くした陽尊が、助け舟を出してくれる。
「……もう、本当に、ここには用事がないよ。帰ろう」
「あるだろ? ここに……」
だから、ないって言ってるのに。まだ、ポケットから手を離してくれない。
身長高くて、体格が大きい人に急接近されると、自分がどれだけ弱い立場なのかを思い知らされて、恐怖感が出てくる。
密着された状態だと話も出来ないから、分厚い胸板を必死に押してみるが、全く動かない。
……こわい。
陽尊も、背が大きいけれど抱きしめられた時に安心しかなかったのに。
「陽尊……、」
そう、弱々しく呟くとシュンッと、横に風が通った。
「早く、奏採から離れてください」
陽尊が弓を引いている。そして、また、弓矢は正確に、建速の頭上を狙っていた。
万が一にでも俺に弓が当たらないようにだろうか、なるべく上を向けて。
さっきの風は、この弓を最初に射った時に出たものだったのか。
「そりゃ、誤解だな。確かに可愛いお尻だけど、興味はない」
「では、何故? そんなに、近づく必要が?」
「それは、これこれ。な、奏採さぁ。これ、ちょーだい。美味しそうなやつ」
笑いながら、ゆっくりとポケットから手を出す。
その時にカサリとビニール袋がこすれるような音がした。この世界では存在していないはずだし、何だろうと思って音の先を見る。
すると、手のひらには、さっき食べようとしていた飴があった。
「あ」
危険はないと確信したのか、陽尊が弓を体内収納して、小走りで近づいてくる。
「それ、飴? 持ってきてたの?」
「うん。通ってる病院で貰ったから。貴重なカロリー源だし」
「病院から? ……そうか。なら……あるかもしれない」
なにが、あるのだろうか。
まぁ、別にもともとは自分のものでもないし、あげたって構わないものだ。
地上に出たら、果物がいっぱいなってるし。それを、食べればいい。
「あげる。なら、先に言って。いきなり尻つかまれるから、焦った」
「お、サンキュ! 陽尊は食物を持ってきてくれないし、あきらめてたんだよな。しかも、2個もあるじゃん!」
それが、どうしたというのか。
ずっと、後ろの方で黙っている八千矛の方を見てみると、今までの飄々とした表情から一転、何か含みがある顔をしている。
そして、俺の顔を覗き込んだ。
「奏採は、俺たちに恩を売っておいた方が良いと思うよ?」
「……はぁ」
「だから。これは、もらうね」
そう言って、2つあった飴の内、一つを掴んで封を切る。
「これで、本当に行けたらすごいな」
「……ですね」
2人同時に、口の中に入れる。……で、どうなるというのだろう。
ぼんやりと経過を見ていても、何も変わらない。でも何か確実に変わったのか、2人共、とても悪い笑みを浮かべている。
その様子を見て、陽尊はあきれたように腕を組んでいる。
「あの、別に、いつでもこっちに来てるじゃないですか? 向こうで実体化する必要ありますか?」
「あるね」
「あるに、きまってるじゃねーか!」
当たり前の問だったらしく、食い気味に返した。……ってことは。
「……え? それ、食べると、行き来が出来るようになるって事?」
話の展開から、そう推察する。自分も、この世界のことが分かってきたのか、なんとなく予測ができるようになってきた。
「気にしないで。僕達の生活には、関わり合いないようにしてもらうから」
「……無理にでも、関わっていくわ。お前だけの特権なんて、許さねぇからな」
建速が鼻息荒く言うと、八千矛が大きく「その通り!」と援助した。
「……まぁ、これも、こうなるのが仕組まれてる流れだと、思うよ?」
「そっか? ……それにしても、陽尊の服、なんかオシャレだな」
「いま、そこ気になる?」
「なんか、かっこいいな! 都会っぽい」
「…………それは、嬉しいけど」
表参道とかに売ってそうなお洒落な服を見る。
あきらかに、自分には買えない種類の服ではあるが、古代風の服よりは何だか自分と同じ世界の普通の人間みたいに思えて、安心した。
終わりよければ、すべて良し。
そろそろ、この地下にいるのも、気が滅入ってきた。
褒められて恥ずかしいのか頰を赤くした陽尊が、助け舟を出してくれる。
「……もう、本当に、ここには用事がないよ。帰ろう」
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