15 / 76
第二章「空腹のガイル」
15.ガイルとミタリア
しおりを挟む
「おい、見ろよ。フォーレさんとレンレンさんがあの男と戦うらしいぜ」
「誰なの? あの男」
「ガイル様が頭領の座を譲ったって聞いたけど、幹部ふたりを倒さなきゃならないって話だぜ」
表に出たフォーレとレンレン、その後にレフォードも続く。新人歓迎会を終えてテーブルなどが片付けられた広場。今そこは新たな戦いの場と変貌する。フォーレが言う。
「俺達が勝てばお前はここを出て行け。いいな」
レフォードが頷いて答える。
「分かった。俺が勝てばお前らは全てを受け入れるってことでいいか?」
「だるいけど、いいわ」
フォーレの隣に立つレンレンが答える。フォーレが言う。
「剣を抜け。真剣勝負だ。手加減など不要」
フォーレはレフォードの腰についたままの剣を見て言う。レフォードが困った顔をして答える。
「いや、これは、その、なんだ……、簡単に使う訳にはいかなくて……」
一向に抜刀しようとしないレフォードにフォーレが苛立って言う。
「くそっ、舐められたものよ。『鷹の風』三風牙を馬鹿にしやがって」
怒りで顔を赤くするフォーレ。
「おーい、始めるけどいいか?」
周りで観戦するガイルが声を掛ける。
「はい!」
「いつでもいいぜ」
「じゃあ、始めっ!!」
ガイルの合図で戦いの火蓋が切られる。
「ウィンドストリーム!!!!」
フォーレの先制攻撃。レフォードの周りにゴオゴオと轟音を立てながら竜巻が現れる。
「スピンラッシュ!!!」
逃げ場を塞いだレフォードに対してレンレンが得意の槍で追撃を行う。
ザンザンザンザン!!!!
容赦ない連続攻撃。レフォードは動けないのか真正面からレンレンの槍の攻撃を受ける。
「ウィンドランス!!!!」
更にフォーレの風の槍魔法。スピンラッシュで埃舞うレフォードに対してフォーレが仕留めにかかる。
ドオオン!!!
無抵抗。すべての攻撃がレフォードに綺麗に打ち込まれる。
「おいおい、あの人大丈夫か?」
「普通なら瀕死だよね……」
観戦していた戦闘員達が心配しながら声を出す。
(行けたのか……?)
攻撃を終え少し離れた場所に立つフォーレとレンレンがじっとその砂埃を見つめる。攻撃力が高いのは理解している。ただ素早さで圧倒すればきっと勝てる。そう思っていた。
「あーあ、せっかくのコートが破れちまったぞ……」
砂埃が収まると、そこには全くの無傷のレフォードが立っていた。着ていたコートが破れた程度。まるでダメージを受けていない。
(ば、馬鹿な!? 俺達の連続攻撃を受けてあんな涼しい顔しているはずが……)
フォーレの額に汗が流れる。レンレンが叫ぶ。
「直接打ち込むのみ!!!!」
昨晩の怪我はあるものの、レンレンは全身の力を振り絞り一気にレフォードへの間合いへと入る。フォーレが叫ぶ。
「やめろ! レンレン!!!」
(これで仕留めるっ!!!)
レンレンは高速でレフォードに対して槍を打ち込む。
ガシッ!!!
「え?」
自信を持って打ち込んだ槍。それをレフォードは片手で掴み力を入れる。
(う、動かない!?)
槍を掴まれたレンレンは、自分の槍がピクリとも動かないことに動揺する。
ドフ!!
「ぐっ……」
そんなレンレンの腹部にレフォードの拳が撃ち込まれる。
「うそ……」
経験したことのない痛み。深く重い一撃。立っていられなくなったレンレンがその場に倒れ込む。
「さて、あとひとり」
レフォードがゆっくりと歩き出す。フォーレが脂汗を流しながら言う。
「ば、馬鹿な!? レンレンがあんな簡単に……、くそっ!!」
フォーレは歩み寄るレフォードに向かって魔法を唱える。
「ウィンドスピア!!!!」
ゴオオオオオ!!!
轟音とともに放たれる風の槍。これまでに見たこともないほど巨大なもの。
「に、逃げろ!!」
このまま周りに衝突すれば怪我人が出ることは間違いない。慌てる蛮族達の前にレフォードが立って右手を差し出す。
「ふん!!!」
ガシッ、ドフ!!!
周りの者は目を疑った。
大きな風の槍がレフォードの目の前に迫ったが彼はそれを素手で掴み、そして殴って破壊した。レアスキル【超耐久】によるもっとも簡単だが、最も効果的な対処。
傷ひとつ負わないレフォードを見てフォーレがへなへなと座り込んで項垂れて言う。
「……降参だ」
力の差ははっきりしていた。
こちらの攻撃に全く動揺せず余裕を持って対処している。剣すら使わず素手であしらわれた。彼は間違いなく実力の一部しか出していない。さすがにもう認めざるを得なかった。
「はい、終わり~!! これでみんな異議はないよな?」
試合終了と同時にガイルが皆の前に出て言う。黙り込む蛮族達。その多くが小さく頷いている。ガイルが言う。
「じゃあ決まり~!! これからうちの頭領はこのレフォードな!」
ガン!!!
「痛っえ!!」
レフォードがガイルにげんこつする。
「だから俺は頭領になるなんて言ってないだろ」
「え、だって頭領にならなきゃみんな言うこと聞かないよ」
ガイルが頭を押さえながら答える。
「だからお前が皆に指示しろ。ここに居る全員お前に忠誠を誓っているんだぞ」
「そんなこと言ってもさ、俺がこのまま頭領だったら同じこと続けるぜ」
「この野郎~」
終わらない問答にようやくレフォードが折れる。
「分かった。臨時で俺がなる。でも騎士団に入ったらお前がちゃんとこいつらを導け。いいか?」
「んん、まあいいか。いいよそれで」
「やれやれ……」
レフォードがため息交じりに言う。
「それでレフォ兄。これからどうするの?」
そう尋ねるガイルにレフォードが答える。
「とりあえず一旦ここの全員『ヴェルリット家預かり』とする。そこで別の蛮族や魔物の対応を手伝って貰おう」
「え? マジで? 俺達、ミタリアの部下になるのか??」
レフォードが笑って答える。
「そうだ。俺もあいつに買われた雇われ部下だ」
「はあ!? レフォ兄が??」
兄弟の長兄で絶対的信頼を集めるレフォード。その彼が一番末っ子で泣き虫だったミタリアの部下になっているとは信じられない。
「レフォ兄、それマジで言ってんのか?」
「ああ、マジだ。ちょっと助けて欲しいこともある……」
レフォードはミタリアから『結婚しろ、子作りしろ!』と言われていることを思い出しため息をつく。ここでガイルが来てくれれば何か良い変化が起きるかもしれない。
「分かった。俺もミタリアに早く会いたいから協力するよ。で、どうする? これから」
「今から行こうか、ミタリアの所へ」
レフォードの言葉に黒髪のガイルは笑顔で頷いた。
「ミタリア!!!」
「ガイルお兄ちゃん!!!」
領主ミタリアの館に戻ったレフォード達。首を長くして帰りを待っていたミタリアだが、玄関を開け目の前に立っていた兄のガイルを姿を見て迷わず抱き着く。
「ガイルお兄ちゃん、お兄ちゃん!!!」
「ミタリア、本当にミタリアなんだな……」
ガイルの目に涙が溢れる。
幼い頃毎日のように悪戯して遊んだ妹。仕方ないとは言え離れ離れになっていてもう会えないと思っていたガイルにはこの再会が未だ信じられない。ミタリアがガイルのおでこを叩きながら言う。
「もぉ、ガイルお兄ちゃんったら悪いことして!!」
おでこをげんこつされたガイルが笑って答える。
「悪い悪い。まさかお前が領主になっていたなんて夢にも思わなかったんでな」
ガイルは悪事を働いていた豪商とは言え、非合法で彼らを懲らしめていたことの意味をようやく理解する。レフォードがミタリアに言う。
「ミタリア。約束通りガイルを連れて来たんで、後は焼くなり煮るなりしてもいいぞ」
「ちょ、ちょっと、レフォ兄!? 何だよそれ!!」
ミタリアが不気味な笑みを浮かべて言う。
「そうね~、ガイルお兄ちゃんには子供の頃からの恨みもいっぱいあるから、とりあえず火炙りから始めましょうか~」
「や、やめてくれよ!! 悪かった、ごめん。ミタリア!!」
皆が笑いに包まれる。ガイルがミタリアに紹介する。
「ああ、そうだ。紹介するぜ。俺の部下のジェイクとライド。ふたりともマジで頼れる部下だ」
そう言ってガイルの後ろでずっと黙って立っていたジェイクが頭を下げて言う。
「初めまして、領主様。このような形でお会いするとはいささか不思議な気持ちですがこれも何かの縁。これからはどうぞよろしくお願い致します」
「うわ~、すっげえ美人じゃん!! おっさんの妹って聞いたからもっとごっついのを想像したけど、うわー、こりゃびっくりだよ!!」
ライドは挨拶そっちのけでミタリアの可愛さに目を奪われる。ミタリアが顔に両手を当て恥ずかしそうに言う。
「あら~、私ってばそんなに可愛いのかしら~!! ねえ、お兄ちゃん、私って可愛いの~??」
それを黙って見ていたレフォードにミタリアが尋ねる。
「知らん。そんなもんは人によるだ……、ひゃっ!?」
興味なさそうに答えるレフォードにミタリアがすすっと近付いて言う。
「私はお兄ちゃんの口から聞きたいの……」
大きな胸をぎゅうぎゅうと押し当て甘い顔でレフォードに尋ねる。ライドが顔を赤くして言う。
「うわ、なんかスゲエ!! 大人じゃん、大人!!」
ガイルも改めてミタリアの変貌ぶりに驚いて言う。
「お前、随分成長したな。マジでいい女になったぞ。で、やっぱりレフォ兄のことが好きなのか?」
ミタリアが顔を真っ赤にして答える。
「当然でしょ!! 私の相手は先にも後にもお兄ちゃんだけ! 私の目的はお兄ちゃんと結婚して、早く子供を作ることなの!!」
「は!? なんだそりゃ!!??」
ミタリアのレフォード好きは知っている。だがそれがどう跳躍して結婚とか子供とかになったのか。レフォードが頭を抱えてガイルに言う。
「と言う訳だ。助けてくれ、ガイル」
初めて言われたであろうレフォードからの助け。ガイルは面白くなって答える。
「いいじゃん、結婚しなよ。お似合いだぞ!」
「ば、馬鹿なこと言うんじゃない!!」
レフォードが大きな声で言い返す。ガイルが思い出したように答える。
「ああ、そうだよな。ミタリアがレフォ兄とくっついたら、ルコやヴァーナとかが激怒しそうだな!」
皆が孤児院時代の弟妹達の顔を思い出す。仲良く過ごした兄弟達。冗談を言って笑い合った幼き頃。それぞれの胸に懐かしき日々が蘇る。
「これからみんなに会いに行くよ。まあ、どこにいるのかは知らんがな」
「ミタリアも一緒に行くよ~!!」
元気に手を上げてそう言うミタリアにガイルが言う。
「お前も行くのか?」
「そうだよ!! 早くお兄ちゃんを口説かないとね~!!」
「なんだよそりゃ」
みんながくすくすと笑う。レフォードがミタリアに言う。
「そうだミタリア。お願いがある」
「いいよ。子作りでも既成事実でも」
「違う。実はガイル達蛮族を一時的でいいんだが『ヴェルリット家預かり』にして欲しい。他の蛮族襲撃や魔物との戦闘、領地内の治安維持にでも使って欲しい」
「いいよ」
「え?」
あまりに軽い返事。領主であるミタリアにはその権限があるのだが、仮にもガイル達はここらを荒らしていた蛮族。それを領主が雇うなど通常ではありえないことだ。ガイルが不安そうに尋ねる。
「いいのか、ミタリア?」
「いいよ。ガイルお兄ちゃんが頑張るなら、ミタリアは全力で応援するよ!!」
ガイルが目頭を押さえながら言う。
「ありがとう、お前は本当に可愛いやつだな。レフォ兄との件、俺に任せろ」
「本当ぉ!? やったー!!」
ミタリアが両手を上げて喜ぶ。
「おい、ガイル!! なんでそんな約束する!!」
味方だと思って連れてきたガイルの翻意にレフォードが焦る。ガイルがちょっと偉そうに答える。
「領主様のご命令だぞ! 頭が高い、レフォード!!」
「ぷっ、きゃはははっ!! おもしろーい、ガイルお兄ちゃん!!」
「はあ……」
レフォードはここにガイルを連れて来たのが本当に正解だったのか、ちょっとだけ自信が無くなって来た。
「誰なの? あの男」
「ガイル様が頭領の座を譲ったって聞いたけど、幹部ふたりを倒さなきゃならないって話だぜ」
表に出たフォーレとレンレン、その後にレフォードも続く。新人歓迎会を終えてテーブルなどが片付けられた広場。今そこは新たな戦いの場と変貌する。フォーレが言う。
「俺達が勝てばお前はここを出て行け。いいな」
レフォードが頷いて答える。
「分かった。俺が勝てばお前らは全てを受け入れるってことでいいか?」
「だるいけど、いいわ」
フォーレの隣に立つレンレンが答える。フォーレが言う。
「剣を抜け。真剣勝負だ。手加減など不要」
フォーレはレフォードの腰についたままの剣を見て言う。レフォードが困った顔をして答える。
「いや、これは、その、なんだ……、簡単に使う訳にはいかなくて……」
一向に抜刀しようとしないレフォードにフォーレが苛立って言う。
「くそっ、舐められたものよ。『鷹の風』三風牙を馬鹿にしやがって」
怒りで顔を赤くするフォーレ。
「おーい、始めるけどいいか?」
周りで観戦するガイルが声を掛ける。
「はい!」
「いつでもいいぜ」
「じゃあ、始めっ!!」
ガイルの合図で戦いの火蓋が切られる。
「ウィンドストリーム!!!!」
フォーレの先制攻撃。レフォードの周りにゴオゴオと轟音を立てながら竜巻が現れる。
「スピンラッシュ!!!」
逃げ場を塞いだレフォードに対してレンレンが得意の槍で追撃を行う。
ザンザンザンザン!!!!
容赦ない連続攻撃。レフォードは動けないのか真正面からレンレンの槍の攻撃を受ける。
「ウィンドランス!!!!」
更にフォーレの風の槍魔法。スピンラッシュで埃舞うレフォードに対してフォーレが仕留めにかかる。
ドオオン!!!
無抵抗。すべての攻撃がレフォードに綺麗に打ち込まれる。
「おいおい、あの人大丈夫か?」
「普通なら瀕死だよね……」
観戦していた戦闘員達が心配しながら声を出す。
(行けたのか……?)
攻撃を終え少し離れた場所に立つフォーレとレンレンがじっとその砂埃を見つめる。攻撃力が高いのは理解している。ただ素早さで圧倒すればきっと勝てる。そう思っていた。
「あーあ、せっかくのコートが破れちまったぞ……」
砂埃が収まると、そこには全くの無傷のレフォードが立っていた。着ていたコートが破れた程度。まるでダメージを受けていない。
(ば、馬鹿な!? 俺達の連続攻撃を受けてあんな涼しい顔しているはずが……)
フォーレの額に汗が流れる。レンレンが叫ぶ。
「直接打ち込むのみ!!!!」
昨晩の怪我はあるものの、レンレンは全身の力を振り絞り一気にレフォードへの間合いへと入る。フォーレが叫ぶ。
「やめろ! レンレン!!!」
(これで仕留めるっ!!!)
レンレンは高速でレフォードに対して槍を打ち込む。
ガシッ!!!
「え?」
自信を持って打ち込んだ槍。それをレフォードは片手で掴み力を入れる。
(う、動かない!?)
槍を掴まれたレンレンは、自分の槍がピクリとも動かないことに動揺する。
ドフ!!
「ぐっ……」
そんなレンレンの腹部にレフォードの拳が撃ち込まれる。
「うそ……」
経験したことのない痛み。深く重い一撃。立っていられなくなったレンレンがその場に倒れ込む。
「さて、あとひとり」
レフォードがゆっくりと歩き出す。フォーレが脂汗を流しながら言う。
「ば、馬鹿な!? レンレンがあんな簡単に……、くそっ!!」
フォーレは歩み寄るレフォードに向かって魔法を唱える。
「ウィンドスピア!!!!」
ゴオオオオオ!!!
轟音とともに放たれる風の槍。これまでに見たこともないほど巨大なもの。
「に、逃げろ!!」
このまま周りに衝突すれば怪我人が出ることは間違いない。慌てる蛮族達の前にレフォードが立って右手を差し出す。
「ふん!!!」
ガシッ、ドフ!!!
周りの者は目を疑った。
大きな風の槍がレフォードの目の前に迫ったが彼はそれを素手で掴み、そして殴って破壊した。レアスキル【超耐久】によるもっとも簡単だが、最も効果的な対処。
傷ひとつ負わないレフォードを見てフォーレがへなへなと座り込んで項垂れて言う。
「……降参だ」
力の差ははっきりしていた。
こちらの攻撃に全く動揺せず余裕を持って対処している。剣すら使わず素手であしらわれた。彼は間違いなく実力の一部しか出していない。さすがにもう認めざるを得なかった。
「はい、終わり~!! これでみんな異議はないよな?」
試合終了と同時にガイルが皆の前に出て言う。黙り込む蛮族達。その多くが小さく頷いている。ガイルが言う。
「じゃあ決まり~!! これからうちの頭領はこのレフォードな!」
ガン!!!
「痛っえ!!」
レフォードがガイルにげんこつする。
「だから俺は頭領になるなんて言ってないだろ」
「え、だって頭領にならなきゃみんな言うこと聞かないよ」
ガイルが頭を押さえながら答える。
「だからお前が皆に指示しろ。ここに居る全員お前に忠誠を誓っているんだぞ」
「そんなこと言ってもさ、俺がこのまま頭領だったら同じこと続けるぜ」
「この野郎~」
終わらない問答にようやくレフォードが折れる。
「分かった。臨時で俺がなる。でも騎士団に入ったらお前がちゃんとこいつらを導け。いいか?」
「んん、まあいいか。いいよそれで」
「やれやれ……」
レフォードがため息交じりに言う。
「それでレフォ兄。これからどうするの?」
そう尋ねるガイルにレフォードが答える。
「とりあえず一旦ここの全員『ヴェルリット家預かり』とする。そこで別の蛮族や魔物の対応を手伝って貰おう」
「え? マジで? 俺達、ミタリアの部下になるのか??」
レフォードが笑って答える。
「そうだ。俺もあいつに買われた雇われ部下だ」
「はあ!? レフォ兄が??」
兄弟の長兄で絶対的信頼を集めるレフォード。その彼が一番末っ子で泣き虫だったミタリアの部下になっているとは信じられない。
「レフォ兄、それマジで言ってんのか?」
「ああ、マジだ。ちょっと助けて欲しいこともある……」
レフォードはミタリアから『結婚しろ、子作りしろ!』と言われていることを思い出しため息をつく。ここでガイルが来てくれれば何か良い変化が起きるかもしれない。
「分かった。俺もミタリアに早く会いたいから協力するよ。で、どうする? これから」
「今から行こうか、ミタリアの所へ」
レフォードの言葉に黒髪のガイルは笑顔で頷いた。
「ミタリア!!!」
「ガイルお兄ちゃん!!!」
領主ミタリアの館に戻ったレフォード達。首を長くして帰りを待っていたミタリアだが、玄関を開け目の前に立っていた兄のガイルを姿を見て迷わず抱き着く。
「ガイルお兄ちゃん、お兄ちゃん!!!」
「ミタリア、本当にミタリアなんだな……」
ガイルの目に涙が溢れる。
幼い頃毎日のように悪戯して遊んだ妹。仕方ないとは言え離れ離れになっていてもう会えないと思っていたガイルにはこの再会が未だ信じられない。ミタリアがガイルのおでこを叩きながら言う。
「もぉ、ガイルお兄ちゃんったら悪いことして!!」
おでこをげんこつされたガイルが笑って答える。
「悪い悪い。まさかお前が領主になっていたなんて夢にも思わなかったんでな」
ガイルは悪事を働いていた豪商とは言え、非合法で彼らを懲らしめていたことの意味をようやく理解する。レフォードがミタリアに言う。
「ミタリア。約束通りガイルを連れて来たんで、後は焼くなり煮るなりしてもいいぞ」
「ちょ、ちょっと、レフォ兄!? 何だよそれ!!」
ミタリアが不気味な笑みを浮かべて言う。
「そうね~、ガイルお兄ちゃんには子供の頃からの恨みもいっぱいあるから、とりあえず火炙りから始めましょうか~」
「や、やめてくれよ!! 悪かった、ごめん。ミタリア!!」
皆が笑いに包まれる。ガイルがミタリアに紹介する。
