27 / 35
二十七:紹介
しおりを挟む
「ちゃんと、自己紹介する時間もなかったからね」
確かにその通りだ。
俺は陽尊のふんわりとした情報以外、何も知らない。
でも、もしも、陽尊が悪い闇社会の住人だったとして、何か悪いことをしていても、自分を裏切らないと信じられるし、離れたくないと思うくらいに俺は信頼をしている。
それは、太古の昔の陽尊を覚えている裏付けになるんじゃないかと、そんな風にさえ思ってしまうくらい。むしろ、そうであって欲しい。
「陽尊の事を知りたい。何でも良いから教えて」
「……と言っても、聞いてて楽しいエピソードトークとかないけどね」
「別に、面白いことなんて言わなくて良いよ。好きな事とか、苦手な事とかさ、そんなんで」
「ん、分かった。好きなのは奏採が側にいてくれる事で、苦手なのは奏採が離れる事、かな」
……だから、そうではなく。
文句を言おうとしたが、ふわっと笑っている美しく整った顔は、俺を見つめて離さない。だから、少しだけ赤くなった顔で睨んで、文句を言う。
「そう言ってくれるの、嬉しいけど。もっと、これから生活するのに知ってた方が良い事とかない? バスタオルを共有するか問題とか、柔軟剤の種類問題とか!」
「そんなの、どっちでも気にしないよ。バスタオルは奏採の使ったのを使いたいけど」
「え? それは普通に引く」
「洗剤だって、奏採が気にしないなら今あるのをそのまま使えば良いし、気に入っているのがあったらそれにしよう?」
……俺ファースト過ぎて、話し合いが終了してしまった。
「同居後の、価値観の違いトラブルが起こる気がしない……!」
「起こさないから。ね、後は? 何か言っておきたい事とか、ある」
「ある! さっきから思ってたんだけど、料理は俺がする。いない時は仕方ないけど、いる時はする。これ、絶対」
レンジで温めるだけのご飯は慣れていないし、デリバリーも嫌だ。ちゃんと食材を加工して食事をしたい。
「……あぁ。それは、確かに。食べる事って生に直結するから、興味なかった。今まで、生きる意味は奏採に会うためだったから」
「えぇ……?」
「でも、会えたから。これからは頑張るね」
是非、そうして欲しい。
こんなに今は笑っているけれど、悲しい顔は見たくない。どう受け止めて良いのか分からないが、これからは、一緒に人生を楽しんでいきたい。
もっと、少しでも早く会っていたら良かったのに……って、会ってたんだっけ?
「そう言えばさ。小さい頃、何で声かけてくれなかったんだよ」
「……見守っているだけで、幸せだったし。それに、家族に黙って会いに行っていたら、すぐ行方不明扱いされちゃってさ」
「そっか、まったく、接点はなかったんだった」
「そうだね。それから、今でも行方不明にすぐなるから、少し家族は僕に対して過保護なんだよね」
さっきも、そう言えば家族に電話していた。でも、陽尊の事を心配してくれている人がたくさんいて良かった。本当に、そう思う。
「子どもの時に、会いたかった」
「今思うと、正しい選択だったよ。小さい頃に奏採に会ってたら何してたか分からなかった。今だから冷静を装えるけどさ、一度でも声をかけたら我慢ができなかったと思う」
「装ってるんだ!」
心臓に悪い言葉が多い。
思わず手が滑って、飲んでいたミルクティーが揺れて少しこぼれてしまった。
近くにあったティッシュで拭き取ると、陽尊は、まだポットで温かいままの紅茶をたしてくれる。
その流れていく紅茶を見ながら、ふと、疑問に思う。
「なら、なんで、このタイミングで俺たちは会ったんだろう」
「……それは、この世界の秩序の統制をまもるために、戦うために必要だったからだと思う」
確かにその通りだ。
俺は陽尊のふんわりとした情報以外、何も知らない。
でも、もしも、陽尊が悪い闇社会の住人だったとして、何か悪いことをしていても、自分を裏切らないと信じられるし、離れたくないと思うくらいに俺は信頼をしている。
それは、太古の昔の陽尊を覚えている裏付けになるんじゃないかと、そんな風にさえ思ってしまうくらい。むしろ、そうであって欲しい。
