常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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二十四:不変

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「……って、今までは、この世界でそういったたぐいのモノは、出てこなかったって事?」
「存在は、していたけど。時代とともに曖昧なものになって、薄れてきちゃったから」
「そっか。でも、何で?」
「世の中は、すべて変化するものだから。言葉や文で語り継がれて、形が明確になって、皆に認知されることなんだ。だから、知らない存在は見ることも出来ない。それは、神も化物も一緒」
「……言霊と、同じような感じで声に出すと現れるみたいな?」
「まぁ、そうだね」

 陽尊が肩をすくめながら、一瞬で七支刀を体内に収める。それを見ながら、俺もゆっくりと手のひらから沈み込ませていった。
 引き出す時よりはスムーズだが、体内に新しい細胞が入っていくような感じがして、違和感に息を止める。そして、一つ深呼吸をして、陽尊を見上げた。

「何となく、理解した。……ような気もする」
「……ごめんね。不安にさせて」
「一つ気になることがあるんだ。俺たちにもその条件は当てはまる?」
「それはないよ。人間として生まれたから。それに、この体を失ったとしても。僕が君を思う気持ちは変わることがないから、大丈夫」
「…………え、っと。うん。ありがとう?」
「疑問形だし。僕が、伝えたいだけだから、気にしないで」

 気にしないなんて出来ないけど、言葉は素直に受け取れない。
 胸があたたかくて、嬉しいから喜べば良いのに、心の中にある小さいバネが、声を出せないように引き戻してしまう。

「……うん」
「まぁ、連絡が来るまで考えても仕方ないよね。この件は保留にしよっか。今は奏採のお腹が心配」

 そこで「ぐぅ」とお腹がなってしまった。

 2人が入っても余裕のあるキッチンは、一人暮らしにしてはかなり大きい。
 絶対にIHクッキングヒーターは三口もいらないだろうし。冷蔵庫だって、ファミリータイプで、大家族である自分の実家よりも大きい。
 陽尊は、それ特別だと思わないようだ。
 あまり入っていない冷蔵庫の中を長い間のぞき込んでいる。どうやら、目当てのものがないらしい。

「何か、見つからない?」
「……グラタンとか、あったのに。兄が食べちゃったみたい。仕方ないな。デリバリーでも頼もうか?」
「んー。値段が高いし、頼むのは貧乏学生には抵抗がある。あるもので、俺が作るよ」
「え。作れるの?」

 激しく驚かれてしまった。お互いに一人暮らしだし、そんなに意外だろうか。
 そこで、ふと思いつく。
 医学生で忙しいうえに、仕事もしてるんだ。きっと、料理をする時間がとれないんじゃないだろうか。
 そう思うと、何だか簡単だけど料理を振る舞いたくなってきた。

「まかせて。何あるかな?」
「ちゃんとご飯を食べろって、兄が勝手に入れてった火を通さないといけない冷凍食材しかないけど……」

 レンジだと美味しくなくて、食べてないんだよね……と、食生活が垣間見れる言葉を吐く。

「どれどれ? 見てみたい」
「…………っわ……、」

 横から陽尊にくっついて、冷凍庫の中を見る。すると、陽尊がぎこちなく反対側にずれていく。

「……え、ごめん。体、押しちゃった?」
「違う。体がくっついたから」
「今さら何を言ってるんだよ。今日は、ずっと一緒だったし。あ、でも、時間的には進んでないのか」
「なんか。幸せすぎて、ドキドキした」
「だからさぁ、もう。慣れて」

 ガサガサとテーブルの上に使えそうなものを出していく。ブロッコリーや海老なんかもはあるのか。チーズと冷凍パンも揃ってるし。
 ワインとか日本酒、酒類も充実している。

 定期的にお兄さんが来てくれているのか、賞味期限も余裕がある。
 使わないって言ってたし、全部使っても許してくれそうだ。

「決めた! もっと、幸せな気持ちになる料理を作ってやる。それは、チーズ好きにはたまらないチーズフォンデュ!」
「………………」
「あれ? チーズ嫌い?」

 あまり、喜ばない表情にチーズが嫌いなのかと思う。そしたら、普通に海老サラダとパンにしよう。

「嫌いじゃないよ。好きだけど、家で食べられる料理なんだ」
「本格的じゃないけど、雰囲気で」
「雰囲気で、料理って出来るの?」
「まぁ、待っててよ。風呂とか入ってたら?」

 本当に、自炊をした事がないようだ。
 急いでいるから、ここに入らないでもらおう。基本的な使用方法を教えてもらって必要な道具を出してもらったら、キッチンから追い出す。
 どうやら、この半月ほど水浴びしかしていなかったと言っていた。
 少し、のんびりして欲しい。

「頑張ろ」

 奏採は、小さく独り言を言って腕まくりをした。






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