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二十五:食事
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未使用の調理器具ばかり。
特に、コンパクトなホットプレートは、やたらオシャレで汚してしまうことに躊躇する。
材料は全て下ごしらえを終えた。あとはチーズが固まらないように保温をしたいのだが、ガスボンベを使う簡易的なコンロはない。
「うーん。仕方ない。箱から出させてもらおう」
真っ白なホットプレートを丁寧に箱から出し、テーブルの上にセットする。
ここまでくれば完成も同然で、耐熱皿に入れたチーズのまわりに野菜や海老。そして、焼いたパンを小さくきってカゴに入れた。
すると、チーズに入れた酒がフワリと香ってきて、ふわふわと気持ちよくなる。
白ワインは値段が高いと嫌なので、日本酒を入れたのだが正解のようだ。
「ん。いい感じ」
「……本当だね。準備ありがとう」
風呂から、陽尊が戻ってきたようだ。
「あ、おかえり」
「…………た、ただいま?」
「もう食事、出来てるよ」
そう言いながら振り返り、陽尊の顔を覗く。
のぼせたのだろうか、顔が赤い。
ジッとそのまま見ていると、風呂上がりの部屋着姿でさえ格好良くて、こっちも顔が熱くなってきてしまった。
恥ずかしくて、顔を片手で隠しながら、片付けをするフリをする。
「奏採も、ご飯前に入る?」
「そうしようかな。草むらに座ったりしたし」
「そうだね」
「行ってくる。先に食べてても良いよ」
「待って、るけど。……そうだ。着替え置いておくね」
「ありがとう。……って、なんか。恋人同士、みたいだな」
しまった。また変なこと言った。
でも、訂正するのもどうかな。実際、昔は恋人同士だったのだろうし……。確認はしてないけど。
「…………っ……うん。じゃ、脱衣所に置いておくから!」
そっと反応を確認するまでに、バタバタと駆け足で部屋に行ってしまった。
……やっぱり、気に障ったのだろうか。
後悔しつつ、言われたまま風呂場に行き、見たこともない高級ボディーソープで体を洗い、カビ一つ生えていないキレイな浴槽に口元までつかる。
ソワソワする気持ちを吐き出すように、水の中でぶくぶくさせて気持ちを落ち着かせる。
「……はぁ。陽尊の側にいると、思ってる事すぐに言っちゃうんだよな」
普段は人との距離感を保つ方だと思うから、陽尊のような相手は初めてだ。
なんか、調子がくるう。
「……早めに出よ」
なによりも、お腹がすいた。
いつの間にか置いておいてくれた、少し大きい白いスウェット上下に着替える。何だか、新しい物のようで申し訳がない。
リビングに戻ると、陽尊はどこかに電話をしている。
しきりに、感謝と謝罪の言葉を口にしていて、最後には「お願いします」と、念を押して通話をやめた。
「大事な電話?」
「うん。ちょっとね。僕が、しばらく行方不明者になってたから」
……なるほど。俺が骨折した頃からなら、2月の初めだから。
「え? じゃ、学期末試験は?」
「ちゃんと、試験が終わってから行ったよ。少しだけの欠席で、春休みに突入できて良かった」
「……それなら、良かった。もう、新学期だもんな」
そして、俺は留年か……。気分が重くなる。
「……食べながら話そう?」
「うん。そうする」
お腹がすいて、元気がないのだと思ってくれたららしい。
どんな気分でも美味しいものは美味しい。チーズフォンデュ用ではない普通のフォークに海老を刺して、チーズにつける。
「ブラックタイガーとチーズ、うま!」
「なんか、聞いたことある名前だね」
「最近、もやしと豆腐の水炊きしか食べてなかったからさ。動物性タンパク質が美味い」
いきおいよく食べつづけたら、陽尊と話す間もなく、すべてを食べ尽くしてしまった。
自分は満足したけど、陽尊はどうだろうか? お腹がすいていたのは一緒だ。
空いた皿を重ねている陽尊の手を、そっと握る。
「……どうしたの?」
「いや、腹いっぱいになったかなって」
「もちろん。胸がいっぱいで量は食べられないけど、美味しかった」
「胸が?」
「そう。お皿、片付けてくるから、少し休んでて。ミルクティー入れてくる」
……なんで、俺の好きな飲み物を知ってるんだろう。
特に、コンパクトなホットプレートは、やたらオシャレで汚してしまうことに躊躇する。
材料は全て下ごしらえを終えた。あとはチーズが固まらないように保温をしたいのだが、ガスボンベを使う簡易的なコンロはない。
「うーん。仕方ない。箱から出させてもらおう」
真っ白なホットプレートを丁寧に箱から出し、テーブルの上にセットする。
ここまでくれば完成も同然で、耐熱皿に入れたチーズのまわりに野菜や海老。そして、焼いたパンを小さくきってカゴに入れた。
すると、チーズに入れた酒がフワリと香ってきて、ふわふわと気持ちよくなる。
白ワインは値段が高いと嫌なので、日本酒を入れたのだが正解のようだ。
「ん。いい感じ」
「……本当だね。準備ありがとう」
風呂から、陽尊が戻ってきたようだ。
「あ、おかえり」
「…………た、ただいま?」
「もう食事、出来てるよ」
そう言いながら振り返り、陽尊の顔を覗く。
のぼせたのだろうか、顔が赤い。
ジッとそのまま見ていると、風呂上がりの部屋着姿でさえ格好良くて、こっちも顔が熱くなってきてしまった。
恥ずかしくて、顔を片手で隠しながら、片付けをするフリをする。
「奏採も、ご飯前に入る?」
「そうしようかな。草むらに座ったりしたし」
「そうだね」
「行ってくる。先に食べてても良いよ」
「待って、るけど。……そうだ。着替え置いておくね」
「ありがとう。……って、なんか。恋人同士、みたいだな」
しまった。また変なこと言った。
でも、訂正するのもどうかな。実際、昔は恋人同士だったのだろうし……。確認はしてないけど。
「…………っ……うん。じゃ、脱衣所に置いておくから!」
そっと反応を確認するまでに、バタバタと駆け足で部屋に行ってしまった。
……やっぱり、気に障ったのだろうか。
後悔しつつ、言われたまま風呂場に行き、見たこともない高級ボディーソープで体を洗い、カビ一つ生えていないキレイな浴槽に口元までつかる。
ソワソワする気持ちを吐き出すように、水の中でぶくぶくさせて気持ちを落ち着かせる。
「……はぁ。陽尊の側にいると、思ってる事すぐに言っちゃうんだよな」
普段は人との距離感を保つ方だと思うから、陽尊のような相手は初めてだ。
なんか、調子がくるう。
「……早めに出よ」
なによりも、お腹がすいた。
いつの間にか置いておいてくれた、少し大きい白いスウェット上下に着替える。何だか、新しい物のようで申し訳がない。
リビングに戻ると、陽尊はどこかに電話をしている。
しきりに、感謝と謝罪の言葉を口にしていて、最後には「お願いします」と、念を押して通話をやめた。
「大事な電話?」
「うん。ちょっとね。僕が、しばらく行方不明者になってたから」
……なるほど。俺が骨折した頃からなら、2月の初めだから。
「え? じゃ、学期末試験は?」
「ちゃんと、試験が終わってから行ったよ。少しだけの欠席で、春休みに突入できて良かった」
「……それなら、良かった。もう、新学期だもんな」
そして、俺は留年か……。気分が重くなる。
「……食べながら話そう?」
「うん。そうする」
お腹がすいて、元気がないのだと思ってくれたららしい。
どんな気分でも美味しいものは美味しい。チーズフォンデュ用ではない普通のフォークに海老を刺して、チーズにつける。
「ブラックタイガーとチーズ、うま!」
「なんか、聞いたことある名前だね」
「最近、もやしと豆腐の水炊きしか食べてなかったからさ。動物性タンパク質が美味い」
いきおいよく食べつづけたら、陽尊と話す間もなく、すべてを食べ尽くしてしまった。
自分は満足したけど、陽尊はどうだろうか? お腹がすいていたのは一緒だ。
空いた皿を重ねている陽尊の手を、そっと握る。
「……どうしたの?」
「いや、腹いっぱいになったかなって」
「もちろん。胸がいっぱいで量は食べられないけど、美味しかった」
「胸が?」
「そう。お皿、片付けてくるから、少し休んでて。ミルクティー入れてくる」
……なんで、俺の好きな飲み物を知ってるんだろう。
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