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第四章 夢
彼の話を聞く その2前編
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彼の過去~高校生の頃の記憶~
高校受験をした僕は、都内の進学校に入学した。そこで……出会ったんだ。彼女と。
「……彼女?」
火置さんは覚えているかな?僕が3歳の時に交通事故に遭ったって話を。
僕は道路に飛び出して、車にぶつかって、運転手は急ハンドルを切って電柱にめり込んで死んだ。その運転手の娘と同じ高校だったんだ。
僕が入学したとき、彼女は高校3年生だった。
向こうから声をかけてきた。僕は彼女が交通事故の相手の家族だって気づいて……第一声で謝った。僕の飛び出しで、彼女の父親は死んだようなものだったから。でも、『許しているから』って言われた。
彼女は美しい女の子だった。一人でいることが多かった僕の事を気にかけてくれて、同じ時間を過ごすようになった。
そして……僕達は恋人同士になった。
彼女から、愛してるって言われたんだ。
誰かから『愛している』なんて言われたのは……初めてだった。でも本当の事を言うと、僕は彼女の事がそんなに好きではなかったんだ。……ひどい話だけどな。
付き合っている間も、彼女はしきりに僕のことを『許している』と言った。
でもさ……確かに相手の家族は悲惨だったけど、あの事故はお互い様ではあったはずだ。向こうだって、多少のスピード違反をしていたし不注意もあった。僕だけが全部悪かったってことではなかったと思う。
父は死に、母は半身不随。頼れる親戚はおらず、子供二人で生きていかなければならない……。彼女の人生や家庭環境は苦難に満ちたものだったんだろう。
でも僕だってあの後それなりにつらい思いをして生きてきた。彼らに一方的な贖罪の気持ちをずっと抱いて生活していたわけじゃない。
一緒にいる時間、何度も何度も許しているからと言われるのは、なんだか『冷める』気持ちだった。
彼女と恋人同士になった僕は、彼女から誘われてセックスをした。セックスをするときは、いつも彼女から誘われてしていた。
もちろん僕は、毎回ちゃんと避妊をした。……でも、なぜか彼女は妊娠したんだ。
「……どうして……?」
……後でわかったことだけど、避妊具に全部穴があけられていたんだ。彼女自身がそれをやっていたんだって。僕が用意していたものにも、彼女が用意していたものにも、全部。
僕はそれに気づいて、どういうこと?って話した。彼女には、僕がちょっと離れた隙に穴を開けたんだって言われた。
彼女は、僕の子供を妊娠することで、僕に復讐するとともに僕を繋ぎ止めておこうとしたんだと思う。『こうすればずっと私と一緒にいるでしょ?』って言われたから。
でも当然だけど、僕は彼女を妊娠させるつもりは全くなかったし、そういうのはお互いの同意が必要なんじゃないの?って話した。
お互いの家族を交えて、本当の話をして、どうするか決めなきゃいけないって。君がやったことも、ちゃんと家族の前で話して欲しいって。そして僕個人の意見としては、今子供を産まれても育てられないってことも、話した。
……で、その話をした翌日、彼女は自殺してしまったんだよ。僕の目の前で電車に飛び込んで。
そしてその2ヶ月後、半身不随でほぼ寝たきり状態になっていた彼女の母も……心労が原因だかで死んでしまった。
僕の悲劇的な人生の始まりになった交通事故の四人家族は……これで四人中三人が死んだ。全員が『僕のせいだ』と言われても仕方がない理由で。
ヤミは俯いている。悲しみとは少し違った……自嘲的な表情に見えた。全てを諦めた人が見せるある種悟ったような、穏やかとも取れる表情。
「それは……あなたのせいなのかな?……少し違う気もするけど……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、半分は僕のせいだろ?彼女とセックスしたのは僕なんだから。
そもそも好きでもないのに付き合わなければよかったと言われたらそうだし、好きでもないのにそういうことをするべきじゃなかったと言われたら、何も言えない」
「…………そこまで深く考えて、男女の付き合いをしている人も、そう多くはないよ」
「……ありがとう。で、まだ続きがあるから聞いてくれないか?」
「……うん」
……彼の悲劇は、まだ続くのか。
神様はどうして、ヤミにここまでの試練を与えるんだろう。すごく不公平だと思う。私は不公平が嫌いだから、聞いているとイライラしてきてしまう。ヤミにじゃなくて、運命の神様に対して。
私は運命なんてものを信じないようにして生きてきた。自分の行く先が何者かに全部決められているなんて、生きる意味がまったくない気がしてその虚無感にぞっとするから。
でも彼の話を聞くと、彼の人生はいたるところで『運命的ななにか』に導かれているようにも思える。意地でも彼を悲劇の道に行かせようとする執念深い運命の女神が、彼の背中にぺったりと取り憑いているような。
