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1章 ことのはじまり
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しばらくして、マクシムはクロエを連れてイアンの元へ行った。
「旦那様、私はクロエと一緒になりたいと思っております」
イアンは娘がこくりと頷くのを見ると、相好を崩した。
「そうか。それはいいな。結婚はアメリアと同じころにしたらどうだ。敷地内に夫婦で住むといい。今後も私たちを支えてくれ」
「――ありがとうございます」
マクシムは深々と頭を下げた。しかし、その顔が歪んでいるのにクロエは気づいた。領主は領地内において、支配者であり、法でもあり、絶対的な存在だ。かつて恋人を奪った男に頭を下げ、感謝の意を示さなければならないことにマクシムは苛立ちを感じていた。
それから、執務室で、ワインの貯蔵庫で、人気のないところで、マクシムは長年溜まったものを出すように、何度もクロエを抱いた。その度に彼は「愛してるよ」とうわごとのように繰り返した。その度にクロエは「はい」と虚ろに返事をした。
****
そんな日々の中で、クロエがひとりワインの貯蔵室の整理をしていると、後ろに気配を感じた。振り返ると、チャールズが立っていた。彼は周囲を見回して人がいないのを確認すると、扉を閉じた。クロエは何事かと彼を凝視した。アメリアと一緒に話すことはあったが、チャールズと面と向かって二人きりになるのは初めてだった。彼は言いにくそうにゆっくりと言葉を発した。
「王宮へ行くのを断ったとお義父様から聞いたけれど」
チャールズの青い瞳がクロエをじっと見据える。
「クロエ、君は――本当に、マクシムと一緒になることを望んでる?」
クロエは視線を合わせていることができずに、床を見つめた。
「何をおっしゃっているのですか。私はそれでいいと思っています」
「本当に?」
「――はい」
「君は、マクシムを愛している?」
クロエはぐっと拳を握った。何故彼にこんなことを聞かれなければいけないのかわからなかった。
「どうして、そんなことを聞くのですか」
「マクシムと君は親子程年が違うし、それに――君が、マクシムの執務室から出てくるところを見たんだ。君は、幸せそうな顔をしていなかった」
顔がかっと熱くなるのを感じる。他の誰かに、あの行為をした自分の姿を見られたかと思うとみじめな気持ちになった。
「アメリアは君のことを話すときいつも悲しそうな顔をするから。僕は君には幸せになって欲しいんだ。そうしたら、アメリアもきっと笑顔になるだろう。もし、マクシムが執事の立場を使って無理矢理――ということなら、王宮から新しい執事を連れて彼に出て行ってもらうこともできる。次にこの家を継ぐのは僕だし、僕はこれでも王族だから、何でも力になるよ」
(『王宮から新しい執事を連れてくる』?)
クロエはぴくり、と眉を動かした。どうして、彼らは、領主や王族はそんなことをサラリと言えるのだろうか。執事の仕事をそんな理由でクビになれば、マクシムは他に行き場所がなくなるだろう。彼らにとって、身分の低い者――自分たち――はとるに足らない存在に過ぎないのだとクロエは改めて感じた。
もちろん、チャールズが善意から言ってくれているのはわかっていたし、彼が自分のことを気にかけてくれているのもわかっていた。
「ありがとうございます。チャールズ様。でも、いいんです」
「――君は、彼を愛している?」
もう一度聞かれて、クロエは黙った。何故、彼は何度も同じことを聞くのだろうか。
苛立ちを感じて、逆に聞いた。
「チャールズ様は、お嬢様――お姉さまを愛しています?」
「もちろん。彼女は僕にとって、小さいころから、ただ1人の愛する人だよ」
悩む素振りもなく、自身たっぷりに言い切る彼をまぶしく感じて、クロエは目を伏せた。
「――私も、マクシムさんを愛してます」
