誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

イトウ 

文字の大きさ
55 / 66
その後

行く道 3

しおりを挟む
 王都の中心部を出て少し歩くと、こぢんまりとした通行門があらわれる。

 基本的には、他国から騒がれずに入国したい貴族の為におかれている。
 だが、自分たちのように誰にも知られずに王都を出たい王族などにも利用されているらしい。
 ちなみにアダマゼインは神出鬼没なので、どこかに行った。

 一応、検問をする警備兵が常駐しているが、見て見ぬふりをせざるを得ないだろう。

「殿下。また、旅へ出発ですか?」
「いや、その山のふもとまでだ」
「ふもと?……はぁ。かしこまりました」

 ぞろぞろと歩く個性豊かな一行にポカンとしながらも、丁寧に小さいながらも重厚な門を開けてくれる。

「……グランは、自分が王族って事を国民に発表しないの?」

 横を歩いていたエンジュが不思議そうに言いながら、ぴょこぴょこ歩いている。
 長い旅から帰った後も、食堂宿の埃っぽい物置場所で寝泊まりしているのが気になったらしい。

「まだ、しないかな。だって、言う必要がないし」
「必要ない?」
「そもそも1から説明するの大変だよ。とりあえず次期国王はアルフにしておいて、僕が成人後でも良いかなって話がまとまった」

 治世の勉強はさせられているが、今のところ責務は持たされていない。

「そう?そうかなー。えー、それってもったいなくないかな。まって、どうかなー。うーん………、いやいや!」

 なんだか、不服そうだ。

 きっとエンジュの脳内には、フルーツ盛りが並んでいる空間で、踊り子に扇子で風を送られながら長椅子に寝転んでいるグランのイメージが浮かんでいるのだろう。
 長い付き合いにもなると分かってしまう。

 実際は、そんな贅沢は出来ないのに。
 そんな予算があれば、早々にあの川に船を通したり橋をかけたりしているだろう。

「ごめんね。なんか、期待を裏切っちゃったみたいで」

「……グランが謝ることないわよ。エンジュは、どうせ未来の王太子妃を狙ってるんでしょ?」
 ユーディアが茶化してくる。
 すると、エンジュが口を尖らせてむくれる。

「それね。グランは好きだけど、結局、姉弟ポジションのほうが得な気がしてきて、やめたの。国政とかよくわからないし、私は食堂で働く方が楽しいわ」

 損得で諦められるくらいの好意だったことに、グランはがっかりして、転びかけた。
 自分も結婚なんて考える年齢でもないから、エンジュが本気でも困ってしまうけど!

 すると、突然、一番うしろで静かに歩いていたフォンシルが小さく魔法を発動させた。

「山周辺に。凪。爆発防護。結界強化」

 魔法陣を組みながら、丁寧に言葉をのせる。

 目には見えないが、美しい空気が山と自分たちを囲む。

「申し訳ありません、フォンシル様。いつのまにか着いてました」

 速歩きで近くまで寄り、謝る。

「いや。なんだか、込み入った話をしていたから声をかけなかった」
「え、そこまででは……」
「結婚するとか、言っていたが」

 …………。
 断片的に聞いていたらしい。

「しないですよ?」
「そうか?なら、良かった」

 良かったって、何がだろうか。
 まぁ、会話が途切れた所で、ぶり返すのも嫌だし、何を言っても誤解をされそうなので、黙っていたほうが良いだろう。

「はい。では、僕も準備しますね」

 神経を集中させて、山の麓に手のひらをむける。
 そして、事前に計算をしていた村まで最短で行ける道筋に石で作った導火線を通した。

 あとは、爆発させるだけだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

処理中です...