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第四章 夢
ヤミの神様の話~神様の愛~
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「……ヤミ?寝てる?」
「……起きてるよ」
「今日も寝る前のお話してよ」
「……子供みたいだな」
「私の長所の一つ。『童心を忘れない』」
「いい長所だ」
「ふふ、ありがとう。……ね、神様について教えてよ。あなたの神様は、どんな姿をしていて、どんな声で、どんなことができるのか」
「……わかった。それじゃあ今日は『僕の神様』の話をしよう。神様の、愛についてのお話」
<神の愛>
「愛、か……」火置さんの、独り言のような不明瞭な声が部屋の暗闇に滲む。
彼女はどうやって人を愛するんだろう。愛する人はいるんだろうか。そういえば以前『恋人がいるかは秘密』だと言っていた気がする。
余計なお世話かもしれないけど、火置さんが恋人に甘えたり、男に媚びたりするところを……一切思い浮かべることができなかった。
でもどうだろう。好きな人には案外甘えるのかな。彼女はプライベートな人間性を隠しているから、裏側の顔について想像するのが難しい。
「ヤミ、どうしたの?神様について話してよ。あなたの神様は、どんな見た目?」
僕はすぐに考え事の海に沈んでしまう。人とじっくりと語り合った経験が少ないから、会話に慣れていないんだと思う。
彼女が僕の話を待っている。よし、始めよう。
「神様は……男でも女でもない。全身が光り輝いていて、眩しくて、優しくて、全てを温かい光で包み込む」
「ふーん。ゼウス的な見た目ではないのね」
「僕は神様に会ったことがあるんだよ」
「え?」
「……夢の中でね。10歳のころ」
「啓示?」
「そんな素敵なものならよかったのかもしれないけど……。……僕は、神様に愛されて精通を迎えたんだ」
「…………………なかなかね」
彼女は引いたかな?……でも、彼女に何かを隠してもしょうがないと思う。だってもうすぐ僕は死ぬんだし、死ぬまでにむしろ僕を全部知ってもらう方がいいような気がした。
「でも、いやらしいと言うよりも……神聖だったよ?ただただ優しかった。僕の全部を触ってくれた。頭も、顔も、体中。表も裏も、全身をくまなく」
「それで神様の虜になったの?結構単純じゃない」
彼女が首をかしげて僕を見る。すごく楽しそうな顔をしているな。絶対に面白がっているだろうけど、僕はそれでもいい。彼女が僕の話で楽しんでくれるなら、それで十分だ。
「……そうなのかな。……でも、僕のことを全て包みこんで愛してくれたのは、今までの人生でその神様だけだった。だから、僕は神様のことが忘れられない。もう一度会いたいんだ」
彼女は無言で僕の顔をじっと見ている。一体何を思っているんだろう。
「流石に気持ち悪いと思った?ここまですべてを告白したのは、君が初めてだ」
「そうね、なかなか気持ち悪いとは思うけど、お話としては悪くない。『神様の愛を求める男の子の話』。かなり刺激的で、興味深い。私の魔法書の巻末に載せておこうかしら。コラム記事として」
「そうしたら、僕が生きた痕跡が君の本に残るんだね。なかなか素敵な話だ」
「……そうね、そのページを開くたび、あなたのことを思い出すでしょうね。……そういえば、ちょっと頭のおかしな死刑囚の友人がいたなあって」
「…………」
そんな未来を思い描く。
1年後の夏、ふと魔法書のページを開いた火置さんが、僕の事を思い出してくれる未来。
君はどんな顔をして、僕の事を思い出してくれるんだろう。いい思い出として、僕を記憶していてくれるかな。
「……あの、さ」
「んー?」
「本当に、書いてくれないか?…………死刑囚からの、一生に一度のお願い」
「…………」
火置さんは一瞬だけ僕を見て、すぐに視線を下に外した。僕とは目を合わせないままで、とても静かに「うん、いいよ」と答えてくれた。
このとき、僕ははっきりと理解する。
『僕は、彼女の心を傷つけているんだ』。
僕が自分の死を心待ちにするようなことを言うたび、悲劇的な過去を話すたび、彼女は深く傷ついている。
……そして、最近の僕は彼女の心を傷つけることに、密かな気持ちよさを感じている。たった今、それを強く認識した。
君の魂の片隅につける、歪な僕の印。爪楊枝のような、先の尖ったささくれだった針で、カリカリと刻みつける。
すぐには気づくことができないくらい小さな小さな印だから、君がそれに気づくのは僕が死んだ後のことだろう。チクチクとした痛みを伴う記憶の友人として、僕は君の中に生き続ける。
……やっぱり僕は『闇側』の人間だ。わかってはいたことだったけど、改めて自覚すると堪えるな。君に隠れて、君の魂を傷つける自分の浅ましさに嫌気が差す。
でも、しょうがない。『忘れられない友人として君の記憶に残りたい』っていう自分の願望に気づいてしまったものはもう、しょうがない。
「ありがとう、火置さん。僕はすごく嬉しい」
「ん、それはよかった。……ヤミ、今日も神様のお話してくれてありがとう。それじゃ、そろそろおやすみ」
