常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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二十七:紹介

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「ちゃんと、自己紹介する時間もなかったからね」

 確かにその通りだ。
 俺は陽尊のふんわりとした情報以外、何も知らない。
 でも、もしも、陽尊が悪い闇社会の住人だったとして、何か悪いことをしていても、自分を裏切らないと信じられるし、離れたくないと思うくらいに俺は信頼をしている。
 それは、太古の昔の陽尊を覚えている裏付けになるんじゃないかと、そんな風にさえ思ってしまうくらい。むしろ、そうであって欲しい。

「陽尊の事を知りたい。何でも良いから教えて」
「……と言っても、聞いてて楽しいエピソードトークとかないけどね」
「別に、面白いことなんて言わなくて良いよ。好きな事とか、苦手な事とかさ、そんなんで」
「ん、分かった。好きなのは奏採が側にいてくれる事で、苦手なのは奏採が離れる事、かな」

 ……だから、そうではなく。
 文句を言おうとしたが、ふわっと笑っている美しく整った顔は、俺を見つめて離さない。だから、少しだけ赤くなった顔で睨んで、文句を言う。

「そう言ってくれるの、嬉しいけど。もっと、これから生活するのに知ってた方が良い事とかない? バスタオルを共有するか問題とか、柔軟剤の種類問題とか!」
「そんなの、どっちでも気にしないよ。バスタオルは奏採の使ったのを使いたいけど」
「え? それは普通に引く」
「洗剤だって、奏採が気にしないなら今あるのをそのまま使えば良いし、気に入っているのがあったらそれにしよう?」

 ……俺ファースト過ぎて、話し合いが終了してしまった。

「同居後の、価値観の違いトラブルが起こる気がしない……!」
「起こさないから。ね、後は? 何か言っておきたい事とか、ある」
「ある! さっきから思ってたんだけど、料理は俺がする。いない時は仕方ないけど、いる時はする。これ、絶対」

 レンジで温めるだけのご飯は慣れていないし、デリバリーも嫌だ。ちゃんと食材を加工して食事をしたい。

「……あぁ。それは、確かに。食べる事って生に直結するから、興味なかった。今まで、生きる意味は奏採に会うためだったから」
「えぇ……?」
「でも、会えたから。これからは頑張るね」

 是非、そうして欲しい。
 こんなに今は笑っているけれど、悲しい顔は見たくない。どう受け止めて良いのか分からないが、これからは、一緒に人生を楽しんでいきたい。
 もっと、少しでも早く会っていたら良かったのに……って、会ってたんだっけ?

「そう言えばさ。小さい頃、何で声かけてくれなかったんだよ」
「……見守っているだけで、幸せだったし。それに、家族に黙って会いに行っていたら、すぐ行方不明扱いされちゃってさ」
「そっか、まったく、接点はなかったんだった」
「そうだね。それから、今でも行方不明にすぐなるから、少し家族は僕に対して過保護なんだよね」

 さっきも、そう言えば家族に電話していた。でも、陽尊の事を心配してくれている人がたくさんいて良かった。本当に、そう思う。

「子どもの時に、会いたかった」
「今思うと、正しい選択だったよ。小さい頃に奏採に会ってたら何してたか分からなかった。今だから冷静を装えるけどさ、一度でも声をかけたら我慢ができなかったと思う」
「装ってるんだ!」

 心臓に悪い言葉が多い。
 思わず手が滑って、飲んでいたミルクティーが揺れて少しこぼれてしまった。
 近くにあったティッシュで拭き取ると、陽尊は、まだポットで温かいままの紅茶をたしてくれる。

 その流れていく紅茶を見ながら、ふと、疑問に思う。

「なら、なんで、このタイミングで俺たちは会ったんだろう」
「……それは、この世界の秩序の統制をまもるために、戦うために必要だったからだと思う」





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