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十九:恋愛
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「空気が美味しい!」
地上に出たら、肺にいっぱい新鮮な空気が入ってきて、体内が浄化されたような気がする。
地下は、太陽の光がかすかに入っているようだが、死者の世界と隣合わせだったから、どうも気分的に暗くなってしまった。
「気持ちいいな!」
そう言って、陽尊の近くまで寄っていって、手をつなぐ。
「うん……奏採。さっきの、ごめん。僕、かなり切羽詰まってたみたいで。変な勘違いしてた」
「ん? あぁ、帰られない、とか何とかの話?」
「そう。2人に高度な誘導尋問をされたとは言え、自分は変だったよ。自覚はある」
「気にすんなよ。よくあるって、そういう時。価値観とか常識なんて、何かの拍子にガラッと変わっちゃうこと。それが間違ってたとしても、さ」
自分だって、こうやって、他人と手を繋ぐのが普通になるなんて、昨日までは思いもつかなった。
それが、半日もやそこらで手をつないでいないと不安になってしまうくらいなのだから。小さな子供でもないのに。
「奏採は、価値観の違う相手とでも一緒にいて平気な方?」
「ん? 関係性にもよるけど。全く同じ考えの方が、こわいと思う方かな? 恋愛、とかは良くわかんないけど」
「恋愛、わからない?」
「……うん」
正確には、ちょっと違う。
陽尊に対しての感情は、自分が今まで出会ってきた他の人と、あきらかに違うのに気づいてしまったから。でも、それは今、言うべきじゃないような気がして黙った。
自分の「好き」は、ふわふわとしたもので、陽尊と同じ「好き」では、ない気がする。
「なんかね。自分が変な事に気づかないくらい、今まで目を瞑ったまま全速力で走り続けてたみたい。でも、奏採に会えたおかげで自分にも余裕が出てきたよ」
「そっか。どういたしまして?」
「うん。ありがとう」
こう、直球で褒めてくれるとすごく嬉しいけれど、返事はうまくできない。
つないでる手に力を入れて、気持ちを返せると良いなと思って、道を歩く。
「……あれ?」
歩いていたら、どこからか甘い匂いがしてきた。
もしかして、目的の場所のあたりに来たのだろうか。つないでいた手を離し、走って匂いをたどる。
やっぱり、あった!
「早く、こっち来て!」
大声で、さけぶ。すると「今、行くよ」と返事がきた。呼んだら、来てくれるのさえ嬉しい。
「早く早く!」
「わかってる。嬉しそうだね」
「だってさ、美味しそうなの、たくさんある。陽尊さ、背が俺より高いから、上の甘いのを採って」
「分かった。太陽があたっているの探すね」
「やった」
陽尊が、太陽を見上げるように上を向いて、陽射しをあびて甘そうな黄色い果実をとってくれる。
蜜柑みたいだけど、やっぱりどこか違う。
厚めな皮をむいて、一房食べると少し酸っぱいけれど美味しい。柑橘類は間違いなさそうだ。
「どう?」
「美味しいよ。なんか、懐かしい気もするし。昔、自分も食べてたのかな?」
「……そうだね。食べてたよ」
「ふーん。そっか。記憶ないんだよなぁ」
「死に対しての、心残りもなかったようだしね。想いが少ないなら忘れても仕方ないよ」
「まぁ、いっか。別に、俺が覚えてなくても陽尊が覚えてくれてるし」
「……ん」
なぜだか、元気がなくなってしまった陽尊に、二つ目を採ってもらって、皮の下の部分に親指をつきさす。
親指の爪の間に柑橘類の汁が入るが、気にしないで皮をむいて、一房つまんだ。そのまま、陽尊の口元に持っていく。
米らしきものを食べた俺とは違って、さっきから、何も食べていないのだから、お腹が空いているに違いない。
「これさ、食べなよ。もう、こっちに来てから、さすがに3時間は経ってるし。腹、減ってない?」
「うん。そうだね。ありがとう」
陽尊はそう言って、ためらいがちに少し薄めの唇をあけ、柑橘を口に入れた時にが指先にふれた。
そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか、胸の動悸が止まらない。
気まずさを隠すようにその場で座って、陽尊の腕を引っ張る。
すると、蜜柑の香りがきてきた。
「……どう?」
「ん。美味しい」
「良かった。でさ、次は、何するの? 元の世界に戻る?」
残りの分は食べてもらおうと、果実をそのまま手渡しする。
それを、陽尊は受け取りながら上を見る。
「そうだね。建速たちが来る前に、準備しなきゃいけない事もたくさんあるし。早く帰ろう」
「……良かった。ここも何か好きだけどさ。気になることもあるし」
冷蔵庫の中身もだし、窓も開けてきてしまった。
それに、今日は大学の留年するための手続きをする予定だった。中退はしたくないので、一単位のために一年授業料を払わないといけない。
せっかく大学では、成績優秀者として入学して、給費生になったというのに。
「突然、ここに来てもらってごめんね」
「何で、謝んの? ……そういや、来た時に聞こえた声って、陽尊?」
「そう。呼んでくれるように、社長に頼んだから」
「……そうだよ! そもそも、何で俺さ、こっち来たんだっけ? ……建速のせい?」
「原因はね。でも、呼んだのは僕なんだ。奏採を守るために」
地上に出たら、肺にいっぱい新鮮な空気が入ってきて、体内が浄化されたような気がする。
地下は、太陽の光がかすかに入っているようだが、死者の世界と隣合わせだったから、どうも気分的に暗くなってしまった。
「気持ちいいな!」
そう言って、陽尊の近くまで寄っていって、手をつなぐ。
「うん……奏採。さっきの、ごめん。僕、かなり切羽詰まってたみたいで。変な勘違いしてた」
「ん? あぁ、帰られない、とか何とかの話?」
「そう。2人に高度な誘導尋問をされたとは言え、自分は変だったよ。自覚はある」
「気にすんなよ。よくあるって、そういう時。価値観とか常識なんて、何かの拍子にガラッと変わっちゃうこと。それが間違ってたとしても、さ」
自分だって、こうやって、他人と手を繋ぐのが普通になるなんて、昨日までは思いもつかなった。
それが、半日もやそこらで手をつないでいないと不安になってしまうくらいなのだから。小さな子供でもないのに。
「奏採は、価値観の違う相手とでも一緒にいて平気な方?」
「ん? 関係性にもよるけど。全く同じ考えの方が、こわいと思う方かな? 恋愛、とかは良くわかんないけど」
「恋愛、わからない?」
「……うん」
正確には、ちょっと違う。
陽尊に対しての感情は、自分が今まで出会ってきた他の人と、あきらかに違うのに気づいてしまったから。でも、それは今、言うべきじゃないような気がして黙った。
自分の「好き」は、ふわふわとしたもので、陽尊と同じ「好き」では、ない気がする。
「なんかね。自分が変な事に気づかないくらい、今まで目を瞑ったまま全速力で走り続けてたみたい。でも、奏採に会えたおかげで自分にも余裕が出てきたよ」
「そっか。どういたしまして?」
「うん。ありがとう」
こう、直球で褒めてくれるとすごく嬉しいけれど、返事はうまくできない。
つないでる手に力を入れて、気持ちを返せると良いなと思って、道を歩く。
「……あれ?」
歩いていたら、どこからか甘い匂いがしてきた。
もしかして、目的の場所のあたりに来たのだろうか。つないでいた手を離し、走って匂いをたどる。
やっぱり、あった!
「早く、こっち来て!」
大声で、さけぶ。すると「今、行くよ」と返事がきた。呼んだら、来てくれるのさえ嬉しい。
「早く早く!」
「わかってる。嬉しそうだね」
「だってさ、美味しそうなの、たくさんある。陽尊さ、背が俺より高いから、上の甘いのを採って」
「分かった。太陽があたっているの探すね」
「やった」
陽尊が、太陽を見上げるように上を向いて、陽射しをあびて甘そうな黄色い果実をとってくれる。
蜜柑みたいだけど、やっぱりどこか違う。
厚めな皮をむいて、一房食べると少し酸っぱいけれど美味しい。柑橘類は間違いなさそうだ。
「どう?」
「美味しいよ。なんか、懐かしい気もするし。昔、自分も食べてたのかな?」
「……そうだね。食べてたよ」
「ふーん。そっか。記憶ないんだよなぁ」
「死に対しての、心残りもなかったようだしね。想いが少ないなら忘れても仕方ないよ」
「まぁ、いっか。別に、俺が覚えてなくても陽尊が覚えてくれてるし」
「……ん」
なぜだか、元気がなくなってしまった陽尊に、二つ目を採ってもらって、皮の下の部分に親指をつきさす。
親指の爪の間に柑橘類の汁が入るが、気にしないで皮をむいて、一房つまんだ。そのまま、陽尊の口元に持っていく。
米らしきものを食べた俺とは違って、さっきから、何も食べていないのだから、お腹が空いているに違いない。
「これさ、食べなよ。もう、こっちに来てから、さすがに3時間は経ってるし。腹、減ってない?」
「うん。そうだね。ありがとう」
陽尊はそう言って、ためらいがちに少し薄めの唇をあけ、柑橘を口に入れた時にが指先にふれた。
そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか、胸の動悸が止まらない。
気まずさを隠すようにその場で座って、陽尊の腕を引っ張る。
すると、蜜柑の香りがきてきた。
「……どう?」
「ん。美味しい」
「良かった。でさ、次は、何するの? 元の世界に戻る?」
残りの分は食べてもらおうと、果実をそのまま手渡しする。
それを、陽尊は受け取りながら上を見る。
「そうだね。建速たちが来る前に、準備しなきゃいけない事もたくさんあるし。早く帰ろう」
「……良かった。ここも何か好きだけどさ。気になることもあるし」
冷蔵庫の中身もだし、窓も開けてきてしまった。
それに、今日は大学の留年するための手続きをする予定だった。中退はしたくないので、一単位のために一年授業料を払わないといけない。
せっかく大学では、成績優秀者として入学して、給費生になったというのに。
「突然、ここに来てもらってごめんね」
「何で、謝んの? ……そういや、来た時に聞こえた声って、陽尊?」
「そう。呼んでくれるように、社長に頼んだから」
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