櫻家の侵略者

眠りん

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十九話 三男・樹良

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「僕の好きな人が中学に入ってすぐに男の先輩に惚れちゃってさぁ。ちなみに僕の好きな人っていうのが」

「幼馴染みのしぃ君だろ?」

「そうしぃ君。幼稚園の時から大好き過ぎて、私立の男子中まで追いかけちゃったよ」

「うわ、ストーカーっぽいね」

「まぁね!」

「いや胸張るなよ!」

「アイツ、男選ぶセンス壊滅的でさ、その先輩なんて不良グループのパシリで……いや、だからって見下してるとかじゃないんだ。
 そいつ、普段は気が弱そうに見せて裏じゃ虎の威を借る狐やってんの。弱いものいじめしたり。
 だから、僕が誘って寝てやったんだよね。僕の初体験、好きでもなんでもない卑怯者相手だよ?
 マジ悲惨」

「そんな奴と寝る事なかっただろ。卑怯者だっていう証拠をしぃ君に突きつけるだけで良かったんだ」

「そこは僕も浅はかだったなとは思ってるよ。ただ、僕がそいつと恋仲になったことを知ったしぃ君が、僕に涙を浮かべてすっごい恨みの篭もった目を向けてきたんだよ」

「嫌われたな」
 
「嫌われたよ。でも、それからしぃ君の恨みの篭もった泣くのを我慢してる悔しそうな顔に欲情するようになっちゃって。
 あの顔見る為に、しぃ君が好きになった男とか、付き合ってる男、片っ端から誘ってセックスしてるんだ。
 僕のせいかは知らんけど、しぃ君の恋は全戦連敗更新中だよ」

「うわ、お前の性格も大概ヤバいな」

「でっしょ~? ねぇ、陽にぃ、どうしたらいいと思う?」

 樹良はにこにこと悪びれもせず、そんな重い話を長兄である陽翔に聞かせた。陽翔ならこんな時どうするか、意見を聞きたかったのだ。
 実家を出てしまう前に。

 大学の卒業式も終え、叔父の経営するバーでの仕事の為、実家を出る陽翔に聞かせるのは少し陽翔に罪悪感を覚えたが、樹良は樹良で悩んでいるのだ。

 こういう時、悩みの答えは既に出ている事が多い。自分が望む答えを相手に求めるか、若しくは自分が望む以上の答えを期待しているだろう。
 だが、樹良は本気でどうしていいか分からずに相談している。

「樹良、兄としては自分の身体を大事にして欲しいと思ってしまうよ。しぃ君の事は……頑張れとしか言いようがないけど、もうしぃ君の恋のお相手を試すような真似はやめなさい」

「試す?」

 いつも悩みを親身に聞いてくれる長兄にしては見当違いのアドバイスか? と樹良は首を傾げた。

「試してるんだろ? そいつが誘われたらすぐ靡く奴かどうかを」

「そうかな。だって僕に靡かなくても、しぃ君を好きかはまた別の話じゃん。
 しぃ君と上手くいくかもしれないけど、今のところ全員クソ野郎だったし」

「それでも、樹良とセックスしたから破局した事もあるんでしょ?
 しぃ君がきちんとしぃ君を大事にしてくれる人と恋仲になるのを期待してるんじゃない?」

 樹良は、ハッとした。確かに相手を試して見定めていたのだろう。『しぃ君に見合う男かどうかを』。

「樹良は、本当にしぃ君の事好きなの?」

 陽翔が重ねて疑問を投げかける。

「うーん。そう聞かれると、自分の感情に自信持てなくなってきたかも。
 もしかしたら、しぃ君に恋してないのかも」

 ただ、大事な幼馴染みには幸せになって欲しいという気持ちは確かだ。

「それは僕も分からないけど。でも僕も樹良の気持ち分からなくもないよ」

「ほんと?」

「うん。僕も好きな人相手だと、泣かせたくなるし。実際樹良と似たような事して嫌われた事あったよ。
 あ、これ言えるの樹良だけだから皆には内緒ね」

 陽翔はシーっと、人差し指を口前で立てた。
 普段は温厚篤実な兄だ。そのせいか、周りは聖人君子扱い。
 だが、樹良は知っている。自分の本心を見せれば、陽翔も応えてくれる。陽翔も普通の人間と同じ、二面性もあれば短所だってある。

 親に代わって育ててもらった恩はあれど、だからといって特別扱いするのは違うと思っている。
 陽翔に対抗しようと藻掻く直陽も、崇拝が過ぎる歌陽も、陽翔を意識し過ぎているのだ。
 樹良はそんな陽翔を頼りのある兄として、だけでなく年の離れた友達のようにも思っている。

