離宮の愛人

眠りん

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一章

七話

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 真実を知ると今までと同じ気持ちで仕事が出来なくなった。全ては公爵一人によって仕組まれた事件だったのだ。
 両親は何一つ悪くなかった。

(けれど疑問が残る。何故お母様は公爵夫人を殺したのか?)

 一度母親に面会がしたいが、公爵家に来てからというもの休みがただの一日もない。
 他の使用人達は時折休日が与えられているが、ルベルトにはそれが許されていなかった。
 休みを願える立場でもない。またイグナートに暴力を振るわれるのがオチである。

 復讐決行後は逃亡する事になるだろう、そうなると誰にも聞けなくなる。

(公爵に直接聞くか。あとはフリードさん。彼は何を知っているんだろう?)

 彼は何か知っているのだろう。だが仕事中に聞くのは危険だ。ここは公爵家、間違っても誰かに話を聞かれるわけにはいかない。
 父親の裁判の時に、不義を証言したのは公爵家の使用人だ。公爵に命令されたのだろうと予想はつくが、ルベルトの敵である事には変わりない。

 執事のギルセンが不必要にルベルトに謝罪してきた時の事が頭に浮かんだ。

(ギルセンさんのあの謝罪は、俺に仕事を教えられなかった事じゃなくて、両親の事で謝っていたんだとしたら……)

 書斎の掃除を終え、あれこれ考えてながら使用人棟へ行こうとするとイグナートがやってきた。

「おい、下民!」

 ルベルトはイグナートの顔をまっすぐ見た。罪の意識が一切なくなったせいかまともに顔を見られるようになった。

(イグはどこまで知ってるんだ?)

 ルベルトが知っているイグナートは罪もない人を罵るような人間ではなかった。
 平民だからと見下すような人間でもなかった。
 母親を殺された怒りや憎悪が暴走してしまっているだけだと思っていたし、今もそうだと信じている。

(知っていたら俺にこんな扱いはしなかっただろう。いや、それとも俺が知らなかっただけで、今まで本性を隠したていたのか?)

 幼少期の事を思い出す。イグナートは曲がった事を嫌い、いつも「将来は帝国を守る剣になるんだ」と宣言していた。
 全てが演技でその時から邪悪な一面を隠していたとは考え難い。

「……はい、イグナート様」

「夜、俺の部屋に来い」

「はい」

 イグナートはそれだけ言うと出て行った。また夜の相手をさせられるのだろう。
 フリードが来てから昼に呼ぶ回数が減ったが、彼がいなくなる夜に呼ばれるようになった。
 夜になるとフリードは用事があると言って二、三時間程、外出をするのだ。その時を狙っているらしい。


 その日一日の仕事を終え、ルベルトはイグナートの部屋に向かおうとした時だった。

「ターバイン君。また坊ちゃまに呼ばれてんのか?」

 フリードに声を掛けられた。いつもならすぐに外出しているが、珍しく屋敷に残っていた。
 朝から夕方まで外出していたから、今日はどこにも出掛けないのかもしれない。

「ええ」

「大事な幼馴染みとはいえ、愛してもいない相手に身体を弄ばれるのは辛いだろう」

「はい、そうですね」

「あと少しの辛抱だ。今は耐えてくれ」

 フリードの言い方には違和感があった。イグナートが学院に戻るまで耐えろと言っているのだろうが……。

(まるでフリードさんが俺のこの状況から救ってくれるみたいな……?)

「フリードさん!」

「なんだ?」

「後で話があるのですが」

「明日でいいか? これから君は坊っちゃまの相手、俺はまた外に用事がある。
 帰って話をする余裕はないだろう」

「はい。なんかフリードさん、忙しそうですね。外で何をしてるんですか?」

「まぁ、色々とな。それは教えられないんだ。公爵様には許可は取ってるから」

「すみません、詮索するような事を言って」

「気になる事は聞いてくれて構わない。言える範囲で答えるが、外出の用件は悪いけど答えられない」

「分かりました。じゃあ明日お話する時間を作りたいと思います」

「ああ。明日な」

 フリードが去っていき、ルベルトもイグナートの部屋へ向かった。
 扉をノックしてから入るとイグナートはいつものように憎しみを含んだ顔で睨まず、静かにルベルトを見つめていた。
 何も感情がないかのようだった。