――チャールズがアメリアに対して感じている気持ちとは違うだろうけど。愛しているという気持ちがどんなものかわからないけれど。
マクシムに対して感謝の気持ちは感じていたし、きっと、そのうち愛しているという気持ちも生まれるだろうと思った。
チャールズはじっとクロエを見つめると、微笑んだ。
「それなら、いいんだ。余計なことを聞いてごめんね」
彼が出て行った後、クロエは自分の瞳が潤むのを感じた。とてもみじめな気持ちだった。
(いいわね、お姉さまは)
誰も疑問を抱かない完璧な結婚相手に愛し愛され、祝福されて家庭を持つ。そんなアメリアのことをクロエは初めて羨ましいと感じた。今までは、アメリアが綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べていたとしても羨ましいと感じたことはなかったので、それは彼女に対して感じる初めての感情だった。
***
その日の夜、クロエはマクシムに執務室に来るように言われた。
灯りを持ち、暗い屋敷を彼のところへ向かう。部屋に入ると、トランクを抱えたマクシムがいた。クロエが何事かと目を大きく見開くと、執事は灯りで手元を照らした。クロエは思わず息を呑んだ。彼の手には血が滴ったナイフが握られていた。
「マクシムさん、それは」
「クロエ、今日チャールズ様と、談話室で何をしていた」
「何も、していません。ただ、これからのことで、お話を」
マクシムはクロエを抱きしめると、スカートの上から臀部をまさぐった。
「なぁ、奴はこういう風にそこを触ったか」
強く右の尻を掴まれて、クロエは呻いた。
「何も、」
「あいつらはいつもそうだ。使用人は自分のものだと思っている」
「旦那様――お父様とチャールズ様は違います」
いっそ同じだったら良かったのにと思う自分に驚いた。いっそ父が母に手を触れたように、チャールズも自分に触れてくれたら良かったのに。そうすれば、アメリアを羨ましいと思う気持ちなんて感じなくてすんだのに。
不意に自分の頭に浮かんだそんな考えにクロエは驚愕した。
「将来の旦那様が王宮に新しい執事の打診を出す手紙を見たよ。あいつは旦那様が私からエマを奪ったように、君を奪うつもりだろう」
マクシムはスカートをたくし上げると、そのまま下着の中に手を入れた。くちゅくちゅと指がクロエの蕾の奥をかきまぜる。
「そんな……あっん、ことはぁっ」
身をよじりながらクロエはマクシムにしがみついた。
「いやらしい娘だな、お前は。旦那様の娘だもんなあ」
マクシムは奥に差し込んだ指を震わせた。脳が痺れるような感覚が伝わって、クロエは身体を痙攣させた。ぼたぼたと愛液が股をつたう。マクシムはズボンをおろすとクロエの奥に杭を打ち込んだ。クロエの背を机に押し付け、腰を振る。がたがたと机が揺れた。そのままマクシムはクロエの服を脱がせた。剥き出しになった乳房を吸い、腰を掴んでぐいっと押し込んだ。
「っん」
クロエは淀んだ嬌声を上げた。体内で精が放たれる。肩で息をしながら、マクシムは穏やかな口調に戻って言った。
「服を着替えなさい。出て行こう」
彼は、ばさり、と手触りの良い生地のドレスをクロエの前に出した。
「これは、お嬢様の」
見るからに高級そうなそのドレスはアメリアのものだった。
「――領主など知るか。どこか、別の場所で一緒に暮らそう。君を困らせることはないよ」
マクシムはトランクの蓋を開けた。ランプの光を受けて銀食器や宝石が煌めいた。
「――これだけあれば、他の土地で商売でもできる。金があれば連いてきてくれるだろう。君を奥様にしてあげよう」
マクシムはクロエの手をとった。クロエは震える声で頷いた。
「――はい」
今まで、誰かに「いいえ」と答えたことはなかったから。今回も言われるままに従うだけだった。綺麗なドレスを身にまとう。クロエの方がアメリアよりも背が高かったので、袖や裾が少し短かった。
マクシムはクロエの手を強く引っ張った。部屋を出る時、隅で血に濡れたナイフが光っているのが見えた。それは誰の血なのか考えている間に、馬車にトランクと共に押し込まれていた。
夜更けの屋敷から闇に紛れて馬車が一台、門を出た。
「旦那様、私はクロエと一緒になりたいと思っております」
イアンは娘がこくりと頷くのを見ると、相好を崩した。
「そうか。それはいいな。結婚はアメリアと同じころにしたらどうだ。敷地内に夫婦で住むといい。今後も私たちを支えてくれ」
「――ありがとうございます」
マクシムは深々と頭を下げた。しかし、その顔が歪んでいるのにクロエは気づいた。領主は領地内において、支配者であり、法でもあり、絶対的な存在だ。かつて恋人を奪った男に頭を下げ、感謝の意を示さなければならないことにマクシムは苛立ちを感じていた。
それから、執務室で、ワインの貯蔵庫で、人気のないところで、マクシムは長年溜まったものを出すように、何度もクロエを抱いた。その度に彼は「愛してるよ」とうわごとのように繰り返した。その度にクロエは「はい」と虚ろに返事をした。
****
そんな日々の中で、クロエがひとりワインの貯蔵室の整理をしていると、後ろに気配を感じた。振り返ると、チャールズが立っていた。彼は周囲を見回して人がいないのを確認すると、扉を閉じた。クロエは何事かと彼を凝視した。アメリアと一緒に話すことはあったが、チャールズと面と向かって二人きりになるのは初めてだった。彼は言いにくそうにゆっくりと言葉を発した。
「王宮へ行くのを断ったとお義父様から聞いたけれど」
チャールズの青い瞳がクロエをじっと見据える。
「クロエ、君は――本当に、マクシムと一緒になることを望んでる?」
クロエは視線を合わせていることができずに、床を見つめた。
「何をおっしゃっているのですか。私はそれでいいと思っています」
「本当に?」
「――はい」
「君は、マクシムを愛している?」
クロエはぐっと拳を握った。何故彼にこんなことを聞かれなければいけないのかわからなかった。
「どうして、そんなことを聞くのですか」
「マクシムと君は親子程年が違うし、それに――君が、マクシムの執務室から出てくるところを見たんだ。君は、幸せそうな顔をしていなかった」
顔がかっと熱くなるのを感じる。他の誰かに、あの行為をした自分の姿を見られたかと思うとみじめな気持ちになった。
「アメリアは君のことを話すときいつも悲しそうな顔をするから。僕は君には幸せになって欲しいんだ。そうしたら、アメリアもきっと笑顔になるだろう。もし、マクシムが執事の立場を使って無理矢理――ということなら、王宮から新しい執事を連れて彼に出て行ってもらうこともできる。次にこの家を継ぐのは僕だし、僕はこれでも王族だから、何でも力になるよ」
(『王宮から新しい執事を連れてくる』?)
クロエはぴくり、と眉を動かした。どうして、彼らは、領主や王族はそんなことをサラリと言えるのだろうか。執事の仕事をそんな理由でクビになれば、マクシムは他に行き場所がなくなるだろう。彼らにとって、身分の低い者――自分たち――はとるに足らない存在に過ぎないのだとクロエは改めて感じた。
もちろん、チャールズが善意から言ってくれているのはわかっていたし、彼が自分のことを気にかけてくれているのもわかっていた。
「ありがとうございます。チャールズ様。でも、いいんです」
「――君は、彼を愛している?」
もう一度聞かれて、クロエは黙った。何故、彼は何度も同じことを聞くのだろうか。
苛立ちを感じて、逆に聞いた。
「チャールズ様は、お嬢様――お姉さまを愛しています?」
「もちろん。彼女は僕にとって、小さいころから、ただ1人の愛する人だよ」
悩む素振りもなく、自身たっぷりに言い切る彼をまぶしく感じて、クロエは目を伏せた。
「――私も、マクシムさんを愛してます」
――チャールズがアメリアに対して感じている気持ちとは違うだろうけど。愛しているという気持ちがどんなものかわからないけれど。
マクシムに対して感謝の気持ちは感じていたし、きっと、そのうち愛しているという気持ちも生まれるだろうと思った。
