2 / 67
第一章 夕闇の出会い
灰谷ヤミ
しおりを挟む
『あなたのことを教えてよ』
彼女――魔法使いの火置ユウ――にそう聞かれた僕は、自己紹介を始めることにする。
なんたって彼女はこれから『数日』ここにいることになるらしいから。お互いの自己紹介くらいは必要だろう。
まずは何から話そうかな……。
迷っていた僕の顔をじっと見ていた彼女が、目をキラキラさせて話しかけてきた。
「あなた、きれいな色の髪ね。それに、瞳も不思議。こうやって下から覗くと、金色に見える」
「……人のことを言えないんじゃないかな?君も十分、不思議な瞳をしている」
「そうかな?あなたの髪の色は……なんていうか、名前のとおりね。闇の色」
「………………そうだね」
僕は少し俯いて同意する。
『闇の色』……確かに、そうかもしれない。そんな色が、僕にはお似合いだと思う。
「………あれ、『闇の色』って嫌だった?それじゃあ言い方を変えるね。
8月の、午後7時前の、西の空の色。地面に近い場所から天頂に向かって、燃えるようなオレンジと深紫と漆黒のグラデーション。とてもキレイ」
「……ありがとう」
率直に褒められると、少し照れてしまう。僕は、誰かに面と向かって褒められた経験があまりない。
「あとさ、あなた……何かスポーツでもしてた?」
「趣味はランニング。投獄される前は雨がふらない限り欠かさず走ってたよ。あとは……たまにプールにも通っていた。刑務所でも、ジムで運動することを日課にしてたんだ」
「やっぱり!細い割に、締まっている感じがあると思ったの。……細い割に」
僕を上から下まで見て、火置さんは言う。
「……『細い』のは少し気にしてたんだけど。コンプレックスなんだよ」
「細いのがコンプレックス?私を含めた多くの世の女子を敵に回す言葉ね……」
火置さんは目を細めて腕を組む。もし本当に世の大半の女子を敵に回したらさぞ厄介なことだろう。それはちょっと遠慮したい。
「ていうかあなたって、恵まれた容姿の割にコンプレックスが多いのね。髪色も嫌そうだったし、細いのも嫌なのね」
「……君は別に太ってないじゃないか。それに……自分が恵まれた容姿だなんて、考えたこともなかった」
「細身で背が高くて、無駄な贅肉がなくて、顔が小さくて髪と目がキレイ。十分すぎるくらい恵まれてるわ」
肩を竦めて彼女は言う。
「容姿に恵まれていることって、なんの意味があるの?大事なのは中身じゃない?」
「わ!ド正論。でも……容姿に恵まれているあなたが人前でそれを言わないほうがいい、多分」
「……そういうもの?」
「そういうものよ。……あなたって……」
片眉を上げて彼女が僕を見る。
「何かな?」
「ちょっと……変わってるね」
「……たまに言われるかも」
人付き合いが少ない割には、そう言われることが多い気がする。そうか、僕は変わっているのか。
「その上、素直だね」
「素直かもしれない。あまり隠し事が得意じゃないんだ」
「……ちょっと変わってて、素直で、ランニングと水泳が趣味の灰谷ヤミくん。それ以外の情報をどうぞ」
そうだった。自己紹介だった。彼女と話すとついつい会話が弾んでしまう。よし、自己紹介を始めよう。
「僕は……22歳の元大学生で、殺人犯。元っていうのは、逮捕の後に退学になったからだ。名前は、灰谷ヤミ」
「殺人罪で捕まってるんだ」
「……そう。…………僕のことが怖い?」
「うーん、こういったらあれだけど…全然怖くない」
本当に怖くなさそうに、あっけらかんと彼女は答える。
「……僕が強姦罪とかで逮捕されてたらどうするつもりだったの」
「……でもここで強姦はできないでしょ」
「…………できるでしょ。後先考えない犯罪者なんていっぱいいるよ」
「……あなたはすごく後先考えそうな感じがする」
「………………。……まぁ、いいや。自分の話を続けるよ」
「うん、待ってた」
「僕はね『悲劇的な人生』なんだ」
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。その顔はあからさまに『反応に困る』という表情をしている。
「『悲劇的な人生』?……えっと…………それは……厨二病的な感じ?」
「僕は生まれてから今に至るまで、たった一度も心からの幸せを感じたことがないんだ」
「……神社で大吉を引いたことがないの?」
「…………大吉を引いて幸せになれる?」
「たしかに……なれないね。ごめんね」
「そういう表面的な意味でじゃなくて……もっと本質的な意味でだよ」
「何に幸せを感じるかって人それぞれじゃない?そういった話でもなくて?」
「…………でも世の多くの人にとっては……誰かと認め合うこととか、心安らげる空間で安心に包まれることとか、両親からの無償の愛情を受けることとかが『幸せ』じゃないか?違うかな?」
「……正論中の正論。そしてものすごく本質的な、全人類に共通する『幸せ』ね」
大きく頷いて、彼女は同意する。
「それを経験したことが、僕には一つもないんだよ」
「…………幸せを感じない性格なの?それとも本当に幸せに巡り会えなかったの?」
「幸せに巡り会えなかった方、かな。僕は何ていうのかな……そう、全部が裏目に出るんだ。誰かの為を思ってしたことも、巡り巡って周囲の不幸になる。火置さんって、シェークスピアは読んだことある?」
「『リア王』と『オセロー』は読んだ記憶があるけど……」
「どっちかというと僕の人生に近いのは『ハムレット』かな。何をしても裏目に出てしまう。ひとつのきっかけが、連鎖的な悲劇につながってしまう」
「……今度読んでみるわ」
「僕の行動は、全部が『悲劇』に繋がるんだ。そうやって両親も死んでいったし、友人もいなくなったし、愛する人に出会えない人生を歩んできた」