「ルベルト、こっちに来い」

 名前を呼ばれたのは二ヶ月ぶりだ。殺人事件後、一度も彼の口から聞いた事はない懐かしい呼び声だ。

「はい」

 ベッドに座るイグナートの前に立った。イグナートの目は少し寂しげだ。

「服を脱げ。今日はベッドの上で犯してやる」

 いつもは床で四つん這いになっていたが、イグナートにそう言われれば言う通りにするしかない。
 布切れのような服を脱ぎ、全裸になる。

「仰向けになれ」

 ルベルトは恐る恐るベッドの上に横になった。
 いつも木の板で寝ているので、柔らかいベッドに身体を預けるのは久しぶりだ。

 イグナートはルベルトの上にのしかかると、足を広げさせ、自身の肉棒をアナルに押し付けた。
 既に準備がされている穴は難なくそれを受け入れる。

「あぁ、っん」

 快楽の味を知っているアナルは受け入れると同時に脳に甘い衝撃を伝えた。
 ルベルトの口から甘い吐息が漏れる。

「随分慣れたもんだよな。本当、女みてぇ」

「あっ、あん、あっ、あっ」

 一突きされる毎に漏れる嬌声。バックで犯される時とはまた違った快楽の味だ。

「お前、そんな顔して犯されてたのかよ。もっと嫌がってるかと思ってた」

 イグナートはルベルトに向ける憎しみの中に少しの安堵を見せた。だが、興奮も最高潮に達しているルベルトは、イグナートの顔を見る余裕も、言われている内容を理解する余裕もない。

「あっ──!」

 アナルの中の一番気持ちいいところを擦られる。脳まで響く快楽に射精してしまった。
 白濁液はイグナートの腹部を穢すが、イグナートは特に怒る様子もなく自分の快楽を追っていた。

「チッ、最初からこうしてれば良かった」

 イグナートの腰の動きが強くなるが、ルベルトは先に達する。犯されながらも徐々に頭が冴えてきた。

(気持ち良い。凄く。
 イグ、君は何も知らないんだよね? もし知っていて俺をこんな風にしていたら、きっと許せない)

「いく。出すぞ。言えよ、俺を求めろ」

「ぁん、俺の中に、奥に出してください。卑しい下民にお恵みを下さいぃ」

 屈辱的な言葉を言わされる。昨日まではそれが当然だったし、罪を償えているのだと安心出来る行動だったが。
 ──ルベルトの目から涙が零れた。

 本来、こんな台詞を言って許しを乞う立場ではない。

(俺は侯爵家を継ぐ、正当な後継者だ! こいつの……こいつの父親のせいで……。
 でも、これではイグと同じだ。俺は同じにはならない!)

 一番奥に流し込むように精液が出される。屈辱を、漏れそうになる嗚咽を、歯を食いしばって耐える。

「なっ、何故泣いてる?」

 イグナートはルベルトの涙を見てギョッとした。
 まるで幼子を泣かせてしまって狼狽えているかのようだ。

「なんだ? 痛かったのか?」

「申し訳ありません。感じすぎてしまったようです」

「そうか。ならもっと感じさせてやろう」

 イグナートはすぐに回復して再度ルベルトを犯した。今まで放置されていた肉棒を初めてイグナートに触れられる。
 優しく握ると、ルベルトの射精を優先するように、犯しながらそこを刺激する。
 時折唇を塞がれた。柔らかいイグナートの唇や、絡む舌に不快感はない。
 彼から与えられる快楽を全て受け入れた。

 そんな行為は三回目に突入し、気付けばルベルトは意識を手放していた。


 目を覚ます。外はまだ空が暗い。イグナートのベッドで寝てしまったと気付き、ルベルトは慌てて降りようとすると、イグナートが抱きついてきた。

「……ん、ルベルト……」

 まだ起きているのか? と振り向く。イグナートはぐっすりと熟睡しているようだ。今のが寝言だと思うと少し胸が擽ったくなった。
 親友だった頃に戻れたようで嬉しいと思いたいのに、公爵の存在がそれを許さない。

(喜んじゃだめだ。もう、元の関係に戻る事は出来ないのだから)

「ルベルト。ごめん。……ごめん」

「イグ?」

「こんな事するつもりじゃ」

 イグナートは眠りながらも涙が流れていた。彼も深く苦しんでいたのだ。
 ルベルトはそっとイグナートの頭を撫でた。

「イグ、君は何も知らないんだね」

「好き。ルベルトが……」

 子供が親にしがみつくように、イグナートは大きな身体で華奢なルベルトに抱き着く。
 ルベルトはそのまま目を閉じ、眠りについたのだった。
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