誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

イトウ 

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その後

村長宅 9

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 村長の家は村の外れにある。

 最近、祖父から引き継いだという村長は、まだ40才くらいの穏やかな表情が印象的な女性だ。
 村を最初に作った一族の子孫で、この村を一番良く知っている人物のひとりであるのは間違いないだろう。
 グランも小さな頃から、何かと面倒を見てもらっている。

 結婚はしているが旦那さんの仕事は王宮での仕事で、なかなか帰ってこられないため、ほぼ村にはいない。
 一人で3人の子供を育て、住民や集会の管理までしている村の功労者だ。

「……橋をかける?それが出来るのならば嬉しいけれど」

 その言葉の裏には、今まで何度も自分たちで挑戦したが無理だった。
 という言葉が隠れている。

 橋があったのならば、毎日、城で働いている旦那さんとも会えて、子供にもさびしい思いをさせなかったのかもしれない。
 そう思っているのだろう。
 滅多にみせない、寂しそうな顔をしている。

 そこで、コンティが気楽な感じで言う。
「フォンシル様は、王族の人だから何でも簡単に出来るんだよ」

 王族を何だと思ってるのか、軽々しく口にしないで欲しい。
 出来ることと出来ないことがあるだろう。
 簡単に出来るなら、この国で孤立しかけている村をそのままになんてしない。
 予算的にも人材的にも出来なかったんだ。

 それを非難しようとすると、フォンシルが自信満々に言い放った。

「そうだ、出来る。明日には完成だ」

 出来る!?しかも、明日?
 あまりにも、斜め上からの返事が来た。
 何か良い案でもあるのだろうか?

「……フォンシル様っ!!大変、大変言いにくいのですが、明日は無茶では?」
「グラン、申し訳ない。明後日にコンティの魔法学院入学に関しての会議と、テディーリエ家の訪問を予定に入れた。ピーターを王都へ戻し、国王へ申し立てたから、もう動かせない」

 いつのまに?
 そういや、ずっとピーターがいなかったと思っていたら、そんな用事を言いつけられていたのか。

「さすがに色々と仕事が早すぎないですか?」
 見切り発車も、良いところである。
 橋も出来ていなかったら、コンティが学校へも行かないかもしれないというのに。

「今までの長旅で、父と母には、とても迷惑をかけた。これからは国の治制に全力を注ぎ、恩返しをしたい」
「……わあ、すごい。とても心が打たれます」

 目頭が熱くなる話ではあるが、急ぎすぎだ。
 多少、感動が棒読みになってしまったのは仕方ないことだろう。

「……飛び石を作るだけだろう。山でトンネルを壊した時の石があるから、魔法で置けば良い」
「置けば良いって……。魔法は?僕がしたとは言えないんですよ?」
「宮廷魔法師がしたことにして良い。許可はする。……すまない。村長殿とコンティは、一応ここだけの話にしてくれ」

 こくこくと、ぼんやり話を聞いていた2人はうなずく。
 宮廷魔法師の能力を知らないので何とも言えないが、バレないのだろうか。
 あ、これ、トンネルの時にも思ったな。

 正しいと思ったことを覆さないのがフォンシルだ。
 うなずいて、グランは覚悟を決める。
「……分かりました。決定事項なら、今晩で終わらせます」

 そこで、コンティが質問をする。
「石の大きさは?雨の日は?あと、台風の後とかどうするの?学校は休むの?藻がぬるぬるしてたら危ないよ?傘さすのとか嫌なんだけど。屋根とかないの?トンネルは嫌だよ、時間かかるし」

 すごい、疑問形と不満で詰めてくる。

 それに関しては、確かにグランも悩んでいた。
 今まで何度も嵐で川にかけようとした橋が崩れているからだ。

 だから、飛び石という簡易的だが水に流されづらい方法を取ることにした。

 橋の方が、歩くのには安心ではある。
 だが材料がないし、この村だけ予算を優先したら、他の村や町からの暴動が起こってしまうだろう。

 国民の不満が高まりつつある今、それは良くない。
 トンネルで行けば良いのではないかとも思うが、人間とは油断する生き物だ。
 大丈夫だと思って川を渡り、流される可能性はある。

「ぼく、良い案があるんだ。グランお兄ちゃん、石を魔法で変えられるんだよね?手伝ってあげるよ」

 全属性の隠れた才能を持つ天才少年が、にっこり笑った。

 


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