何でもない日の、謎な日常

イトウ 

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おしゃれなカフェ

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 凪夜が行っていた塾は、家の近所にある中規模な個人経営の所で、講師は正規の職員のみの3名。

 小中学生がメインの指導をしていて評判もよく、年度始めは早めに申し込まないと定員になるほどだ。
 大学受験にも対応しているが、受験対策というよりは基礎学習に重点を置いているので、高校になると多くの生徒が駅前の大きい塾に移動してしまう。

 塾の平日勤務は13時から22時までだが、今日は土曜なので9時から18時までの勤務だ。

 凪夜は勤務が終わる18時に合わせて、塾の前で桃夢を待つ事にした。
 夕焼けがきれいで、青から赤に変わっていく空に見とれていると、南沢が最初に出てきた。

「お。凪夜くんだ。どうした。篠田先生に用事?家に忘れ物でもしたのか?」

 違うよ。と否定する。
 すると南沢が、すぐ後から来ると思うよ。と手を振りながらニコニコと軽い足取りで去っていく。
 すると言った通り、すぐに中から桃夢の声が聞こえてきた。

「お先に失礼しまーす。って、凪夜?」

 桃夢は、赤い跡が隠れるように、ハイネックに長袖長ズボンを着ていて少し暑そうにしていた。
 でも、顔色もよく元気そうだ。

「先生、体調に問題なかったら、少し話をしても良いですか?」
「あぁ、もちろん。この間は来てくれてありがとうな。嬉しかった。」

 そういって、頭をポンポン叩いてきた。
 話は、凪夜の家まで歩きながら話す。
 そのまま、雑談をしていたら、あっと言う間に家の近くに来てしまった。

 本題の話は、まだ出来ていない。
 すると、突然、桃夢はお腹がすいたと言って近くにあるカフェに入っていった。
 最近できた古民家をリノベーションしたオシャレなカフェは高校生には入りづらい。
 店内にはアートや本なども置いてあるって画廊なども兼ねているらしい。

「ここ、自分じゃ買わないような種類の本があるから、たまに来るんだ」

 桃夢はそう言いながら、案内された席に座る。
 そして、食べると夕飯食べられなくなっちゃうかな、と自分のお腹の心配しつつ団子と珈琲を頼む。
 凪夜にはアイスレモンティーを頼んでくれた。勝手に来たというのに、奢ってくれるらしい。

「また俺の家に遊びきてよ。母さんが可愛いって言って、会いたがってるから」

 そう言いながら、あっという間に3本あったきなこの団子が2本なくなった。
 1本を凪夜に美味しいから食べてみなよ、とくれる。
 それを、食べながら勇気を出して聞いてみる。

「あのさ、試験の前の日って何かあったの?」
「そりゃ、気になるよな。申し訳ない。わざわざ、思い出させるようなこと言って。熱出てたから、調子悪くて」

 下を向いて、あやまる。

「その後、帰りの車で南沢先生から詳しく聞いたから別に大丈夫だよ。なんか、覚えてないのが気持ち悪いから、知りたくて」
「しょうがないな。俺も悪かったんだ」

 凪夜は黙って話を聞いた。

「試験の前日、最終確認のために夕方、凪夜は塾へ来る予定だったが、時間になっても来なかったんだ。それで、家族に電話したら、家をもう出ていた。その時、暗くなってく空を見て気付いたんだ。凪夜が森守の山学園に行ってるかもしれないって」

 学校に?なんでだろうか。
 そもそも、凪夜は小学生の時、森守の山学園をどこで知ったのか。

「何でなのか、桃夢先生は知ってるの?」
「それは。俺のせいだ。その頃、補習授業を行っていた塾長が定年になるため、入れ替わりで俺が仕事を引き継ぐ事になったが、その時に学園の不思議な謎をたくさん話してくれたんだ」

 それは学園が作られた理由や神社についてなど、様々だったという。

「今日みたいな、満月の日に学園に行くと不思議なことが起こると言われたことも、俺はきっと凪夜に話したと思う。当時は冗談だと思ってた」

 あの夜は満月だった。おぼろげながら山の上にある黄色い丸を見ながら歩いたのを覚えている。

「じゃ、その間に俺の身に何かが起きて、それを忘れてしまったということ?」

 桃夢は、それはどうだろう。分からないな。と首を傾げる。

「ただ、その後に俺は、学園に向かって山道の途中で歩いている凪夜を見つけたんだ。一本道だし、すぐに追いついたよ。その後、一緒に家まで帰った。その帰り道の時に、凪夜は中学受験をしたくないって言ってた。ここの学園に入りたいし中学でも塾に行きたい。みんなと分かれたくないって」

 桃夢が、無駄に珈琲をスプーンでグルグルまわしている。

「小学生の俺、弱すぎでしょ。今なら、そんな事、絶対言わないよ」
「まぁ、そうだろうな。それで、その後、凪夜の家を案内してもらって帰ったら、すぐに疲れてたのか寝ちゃったんだよ。家族には絶対に内緒にしてくれって言われてたから、山に行ったことは話してない。寄り道してたとだけ伝えたんだ」

 多分、翌朝、普通に試験会場に行ってることからも分かるように、その日の記憶を朝には無くしていた。
 でも、疲れはたまっていたのか、試験後に具合が悪くなってしまい倒れたという事だろう。

 凪夜は、氷が溶けて薄くなったアイスティーを桃夢の真似してクルクルまわす。

「学園の謎の事以外は、思い出したような気がする」

 桃夢は、自分の知っている事はそれだけだと言って、一気に珈琲を飲んで気持ちを落ち着かせた。

「その後、凪夜は自分の意思をはっきりと伝えられるようになったんだよ。それは、不思議な力で手に入れたものかも。もしかしたら、何か山であったのかもしれないし、なかったのかもしれない」

 桃夢が冗談だよ、と言いながら笑顔をみせる。

「でも、学園の謎の事、忘れちゃったからまた教えてよ」
「それは、やめとくよ。きっと、いくつかは真実のものが混じっているかもしれないから、怖いし。ミステリー研究会がオカルト研究会に変わってしまうからさ」

 凪夜は、怖いのは嫌いだけど興味はあるな、と思いつつ席を立つ。
 もう帰らないと本格的に暗くなってしまう。

「桃夢先生。ごちそうさま」
「凪夜の家、すぐそこだけど、気を付けて帰れよ」

 結局、1時間くらい話してしまった。
 さようならをしたのに、凪夜が家に入るまで見守ってくれている。
 そうだ。お見舞いの品を今更だけど今度の部活の日にあげよう。
 何にしようか、凪夜は考え始めた。
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