櫻家の侵略者

眠りん

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二十八話 次女・桜子

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 櫻家の末妹、桜子は生まれて物心がつく頃に一つの不満を抱いた。

 幼稚園ではその事で何度もバカにされ、小学校に上がってからも、新しく友達が出来る度に驚かれたり、笑われたりする。
 両親には何度も訴えたが効果はなし。

 十歳の時、親以上に信頼している長兄、陽翔にも相談はしたのだが。

「桜子って良い名前じゃない。何が気に食わないの?」

「だって友達にバカにされるんだよ? 私、この名前嫌いっ!!」

「いい? 桜子の名前はね、僕達櫻家の大事な子供って意味なんだ。だから櫻家に生まれた事を誇りに」

「嘘だもん!! 私騙されないもん!!」

 桜子にとって一番信頼しているのは確かに陽翔ではあるが、同時に最大の敵でもある。
 陽翔は誰にでも優しくて、誰からも好かれる。だからか、陽翔の言葉は例え間違っている事でも受け入れられてしまう事がよくある。

 直陽を除いたきょうだいで話している時も、陽翔がたまに勘違いで間違った事を言ってしまう事がある。
 桜子が間違いだよと言っても、歌陽は陽翔を信じた。
 樹良がすぐに検索をして「桜子の方が合ってるっぽいよ」と言ったが、その時には陽翔と歌陽の興味は別の話題に変わっていた。
 桜子の中で言いようのない悔しさが込み上げた。

 桜子は気付いた。発言の真偽は関係ないのだ。誰の発言か、それだけで嘘でも真実となってしまうのだと。
 だから、陽翔が嘘で丸め込もうとした時、桜子は激しく主張するようになった。

「お父さんとお母さんが前に言ってたの聞こえたもん!!
 陽おにぃちゃんと、直おにぃちゃんと、歌おねぇちゃんと、樹良おにぃちゃんは、お父さんとお母さんの文字から一文字ずつ取れたけど、さすがにネタ切れだからってネタみたいな名前つけちゃったなって!!
 絶対ウケ狙いでしょ!? 人の名前で遊ばないでよっ!!」

「そうか、知ってたんだね。ごめんね」

 陽翔が桜子の頭をポンポンと撫でた。直陽と歌陽は陽翔に頭を撫でられると大人しくなってしまうのだ。それを見ている桜子は、頭を撫でられたくらいでは絆されない。
 それに加えて、毎朝両サイドでハーフアップにセットしている髪型を崩されたくない為、頭を撫でられる行為は不快でしかなかった。

(そんな事で騙されないもん)

 直陽と歌陽は、陽翔を意識しすぎている。両親も陽翔に甘えっぱなしで、陽翔の友達も陽翔と友達である事を誇らしげにしているのを見た事がある。
 それならまだ自分を持っている樹良の方が好感が持てる。

 育っていく過程で募っていった陽翔への不満だが、逆に考えて陽翔のように善人のように振舞っていれば、自分の発言も聞いてもらえるかもしれない、と思った桜子は、家の手伝いをしたり、直陽の面倒を見てみたり、学校でも年下の子の世話をしたり頑張ってみた。

 だが、それでも陽翔のようにはいかない。
 桜子にとって陽翔は、尊敬する兄であり、親代わりであり、敵であり、ライバルでもあった。


 ある時、大学から帰ってきた陽翔が少し落ち込んだ様子だった。
 異変に気付いたのは歌陽だ。

「陽にぃ、どうしたの? 何かあった? 良かったら私が悩みを聞いてあげる。解決してあげるよ?」

「ありがと、歌。優しいね。試験で七十点しか取れなくてさ、厳しい教授だから評価Cになるだろうなぁって」

「なぁんだ。それなら大丈夫だよ、評価Cは単位取れてるんだから。
 陽にぃは毎日色んな事頑張ってるでしょ、それで七十点取れたなら凄いよ。そんな厳しい評価する方がおかしいわ」

 歌陽はプンプンと怒りだした。その兄贔屓ぶりには桜子も少し引いてしまう。
 この流れなら自分の話を聞いてもらえるかもと、桜子は手を挙げた。

「ねぇ! 私もね、テストで七十点だったの。陽おにぃちゃんとお揃い!!」

「珍しく七十点取れたの! 桜子偉いじゃん! さすが私の妹ね」

 歌陽は桜子をぎゅーっと抱き締めてヨシヨシと頭を撫でた。歌陽は同じ女性というだけあって、髪型を崩さないように撫でてくれる。
 歌陽に撫でられるのは大歓迎だ。

 だが、陽翔は歌陽のように騙されてはくれない。

「それ、平均点何点だったの?」

 陽翔の言葉に桜子はギクリと身体を強ばらせた。

「は、陽おにぃちゃんは、平均点なんだった?」

「六十八点。単位取るの難しい講義で、皆苦戦したんだよ。桜子は?」

「きゅっ……九十二点……」

「じゃあ、もっと頑張らないとな」

 歌陽は桜子をぎゅーっとしたまま「桜子はこのままでも可愛いからいいの!」と言っていたが、桜子からしたらそういう訳にはいかない。

「うぅぅぅぅぅぅっ!!」

 いつしか、桜子の目的は陽翔を屈服させたいというものに変わっていた。
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