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第二章「ふたりの距離」
8.買い物デート?
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優花と付き合って迎えた初めての土曜日。
タケルは彼女に誘われた買い物に一緒に行くために駅前でひとり待っていた。
(ああ、緊張する……、女の子とふたりで買い物とか経験ないし、しかもその相手があの桐島優花だし……)
憧れと喜び、恥ずかしさと小さな見栄。
様々な感情がタケルの中に同居する。ただそれらを考えても『嬉しい』と言う気持ちの方がずっと大きい。
(休みの日の駅前ってこんなに人が出歩いているんだな……)
秋も深まり吹き抜ける風も冷たくなる中、その寒さを打ち消すほどたくさんの人が歩いている。カップルに家族連れ、中学生ぐらいの女の子だろうか友達と一緒に楽しそうに笑いながら歩いて行く。
「タケルくーん!!」
駅前でひとり立っていたタケルに可愛らしい声が掛けられた。
「優花……」
栗色の髪をなびかせ優花が笑顔で走って来る。
大きなマフラー、こげ茶のブレザーに膝上のミニスカート。靴は同じく茶色の長めのブーツ。そして安心の水色の瞳。
(めっちゃ可愛いぞ、マジか……)
総館大のミスコングランプリだから可愛くて当然。だがタケルにとっては小学校の同級生である優花のイメージも強く、今の彼女と昔の彼女が交差しやはりまだ戸惑ってしまう。
「ごめんね、電車間違えちゃったし、このブーツなんか歩き辛くって……、遅れちゃった。ごめんね!」
そう言って頬を赤らめた顔でちょっと舌を出して謝る優花を見て、タケルは内心絶叫していた。
(めっちゃ可愛い!!!! 女の子ってこんなに可愛い生き物なのかあああ!?)
こんな可愛い優花と正式に付き合いたい。もう黒目優花の攻略とか無理ゲーっぽいので、ずっとこの水色優花でいい。『まじない』さえ解けなければ……
そこまで考えたタケルがふと思う。
(そう言えばあの『恋まじない』って詳しいこと知らないんだよな……)
小学生の時にただただ言われるがままにやらされた恋まじない。詳細は分からないのだが、かと言って今更優花に尋ねるのも変に刺激を与えそうで怖い。
(やはりきちんと『黒目優花』を攻略しなきゃならんのか……)
会ってからずっと黙って考え込むタケルを見て優花が言う。
「ねえ~、タケル君。どうかしたの??」
水色の目。真っすぐ自分を見つめる澄んだ瞳。タケルが答える。
「えっ、ああ、俺、頑張るから!!」
「頑張る? 買い物ってそんなに頑張らなくてもいいんだけど……」
きょとんとした顔の優花が答える。
「あ、ああ、違う。ごめんごめん。こっちの話……」
しっかりと考えもまとまらずに口にしたことを少し反省するタケル。優花が少し小悪魔的な顔で言う。
「あー、彼女に隠し事するんだぁ!! なになに? 教えてよ!!」
優花はそう言いながらタケルの腕を掴んで左右に振る。
「いや、本当に別に、いいから……」
「だーめ! 教えないと優花、泣いちゃうよ……」
先程の小悪魔的な顔から、一瞬で泣きそうな少女の顔へと変わる優花。先天的に男を転がす才があるのだろうか、そんな彼女の前にヘタレ男のタケルではどうやっても勝てるはずはなかった。
「いや、優花とな、きちんと付き合いたいなあって思って……」
意外な言葉に少し驚く優花。しかしすぐに笑顔になり、タケルの顔に両手を添えながら言う。
「私はもうきちんと付き合っているよ。ずっと好きだったタケル君とこうしてまた会えたんだから」
綺麗な目。透き通るような水色の瞳。
「そうだな、ありがとう」
そう笑顔で言ったタケルはすぐに心の中でもうひと言つけ加える。
(俺、頑張るから!!)
優花の笑顔に、タケルも同じく笑顔で応えた。
その後、駅前にあるショッピングセンターで優花の買い物に付き合う。
服を見たり雑貨を見たり。特に買いたい物はなかったのか、優花は色々と手に取ってひとり感想を述べながらふらふらと別の店へと歩いて行く。
(なるほど。女の子の買い物って、確かにつまらんな……)
必要なものを必要な店へ買いに行く。急ぎでなければネットで安い物を探す。
ひとりの買い物が長かったタケルにとって、初めての女の子の買い物と言うのは中々理解できるものではなかった。それでも優花は笑顔で言う。
「楽しいね、買い物!」
何も買っていないし、ただ付いて歩いているだけ。それでも彼女にとっては楽しいようだ。
「うん、そうだね!」
タケルも実は楽しかった。
それは初恋だった優花とこうして一緒に歩けること。優花が楽しそうに買い物する姿を見られること。それだけで十分タケルにとっては楽しい時間であった。
昼食はショッピングセンター内にあるファミレスに入った。
偶然窓際の席が空いており、駅前広場を上から眺めながら食事ができる。黄色や赤色に色づいた木々を見下ろしながら、ふたりは真向かいに座った。
(な、なんか緊張するな……)
女の子とふたりきりで食事などほとんど経験のないタケル。それが自分の初恋で片思いだった桐島優花となれば緊張しない方がおかしい。
「私はパスタかな。タケル君はどうする?」
メニューを見ていた優花がタケルに尋ねる。
「あ、同じので……」
なんでも良かった。このまま優花を見ていたい気持ちの方が強かった。
「うーん、疲れちゃったね~」
マフラーを外して上着を脱いだ優花が笑顔で言った。
「そうだね」
「ごめんね、買い物につき合わせちゃって。つまらなかったでしょ?」
「そんなことないよ。楽しかった」
優花と一緒に居られることが楽しかった。嘘ではない。優花が水が入ったグラスを指でつつきながら尋ねる。
「でさあ~、どうして辞めちゃったの? 柔道」
それは優花がどうしても聞いておきたかったことであった。クラスの女子からも人気のあった『柔道が上手い一条君』。辞めてしまったことは少なからずショックであった。
「うーん、まあ、色々あってね」
タケルは厳しい練習や兄の怪我などについて簡単に話した。
「そうかー、まあ、小学生って遊びたい時期でもあるしね」
「まあ、そんなとこ」
「もうまったくやってないの?」
タケルが首を振って言う。
「まったくってことはないけど、たまにオヤジに言われて兄貴の練習に付き合うぐらいかな」
ちなみに兄の慎太郎は柔道強豪大学に進み、その部の主将を務めている。
「そうかそうか。そのまま復帰は?」
笑顔でそう尋ねる優花にタケルが答える。
「ないない。相当な理由がない限り、もういいよ」
タケルはもう興味のなくなった柔道を思い出し、苦笑いして答えた。
「ありがとね、楽しかった!!」
夕方、買い物を終え最寄りの駅までやって来た優花がタケルに笑顔で言った。
「ううん、俺も楽しかった」
タケルは未だに彼女の瞳が水色であることに安堵していた。
(今日はこのまま楽しく終えられるのか……)
そう思っていた矢先、優花の雰囲気が変わる。
「あれ……、一条……」
『ああ、来ちゃったか』とタケルは思った。目を黒くした優花がひとり言う。
「一条と買い物って、まるでデートじゃん……」
あえてタケルが言わなかったその言葉。黙り込むタケルに優花が言う。
「なんで一条と一日一緒に居たんだろうね。なんか覚めちゃった感じ。ま、いいや、じゃあね」
そう言って軽く手を上げて自宅へとひとり歩き出す優花。
「あ、ああ。じゃあな……」
タケルもそんな彼女の背中を見て軽く手を上げて応える。
(黒目優花は、依然このレベルか……)
余りに進展がない彼女を思いタケルがため息をつくと、歩き出していた優花が可愛らし声を上げた。
「きゃー!! 可愛いいっ!!!!!」
(へ?)
タケルが道端でひとり叫んでいる優花を見て歩き出す。
「何これ!? ちょー可愛いんだけど!!!」
タケルが近付いてみると、道の端に段ボール箱に入った一匹の子猫がいるのに気付いた。
「猫? 捨て猫か?」
段ボール箱には『心優しい方貰ってください』と書かれている。
なんて無責任だ、とタケルは思ったのだが、優花はしゃがんでその茶色の子猫を拾い上げると可愛らしい声で言った。
「ああ、寂しかったよね。寒かったよね。もう大丈夫だよ」
小さな子猫を手に取り温める優花。そして傍に立つタケルを見上げて言った。
「ねえ、何とかしてあげようよ……」
(え? 水色の目……)
黒い瞳の優花がタケルに助けを求めるような顔で見つめる。そして彼女が拾い上げた子猫は、それはそれは透き通るような美しい水色の目をしていた。
まるで優花のように。
タケルは彼女に誘われた買い物に一緒に行くために駅前でひとり待っていた。
(ああ、緊張する……、女の子とふたりで買い物とか経験ないし、しかもその相手があの桐島優花だし……)
憧れと喜び、恥ずかしさと小さな見栄。
様々な感情がタケルの中に同居する。ただそれらを考えても『嬉しい』と言う気持ちの方がずっと大きい。
(休みの日の駅前ってこんなに人が出歩いているんだな……)
秋も深まり吹き抜ける風も冷たくなる中、その寒さを打ち消すほどたくさんの人が歩いている。カップルに家族連れ、中学生ぐらいの女の子だろうか友達と一緒に楽しそうに笑いながら歩いて行く。
「タケルくーん!!」
駅前でひとり立っていたタケルに可愛らしい声が掛けられた。
「優花……」
栗色の髪をなびかせ優花が笑顔で走って来る。
大きなマフラー、こげ茶のブレザーに膝上のミニスカート。靴は同じく茶色の長めのブーツ。そして安心の水色の瞳。
(めっちゃ可愛いぞ、マジか……)
総館大のミスコングランプリだから可愛くて当然。だがタケルにとっては小学校の同級生である優花のイメージも強く、今の彼女と昔の彼女が交差しやはりまだ戸惑ってしまう。
「ごめんね、電車間違えちゃったし、このブーツなんか歩き辛くって……、遅れちゃった。ごめんね!」
そう言って頬を赤らめた顔でちょっと舌を出して謝る優花を見て、タケルは内心絶叫していた。
(めっちゃ可愛い!!!! 女の子ってこんなに可愛い生き物なのかあああ!?)
こんな可愛い優花と正式に付き合いたい。もう黒目優花の攻略とか無理ゲーっぽいので、ずっとこの水色優花でいい。『まじない』さえ解けなければ……
そこまで考えたタケルがふと思う。
(そう言えばあの『恋まじない』って詳しいこと知らないんだよな……)
小学生の時にただただ言われるがままにやらされた恋まじない。詳細は分からないのだが、かと言って今更優花に尋ねるのも変に刺激を与えそうで怖い。
(やはりきちんと『黒目優花』を攻略しなきゃならんのか……)
会ってからずっと黙って考え込むタケルを見て優花が言う。
「ねえ~、タケル君。どうかしたの??」
水色の目。真っすぐ自分を見つめる澄んだ瞳。タケルが答える。
「えっ、ああ、俺、頑張るから!!」
「頑張る? 買い物ってそんなに頑張らなくてもいいんだけど……」
きょとんとした顔の優花が答える。
「あ、ああ、違う。ごめんごめん。こっちの話……」
しっかりと考えもまとまらずに口にしたことを少し反省するタケル。優花が少し小悪魔的な顔で言う。
「あー、彼女に隠し事するんだぁ!! なになに? 教えてよ!!」
優花はそう言いながらタケルの腕を掴んで左右に振る。
「いや、本当に別に、いいから……」
「だーめ! 教えないと優花、泣いちゃうよ……」
先程の小悪魔的な顔から、一瞬で泣きそうな少女の顔へと変わる優花。先天的に男を転がす才があるのだろうか、そんな彼女の前にヘタレ男のタケルではどうやっても勝てるはずはなかった。
「いや、優花とな、きちんと付き合いたいなあって思って……」
意外な言葉に少し驚く優花。しかしすぐに笑顔になり、タケルの顔に両手を添えながら言う。
「私はもうきちんと付き合っているよ。ずっと好きだったタケル君とこうしてまた会えたんだから」
綺麗な目。透き通るような水色の瞳。
「そうだな、ありがとう」
そう笑顔で言ったタケルはすぐに心の中でもうひと言つけ加える。
(俺、頑張るから!!)
