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二十話 家庭教師
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樹良が家に帰ると、来客があった。妹である桜子の家庭教師をする為に、陽翔の恋人の諭がやってきており、居間で勉強していた。
「ただーいま」
「樹良おにーちゃん、お帰りなさい」
「樹良君、お帰り」
桜子がぱあっと何の悩みもなさそうな能天気笑顔を向け、諭が胡散臭い作り笑顔を向けてきた。
諭を見ると、陽翔も男選びの趣味が悪いと感じる。
散々クソ男ばかり相手してきた樹良には、諭がどの類の男かすぐに分かってしまう。
歌陽は簡単に騙されてすぐに心を許していたが、諭は人を弄ぶ側の人間だ。
正直、桜子に近付けさせるのは危ないと感じており、家庭教師の日は早めに帰宅するようにしている。今日は椎名の事があり遅くなってしまったが、それでも夕方六時だ。
諭が桜子に何か出来る時間帯ではないだろうが、心配な事には変わりない。
部屋にこもりっぱなしの直陽や、バイトで帰りが遅い歌陽に、桜子と諭を見張るように頼むのは難しい話だ。
それなら樹良自身が早く帰ればいいだけの話である。
何故そんな相手と交際する事を、表面上ではすぐに認めたのか。それは陽翔ならクズ男相手でも問題がないからだ。
陽翔は男性経験が豊富だ。当然、諭がダメ男だと分かっていて付き合っているのは明白で、裏切ろうものならすぐに同棲している家から追い出す事だろう。
(わざわざ年末に連れ帰ってきて、僕に判断させるなんて。陽にぃもなかなか腹黒いよなぁ)
陽翔は樹良に何も言ってこなかったが、家族に諭を紹介する時、樹良にチラリと意味ありげな視線を向けてきた。
それは「こいつが信用出来る奴か見てくれ」という事だとすぐに分かったので、冬休みが終わり次第、平日の昼に陽翔に電話をした。
答えは「NG」。絶対裏切るタイプだし、そもそも直陽との関係が怪しい。証拠が揃い次第別れる事を勧めておいた。
別れるかどうかは陽翔の判断なので、付き合い続けるのであっても口出しする気はないが。
今は桜子の家庭教師をさせている事に疑問を覚える。そんな危険人物を、この櫻家の中で一番の弱者であり、守ってあげたいタイプの末妹と二人きりにするなんて。
歌陽は単純なので普通に諭を信用したのだろうと想像出来るが、陽翔の意図が理解出来ない。
陽翔なりの考えがあるようなので、わざわざ電話で聞く事はしないが。
「そう、ここはこの文章が当てはまるから」
「はい……あ、じゃあ正解ですね!」
「うん! 分かるようになってきたね」
勉強自体は真面目にやっているようだし、桜子の成績も伸びているようだ。あんなに勉強嫌いだったのに、最近は勉強が楽しいようで諭に感謝している姿を見ると、邪魔者扱いは出来ない。
樹良はお茶を三人分用意して、諭と桜子の前に置き、樹良は桜子の隣に座り、自分の分のお茶を前に置いた。
「中一の勉強懐かしいなぁ」
「樹良君も、高校の勉強教えようか?」
「僕は適度に平均以上取ってるんで大丈夫ですよ。高校の授業ついていけなくなったらお願いします」
「樹良おにーちゃんは、これ分かる?」
「うん。桜子の答えはこれとこれが正解で、こっちが間違い。答えはアだね」
「えっ、そうなの!?」
「うん。樹良君が正解。樹良君も家庭教師出来るんじゃないか?」
諭に振られて樹良は慌てて首を横に振った。こういう時、ついつい諭に気を許しそうになる。
諭は表面上はまともな人を演じているので、警戒心を忘れてしまうのだ。
諭の顔を見て思い出す。危なそうな人物であると。
「答えられるのと教えられるのは別ですよ。俺も復習がてら見学してもいいですか?