「そういうの、皆に見せればいいのに。なんで隠してるの?」

「お兄ちゃんだからね。皆にお兄ちゃんのイメージ植え付けた手前、それを崩す言動ってもう出来ないっていうか」

「じゃあそんな陽にぃ見れる僕は得だね。後見せられるとしたら恋人とか?」

「恋人には絶対無理、絶対見せらんないよ!
 話戻すけど、僕の意見としては樹良がやりたいようにやってもいいと思うんだよ。けどね、まずは自分の身体を大事に。
 僕がいなくなっても約束できる?」

「出来ないな。僕、しぃ君を守りたい気持ちもあるし、悔しそうな顔見たい気持ちもあるけど、同じくらいエッチを楽しみたい気持ちもあるから」

「そっか。じゃあ自分の気持ちに向き合うのはゆっくりでいい。僕も相談乗るし。
 約束して欲しいのは絶対セーフセックスする事。僕もエッチは好きだからね、止めても無意味なの分かるし」

「へぇ、陽にぃは何人くらいとした?」

「うんと、十……っていいでしょ、そういうの! 内緒!」

「最低十人以上か。僕も頑張ろ~っと」

「それは頑張らなくていいの!」



 そんなやり取りを思い出した樹良は、いつものように樹良を睨みつけてくる「しぃ君」もとい、椎名周しいなめぐると相対していた。

(気持ちに向き合うのはゆっくりでいいって言われたから放置してたけど、今すぐ向き合わなきゃいけなくなったなぁ)

 椎名は分かりやすい男だ。誰か好きな人が出来ると、すぐに顔に出る。
 今回は新任の数学教師だったのだが、まず教師相手というところから樹良は反対していた。
 椎名に茨の道を歩んで欲しくない。だが、それ以前にこの教師が最悪な男だった。

 樹良が調べたところ、その教師は元々は女子校にいたらしいが、女子生徒と男女トラブルを起こして男子校に赴任してきたのだ。
 そんな教師相手に恋なんて言語道断だ。

 案の定、樹良がその教師に色目を使ったところ、ホイホイ網にかかって肉体関係を持った。中学生相手に信じられない教師だ。
 昨日、その教師とのデート場面を椎名に見られた。そして今日、珍しく椎名に呼び出されたのである。

 椎名は身長も150センチと低く、気の弱そうな顔付きだ。いつも眉を八の字にしており、ビクビクした様子のせいで周りからバカにされやすい。
 そんな椎名は樹良を泣きそうになりながら睨む事しか出来ない、脆弱な人間だと評価していたが、今回はわざわざ呼び出してきたのだ。
 何を言ってくるのか、期待に胸が膨らむ。

「どうしたの? しぃ君、はっきり言わなきゃ分からないよ?」

「きよ君、僕、きよ君がやってる悪い事、先生に言おうと思ってる」

「悪い事? ってどんな事?」

「えっ、あ、あの……」

 椎名は口ごもってしまった。そんな椎名も可愛く思えて、樹良の口角はニヤリと上がる。椎名からすれば嘲笑に見えていることだろう。

「ほら、詳しく言いなよ。言えないのに僕が悪い事してるって主張するの?」

「へっ、変態な事してるだろ!」

 椎名の顔は真っ赤だ。それも面白くて、もっと困らせたくなった。

「変態? 変態って?」

「うぬぅ。え、エロい事! やっちゃいけない事してんだろ!」

「しぃ君はしてないの?」

「……え? してない、してないよ!」

「うっそだー。中学生にもなって? オナニーしないの?」

「それは……」

「エロい事ってオナニーでしょ。言ってみなよ、先生にきよ君がオナニーしてまーすってさ」

 椎名は悔しそうにプルプルと震えていたが、怒りが爆発したように大声で抗議してきた。

「違っ! なんできよ君はそうやって意地悪すんだよ? いつも僕が好きになった人とエロい事して。そういうの略奪っていうんだろ。最低だよ!!」

(告白……するべきか。うーん、でも、僕は本当にしぃ君が好きなんだろうか?
 このままずっとしぃ君の悔しがる顔見続けてもいられないしな)

「趣味かな」

「趣味ぃ!?」

「うん。僕、人が悔しがる顔すんの好きなの。だから、しぃ君だけにやってるわけじゃないんだよ。
 僕、色んな人から嫌われちゃって大変なんだ」

 半分事実、半分嘘をつく。もちろん椎名に嘘がバレた事は一度もない。

「そういう事しなきゃいいだけの話だろ」

「それが出来たらいいんだけど。無意識でやってるから無理。僕が誘っても無視してしぃ君だけを見てくれる相手を見つけな。
 今までの奴らはしぃ君には似合わなかったよ」

「分かった。じゃあ次こそは邪魔しないで。次、きよ君が寝取ったら、今度こそ先生……と、きよ君のおばさんとおじさんに言いつけてやるから!」

 それだけ言うと椎名は去っていった。もうすぐ高校生になるとは思えない発言に樹良は吹き出したのだった。


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※日にち空いてしまってすみません。
 お詫びに二話投稿しました。
 あんまり空かないように頑張ります。
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