「うん、おやすみ」
僕は……奇妙なほど高揚した気持ちで、眠りにつく。
「……起きてるよ」
「今日も寝る前のお話してよ」
「……子供みたいだな」
「私の長所の一つ。『童心を忘れない』」
「いい長所だ」
「ふふ、ありがとう。……ね、神様について教えてよ。あなたの神様は、どんな姿をしていて、どんな声で、どんなことができるのか」
「……わかった。それじゃあ今日は『僕の神様』の話をしよう。神様の、愛についてのお話」
<神の愛>
「愛、か……」火置さんの、独り言のような不明瞭な声が部屋の暗闇に滲む。
彼女はどうやって人を愛するんだろう。愛する人はいるんだろうか。そういえば以前『恋人がいるかは秘密』だと言っていた気がする。
余計なお世話かもしれないけど、火置さんが恋人に甘えたり、男に媚びたりするところを……一切思い浮かべることができなかった。
でもどうだろう。好きな人には案外甘えるのかな。彼女はプライベートな人間性を隠しているから、裏側の顔について想像するのが難しい。
「ヤミ、どうしたの?神様について話してよ。あなたの神様は、どんな見た目?」
僕はすぐに考え事の海に沈んでしまう。人とじっくりと語り合った経験が少ないから、会話に慣れていないんだと思う。
彼女が僕の話を待っている。よし、始めよう。
「神様は……男でも女でもない。全身が光り輝いていて、眩しくて、優しくて、全てを温かい光で包み込む」
「ふーん。ゼウス的な見た目ではないのね」
「僕は神様に会ったことがあるんだよ」
「え?」
「……夢の中でね。10歳のころ」
「啓示?」
「そんな素敵なものならよかったのかもしれないけど……。……僕は、神様に愛されて精通を迎えたんだ」
「…………………なかなかね」
彼女は引いたかな?……でも、彼女に何かを隠してもしょうがないと思う。だってもうすぐ僕は死ぬんだし、死ぬまでにむしろ僕を全部知ってもらう方がいいような気がした。
「でも、いやらしいと言うよりも……神聖だったよ?ただただ優しかった。僕の全部を触ってくれた。頭も、顔も、体中。表も裏も、全身をくまなく」
「それで神様の虜になったの?結構単純じゃない」
彼女が首をかしげて僕を見る。すごく楽しそうな顔をしているな。絶対に面白がっているだろうけど、僕はそれでもいい。彼女が僕の話で楽しんでくれるなら、それで十分だ。
「……そうなのかな。……でも、僕のことを全て包みこんで愛してくれたのは、今までの人生でその神様だけだった。だから、僕は神様のことが忘れられない。もう一度会いたいんだ」
彼女は無言で僕の顔をじっと見ている。一体何を思っているんだろう。
「流石に気持ち悪いと思った?ここまですべてを告白したのは、君が初めてだ」
「そうね、なかなか気持ち悪いとは思うけど、お話としては悪くない。『神様の愛を求める男の子の話』。かなり刺激的で、興味深い。私の魔法書の巻末に載せておこうかしら。コラム記事として」
「そうしたら、僕が生きた痕跡が君の本に残るんだね。なかなか素敵な話だ」
「……そうね、そのページを開くたび、あなたのことを思い出すでしょうね。……そういえば、ちょっと頭のおかしな死刑囚の友人がいたなあって」
「…………」
そんな未来を思い描く。
1年後の夏、ふと魔法書のページを開いた火置さんが、僕の事を思い出してくれる未来。
君はどんな顔をして、僕の事を思い出してくれるんだろう。いい思い出として、僕を記憶していてくれるかな。
「……あの、さ」
「んー?」
「本当に、書いてくれないか?…………死刑囚からの、一生に一度のお願い」
「…………」
火置さんは一瞬だけ僕を見て、すぐに視線を下に外した。僕とは目を合わせないままで、とても静かに「うん、いいよ」と答えてくれた。
このとき、僕ははっきりと理解する。
『僕は、彼女の心を傷つけているんだ』。
僕が自分の死を心待ちにするようなことを言うたび、悲劇的な過去を話すたび、彼女は深く傷ついている。
……そして、最近の僕は彼女の心を傷つけることに、密かな気持ちよさを感じている。たった今、それを強く認識した。
君の魂の片隅につける、歪な僕の印。爪楊枝のような、先の尖ったささくれだった針で、カリカリと刻みつける。
すぐには気づくことができないくらい小さな小さな印だから、君がそれに気づくのは僕が死んだ後のことだろう。チクチクとした痛みを伴う記憶の友人として、僕は君の中に生き続ける。
……やっぱり僕は『闇側』の人間だ。わかってはいたことだったけど、改めて自覚すると堪えるな。君に隠れて、君の魂を傷つける自分の浅ましさに嫌気が差す。
でも、しょうがない。『忘れられない友人として君の記憶に残りたい』っていう自分の願望に気づいてしまったものはもう、しょうがない。
「ありがとう、火置さん。僕はすごく嬉しい」
「ん、それはよかった。……ヤミ、今日も神様のお話してくれてありがとう。それじゃ、そろそろおやすみ」
「うん、おやすみ」
僕は……奇妙なほど高揚した気持ちで、眠りにつく。
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