チャールズはじっとクロエを見つめると、微笑んだ。
「それなら、いいんだ。余計なことを聞いてごめんね」
彼が出て行った後、クロエは自分の瞳が潤むのを感じた。とてもみじめな気持ちだった。
(いいわね、お姉さまは)
誰も疑問を抱かない完璧な結婚相手に愛し愛され、祝福されて家庭を持つ。そんなアメリアのことをクロエは初めて羨ましいと感じた。今までは、アメリアが綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べていたとしても羨ましいと感じたことはなかったので、それは彼女に対して感じる初めての感情だった。
***
その日の夜、クロエはマクシムに執務室に来るように言われた。
灯りを持ち、暗い屋敷を彼のところへ向かう。部屋に入ると、トランクを抱えたマクシムがいた。クロエが何事かと目を大きく見開くと、執事は灯りで手元を照らした。クロエは思わず息を呑んだ。彼の手には血が滴ったナイフが握られていた。
「マクシムさん、それは」
「クロエ、今日チャールズ様と、談話室で何をしていた」
「何も、していません。ただ、これからのことで、お話を」
マクシムはクロエを抱きしめると、スカートの上から臀部をまさぐった。
「なぁ、奴はこういう風にそこを触ったか」
強く右の尻を掴まれて、クロエは呻いた。
「何も、」
「あいつらはいつもそうだ。使用人は自分のものだと思っている」
「旦那様――お父様とチャールズ様は違います」
いっそ同じだったら良かったのにと思う自分に驚いた。いっそ父が母に手を触れたように、チャールズも自分に触れてくれたら良かったのに。そうすれば、アメリアを羨ましいと思う気持ちなんて感じなくてすんだのに。
不意に自分の頭に浮かんだそんな考えにクロエは驚愕した。
「将来の旦那様が王宮に新しい執事の打診を出す手紙を見たよ。あいつは旦那様が私からエマを奪ったように、君を奪うつもりだろう」
マクシムはスカートをたくし上げると、そのまま下着の中に手を入れた。くちゅくちゅと指がクロエの蕾の奥をかきまぜる。
「そんな……あっん、ことはぁっ」
身をよじりながらクロエはマクシムにしがみついた。
「いやらしい娘だな、お前は。旦那様の娘だもんなあ」
マクシムは奥に差し込んだ指を震わせた。脳が痺れるような感覚が伝わって、クロエは身体を痙攣させた。ぼたぼたと愛液が股をつたう。マクシムはズボンをおろすとクロエの奥に杭を打ち込んだ。クロエの背を机に押し付け、腰を振る。がたがたと机が揺れた。そのままマクシムはクロエの服を脱がせた。剥き出しになった乳房を吸い、腰を掴んでぐいっと押し込んだ。
「っん」
クロエは淀んだ嬌声を上げた。体内で精が放たれる。肩で息をしながら、マクシムは穏やかな口調に戻って言った。
「服を着替えなさい。出て行こう」
彼は、ばさり、と手触りの良い生地のドレスをクロエの前に出した。
「これは、お嬢様の」
見るからに高級そうなそのドレスはアメリアのものだった。
「――領主など知るか。どこか、別の場所で一緒に暮らそう。君を困らせることはないよ」
マクシムはトランクの蓋を開けた。ランプの光を受けて銀食器や宝石が煌めいた。
「――これだけあれば、他の土地で商売でもできる。金があれば連いてきてくれるだろう。君を奥様にしてあげよう」
マクシムはクロエの手をとった。クロエは震える声で頷いた。
「――はい」
今まで、誰かに「いいえ」と答えたことはなかったから。今回も言われるままに従うだけだった。綺麗なドレスを身にまとう。クロエの方がアメリアよりも背が高かったので、袖や裾が少し短かった。
マクシムはクロエの手を強く引っ張った。部屋を出る時、隅で血に濡れたナイフが光っているのが見えた。それは誰の血なのか考えている間に、馬車にトランクと共に押し込まれていた。
夜更けの屋敷から闇に紛れて馬車が一台、門を出た。
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