「ああ、そうだ。紹介するぜ。俺の部下のジェイクとライド。ふたりともマジで頼れる部下だ」
そう言ってガイルの後ろでずっと黙って立っていたジェイクが頭を下げて言う。
「初めまして、領主様。このような形でお会いするとはいささか不思議な気持ちですがこれも何かの縁。これからはどうぞよろしくお願い致します」
「うわ~、すっげえ美人じゃん!! おっさんの妹って聞いたからもっとごっついのを想像したけど、うわー、こりゃびっくりだよ!!」
ライドは挨拶そっちのけでミタリアの可愛さに目を奪われる。ミタリアが顔に両手を当て恥ずかしそうに言う。
「あら~、私ってばそんなに可愛いのかしら~!! ねえ、お兄ちゃん、私って可愛いの~??」
それを黙って見ていたレフォードにミタリアが尋ねる。
「知らん。そんなもんは人によるだ……、ひゃっ!?」
興味なさそうに答えるレフォードにミタリアがすすっと近付いて言う。
「私はお兄ちゃんの口から聞きたいの……」
大きな胸をぎゅうぎゅうと押し当て甘い顔でレフォードに尋ねる。ライドが顔を赤くして言う。
「うわ、なんかスゲエ!! 大人じゃん、大人!!」
ガイルも改めてミタリアの変貌ぶりに驚いて言う。
「お前、随分成長したな。マジでいい女になったぞ。で、やっぱりレフォ兄のことが好きなのか?」
ミタリアが顔を真っ赤にして答える。
「当然でしょ!! 私の相手は先にも後にもお兄ちゃんだけ! 私の目的はお兄ちゃんと結婚して、早く子供を作ることなの!!」
「は!? なんだそりゃ!!??」
ミタリアのレフォード好きは知っている。だがそれがどう跳躍して結婚とか子供とかになったのか。レフォードが頭を抱えてガイルに言う。
「と言う訳だ。助けてくれ、ガイル」
初めて言われたであろうレフォードからの助け。ガイルは面白くなって答える。
「いいじゃん、結婚しなよ。お似合いだぞ!」
「ば、馬鹿なこと言うんじゃない!!」
レフォードが大きな声で言い返す。ガイルが思い出したように答える。
「ああ、そうだよな。ミタリアがレフォ兄とくっついたら、ルコやヴァーナとかが激怒しそうだな!」
皆が孤児院時代の弟妹達の顔を思い出す。仲良く過ごした兄弟達。冗談を言って笑い合った幼き頃。それぞれの胸に懐かしき日々が蘇る。
「これからみんなに会いに行くよ。まあ、どこにいるのかは知らんがな」
「ミタリアも一緒に行くよ~!!」
元気に手を上げてそう言うミタリアにガイルが言う。
「お前も行くのか?」
「そうだよ!! 早くお兄ちゃんを口説かないとね~!!」
「なんだよそりゃ」
みんながくすくすと笑う。レフォードがミタリアに言う。
「そうだミタリア。お願いがある」
「いいよ。子作りでも既成事実でも」
「違う。実はガイル達蛮族を一時的でいいんだが『ヴェルリット家預かり』にして欲しい。他の蛮族襲撃や魔物との戦闘、領地内の治安維持にでも使って欲しい」
「いいよ」
「え?」
あまりに軽い返事。領主であるミタリアにはその権限があるのだが、仮にもガイル達はここらを荒らしていた蛮族。それを領主が雇うなど通常ではありえないことだ。ガイルが不安そうに尋ねる。
「いいのか、ミタリア?」
「いいよ。ガイルお兄ちゃんが頑張るなら、ミタリアは全力で応援するよ!!」
ガイルが目頭を押さえながら言う。
「ありがとう、お前は本当に可愛いやつだな。レフォ兄との件、俺に任せろ」
「本当ぉ!? やったー!!」
ミタリアが両手を上げて喜ぶ。
「おい、ガイル!! なんでそんな約束する!!」
味方だと思って連れてきたガイルの翻意にレフォードが焦る。ガイルがちょっと偉そうに答える。
「領主様のご命令だぞ! 頭が高い、レフォード!!」
「ぷっ、きゃはははっ!! おもしろーい、ガイルお兄ちゃん!!」
「はあ……」
レフォードはここにガイルを連れて来たのが本当に正解だったのか、ちょっとだけ自信が無くなって来た。
48
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる