小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
22 / 58
第三章「ライバルたちの群雄割拠」

22.このみの想い人

しおりを挟む
 聡明館そうめいかん大学と開盛かいせい大学柔道部の練習試合。
 青く澄んだ秋空の中、開盛大学柔道館にて年に二度の交流試合が開催された。


「よお、五里」

「元気そうだな、剛力」

 地元では柔道の強豪として知られる開盛大学。無名の総館大がこのような試合ができるのも、お互いの主将である五里と剛力が小学校時代の同級生だからである。大勢の柔道部員をまとめる主将の剛力。全国大会の決勝リーグに出たほどの実力の持ち主である。


「お手柔らかに頼むぞ」

「ああ、だが手加減はしない」

 仲が良かったふたりであるが、こと柔道に関しては剛力に一日の長があった。挨拶をかわしふたりはそれぞれの部員のところへ戻る。休日だが開盛大学にはOBを含め多くの見学者が来ている。
 剛力はその中のひとり、赤みがかったツインテールの髪の佐倉このみを見つけるとすぐに近づいて言った。


「佐倉、やっぱり来たんだな。俺の活躍楽しみにしておれよ」

「え、あ、はい……」

 まったく興味のない目の前の五分刈りの巨漢。このみには別の目的があった。


(いるかな? いたらいいなあ。私の憧れの人……)

 このみは対戦相手である総館大の柔道部員たちをじっと見つめた。




 一方、その総館大柔道部では真剣な話し合いがされていた。

「どうする? このままでは青葉が出場することになってしまうぞ……」

 柔道部員の怪我。たった五名しかいない男子部員だから団体戦ではひとりでも欠けてしまうと試合にならない。部員でもありマネージャーでもある青葉の名前をとりあえず入れてはいるが、まさか柔道強豪相手に経験のない女を出させる訳にはいかない。五里が言う。


「青葉、一条はどうしたんだ?」

 入部届だけ提出して全く来ないタケル。五里がイラついた顔で雫に尋ねる。


「し、しっかり誘ったんですけど……、すみません……」

 念の為に持って来た青い柔道着に着替えた雫がシュンとして答える。


「五里さん、やっぱり俺が!!」

 松葉杖をついた怪我の柔道部員が五里に言う。五里が首を振って答える。


「いや、恥を忍んで四戦で終了して貰おう。やはり青葉にやらせる訳にはいかん」

「は、はい……」

 雫は柔道館の出入り口を見つめながらまだ現れないその人を待ち続けた。



「では対戦表の交換を!」

 審判を務める学生の声を聞いてお互いに対戦メンバーが書かれた紙を交換する。対戦表を手にした剛力が『青葉』と言う見慣れない名前に首を傾げた。
 勝負は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の総当たり戦で行われ、勝敗がつこうがすべて対戦が行われるのがこの試合のルール。副将に五里、そして最後まで戦わないよう大将には青葉の名前が入れてある。


「先鋒、前へ!!」

 審判の声に答えるようにそれぞれの大学から選手が歩き出してくる。それを見ながら雫が心の中で懇願する。


(一条先輩、早く、早く来て下さいよ!!!!)

 女の子である雫は周りから突き刺さる好奇の視線に耐えながらひたすらその男の登場を待った。





 試合が始まるその前、自宅の部屋でゴロゴロしていたタケルのスマホに中島からメッセージが入った。

『まさかまだ家にいるの?』

 タケルが面倒臭そうに返事を返す。

『そうだよ』

『今日柔道の試合でしょ? 何で行かないの?』

『行きたくない』


『雫ちゃんが代わりに試合するんだぞ。男なら行け』

 中島の言葉も最もである。足の怪我もあるが、それよりもタケルの中で何か踏ん切りがつかない。そんなタケルの背中を中島が押した。


『とにかく行け。じゃないと友達辞めるぞ』


(中島……)

 タケルは起き上がると顔をバンバンと叩き荷物をまとめ始めた。





「一本っ!!!」

「おおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 開盛大学の選手が華麗な一本を決める度に会場から大きな歓声が上がる。柔道強豪大学と、無名で人数さえ揃わない弱小大学。勝敗はやる前から分かっていたが、ここ最近は練習にもならないほど実力差がついていた。
 開始十分ほどで既に三敗。始まりと終わりの礼など試合時間以外の方が長くなっている。無表情で試合を眺める五里と剛力。副将である五里が呼ばれた。


「副将、前へ!!」


「うすっ!!!!」

 気合と共に畳へ上がる五里。大将である剛力はその様子を腕を組んで見つめる。


(主将である五里より強い奴がいるのか? だが残りは怪我した奴と、女だけ。まさかあの女が俺の相手をするのか……?)

 一体どんな作戦なのかと混乱する剛力。

(いや、何も迷うことはない。誰が来ようと俺は佐倉の前で豪快な柔道を見せる。強い男を見せつける。それだけだ)

 『神聖な柔道に敬意を払え』と常々口にしてきた剛力。その自分が女を口説くために柔道を見せつけるという矛盾を犯しているのには気付かない。それほど彼の集中力は高まっていた。会場で見つめる佐倉このみの為、全力を出し切ることにただただ集中していた。



「一本っ、それまで!!」

 試合開始早々、主将である五里もあっと言う間に投げ飛ばされて終わった。
 強面こわもてと老け顔の柔道部員たち。まさに見掛け倒しとはこのことである。



「はあ、はあ、はあ……」

 ほとんど何もしていないのに体中から汗を垂れ流し、肩で息をする五里。部員たちの『お疲れ様です』との声も彼には届かず、戻って来てそのまま床に仰向けに寝転んだ。雫が不安そうな顔で五里に言う。


「ゴ、ゴリ先輩!! 私はどうしたらいいんでしょうか……」

「はあ、はあ、はあ……」

 そんな声もなぜか聞こえないような顔をして五里が目を閉じ息をする。


(どうしよう、どうしよう!!)

 不安になる雫。
 その耳に容赦なく審判の声が響く。


「最後。大将、前へ!!」


「はあっ!!!」

 それに合わせて五分刈りの巨漢、主将の剛力が気合を入れて現れる。雫が青い顔で思う。


(いや、無理無理。あんなの無理だって~)

 その顔はもう泣きそうである。



「聡明館大、大将、早く!!」

 審判が催促するようにこちらを向いて言う。雫が混乱する頭で考える。


(辞退しよう。辞退しよう。それしかないでしょ……)

 五里を始め、部員たちも誰も雫を助けようとしない。


「聡明館大、早く!!!」

 再三の審判の要請に、会場もガヤガヤと騒ぎ始める。中には聡明館大に対して『ビビったか!!』『腑抜け!!!』と言った罵声も飛び始める。



「私、私……」

 辞退しようと雫が立ち上がったその時、彼女の耳に待ち望んだその声が響いた。


「雫ちゃん、お待たせ!」


 雫がその声の方を振り返る。そして震えた声で言う。

「一条、せんぱい……」

 もう涙声である。目も真っ赤にタケルに抱き着いて言う。


「遅いです、遅いです。遅いですよ、先輩。うえ~ん!!」

 突然抱き着いて泣き始める雫に会場が注目する。大将として畳の上で待っていた剛力は、下らない茶番劇にイライラを募らせる。
 そしてその開盛大学の応援席でその様子を見ていた佐倉このみは、その突然現れた男子学生を見て固まっていた。


(あれって、あれって、まさか……、一条君……!?)

 タケルと優花とこのみ。
 長い年月を経て、再び『恋まじない』の三人がここに出揃った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...