「陽尊の事を知りたい。何でも良いから教えて」
「……と言っても、聞いてて楽しいエピソードトークとかないけどね」
「別に、面白いことなんて言わなくて良いよ。好きな事とか、苦手な事とかさ、そんなんで」
「ん、分かった。好きなのは奏採が側にいてくれる事で、苦手なのは奏採が離れる事、かな」
……だから、そうではなく。
文句を言おうとしたが、ふわっと笑っている美しく整った顔は、俺を見つめて離さない。だから、少しだけ赤くなった顔で睨んで、文句を言う。
「そう言ってくれるの、嬉しいけど。もっと、これから生活するのに知ってた方が良い事とかない? バスタオルを共有するか問題とか、柔軟剤の種類問題とか!」
「そんなの、どっちでも気にしないよ。バスタオルは奏採の使ったのを使いたいけど」
「え? それは普通に引く」
「洗剤だって、奏採が気にしないなら今あるのをそのまま使えば良いし、気に入っているのがあったらそれにしよう?」
……俺ファースト過ぎて、話し合いが終了してしまった。
「同居後の、価値観の違いトラブルが起こる気がしない……!」
「起こさないから。ね、後は? 何か言っておきたい事とか、ある」
「ある! さっきから思ってたんだけど、料理は俺がする。いない時は仕方ないけど、いる時はする。これ、絶対」
レンジで温めるだけのご飯は慣れていないし、デリバリーも嫌だ。ちゃんと食材を加工して食事をしたい。
「……あぁ。それは、確かに。食べる事って生に直結するから、興味なかった。今まで、生きる意味は奏採に会うためだったから」
「えぇ……?」
「でも、会えたから。これからは頑張るね」
是非、そうして欲しい。
こんなに今は笑っているけれど、悲しい顔は見たくない。どう受け止めて良いのか分からないが、これからは、一緒に人生を楽しんでいきたい。
もっと、少しでも早く会っていたら良かったのに……って、会ってたんだっけ?
「そう言えばさ。小さい頃、何で声かけてくれなかったんだよ」
「……見守っているだけで、幸せだったし。それに、家族に黙って会いに行っていたら、すぐ行方不明扱いされちゃってさ」
「そっか、まったく、接点はなかったんだった」
「そうだね。それから、今でも行方不明にすぐなるから、少し家族は僕に対して過保護なんだよね」
さっきも、そう言えば家族に電話していた。でも、陽尊の事を心配してくれている人がたくさんいて良かった。本当に、そう思う。
「子どもの時に、会いたかった」
「今思うと、正しい選択だったよ。小さい頃に奏採に会ってたら何してたか分からなかった。今だから冷静を装えるけどさ、一度でも声をかけたら我慢ができなかったと思う」
「装ってるんだ!」
心臓に悪い言葉が多い。
思わず手が滑って、飲んでいたミルクティーが揺れて少しこぼれてしまった。
近くにあったティッシュで拭き取ると、陽尊は、まだポットで温かいままの紅茶をたしてくれる。
その流れていく紅茶を見ながら、ふと、疑問に思う。
「なら、なんで、このタイミングで俺たちは会ったんだろう」
「……それは、この世界の秩序の統制をまもるために、戦うために必要だったからだと思う」
1
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
【完結】フィクション
犀川稔
BL
変わらない日常送る恋(れん)は高校2年の春、初めての恋愛をする。それはクラスメートであり、クラスのドー軍の存在に値する赤城(あかし)だった。クラスメイトには内緒で付き合った2人だが、だんだんと隠し通すことが難しくなる。そんな時、赤城がある決断をする......。
激重溺愛彼氏×恋愛初心者癒し彼氏
--------------------------------------------------------------
この話のスピンオフストーリーとなります「ノンフィクション」も公開しております。合わせて見てもらえると嬉しいです。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる