小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

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第五章「告白と告白と、告白」

40.剛力の決意

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 開盛かいせい大学キャンパス。
 季節は間もなくクリスマスを迎え、吹き付ける風は痛いほどに冷たい。キャンパスを歩く学生たちも、冷たい風に身を縮めながら歩いている。
 そんな寒いキャンパス。コートやマフラーなど冬の装いの彼らの中で、その男だけは薄い長そでのシャツ一枚で平然な顔で歩いていた。


(あっ)

 その男、柔道部主将の剛力ごうりきはそのキャンパスでツインテールの女の子を見てどきっとした。


(佐倉……)

 それはタケルや優花の小学校の同級生である佐倉このみ。
 赤みがかったツインテールが特徴だが、透き通るような白い肌、そしてその容姿に似合わない大きな胸も彼女の大きな魅力。剛力は無意識のうちに彼女に近付き声をかけた。


「佐倉……」

 一瞬止まるそぶりを見せるこのみ。
 しかしすぐにそれがタケルではないと分かり、すぐに立ち去ろうとする。


「佐倉、待ってくれ! 今月、うちであのとの公開練習があるんだ。是非見に来てくれ!! 強い俺を、見に来てくれ!!」

 寒さの為か、それとも緊張の為か、剛力には珍しく手が震えそして冷たくなっていた。


(佐倉……?)

 このみはその『一条家』と言う言葉に反応し、横を向いたまま少し微笑むとそのまま無言で立ち去って行った。残された剛力が両拳をぐっと握りしめて心の中で叫ぶ。


(うおおおおおおおおお!!! 佐倉が、佐倉がに微笑んでくれた!!!!)

 剛力が両手を上げ叫ぶ。

「決めたぞ。決めた決めた!! よし!!!」

 そう言うと校舎の中へ走り去って行った。



(そうか、公開練習なんてあるんだ。来るのかな、一条君……)

 このみは今月行われる一条家の公開練習を是非見に行こうと心に刻んだ。




「うすっ!」
「うすっ」
「うすっ!!」

 その日の夕方、柔道の練習に現れた剛力に部員たちが挨拶する。

「静かに」

 柔道強豪校である開盛大学。その頂点に立つのが主将の剛力であり、大人数の部員たちをまとめている。剛力は皆の前にやって来て話しを始めた。


「ひとつ報告がある」

 いつもと違った雰囲気の剛力に部員たちがやや緊張した面持ちで見つめる。


「俺は明日から今月の公開練習まで山籠もりをする事にした」


「おお……」

 部員の間から驚きの声が上がる。剛力が言う。


「己を見つめ直すためにひとり山に籠る。そこで自分と戦い、柔道を見つめ直し、ただひたすら強くなる為だけに時間を使う」

 騒めく部員たち。彼らからは感嘆の声が上がる。


「俺が留守の間は副主将にすべて一任する」

「うすっ!!」

 指名された副主将が気合の入った返事をする。剛力が言う。


「柔の道、それは厳しく険しいもの。己と向き合い、煩悩を捨て、ただただ強くなることだけに集中しろ! 柔道のことだけを考え、柔道だけに集中するんだ、いいな!!!」


「うーーーーすっ!!!」

 部員たちは気合の入った返事を剛力に返す。
 剛力はそれを見て頷きながら思う。


(強者が全てを奪う。敗者には何も残らない。だから俺は勝つ!! いつかお前を倒し、佐倉を奪い返す。だから待っていろ、っ!!!)

 剛力は脳裏に浮かべたタケルの顔を思い浮かべながらリベンジを心に誓った。





「タケル、ちょっと来い」

 自宅の柔道場で稽古をしていたタケルを、父親である重蔵が呼び止めた。

「な、なんだよ。はあ、はあ……」

 稽古をしていたタケルが手を止め父親の元へと向かう。


「うむ。最近は真面目に稽古をしているようだな」

「当たり前だろ。約束だから」

 柔道を再開する。それがミャオを預かる条件である。重蔵が言う。


「実はな、今月に行われる公開練習なんだが」

 公開練習。柔道名門家である一条家は、柔道の発展と未来の担い手育成のために年に数度大学や高校などに出向いて公開練習を行っている。タケルもそのようなことがあることはもちろん知っている。


「慎太郎の怪我が治らないため、お前が代わりに同行する事になった」

「は?」

 タケルは腕に包帯を巻いたまま近隣の小学生に柔道指導をする兄を見つめる。重蔵が言う。


「なに、別に難しく考えることはない。開盛大学ってところへ行っていつも通りに柔道をするだけだ」

 面倒臭せえと思いつつも、どこかで聞いたことのある大学名だなとタケルが思う。重蔵が言う。


「聞いているのか、タケル!! 返事は!!」

「あ、ああ。分かったよ」

 それでも色々と頭の上がらない親父。タケルも渋々その指示に従う。

「分かったならいい。じゃあ、稽古に戻れ」

「あいよ」

 タケルはそう言うと再び稽古へ戻る。そんなタケルを見ながら重蔵が思う。


(ただの練習ではないぞ、タケルよ。これがお前ののデビューとなるぞ!!)

 重蔵は稽古に汗を流す息子を目を細めて見つめた。





「タケルくーん、お待たせっ!!」

 週末の土曜日。
 ツリーの装飾や飾りつけなど、すっかりクリスマスのムード漂う街で待ち合わせたタケルと優花。
 タケルは優花の真っ赤なミニスカート、そしてそこから伸びる白い足に目が釘付けとなる。優花がタケルの視線を感じながら言う。


「ちょっと派手だったかな?」

 恥ずかしそうに赤いミニスカートを手で触る。

「いや、全然。すっごく可愛いよ!!」

 本心。心から優花を可愛いと思う。


「ありがと。嬉しいよ!!」

 優花もそれに笑顔で答える。

「なんかサンタみたいだね」


 それを聞いた優花が少し笑って言う。

「サンタ? へえ~、タケル君はそっちのコスにも興味あるんだ」

「え、い、いやそれは……」

 優花なら何でもいい、そう思ったがさすがにそれは恥ずかしくて口にできない。優花が少し顔を赤くするタケルの腕に手を回し言う。


「さ、行こっか」

「うん」

 ふたりは新しいコスプレの衣装を買いに街へ来ていた。すっかりコスにはまった優花とタケル。時間を見つけてはふたりで新しい衣装を探したりしている。



「優花」

 そんなふたりの前にひとりの女性が現れた。
 ショートカットの似合う大人の雰囲気漂う女性。ふたりの前に立ち腕組みをして立つ。タケルが言う。


「ん、誰? 知り合い?」

 隣で腕を組んでいた優花に小さな声で尋ねる。優花が青い顔をして言った。


「姉さん……」

 優花の姉、桐島茜。
 じっとふたりを見つめたまま微動だにせずそこに立っていた。
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