覆面バーの飲み比べで負かした美女は隣国の姫様でした。策略に嵌められて虐げられていたので敵だけど助けます。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
50 / 89
第四章「姫様の盾になる男」

50.キャロルとふたりで汗をかく。

しおりを挟む
「ねえ」

「……」

「ねえってばぁ」


「俺に言ってるのか?」


(はあ……)

 アンナの公務室。ロレンツとふたりしかいないのに、なぜ自分が呼ばれているのか分からないその銀髪の男にアンナがため息をつく。アンナが言う。


「そうよ、あなたに言っているの」

「どうした?」

 いつも通りテーブルに座りコーヒーを飲んでいるロレンツが、机で仕事をしているアンナの方に視線をやる。アンナが尋ねる。


「私って姫とかそう言った地位につく器じゃないのかなって……」

「何かあったのか?」

 ロレンツがコーヒーカップをテーブルに置いて尋ねる。


「うん。この間エルグを襲ったのがミスガリアの軍人だってのは覚えているよね。その報復でうちが攻め込むことになったの」

「戦争か?」

 アンナが暗い顔をして答える。


「ええ。私はそんなの嫌でやりたくなかったんだけど、ジャスター卿に無理やり……」

 アンナが机に視線を落として悲しそうに言う。

「ジャスター卿は『簡単な戦争』だって言ってたけど、人が殺し合う戦争に簡単なものなんてないよね。誰かが傷つき死ぬ。安寧を導く『聖女』にはやっぱりなれないよね……」

「ネガーベルの聖騎士団長が大怪我負わされたんだ。黙っちゃいねえだろう」

 アンナが意外そうな顔で言う。


「あなたは戦争に賛成なの?」

「俺は元軍人。上がやれって言えばやる。それだけだ」

 ロレンツは再びコーヒーカップを手にして口に含む。


「あなたはさあ、居なくならないでね……」


「ん?」

 思わず出てしまったその言葉にアンナは急に恥ずかしくなる。


「い、いや、そう言う意味じゃなくて!! その、そうそう、あなたは私の『護衛職』なんだから、急にいなくなったら困るでしょ!!」

「ああ……」


(むかっ!!)

 雑誌を見ながら適当に返事をするロレンツにアンナが苛立つ。


(私のこと『綺麗だ』とか『愛してる』とか、『一生傍にいる』とか言っておきながら、どうしてこうそっけない態度しかできないわけ!?)

「ちょっとあなたねえ、そもそも……」


「大丈夫だ。お前は俺が守る」


(え!?)

 アンナはそのひと言で黙り込んでしまった。
 普段武骨な男が時々放つ優しい言葉。これまで決してブレることなくアンナを救って来たロレンツだからこそ、その言葉は何の装飾もされずにそのまま彼女の心へ届く。アンナが言う。


「あのさあ……」

「ん?」

 ロレンツが再び顔を上げてアンナを見つめる。


「その黒い剣、もう使わないでね」

 ロレンツは右手甲に浮かんだ崩れた黒のハートの模様を見つめる。もう半分近く欠け、形が崩れている。


「俺は一度死んだ人間。必要だったら躊躇わずに使……」


「あなたが居なくなったら、誰が私を守るの?」


 黙り込むロレンツ。アンナが続ける。

「死んだ人間なんて言わないで。あなたは生きているの。生きて私やイコちゃんを守るの。そうでしょ?」


「そうだな……」

 ロレンツはアンナのその真っすぐな心がまぶしかった。そして嬉しかった。


「私、頑張って聖女になるわ。いっぱい修行して聖女になる。そしてあなたのその手の模様、多分それって呪いだと思うんだけど、私が聖女になって治してあげる。ね? いいでしょ?」

 ロレンツは頷きながら答える。

「ああ、そりゃいい。是非頼む」

「よし。じゃあ、修行ね!! さ、行きましょ!!」

 アンナはそう言って本日予定に入っていた聖女への修行へと出掛ける。ロレンツはそんな彼女の後につきながら心の中で感謝を述べた。





「あ、ロレロレ~!!」

『女神の部屋』で聖女の祈りを始めたアンナ。
 外で待機して暇を持て余していたロレンツにそのピンクの髪の女が声を掛ける。

「お、ピンクの嬢ちゃん」

 聖騎士団副団長キャロル。
 その明るい性格からは想像もできない剣の使い手であり、ミセルの『護衛職』。キャロルは短い衣服からはみ出そうな大きな胸を揺らしながらロレンツの方へと歩み寄って来た。


「ロレロレは~、何してるのかな~??」

 キャロルは腕を後ろに組んで前屈みになって尋ねる。

「嬢ちゃんが聖女の訓練をしててな。ここで待ちだ」

「ふ~ん」

 キャロルがしっかりと閉じられた『女神の部屋』のドアを見てから言う。


「じゃあさあ~、ロレロレ暇なんでしょ??」

「いや、暇って訳じゃあ……」

 キャロルはロレンツの太い腕を指でつつきながら言う。


「そっちの誰も居ない部屋でさあ~、キャロルと一緒に、かかない~??」

 キャロルが上目遣いで恥ずかしそうにロレンツに言う。ロレンツが答える。


「ふたりっきりでか?」

「……うん」

 ロレンツが頷いて言う。

「分かった。付き合ってやるよ」

「やったー、キャロル嬉しいー!!」

 そう言うと彼女はロレンツの手を取り、その誰も居ない部屋へと連れて行く。



「はっ、はっ!!!」

 カンカンカン!!!!

 その隣の部屋、誰も居ないの訓練場にロレンツとキャロルが木製の剣を持って汗を流している。キャロルは得意の突きを、ロレンツはそれを避けながらカウンターを繰り出す。


「きゃあ!!」

 ロレンツの剣が突きを行ったキャロルの剣を弾き飛ばす。そのまま後ろに尻餅をつくキャロル。ロレンツは剣を収めて座り込んでしまった彼女に手を差し出す。


「大したもんだ、嬢ちゃん。こんなに細いのに力強く、速い」

 キャロルはロレンツの手を取り立ち上がりながら答える。


「えー、でも、ところはちゃんと出てるんだよ~」

 そう言って笑顔で話すキャロルの薄手の服は汗でしっとり濡れ、体にぴったりとくっついてその起伏がはっきりと分かる。下着もくっきりと透けてしまっているキャロルから目を逸らしたロレンツが小さく答える。


「いやぁ、俺はそう言うのはちょっと良く分からねえんで……」

 ロレンツが目を逸らした方向にキャロルが移動して言う。


「え~、なんで分からないのかな?? ほら、キャロルだよ~!!」

 キャロルはロレンツに触れるぐらいまで接近し話し掛ける。汗と女の甘い匂いが混ざった甘酸っぱい香り。武骨なロレンツでもさすがに意識をしてしまう。キャロルが言う。


「ねえ、ロレロレはさあ~、どうしてこんなに強いの??」

 少しだけ真剣な顔になったキャロル。ロレンツが答える。


「嬢ちゃんだって十分強いじゃねえか」

「もっと強くなりたいの~」

 ロレンツはこれまで行ってきた戦闘、命を削り、いくつもの死線を越えてきた過去を思い出す。そして呪剣。どれもが自分の強さを作り上げてきたものではあるが、何ひとつとしてお勧めできるものはない。


「剣を振れ。振った数だけ強くなる」

 我ながらつまらぬ答えだとロレンツは思った。


「そうだね~、ベッドの上でもロレロレの剣を振って欲しいな~」

「夜は休んだ方がいい。休養も大切だ」

 キャロルはロレンツの胸を軽く叩きながら笑って言う。


「ロレロレ、面白~い!!!」

(??)

 何が面白のかさっぱり分からないロレンツ。キャロルは剣を片付けるとロレンツに言った。


「そろそろぉ~ミセル様がお戻りなのでキャロルは行くね~」

「ああ、また手合わせ願おう」

 キャロルが笑って言う。


かな~?? きゃははっ!!」

 キャロルはロレンツにウインクしながら立ち去って行った。



「どうもあの嬢ちゃんには調子を狂わされる……」

 ロレンツも剣を片付け額に出た汗を拭いながら部屋の外で出る。『女神の部屋』で祈りをしているアンナはまだ出て来ていないようだ。
 ロレンツが近くの椅子に腰を下ろした時、その女性が声を掛けた。


「ロレロレ様……」

 それは美しい銀色の長髪の女性、首に真珠のような美しい玉を輝かせたミンファ・リービスであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。 「あれ?なんか身体が軽いな」 その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。 これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...