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三十四:風呂
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帰りの道は、どうも居心地が悪い。
この世界での初陣は、「戦った」という感じもなく、これから起こる予兆でしかなかった。
ゲームみたいな敵が現れて戦って倒す。
最初は弱い敵しか現れなくて、徐々に強い敵になって、最後はラスボス。
そんな、作られたシナリオはこの世界にはないみたいだ。
建速は、またどこかに行ったようだし、神社によって真っ直ぐ帰ることにする。
「無力感」
電車の座席は空いているのに、なんだか悲しくて陽尊の半身にくっつく。
カーブの多い線路は、曲がる時に体が揺れて体重がかかるけれど、当然のように支えてくれるので安心して甘えた。
だけど、陽尊は甘えられるのが嬉しいようで、さらに頭を寄せる。
「奏採。うまく立ち回れなくて、ごめん。常世の国は行ったことあるけど、あんまり関わり合いたくないんだ。こわくなった」
「……あるんだ?」
「負荷をかけたかったから」
「……なんの?」
「祝い、の」
……内容を説明しないのに、自分を知ってほしいという気持ちの現われだろうか。
ぽつりぽつりと、過去のことを話すが全くわからない。
この件も、きっと、曖昧にしたままの方が良いだろう。笑って「そういう時もあるよな」と言って、流す。
この車両には人が乗っていなかったが、数人が乗ってきた。
恥ずかしくなって、陽尊から少し離れる。
「次、もう降りるよ」
窓の外を見ると、大きなビルとショッピングモールが開店し始めているのか、陽気な音楽が鳴り響いていた。
部屋に着くと、陽尊が「風呂を沸かすね」と風呂場に入っていく。
確かに、海水をかぶって体や服がベタベタするし、足も砂でジャリジャリする。
あんまり、部屋を汚れた体で歩かない方が良いかと思って、陽尊の後に続いて脱衣所に行く。
やたらと広いが、掃除が行き届いていて。聞いたらハウスクリーニングに頼んで定期的に来てもらっているらしい。
今度からは、俺にさせてもらおう。家賃代は肉体労働で払いたい。
「……もう少しで、お湯がたまるから。待ってて」
「ベタベタするし、早く入りたくてさ」
中に向かって、少し大声で話す。
「そうだよね。じゃ、先にシャワーで体を洗う? ……僕、出るから」
「それならさ、一緒に風呂はいる? やたらと、洗い場も浴槽も広いし」
「え? ……そ、それは、どうかな? いや、どうだろう。ダメだよ」
迷いながらも、断られた。
男同士なのに? と、思ったが陽尊は気になるらしい。焦って顔を赤くしながら、挙動不審にシャンプーボトルの並びを何度も整えている。
「それに、恋人同士だったんだろ? 昔」
なら、風呂くらい入っても……と思ったが、さらに陽尊の様子がおかしくなって、シャワーの水をいきおいよく出して頭からかぶる。
まだ冷たい水だというのに。
「違うんだ。恋人じゃなかった」
「え? なに? 聞こえない」
水音がうるさくて、もう一度たずねる。
完全に体が冷えてしまっただろう。俺は、慌ててシャワーを止めた。
ポタポタという水滴の落ちる音と、2人の息遣いだけが響く。
「……告白はしたけど、受け入れられてもらってはいない」
「は?」
理解が出来ない。
恋人じゃないというなら、なんで後追いなどをしたのだろうか。
……俺は初めてあった時から、惹かれていたから。絶対に陽尊を好きだったと断定できる。
だと言うのに、何がどうなっているのか。
「完全な片想いだよ。僕の。……黙ってて、ごめん」
この世界での初陣は、「戦った」という感じもなく、これから起こる予兆でしかなかった。
ゲームみたいな敵が現れて戦って倒す。
最初は弱い敵しか現れなくて、徐々に強い敵になって、最後はラスボス。
そんな、作られたシナリオはこの世界にはないみたいだ。
建速は、またどこかに行ったようだし、神社によって真っ直ぐ帰ることにする。
「無力感」
電車の座席は空いているのに、なんだか悲しくて陽尊の半身にくっつく。
カーブの多い線路は、曲がる時に体が揺れて体重がかかるけれど、当然のように支えてくれるので安心して甘えた。
だけど、陽尊は甘えられるのが嬉しいようで、さらに頭を寄せる。
「奏採。うまく立ち回れなくて、ごめん。常世の国は行ったことあるけど、あんまり関わり合いたくないんだ。こわくなった」
「……あるんだ?」
「負荷をかけたかったから」
「……なんの?」
「祝い、の」
……内容を説明しないのに、自分を知ってほしいという気持ちの現われだろうか。
ぽつりぽつりと、過去のことを話すが全くわからない。
この件も、きっと、曖昧にしたままの方が良いだろう。笑って「そういう時もあるよな」と言って、流す。
この車両には人が乗っていなかったが、数人が乗ってきた。
恥ずかしくなって、陽尊から少し離れる。
「次、もう降りるよ」
窓の外を見ると、大きなビルとショッピングモールが開店し始めているのか、陽気な音楽が鳴り響いていた。
部屋に着くと、陽尊が「風呂を沸かすね」と風呂場に入っていく。
確かに、海水をかぶって体や服がベタベタするし、足も砂でジャリジャリする。
あんまり、部屋を汚れた体で歩かない方が良いかと思って、陽尊の後に続いて脱衣所に行く。
やたらと広いが、掃除が行き届いていて。聞いたらハウスクリーニングに頼んで定期的に来てもらっているらしい。
今度からは、俺にさせてもらおう。家賃代は肉体労働で払いたい。
「……もう少しで、お湯がたまるから。待ってて」
「ベタベタするし、早く入りたくてさ」
中に向かって、少し大声で話す。
「そうだよね。じゃ、先にシャワーで体を洗う? ……僕、出るから」
「それならさ、一緒に風呂はいる? やたらと、洗い場も浴槽も広いし」
「え? ……そ、それは、どうかな? いや、どうだろう。ダメだよ」
迷いながらも、断られた。
男同士なのに? と、思ったが陽尊は気になるらしい。焦って顔を赤くしながら、挙動不審にシャンプーボトルの並びを何度も整えている。
「それに、恋人同士だったんだろ? 昔」
なら、風呂くらい入っても……と思ったが、さらに陽尊の様子がおかしくなって、シャワーの水をいきおいよく出して頭からかぶる。
まだ冷たい水だというのに。
「違うんだ。恋人じゃなかった」
「え? なに? 聞こえない」
水音がうるさくて、もう一度たずねる。
完全に体が冷えてしまっただろう。俺は、慌ててシャワーを止めた。
ポタポタという水滴の落ちる音と、2人の息遣いだけが響く。
「……告白はしたけど、受け入れられてもらってはいない」
「は?」
理解が出来ない。
恋人じゃないというなら、なんで後追いなどをしたのだろうか。
……俺は初めてあった時から、惹かれていたから。絶対に陽尊を好きだったと断定できる。
だと言うのに、何がどうなっているのか。
「完全な片想いだよ。僕の。……黙ってて、ごめん」
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