彼女――魔法使いの火置ユウ――にそう聞かれた僕は、自己紹介を始めることにする。
なんたって彼女はこれから『数日』ここにいることになるらしいから。お互いの自己紹介くらいは必要だろう。
まずは何から話そうかな……。
迷っていた僕の顔をじっと見ていた彼女が、目をキラキラさせて話しかけてきた。
「あなた、きれいな色の髪ね。それに、瞳も不思議。こうやって下から覗くと、金色に見える」
「……人のことを言えないんじゃないかな?君も十分、不思議な瞳をしている」
「そうかな?あなたの髪の色は……なんていうか、名前のとおりね。闇の色」
「………………そうだね」
僕は少し俯いて同意する。
『闇の色』……確かに、そうかもしれない。そんな色が、僕にはお似合いだと思う。
「………あれ、『闇の色』って嫌だった?それじゃあ言い方を変えるね。
8月の、午後7時前の、西の空の色。地面に近い場所から天頂に向かって、燃えるようなオレンジと深紫と漆黒のグラデーション。とてもキレイ」
「……ありがとう」
率直に褒められると、少し照れてしまう。僕は、誰かに面と向かって褒められた経験があまりない。
「あとさ、あなた……何かスポーツでもしてた?」
「趣味はランニング。投獄される前は雨がふらない限り欠かさず走ってたよ。あとは……たまにプールにも通っていた。刑務所でも、ジムで運動することを日課にしてたんだ」
「やっぱり!細い割に、締まっている感じがあると思ったの。……細い割に」
僕を上から下まで見て、火置さんは言う。
「……『細い』のは少し気にしてたんだけど。コンプレックスなんだよ」
「細いのがコンプレックス?私を含めた多くの世の女子を敵に回す言葉ね……」
火置さんは目を細めて腕を組む。もし本当に世の大半の女子を敵に回したらさぞ厄介なことだろう。それはちょっと遠慮したい。
「ていうかあなたって、恵まれた容姿の割にコンプレックスが多いのね。髪色も嫌そうだったし、細いのも嫌なのね」
「……君は別に太ってないじゃないか。それに……自分が恵まれた容姿だなんて、考えたこともなかった」
「細身で背が高くて、無駄な贅肉がなくて、顔が小さくて髪と目がキレイ。十分すぎるくらい恵まれてるわ」
肩を竦めて彼女は言う。
「容姿に恵まれていることって、なんの意味があるの?大事なのは中身じゃない?」
「わ!ド正論。でも……容姿に恵まれているあなたが人前でそれを言わないほうがいい、多分」
「……そういうもの?」
「そういうものよ。……あなたって……」
片眉を上げて彼女が僕を見る。
「何かな?」
「ちょっと……変わってるね」
「……たまに言われるかも」
人付き合いが少ない割には、そう言われることが多い気がする。そうか、僕は変わっているのか。
「その上、素直だね」
「素直かもしれない。あまり隠し事が得意じゃないんだ」
「……ちょっと変わってて、素直で、ランニングと水泳が趣味の灰谷ヤミくん。それ以外の情報をどうぞ」
そうだった。自己紹介だった。彼女と話すとついつい会話が弾んでしまう。よし、自己紹介を始めよう。
「僕は……22歳の元大学生で、殺人犯。元っていうのは、逮捕の後に退学になったからだ。名前は、灰谷ヤミ」
「殺人罪で捕まってるんだ」
「……そう。…………僕のことが怖い?」
「うーん、こういったらあれだけど…全然怖くない」
本当に怖くなさそうに、あっけらかんと彼女は答える。
「……僕が強姦罪とかで逮捕されてたらどうするつもりだったの」
「……でもここで強姦はできないでしょ」
「…………できるでしょ。後先考えない犯罪者なんていっぱいいるよ」
「……あなたはすごく後先考えそうな感じがする」
「………………。……まぁ、いいや。自分の話を続けるよ」
「うん、待ってた」
「僕はね『悲劇的な人生』なんだ」
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。その顔はあからさまに『反応に困る』という表情をしている。
「『悲劇的な人生』?……えっと…………それは……厨二病的な感じ?」
「僕は生まれてから今に至るまで、たった一度も心からの幸せを感じたことがないんだ」
「……神社で大吉を引いたことがないの?」
「…………大吉を引いて幸せになれる?」
「たしかに……なれないね。ごめんね」
「そういう表面的な意味でじゃなくて……もっと本質的な意味でだよ」
「何に幸せを感じるかって人それぞれじゃない?そういった話でもなくて?」
「…………でも世の多くの人にとっては……誰かと認め合うこととか、心安らげる空間で安心に包まれることとか、両親からの無償の愛情を受けることとかが『幸せ』じゃないか?違うかな?」
「……正論中の正論。そしてものすごく本質的な、全人類に共通する『幸せ』ね」
大きく頷いて、彼女は同意する。
「それを経験したことが、僕には一つもないんだよ」
「…………幸せを感じない性格なの?それとも本当に幸せに巡り会えなかったの?」
「幸せに巡り会えなかった方、かな。僕は何ていうのかな……そう、全部が裏目に出るんだ。誰かの為を思ってしたことも、巡り巡って周囲の不幸になる。火置さんって、シェークスピアは読んだことある?」
「『リア王』と『オセロー』は読んだ記憶があるけど……」
「どっちかというと僕の人生に近いのは『ハムレット』かな。何をしても裏目に出てしまう。ひとつのきっかけが、連鎖的な悲劇につながってしまう」
「……今度読んでみるわ」
「僕の行動は、全部が『悲劇』に繋がるんだ。そうやって両親も死んでいったし、友人もいなくなったし、愛する人に出会えない人生を歩んできた」
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる