小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
42 / 58
第五章「告白と告白と、告白」

42.このみの攻勢

しおりを挟む
 12月下旬に差し掛かった寒い日。
 翌日に開盛大学での公開練習を控えたその日、タケルはなぜか朝から胸騒ぎというか、嫌な予感がしてならなかった。とりあえずいつも通りに大学が終わり、水色優花と一緒に帰宅する。


「でね、でね……」

『まじない状態』の優花は相変わらずタケルに優しい。いや優しいと言うか恥ずかしがることなく『好き』と言う感情を全面に出してくる。
 日も短くなり、夕方だけど薄暗くなった駅前から同じ方角へ並んで歩くふたり。饒舌に話す優花を横に感じながらタケルが思う。


(最近、黒目の優花の露出が減って来ている気がするな……)

 それはつまりずっとタケルに好意を持ってくれている優花が出ているということ。しかし彼女は『まじない状態』。そんな不安定な状態がずっと続くはずもない。


「タケル君、聞いてる?」

「え?」

 タケルは優花の声でふと我に返った。優花が言う。


「あー、もしかして聞いていなかったとか?」

「え、聞いてたよ……」

 聞いていたはず。タケルは自分にそう言い聞かせた。優花が言う。


「ま、いいや。じゃあ、また明日!!」

 優花はそう言って手を振り、自分の家の方へと歩いて行く。

「ああ、また、明日……」

 タケルも小さく手を上げ優花と別れた。


(寒い……)

 暗い路地、吹きつける北風。タケルは急いで自宅へと向かった。




(あれ?)

 自宅がすぐ近くに迫った時、彼の目にひとりの女性の姿が映った。


(誰? ……このみ?)

 薄暗くても分かる特徴的な赤みがかったツインテール。少し離れた場所からでもそれが小学校の同級生である佐倉このみであることはすぐに分かった。


「一条君……」

 このみはタケルに気付くと先に声をかけて出て来た。
 赤をベースとしたロリータドレスに同系色のケープコート。赤い彼女のツインテールがそれによく似合う。タケルが驚いて言う。


「このみ? どうしたの?」

 このみは恥ずかしそうな顔をしてタケルに言う。

「うん、一条君に会いたくなって……」

「あ、ああ、そうか……」

 なぜか一瞬タケルの心が身構えた。このみが言う。


「今日優花ちゃんと一緒じゃないんだね」

「え、ああ、今日は来ない……」


(今日『は』? え、それって……)

「いつも優花ちゃんが一緒にいて、一条君の家に入って……、私、すごく悔しかったんだよ……」

 その言葉を聞いた瞬間、タケルの頭の疑念は確信に変わった。


 ――このみはずっと俺を見ている

 ミャオの世話やコスプレで、ほとんど一緒に帰宅してタケルの家に通っていた優花。特に最近は水色優花ばかりだったので一緒にいることが多かった。タケルがこのみに言う。


「それで何か用だったのか?」

「うん……、一条君は私の彼氏、だよね」

 少し驚いた顔をしてタケルが言う。


「いや、だから俺は優花と付き合っていて、それはお前らが勝手に……」


「私はずっと好きだったんだよ」


 このみはそう言って一歩、タケルに近付く。

「このみ……?」

 タケルはいつもと様子が違うこのみに戸惑う。このみが更にタケルに近付き言う。


「一条君も、私のこと、好きでしょ?」

「お、おい……」

 既にタケルの目の前までやって来たこのみ。近くに来て初めて分かる彼女の赤い顔。服や髪の色と同じく頬が真っ赤に染まっている。このみがタケルを見上げるようにして言う。


「ずっと好きで、優花ちゃんに負けたくなくて、でも会えなくて……、だけどね、今は違うの……」

「こ、このみ……?」

 動くたびに香水だろうか、甘い香りがタケルの鼻腔をくすぐる。


「え?」

 このみがつま先立ちになり、両手をタケルの首へ回して甘い声で言った。


「私だけを見て……」


「んんっ!?」

 このみは目を閉じそのままタケルの唇へ自分のそれを重ねた。


(ちょ、ちょ、ちょっと、このみ!? なに、ええっ!? 何が一体!?)

 あまりに予想だにしなかった展開にタケルの体は震え、そして手足が冷たくなる。


「んん……」

 その一方で顔だけは興奮のせいか火照り、体からは冬なのに汗が滲み出る。
 柔らかい唇。甘い香り。一瞬我を忘れそうになったタケルだが、すぐにこのみを離して言う。


「な、何やってるんだよ!」

 タケルに両腕を掴まれた形になったこのみが真っ赤な顔をして答える。


「一条君とのキス……、私、彼女でしょ? ならそんなのは当然……」

 催眠にでもかかっているかのようなこのみ。話していても正直まともな会話が成り立たない感覚に陥る。


「このみ、お前、落ち着いて……」

 混乱し掛かったのはタケルも同様。そしてその混乱にさらに拍車をかける声が掛った。


「タケル……君……」


(えっ!?)

 タケルは自分の背後から聞こえたその愛くるしい声を耳にして思わず体が固まる。このみが少し体を傾けて、その人物を見て微笑む。タケルが恐る恐る振り返ってその人物を見て言った。


「優花……」


 それはさっきまで一緒にいた桐島優花。
 買い物を終え別れたはずの彼女がそこに青い顔をして立っていた。タケルが震えた声で言う。


「優花、なんで……、ここに……?」

 体の力が抜けたのだろうか、優花はひと呼吸おいてから小さな声で答える。


「ミャオちゃんに会いたくなって、戻って来て……、私、いけなかったの……?」

 暗くて顔ははっきりと見えないがその声は涙声。一歩、二歩と優花の方に歩きながらタケルが言う。


「違うんだ、これは違うんだ、優花……」

 タケルの頭は既に混乱を極めており、もはや感情のみが彼を動かしていた。


「やだ、やだ……」

 優花がゆっくりと後ずさりし始める。そして彼女の目にはにっこり微笑むこのみの顔が映る。


「優花……」

 なおも歩みを進めるタケル。優花が言う。


「やだ、来ないでっ!!」

 それと同時に背を向けて走り出す優花。


「優花、待てっ……、!?」

 それを追い掛けようとしたタケル。しかしすぐに自分の腕に強い力がかかるのを感じる。


「このみ!? は、放せよっ!!」

 このみがすぐ後ろに来てタケルの腕をしっかりと掴んでいる。


「放さない」

「放せって、あれじゃあ……」

 タケルの目に走り去る優花の姿が映る。このみが言う。


「優花ちゃんはね、優花ちゃんは……」

 腕をつかむこのみの手に更に力が入る。


「あなたのことは愛せないの」

(え?)

 タケルの体から力が抜け、振り返ってこのみを見つめる。


「愛せないって、どう言う意味だよ……?」

 このみが自嘲にも似た笑みを浮かべてタケルに言う。


「掛けたの、おまじないを……」

「おまじない?」

 このみが笑って言う。


「そう、掛けたの。優花ちゃんにね、一条君をになるおまじないを」

 タケルはこのみが話す言葉の意味がしばらくできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...