ヤミの……話の続きを聞こう。私には、その義務がある。彼の最期を見届ける友人として、彼を知る義務が。
高校受験をした僕は、都内の進学校に入学した。そこで……出会ったんだ。彼女と。
「……彼女?」
火置さんは覚えているかな?僕が3歳の時に交通事故に遭ったって話を。
僕は道路に飛び出して、車にぶつかって、運転手は急ハンドルを切って電柱にめり込んで死んだ。その運転手の娘と同じ高校だったんだ。
僕が入学したとき、彼女は高校3年生だった。
向こうから声をかけてきた。僕は彼女が交通事故の相手の家族だって気づいて……第一声で謝った。僕の飛び出しで、彼女の父親は死んだようなものだったから。でも、『許しているから』って言われた。
彼女は美しい女の子だった。一人でいることが多かった僕の事を気にかけてくれて、同じ時間を過ごすようになった。
そして……僕達は恋人同士になった。
彼女から、愛してるって言われたんだ。
誰かから『愛している』なんて言われたのは……初めてだった。でも本当の事を言うと、僕は彼女の事がそんなに好きではなかったんだ。……ひどい話だけどな。
付き合っている間も、彼女はしきりに僕のことを『許している』と言った。
でもさ……確かに相手の家族は悲惨だったけど、あの事故はお互い様ではあったはずだ。向こうだって、多少のスピード違反をしていたし不注意もあった。僕だけが全部悪かったってことではなかったと思う。
父は死に、母は半身不随。頼れる親戚はおらず、子供二人で生きていかなければならない……。彼女の人生や家庭環境は苦難に満ちたものだったんだろう。
でも僕だってあの後それなりにつらい思いをして生きてきた。彼らに一方的な贖罪の気持ちをずっと抱いて生活していたわけじゃない。
一緒にいる時間、何度も何度も許しているからと言われるのは、なんだか『冷める』気持ちだった。
彼女と恋人同士になった僕は、彼女から誘われてセックスをした。セックスをするときは、いつも彼女から誘われてしていた。
もちろん僕は、毎回ちゃんと避妊をした。……でも、なぜか彼女は妊娠したんだ。
「……どうして……?」
……後でわかったことだけど、避妊具に全部穴があけられていたんだ。彼女自身がそれをやっていたんだって。僕が用意していたものにも、彼女が用意していたものにも、全部。
僕はそれに気づいて、どういうこと?って話した。彼女には、僕がちょっと離れた隙に穴を開けたんだって言われた。
彼女は、僕の子供を妊娠することで、僕に復讐するとともに僕を繋ぎ止めておこうとしたんだと思う。『こうすればずっと私と一緒にいるでしょ?』って言われたから。
でも当然だけど、僕は彼女を妊娠させるつもりは全くなかったし、そういうのはお互いの同意が必要なんじゃないの?って話した。
お互いの家族を交えて、本当の話をして、どうするか決めなきゃいけないって。君がやったことも、ちゃんと家族の前で話して欲しいって。そして僕個人の意見としては、今子供を産まれても育てられないってことも、話した。
……で、その話をした翌日、彼女は自殺してしまったんだよ。僕の目の前で電車に飛び込んで。
そしてその2ヶ月後、半身不随でほぼ寝たきり状態になっていた彼女の母も……心労が原因だかで死んでしまった。
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ヤミは俯いている。悲しみとは少し違った……自嘲的な表情に見えた。全てを諦めた人が見せるある種悟ったような、穏やかとも取れる表情。
「それは……あなたのせいなのかな?……少し違う気もするけど……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、半分は僕のせいだろ?彼女とセックスしたのは僕なんだから。
そもそも好きでもないのに付き合わなければよかったと言われたらそうだし、好きでもないのにそういうことをするべきじゃなかったと言われたら、何も言えない」
「…………そこまで深く考えて、男女の付き合いをしている人も、そう多くはないよ」
「……ありがとう。で、まだ続きがあるから聞いてくれないか?」
「……うん」
……彼の悲劇は、まだ続くのか。
神様はどうして、ヤミにここまでの試練を与えるんだろう。すごく不公平だと思う。私は不公平が嫌いだから、聞いているとイライラしてきてしまう。ヤミにじゃなくて、運命の神様に対して。
私は運命なんてものを信じないようにして生きてきた。自分の行く先が何者かに全部決められているなんて、生きる意味がまったくない気がしてその虚無感にぞっとするから。
でも彼の話を聞くと、彼の人生はいたるところで『運命的ななにか』に導かれているようにも思える。意地でも彼を悲劇の道に行かせようとする執念深い運命の女神が、彼の背中にぺったりと取り憑いているような。
ヤミの……話の続きを聞こう。私には、その義務がある。彼の最期を見届ける友人として、彼を知る義務が。
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