20 / 38
おしゃれなカフェ
しおりを挟む
凪夜が行っていた塾は、家の近所にある中規模な個人経営の所で、講師は正規の職員のみの3名。
小中学生がメインの指導をしていて評判もよく、年度始めは早めに申し込まないと定員になるほどだ。
大学受験にも対応しているが、受験対策というよりは基礎学習に重点を置いているので、高校になると多くの生徒が駅前の大きい塾に移動してしまう。
塾の平日勤務は13時から22時までだが、今日は土曜なので9時から18時までの勤務だ。
凪夜は勤務が終わる18時に合わせて、塾の前で桃夢を待つ事にした。
夕焼けがきれいで、青から赤に変わっていく空に見とれていると、南沢が最初に出てきた。
「お。凪夜くんだ。どうした。篠田先生に用事?家に忘れ物でもしたのか?」
違うよ。と否定する。
すると南沢が、すぐ後から来ると思うよ。と手を振りながらニコニコと軽い足取りで去っていく。
すると言った通り、すぐに中から桃夢の声が聞こえてきた。
「お先に失礼しまーす。って、凪夜?」
桃夢は、赤い跡が隠れるように、ハイネックに長袖長ズボンを着ていて少し暑そうにしていた。
でも、顔色もよく元気そうだ。
「先生、体調に問題なかったら、少し話をしても良いですか?」
「あぁ、もちろん。この間は来てくれてありがとうな。嬉しかった。」
そういって、頭をポンポン叩いてきた。
話は、凪夜の家まで歩きながら話す。
そのまま、雑談をしていたら、あっと言う間に家の近くに来てしまった。
本題の話は、まだ出来ていない。
すると、突然、桃夢はお腹がすいたと言って近くにあるカフェに入っていった。
最近できた古民家をリノベーションしたオシャレなカフェは高校生には入りづらい。
店内にはアートや本なども置いてあるって画廊なども兼ねているらしい。
「ここ、自分じゃ買わないような種類の本があるから、たまに来るんだ」
桃夢はそう言いながら、案内された席に座る。
そして、食べると夕飯食べられなくなっちゃうかな、と自分のお腹の心配しつつ団子と珈琲を頼む。
凪夜にはアイスレモンティーを頼んでくれた。勝手に来たというのに、奢ってくれるらしい。
「また俺の家に遊びきてよ。母さんが可愛いって言って、会いたがってるから」
そう言いながら、あっという間に3本あったきなこの団子が2本なくなった。
1本を凪夜に美味しいから食べてみなよ、とくれる。
それを、食べながら勇気を出して聞いてみる。
「あのさ、試験の前の日って何かあったの?」
「そりゃ、気になるよな。申し訳ない。わざわざ、思い出させるようなこと言って。熱出てたから、調子悪くて」
下を向いて、あやまる。
「その後、帰りの車で南沢先生から詳しく聞いたから別に大丈夫だよ。なんか、覚えてないのが気持ち悪いから、知りたくて」
「しょうがないな。俺も悪かったんだ」
凪夜は黙って話を聞いた。
「試験の前日、最終確認のために夕方、凪夜は塾へ来る予定だったが、時間になっても来なかったんだ。それで、家族に電話したら、家をもう出ていた。その時、暗くなってく空を見て気付いたんだ。凪夜が森守の山学園に行ってるかもしれないって」
学校に?なんでだろうか。
そもそも、凪夜は小学生の時、森守の山学園をどこで知ったのか。
「何でなのか、桃夢先生は知ってるの?」
「それは。俺のせいだ。その頃、補習授業を行っていた塾長が定年になるため、入れ替わりで俺が仕事を引き継ぐ事になったが、その時に学園の不思議な謎をたくさん話してくれたんだ」
それは学園が作られた理由や神社についてなど、様々だったという。
「今日みたいな、満月の日に学園に行くと不思議なことが起こると言われたことも、俺はきっと凪夜に話したと思う。当時は冗談だと思ってた」
あの夜は満月だった。おぼろげながら山の上にある黄色い丸を見ながら歩いたのを覚えている。
「じゃ、その間に俺の身に何かが起きて、それを忘れてしまったということ?」
桃夢は、それはどうだろう。分からないな。と首を傾げる。