受講料要りますかね?」
「見学だけならいいよ。教えるとなると別料金になるけど」
「分かりました、見学してます」
その後はつつがなく授業は進んだ。その内に直陽が自室から降りてきて晩ご飯を作り始める。
いつもは歌陽が作っているが、いない時は直陽か樹良が交互に担当している。
「諭さん、夜ご飯食べていかれます?」
料理を終えたらしい直陽が顔を出した。作り終えてから聞いているあたり、もう既に一人分多めに作っているのだろう。
「じゃあお言葉に甘えて、ご馳走になろうかな」
「ほんと!? やったぁ。ねぇ諭さん、後でゲームしようよ~」
「いいよ。ご飯の前に勉強道具片しておいで」
「はーい!」
桜子が最大級の笑顔で喜び、ノートと教科書、問題集、筆箱を自室に片しにいった。パタパタと走り回る音が響く。
「すみません、お転婆な妹で」
「元気でいいじゃない。歌陽ちゃんは妹は天使って言ってたよ。樹良君は違うんだね」
「素直でよく笑うので皆から可愛がられてるんです。末っ子ですし。うちの兄達や姉を見てるんで、陽にぃの真似しておけば可愛がられるの分かってるんですよ。
全く、皆陽にぃの良いところしか見てないんだから」
「悪いところもあるって?」
「……それは、彼氏である諭さんの方が分かっているんじゃないですか?」
ニッコリ笑顔で返す。「どこまで陽翔を知っているか?」と、樹良は諭を試す。
正直、陽翔の短所に目を向けられない者に、陽翔を任せられるとは思っていない。
「陽翔の場合、短所も魅力的だよね」
「例えばどういうところですか?」
「いいんだよ、短所がどんなものでも。陽翔っていう存在が俺の生きる意味を作ってくれてる。
それだけでいいんだ」
本心なのか、短所が分からないからはぐらかされたのか、真意が分からない。
今までセックスをしてきたクズ男のような浅さがない。さすがは陽翔が選んだ男だ。ちょっとやそっとじゃ隙を見せてはくれない。
「答えになってませんよ」
「だって、陽翔の短所を見ても愛しい気持ちが膨らむばかりなんだ。樹良君は陽翔の弟だし、俺がどういう部分を短所だと感じるかは控えるよ。
それに、短所と感じるかはその人次第だ。
俺もよくクズ男って言われるけど、陽翔は俺のクズな部分を短所とは思っていないと思うし」
「なるほど」
「何の話~?」
戻ってきた桜子が目を輝かせて話に入ろうとしてきた。
「諭さんの惚気話だから、桜子は聞かない方がいいよ。胸焼けするから」
「ええー聞きたぁい。ねぇねぇ諭さん、陽おにーちゃんと喧嘩とかしたりする?」
「喧嘩はした事ないかも」
「陽おにーちゃん怒らないもんねぇ」
「ほら、三人ともご飯にするよ」
見かねた直陽が声をかけて、その日は四人で食卓を囲んだ。
(やっぱり直にぃの諭さんに向ける目がちょっと変な気がする)
「ただーいま」
「樹良おにーちゃん、お帰りなさい」
「樹良君、お帰り」
桜子がぱあっと何の悩みもなさそうな能天気笑顔を向け、諭が胡散臭い作り笑顔を向けてきた。
諭を見ると、陽翔も男選びの趣味が悪いと感じる。
散々クソ男ばかり相手してきた樹良には、諭がどの類の男かすぐに分かってしまう。
歌陽は簡単に騙されてすぐに心を許していたが、諭は人を弄ぶ側の人間だ。
正直、桜子に近付けさせるのは危ないと感じており、家庭教師の日は早めに帰宅するようにしている。今日は椎名の事があり遅くなってしまったが、それでも夕方六時だ。
諭が桜子に何か出来る時間帯ではないだろうが、心配な事には変わりない。
部屋にこもりっぱなしの直陽や、バイトで帰りが遅い歌陽に、桜子と諭を見張るように頼むのは難しい話だ。
それなら樹良自身が早く帰ればいいだけの話である。
何故そんな相手と交際する事を、表面上ではすぐに認めたのか。それは陽翔ならクズ男相手でも問題がないからだ。
陽翔は男性経験が豊富だ。当然、諭がダメ男だと分かっていて付き合っているのは明白で、裏切ろうものならすぐに同棲している家から追い出す事だろう。
(わざわざ年末に連れ帰ってきて、僕に判断させるなんて。陽にぃもなかなか腹黒いよなぁ)
陽翔は樹良に何も言ってこなかったが、家族に諭を紹介する時、樹良にチラリと意味ありげな視線を向けてきた。
それは「こいつが信用出来る奴か見てくれ」という事だとすぐに分かったので、冬休みが終わり次第、平日の昼に陽翔に電話をした。
答えは「NG」。絶対裏切るタイプだし、そもそも直陽との関係が怪しい。証拠が揃い次第別れる事を勧めておいた。
別れるかどうかは陽翔の判断なので、付き合い続けるのであっても口出しする気はないが。
今は桜子の家庭教師をさせている事に疑問を覚える。そんな危険人物を、この櫻家の中で一番の弱者であり、守ってあげたいタイプの末妹と二人きりにするなんて。
歌陽は単純なので普通に諭を信用したのだろうと想像出来るが、陽翔の意図が理解出来ない。
陽翔なりの考えがあるようなので、わざわざ電話で聞く事はしないが。
「そう、ここはこの文章が当てはまるから」
「はい……あ、じゃあ正解ですね!」
「うん! 分かるようになってきたね」
勉強自体は真面目にやっているようだし、桜子の成績も伸びているようだ。あんなに勉強嫌いだったのに、最近は勉強が楽しいようで諭に感謝している姿を見ると、邪魔者扱いは出来ない。
樹良はお茶を三人分用意して、諭と桜子の前に置き、樹良は桜子の隣に座り、自分の分のお茶を前に置いた。
「中一の勉強懐かしいなぁ」
「樹良君も、高校の勉強教えようか?」
「僕は適度に平均以上取ってるんで大丈夫ですよ。高校の授業ついていけなくなったらお願いします」
「樹良おにーちゃんは、これ分かる?」
「うん。桜子の答えはこれとこれが正解で、こっちが間違い。答えはアだね」
「えっ、そうなの!?」
「うん。樹良君が正解。樹良君も家庭教師出来るんじゃないか?」
諭に振られて樹良は慌てて首を横に振った。こういう時、ついつい諭に気を許しそうになる。
諭は表面上はまともな人を演じているので、警戒心を忘れてしまうのだ。
諭の顔を見て思い出す。危なそうな人物であると。
「答えられるのと教えられるのは別ですよ。俺も復習がてら見学してもいいですか?
受講料要りますかね?」
「見学だけならいいよ。教えるとなると別料金になるけど」
「分かりました、見学してます」
その後はつつがなく授業は進んだ。その内に直陽が自室から降りてきて晩ご飯を作り始める。
いつもは歌陽が作っているが、いない時は直陽か樹良が交互に担当している。
「諭さん、夜ご飯食べていかれます?」
料理を終えたらしい直陽が顔を出した。作り終えてから聞いているあたり、もう既に一人分多めに作っているのだろう。
「じゃあお言葉に甘えて、ご馳走になろうかな」
「ほんと!? やったぁ。ねぇ諭さん、後でゲームしようよ~」
「いいよ。ご飯の前に勉強道具片しておいで」
「はーい!」
桜子が最大級の笑顔で喜び、ノートと教科書、問題集、筆箱を自室に片しにいった。パタパタと走り回る音が響く。
「すみません、お転婆な妹で」
「元気でいいじゃない。歌陽ちゃんは妹は天使って言ってたよ。樹良君は違うんだね」
「素直でよく笑うので皆から可愛がられてるんです。末っ子ですし。うちの兄達や姉を見てるんで、陽にぃの真似しておけば可愛がられるの分かってるんですよ。
全く、皆陽にぃの良いところしか見てないんだから」
「悪いところもあるって?」
「……それは、彼氏である諭さんの方が分かっているんじゃないですか?」
ニッコリ笑顔で返す。「どこまで陽翔を知っているか?」と、樹良は諭を試す。
正直、陽翔の短所に目を向けられない者に、陽翔を任せられるとは思っていない。
「陽翔の場合、短所も魅力的だよね」
「例えばどういうところですか?」
「いいんだよ、短所がどんなものでも。陽翔っていう存在が俺の生きる意味を作ってくれてる。
それだけでいいんだ」
本心なのか、短所が分からないからはぐらかされたのか、真意が分からない。
今までセックスをしてきたクズ男のような浅さがない。さすがは陽翔が選んだ男だ。ちょっとやそっとじゃ隙を見せてはくれない。
「答えになってませんよ」
「だって、陽翔の短所を見ても愛しい気持ちが膨らむばかりなんだ。樹良君は陽翔の弟だし、俺がどういう部分を短所だと感じるかは控えるよ。
それに、短所と感じるかはその人次第だ。
俺もよくクズ男って言われるけど、陽翔は俺のクズな部分を短所とは思っていないと思うし」
「なるほど」
「何の話~?」
戻ってきた桜子が目を輝かせて話に入ろうとしてきた。
「諭さんの惚気話だから、桜子は聞かない方がいいよ。胸焼けするから」
「ええー聞きたぁい。ねぇねぇ諭さん、陽おにーちゃんと喧嘩とかしたりする?」
「喧嘩はした事ないかも」
「陽おにーちゃん怒らないもんねぇ」
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