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11 うるせえですよ!

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「顔以外ではぼくなんか、普通の男子小学生よりもかなりおとっているほうだからね。告白してつきあうようになれば、相手の女の子だってそのうちイヤでもそのことに気づくことになるんだから。結果、幻滅げんめつして別れたいと思ったとしても、それは仕方のないことだよ」

 ニヒルかつさびしげな微笑びしょうをこぼしつつ言う駿介しゅんすけに、わたしは胸がきゅん! と痛むのをおさえることが出来ませんでした。一〇歳にして一二人もの女の子から別れ話を切り出されたことのある男の子というのは、こうまで美しくせつない笑みを浮かべられるものなのでしょうか……。

「いまだから言うけどさ。告白されてはすぐふられて、なんてことが一二回もあったもんだから、ぼくも一時はさすがにちょっと落ちこんじゃったんだ。ぼくは顔以外にはなんの価値もないつまらない男なんだって気がして、うじうじなやんでたことがあったんだよ」

「……そうだったんですか。ちっとも気がつきませんでした」

 駿介の告白を聞いて、わたしはショックを隠し切れませんでした。可愛い弟が苦しんでいた時に力になってあげられなかったどころか、悩んでいたことに気づきもしなかったなんて。

「そりゃ、自分のそんな情けない姿なんか家族にだけは見せたくないからね。家では精一杯せいいっぱい虚勢きょせいを張っていたんだよ。て言うか、もし気づかれてたらそっちのほうがイヤだったし」

 駿介はおどけた口ぶりで言いました。もちろんその言葉も半分は本音でしょうけれど、もう半分はわたしが自分をめていることに気づき、気遣きづかって言ってくれたのだと思います。

 むかしから、人の気持ちをおもんばかることが出来るいい子でしたからねえ、駿介は。

 決して、顔以外はなんの取り柄もないような子ではないのですよ。かつて駿介とつきあっていたという一二人の女の子たちは、そのことに気がつけていなかったようですけどね。

「そんな時だったんだ。ぼくが高内たかうちさんと出会ったのは」

 そんなわたしの内心の思いをよそに、駿介は淡々たんたんと言葉をつむぎ続けます。

「お姉ちゃん、覚えてるかな? 高内さんが初めてうちに遊びに来た時、お姉ちゃんの部屋で三人一緒にゲームで遊んだことがあったよね?」

「え? ええ。覚えていますよ。どんなゲームだったかは忘れましたけど」

「プレイヤーがとある大陸にある小国の王さまになって、軍備ぐんびととのえたり資源を発掘はっくつしたり商業や農業を促進そくしんしたりしながらその国を大きく豊かに育てていくゲームだよ。四人まで同時にプレイ可能で、制限時間内に誰の国が一番大きくなるか競争も出来るってやつ」

「ああ。思い出しました。あの時は確かわたしの圧倒的勝利だったんですよね」

「うん。お姉ちゃんは近隣きんりんの弱い国ばかりを選んで戦争を仕掛しかけて併呑へいどんしたり、強力な兵器を買うため国民に重税じゅうぜいをかけたり、同盟どうめいを結んだ国にだましちを仕掛けてほろぼしたりといった非道ひどうな手段をしげもなく使うことで、あっと言う間に国を大きくしていったからね」

 うるせえですよ!

「ぼくは荒地あれち開拓かいたくして農地を広げたり税金を安くして人の往来おうらいを増やしたりといった方法を取っていたんだけど、これだとなかなかうまくいかないんだよね。お姉ちゃんにも、そんな生ぬるい戦略せんりゃくではいつまでってもわたしには勝てませんよとかってバカにされるし」

「バカになんてしていませんよ。ただあのゲームは戦争と謀略ぼうりゃくがメインで、裏切り裏切られ、だましだまされ、出し抜き出し抜かれの駆け引きが売りですからね。駿介のように牧歌ぼっか的な手段ばかり使っていては敵に食い物にされるだけですから、勝つのは難しいと思っただけです」

「あの時、正直ぼくもそう思わないこともなかったんだけど。でもその後に続けて高内さんが言ってくれた言葉で、ぼくははっと胸を突かれたような気持ちになったんだ」

 え? そうでしたっけ? わたしは首をひねりました。あの時ルルがそんな、駿介の心を打つようないいセリフなんか言いましたっけねえ?

「で? ルルはなんと言ったんです?」

「うん。『確かにゲームの趣旨しゅし的にはみっちゃんのやりかたのほうが正しいんだろうけど、あたしは駿介くんのやりかたのほうが好きだな。たとえゲームの中の話でも、誰かを裏切うらぎったり傷つけたりしたくないっていう駿介くんのやさしさ気高けだかさを、あたしはとても素敵だと思うよ』って」

 ほほを赤らめ、どこかこそばゆそうな微笑を浮かべながら駿介は言葉をつまびきました。

 おのれルルめ。あの時そんな悪魔のような甘言かんげんもちいて駿介を誘惑ゆうわくしていたとは。何故当時のわたしはルルのその言葉を聞き流してしまったのでしょうか? もし時間を巻き戻すことが出来るならそんなたわけたことを言い出す前に、ルルの口を永久にふうじてやりますのに!

「その高内さんの言葉を聞いて、ぼくはとってもうれしかったんだ。いままでぼくは顔以外のことを女の子にめられたことってあまりなかったから。ああ。このJKはぼくの顔じゃなくて心を、思いを、考えかたを見てくれて、その上で認めてくれたんだなあって思って」

 顔をさらに赤らめ、本当に嬉しそうに駿介は言いました。なんかいい話っぽくなっていますけれど、それなら女子高校生をJK呼ばわりするのはやめてくれませんかねえ。

「高内さんとしては何気なにげなくって言うか、単にフォローのつもりで心にもないことを言っただけかもしれないんだけどね。それでもあの言葉でぼくはずいぶん救われた気がするんだよ。いまから思えばあの時ぼくは、高内さんのことを好きになっていたのかもしれないな」

 そんなことがあったから、高内さんもぼくのことを好きになってくれたんだと知った時は天にものぼる気持ちだったと、駿介は恋する少年そのものの顔で言葉を続けやがりました。わたしは苦々しい思いで、頭をかかえてしまいます。

 たかがゲームの遊びかたにかこつけて内面を少しめられたくらいで、女の子のことを好きになるなんて。駿介ってば、美形のくせにちょっとちょろすぎではないですかね?

 この調子ではいつか、口先だけで甘い言葉をささやいてくるような悪い女にあっさりとだまされて、身も心も一途いちずささげてしまいかねません。とても心配です。姉として。


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