「ただ、その後に俺は、学園に向かって山道の途中で歩いている凪夜を見つけたんだ。一本道だし、すぐに追いついたよ。その後、一緒に家まで帰った。その帰り道の時に、凪夜は中学受験をしたくないって言ってた。ここの学園に入りたいし中学でも塾に行きたい。みんなと分かれたくないって」
桃夢が、無駄に珈琲をスプーンでグルグルまわしている。
「小学生の俺、弱すぎでしょ。今なら、そんな事、絶対言わないよ」
「まぁ、そうだろうな。それで、その後、凪夜の家を案内してもらって帰ったら、すぐに疲れてたのか寝ちゃったんだよ。家族には絶対に内緒にしてくれって言われてたから、山に行ったことは話してない。寄り道してたとだけ伝えたんだ」
多分、翌朝、普通に試験会場に行ってることからも分かるように、その日の記憶を朝には無くしていた。
でも、疲れはたまっていたのか、試験後に具合が悪くなってしまい倒れたという事だろう。
凪夜は、氷が溶けて薄くなったアイスティーを桃夢の真似してクルクルまわす。
「学園の謎の事以外は、思い出したような気がする」
桃夢は、自分の知っている事はそれだけだと言って、一気に珈琲を飲んで気持ちを落ち着かせた。
「その後、凪夜は自分の意思をはっきりと伝えられるようになったんだよ。それは、不思議な力で手に入れたものかも。もしかしたら、何か山であったのかもしれないし、なかったのかもしれない」
桃夢が冗談だよ、と言いながら笑顔をみせる。
「でも、学園の謎の事、忘れちゃったからまた教えてよ」
「それは、やめとくよ。きっと、いくつかは真実のものが混じっているかもしれないから、怖いし。ミステリー研究会がオカルト研究会に変わってしまうからさ」
凪夜は、怖いのは嫌いだけど興味はあるな、と思いつつ席を立つ。
もう帰らないと本格的に暗くなってしまう。
「桃夢先生。ごちそうさま」
「凪夜の家、すぐそこだけど、気を付けて帰れよ」
結局、1時間くらい話してしまった。
さようならをしたのに、凪夜が家に入るまで見守ってくれている。
そうだ。お見舞いの品を今更だけど今度の部活の日にあげよう。
何にしようか、凪夜は考え始めた。
小中学生がメインの指導をしていて評判もよく、年度始めは早めに申し込まないと定員になるほどだ。
大学受験にも対応しているが、受験対策というよりは基礎学習に重点を置いているので、高校になると多くの生徒が駅前の大きい塾に移動してしまう。
塾の平日勤務は13時から22時までだが、今日は土曜なので9時から18時までの勤務だ。
凪夜は勤務が終わる18時に合わせて、塾の前で桃夢を待つ事にした。
夕焼けがきれいで、青から赤に変わっていく空に見とれていると、南沢が最初に出てきた。
「お。凪夜くんだ。どうした。篠田先生に用事?家に忘れ物でもしたのか?」
違うよ。と否定する。
すると南沢が、すぐ後から来ると思うよ。と手を振りながらニコニコと軽い足取りで去っていく。
すると言った通り、すぐに中から桃夢の声が聞こえてきた。
「お先に失礼しまーす。って、凪夜?」
桃夢は、赤い跡が隠れるように、ハイネックに長袖長ズボンを着ていて少し暑そうにしていた。
でも、顔色もよく元気そうだ。
「先生、体調に問題なかったら、少し話をしても良いですか?」
「あぁ、もちろん。この間は来てくれてありがとうな。嬉しかった。」
そういって、頭をポンポン叩いてきた。
話は、凪夜の家まで歩きながら話す。
そのまま、雑談をしていたら、あっと言う間に家の近くに来てしまった。
本題の話は、まだ出来ていない。
すると、突然、桃夢はお腹がすいたと言って近くにあるカフェに入っていった。
最近できた古民家をリノベーションしたオシャレなカフェは高校生には入りづらい。
店内にはアートや本なども置いてあるって画廊なども兼ねているらしい。
「ここ、自分じゃ買わないような種類の本があるから、たまに来るんだ」
桃夢はそう言いながら、案内された席に座る。
そして、食べると夕飯食べられなくなっちゃうかな、と自分のお腹の心配しつつ団子と珈琲を頼む。
凪夜にはアイスレモンティーを頼んでくれた。勝手に来たというのに、奢ってくれるらしい。
