常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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二十六:夜景

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「美味しい!」

 少し甘めの温かいミルクティーは、本格的なティーセットで出てきた。なるべく音をたてないように、そっとソーサーに置いて一息つく。

「良かった」
「お茶、いれるのうますぎ。……でさ、これからの予定って、なんか決まってる?」
「うん。一緒に暮らそう」

 いや、そういう事を聞いているのではなく。こう、例の仕事についてなのだが……。

「えーっと、どうしてかな?」
「ここからの、海の夜景が見たいって言った」
「だからって、別に一緒に住む必要はなくない?」
「我慢したくないから」
「……そこは、して」

 うーん。俺だって、陽尊の側は幸せな気分になるから、一緒にいたいけど。
 とりあえず、現状に問題が山積みすぎて、そこまで気が回らない。

「何が、問題なの?」
「全部」
「お金の問題なら、この部屋は兄のものだから家賃はいらないよ。さっき、了承も得たし」
「仕事、はやすぎない?」

 飲み終えてしまった、俺のミルクティーのカップに、おかわりを入れながら懇願するように見てくる。
 そんな、置いてけぼりにされた犬のような顔はやめて欲しい。

「あと、安全面もあるし。これから、この世界で何があるか分からない。ここなら、セキュリティも万全だし、一緒にいる時は、俺が守ってあげられる。だから、ね」
「そ、そんなこと言ったって……」
「好きだから」

 ……好きだと、一緒に住むのだろうか。
 そんな訳ないと思うが、もう、逃げ道がない気もして、ダメな理由を考えるが思いつかない。

「……ちゃんと。俺、家事する。あと一緒にいるのが嫌になっても、突然、追い出さないでくれるならいいよ」

 多分、陽尊は俺との距離感を程よく保ってくれそうだが、自分の方が慣れてしまったら離れたくなくて、まとわりついてしまうかもしれない。
 昔はどうか分からないけど、今は恋人じゃないんだから近付き過ぎちゃダメだ。
 八千矛が言ってた。過去の自分と性格が違うって。好きって言ってくれてるけど、答えは求められてないし、違う性格の自分は好かれる自信もない。

「追い出すなんて、あるわけない。この体が腐るまで、そして、それからも。無窮に追いかける」
「……何、言ってんだか」
「冗談なんかじゃない。住むこと、了承してくれてありがとう」
「別に。俺だって、出来るならずっと一緒に居たいと思ってたし」
「本当?」

 目線を外しながら、下を見て「うん」と答える。
 その返事に嬉しそうに笑ってくれたから、自分も嬉しくて笑った。

「これから迷惑かけるけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、だよ。本当に、今まで頑張って良かった」
「そんなに?」
「そんなに!」

 こちらにとっては良いことばかりなのに、最大で喜こばれてしまった。
 ……でも、その優しさに甘えるわけにはいかないだろう。
 留年、学費、親への報告、バイト、そしてら、これから。考えなきゃいけない問題が、肩にのしかかっている。

「……そうだ。大学の留年の話も解決したよ。文字は汚かったけど読めるし、ほぼ正解だったから卒業させてくれるって」
「えっ。何で、それを?というか、解決がはやい!」
「うちの病院と奏採の大学の理事長は、交流があるから。多少の優遇は効くよね」
「……まさか、すぎる」

……一気に、全て解決してしまった。
あとは、強いて言えば就職だが。そういえば資格試験の合格発表が過ぎてるな。
どうせ落ちると思って忘れていた。
その表情で推察したのか、陽尊が答えをくれる。

「あ、もしかして、調べてないの?奏採が受けていた社会福祉士の試験も合格してたよ」
「えっ!本当に、マジで?良かったー!絶対に落ちると思ってた!」
「良かったね。それに、もし、良かったら、病院なら紹介できるよ」
「おおっ。探して見つからなかったら、お願いする……本当に圧倒的感謝……」

急に、全てが上手く行き過ぎてかえってこわい。
思わずガッツポーズをしてしまったが、何かあるのではないか。
なんかでバランスをとりたい。あとで、神社行って岩でも叩いてこよう。


「……一安心した所で、話をしても良い?」
「はなし?」
「そう。僕の事を話しておきたい」

 そうだった。
 今、なによりも考えなきゃいけないのは、それだった。


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