何でもない日の、謎な日常

イトウ 

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桃の夢

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 それから冬を越し、相変わらず今までと同じ生活をしている。

 週に2回、参道を通り御神木にお参りをして掃除をする。
 前は、つらいだけだったが意味を持つとこの登山通勤も苦じゃなくなるから、人間というものは感情で行動が変わるのかも知れない。

 学園では補習の授業をして、ミステリー研究会でくだらない話やトリックを考えたりする。
 そんな平和な毎日だ。

 最近、おこった事と言えば、部長の渡瀬が付属の大学に進学を決めたことだろうか。
 何故か、内部推薦じゃなくて一般受験で。
 部員全員から、何で?と渡瀬が総ツッコミを受けている。

「面目ない。高望みをして国公立大学を受験して頑張ってはみたが、全部落ちた。滑り止めでここの付属を受けてて助かったなぁ。うん。捨てるものあれば拾うものあり。とは、このことか」

 少し違う意味合いのことわざな気がする。

「夏葉部長、次は君がこの歴史あるミステリー研究会をひっぱっててくれ」

 そして、渡瀬が夏葉に字が汚くて読めない引き継ぎ書類を渡す。

「まぁ、2年は私だけですしね。やりますけど」
「いやぁ、頼りない部長で苦労をさせてきたね。では、私は手続き等があるので帰らせていただくよ」

 本当に。と夏葉はため息をつきつつ、さよなら、と手を振った後、書類をきちんと鞄にしまう。
 そして、窓の外を見て何か思いついたようにまばたきをした。

「桃夢先生、今日の部活は御神木さまの所へ行きませんか?」

 3月のはじめ、少し風があたたかくなってきた。
 緑が風でそよぐ中、部員全員で頂上から下る。
 この半年で、この道を使う生徒が増えたため、道も昔より歩きやすい。
 どうやら、噂で大学の合格祈願で参道を通りお参りをするとご利益があると、新聞部が記事を書いたらしい。

 本当かどうかはともかく良いことだと思い、桃夢は気持ちが明るくなる。
 いつものように、ハミングをしながら雑草を取り木の様子をみる。すると、なにか白いものが目の端に見えた気がする。何だろうと、あわてて確認のために顔を枝に近づける。

「あれ?小さい花芽が出来てる」

 桃夢が、つぶやく。
 夏葉がにこにこしながら、横から覗き込む。

「そんな気がしたんです。植物は正直ですから」
「桃夢先生。これ、何の花が咲くか知ってますか?」

 樹木にまるで興味がない凪夜が、蕾を見ながら桃夢に聞く。丈一郎は、さすがハイキングの達人らしく分かったらしいが、桃夢に花を持たせてくれるらしい。

「そう言えば。何だろうなぁ」

 期待をされて悪いが、本当にわからない。
 夏葉が信じられない、という表情をする。

「いや、こんなに小さいと判別出来ないだろう。夏葉と丈一郎が詳しすぎるんだよ」

 そう言って慌てていると、後ろから足音が聞こえてきた。

「枝垂桃の花が、あたたかくなったら咲きますよ」
「藤森先生!」

 みんなの声がそろう。

「みなさん。こんにちは」
 
 バツが悪そうに凪夜が言う。

「すみません。実は、うさんくさいって思ってた事もあったんですが、誤解してました。いつか謝ろうと思ってたんですけど」

 少し藤森はわざと驚い顔をして、苦笑しながら腕を組む。

「いや、確かに。言われても仕方なかったと思うよ。うん。まぁ、お詫びに、申し訳ないがこのあたりの雑草を取ってキレイにしてくれるないかい?」

 部員達が、わかった!と、大きくうなずく。
 そして、各自ばらばらに散らばり、地面にしゃがみ込み雑草を抜いていく。

「前、まだ内緒してることあるって言ったこと覚えていますか?」

 2人きりになった途端に、藤森が話し出す。

「はい。覚えています。話してくれるんですか?」

 本当は もうすでに気にはなってはいなかったけれど、教えてもらえるなら聞こうじゃないか、と桃夢は正面にいた藤森を見据える。
 そのまっすぐな顔に満足した藤森は、軽く笑いながら答える。

「たいしたことじゃないかもしれないですが、篠田先生の名付け親は祖父なんです。ご存知でしたか?」

 そういや、両親は神社でつけてもらったと言っていた。それは、塾長だったのか。
 桃夢は、あやふやではあったが、知っているという事にした。

「はい」
「そうですか。祖父は、篠田先生が産まれた時に、こうなることを予想してたのかもしれませんね。夢を見て」
「あっ、だから、俺の名前!」

 ハッとして、少し大きな声を出す。生徒たちが、何事かとこちらを見る。

 藤森にも、今、気づいたんですか?信じられない、という表情をされてしまった。だが、両親も何も言わなかったし聞かなかったのだから、分からないだろう。

 その時に、巻き起こるような強い風が吹いて、部員全員と藤森が目を閉じる。
 桃夢だけが風向きが後ろからだったので、目を開いて御神木を見ていた。

 その時、桃の花芽が付いている枝が、何度も挨拶をするように揺れていた。






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