優花の笑顔に、タケルも同じく笑顔で応えた。
その後、駅前にあるショッピングセンターで優花の買い物に付き合う。
服を見たり雑貨を見たり。特に買いたい物はなかったのか、優花は色々と手に取ってひとり感想を述べながらふらふらと別の店へと歩いて行く。
(なるほど。女の子の買い物って、確かにつまらんな……)
必要なものを必要な店へ買いに行く。急ぎでなければネットで安い物を探す。
ひとりの買い物が長かったタケルにとって、初めての女の子の買い物と言うのは中々理解できるものではなかった。それでも優花は笑顔で言う。
「楽しいね、買い物!」
何も買っていないし、ただ付いて歩いているだけ。それでも彼女にとっては楽しいようだ。
「うん、そうだね!」
タケルも実は楽しかった。
それは初恋だった優花とこうして一緒に歩けること。優花が楽しそうに買い物する姿を見られること。それだけで十分タケルにとっては楽しい時間であった。
昼食はショッピングセンター内にあるファミレスに入った。
偶然窓際の席が空いており、駅前広場を上から眺めながら食事ができる。黄色や赤色に色づいた木々を見下ろしながら、ふたりは真向かいに座った。
(な、なんか緊張するな……)
女の子とふたりきりで食事などほとんど経験のないタケル。それが自分の初恋で片思いだった桐島優花となれば緊張しない方がおかしい。
「私はパスタかな。タケル君はどうする?」
メニューを見ていた優花がタケルに尋ねる。
「あ、同じので……」
なんでも良かった。このまま優花を見ていたい気持ちの方が強かった。
「うーん、疲れちゃったね~」
マフラーを外して上着を脱いだ優花が笑顔で言った。
「そうだね」
「ごめんね、買い物につき合わせちゃって。つまらなかったでしょ?」
「そんなことないよ。楽しかった」
優花と一緒に居られることが楽しかった。嘘ではない。優花が水が入ったグラスを指でつつきながら尋ねる。
「でさあ~、どうして辞めちゃったの? 柔道」
それは優花がどうしても聞いておきたかったことであった。クラスの女子からも人気のあった『柔道が上手い一条君』。辞めてしまったことは少なからずショックであった。
「うーん、まあ、色々あってね」
タケルは厳しい練習や兄の怪我などについて簡単に話した。
「そうかー、まあ、小学生って遊びたい時期でもあるしね」
「まあ、そんなとこ」
「もうまったくやってないの?」
タケルが首を振って言う。
「まったくってことはないけど、たまにオヤジに言われて兄貴の練習に付き合うぐらいかな」
ちなみに兄の慎太郎は柔道強豪大学に進み、その部の主将を務めている。
「そうかそうか。そのまま復帰は?」
笑顔でそう尋ねる優花にタケルが答える。
「ないない。相当な理由がない限り、もういいよ」
タケルはもう興味のなくなった柔道を思い出し、苦笑いして答えた。
「ありがとね、楽しかった!!」
夕方、買い物を終え最寄りの駅までやって来た優花がタケルに笑顔で言った。
「ううん、俺も楽しかった」
タケルは未だに彼女の瞳が水色であることに安堵していた。
(今日はこのまま楽しく終えられるのか……)
そう思っていた矢先、優花の雰囲気が変わる。
「あれ……、一条……」
『ああ、来ちゃったか』とタケルは思った。目を黒くした優花がひとり言う。
「一条と買い物って、まるでデートじゃん……」
あえてタケルが言わなかったその言葉。黙り込むタケルに優花が言う。
「なんで一条と一日一緒に居たんだろうね。なんか覚めちゃった感じ。ま、いいや、じゃあね」
そう言って軽く手を上げて自宅へとひとり歩き出す優花。
「あ、ああ。じゃあな……」
タケルもそんな彼女の背中を見て軽く手を上げて応える。
(黒目優花は、依然このレベルか……)
余りに進展がない彼女を思いタケルがため息をつくと、歩き出していた優花が可愛らし声を上げた。
「きゃー!! 可愛いいっ!!!!!」
(へ?)
タケルが道端でひとり叫んでいる優花を見て歩き出す。
「何これ!? ちょー可愛いんだけど!!!」
タケルが近付いてみると、道の端に段ボール箱に入った一匹の子猫がいるのに気付いた。
「猫? 捨て猫か?」
段ボール箱には『心優しい方貰ってください』と書かれている。
なんて無責任だ、とタケルは思ったのだが、優花はしゃがんでその茶色の子猫を拾い上げると可愛らしい声で言った。
「ああ、寂しかったよね。寒かったよね。もう大丈夫だよ」
小さな子猫を手に取り温める優花。そして傍に立つタケルを見上げて言った。
「ねえ、何とかしてあげようよ……」
(え? 水色の目……)
黒い瞳の優花がタケルに助けを求めるような顔で見つめる。そして彼女が拾い上げた子猫は、それはそれは透き通るような美しい水色の目をしていた。
まるで優花のように。
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