「また俺の家に遊びきてよ。母さんが可愛いって言って、会いたがってるから」
そう言いながら、あっという間に3本あったきなこの団子が2本なくなった。
1本を凪夜に美味しいから食べてみなよ、とくれる。
それを、食べながら勇気を出して聞いてみる。
「あのさ、試験の前の日って何かあったの?」
「そりゃ、気になるよな。申し訳ない。わざわざ、思い出させるようなこと言って。熱出てたから、調子悪くて」
下を向いて、あやまる。
「その後、帰りの車で南沢先生から詳しく聞いたから別に大丈夫だよ。なんか、覚えてないのが気持ち悪いから、知りたくて」
「しょうがないな。俺も悪かったんだ」
凪夜は黙って話を聞いた。
「試験の前日、最終確認のために夕方、凪夜は塾へ来る予定だったが、時間になっても来なかったんだ。それで、家族に電話したら、家をもう出ていた。その時、暗くなってく空を見て気付いたんだ。凪夜が森守の山学園に行ってるかもしれないって」
学校に?なんでだろうか。
そもそも、凪夜は小学生の時、森守の山学園をどこで知ったのか。
「何でなのか、桃夢先生は知ってるの?」
「それは。俺のせいだ。その頃、補習授業を行っていた塾長が定年になるため、入れ替わりで俺が仕事を引き継ぐ事になったが、その時に学園の不思議な謎をたくさん話してくれたんだ」
それは学園が作られた理由や神社についてなど、様々だったという。
「今日みたいな、満月の日に学園に行くと不思議なことが起こると言われたことも、俺はきっと凪夜に話したと思う。当時は冗談だと思ってた」
あの夜は満月だった。おぼろげながら山の上にある黄色い丸を見ながら歩いたのを覚えている。
「じゃ、その間に俺の身に何かが起きて、それを忘れてしまったということ?」
桃夢は、それはどうだろう。分からないな。と首を傾げる。
「ただ、その後に俺は、学園に向かって山道の途中で歩いている凪夜を見つけたんだ。一本道だし、すぐに追いついたよ。その後、一緒に家まで帰った。その帰り道の時に、凪夜は中学受験をしたくないって言ってた。ここの学園に入りたいし中学でも塾に行きたい。みんなと分かれたくないって」
桃夢が、無駄に珈琲をスプーンでグルグルまわしている。
「小学生の俺、弱すぎでしょ。今なら、そんな事、絶対言わないよ」
「まぁ、そうだろうな。それで、その後、凪夜の家を案内してもらって帰ったら、すぐに疲れてたのか寝ちゃったんだよ。家族には絶対に内緒にしてくれって言われてたから、山に行ったことは話してない。寄り道してたとだけ伝えたんだ」
多分、翌朝、普通に試験会場に行ってることからも分かるように、その日の記憶を朝には無くしていた。
でも、疲れはたまっていたのか、試験後に具合が悪くなってしまい倒れたという事だろう。
凪夜は、氷が溶けて薄くなったアイスティーを桃夢の真似してクルクルまわす。
「学園の謎の事以外は、思い出したような気がする」
桃夢は、自分の知っている事はそれだけだと言って、一気に珈琲を飲んで気持ちを落ち着かせた。
「その後、凪夜は自分の意思をはっきりと伝えられるようになったんだよ。それは、不思議な力で手に入れたものかも。もしかしたら、何か山であったのかもしれないし、なかったのかもしれない」
桃夢が冗談だよ、と言いながら笑顔をみせる。
「でも、学園の謎の事、忘れちゃったからまた教えてよ」
「それは、やめとくよ。きっと、いくつかは真実のものが混じっているかもしれないから、怖いし。ミステリー研究会がオカルト研究会に変わってしまうからさ」
凪夜は、怖いのは嫌いだけど興味はあるな、と思いつつ席を立つ。
もう帰らないと本格的に暗くなってしまう。
「桃夢先生。ごちそうさま」
「凪夜の家、すぐそこだけど、気を付けて帰れよ」
結局、1時間くらい話してしまった。
さようならをしたのに、凪夜が家に入るまで見守ってくれている。
そうだ。お見舞いの品を今更だけど今度の部活の日にあげよう。
何にしようか、凪夜は考え始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる