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15 これは正義のための行動なのです!
しおりを挟む渋谷さんの相手をしていると感じなくてもいい頭痛を感じてしまいそうなので、わたしは駿介のほうに目を向けました。
駿介は桜の木の幹に寄りかかりながら、そわそわと辺りを見回したりスマートフォンの時計をのぞきこんだりしています。
その顔はつい先程までは期待と不安が入り混じったようなと表現出来るものだったのですけれど、時間が経つにつれて次第に不安の色が濃さを増していくようです。
それもそのはず。駿介とルルとの待ち合わせ時間は午前一一時丁度だったはずなのですが、いまはもう一一時一五分。なのにまだルルは姿を見せる気配すらないのですから。
「弟くん、ずいぶんと落ち着かない様子だけど。本当に彼は高内と待ち合わせなんかをしてるのかい? 待ち合わせてるにしても場所とか時間とかを間違えてるってことはないのかな。あるいは高内のほうは約束を忘れてるとか……シリ?」
いったん言葉を終えた後、一拍置いてから慌てたように語尾をつけ加える渋谷さんでした。忘れるくらいなら、無理してそんな変語尾なんかつけなくていいのにです。
「いいえ。待ち合わせの時間は今日の午前一一時、この公園で間違いないです。それにルルがこの約束を忘れたりすっぽかしたりすることなんてありえません」
わたしは首を横にふりながら、きっぱりはっきり応えました。なにしろルルは恥知らずなことに駿介にベタ惚れですからね。もっともそのことを知らない渋谷さんはわたしの言葉に納得するどころか、どこか不審そうな目つきになって首をかしげます。
「なんでそう言い切れるんだい? そもそも、なんで高内と君の弟くんが待ち合わせなんかしてるのかがイマイチよく分からないね。まさかデートでもあるまいし」
「そのまさかですよ。二人は今日、デートの約束をしているんです」
「ほぅ?」
苦い顔になって応えたわたしとは対照的に、渋谷さんは興味深げな表情を浮かべて話の続きをうながすようにわたしの顔を見やります。仕方なしにわたしも、先日ルルに呼び出されて駿介にラブレターを渡すよう頼まれたくだりから、かいつまんで説明しました。
「へえ。そんな面白そうなことがあったのか。全然知らなかったよ。高内も、自分は男になんか興味はないよと言うような顔をして……いや尻をして、案外手が早いな」
「そこ、わざわざ言い直す意味あります?」
と言うかルルは別に男の子に興味がないというわけではないです。ただその興味の対象が著しくイケメンに偏っているためクラスメートとかの普通の男子には目もくれなかったので、はたから見ていると男に興味がないように思えただけでしょう。
まあ、男子のほうだってルルにはあまり興味がないようなので、お互いさまですが。
ちなみにわたしはフツメンでも全然オッケーなのですが、男子はわたしに対してもあまり興味や関心はないみたいなんですよねえ。何故なんでしょう?
「君の場合は『実はわたしは宇宙の破壊を目論む暗黒大明王を斃すべく選ばれた七人の神性少女の一人が現代地球に転生してきた仮の姿なんです』なんてわけの分からないことを誰に対しても真面目な顔で……いや尻で話すもんだから男子はちょっと引いてるんだと思うぞ」
「うわー。そんな長ゼリフ、よく息継ぎなしで一気に言えましたねえ。と言うか、心を読まないでくださいよ! エスパーですかあなたは? それに最後のところ、言い直す必要ないですから! 真面目なお尻ってもうわけ分かんないですよ」
ああ。つっこみどころが多すぎて、なにをどこから言えばいいのか分からねえです。
「別にエスパーじゃなくても、宮部の考えてることくらい顔を見れば……いや、尻を見れば誰にだって分かるよ。分かりやすい顔……じゃなくて尻をしてるからなあ、宮部は」
また意味のない訂正しやがりました。それも二連発です。これ絶対わざとだろこいつ。
「よく言うだろう? 『尻は口ほどにものを言う』って」
言わねーよですよ!
と言うか、そんなお尻イヤです。
「まあ、宮部の尻についてはちょっとこっちに置いていくとして」
「わたしのお尻、勝手に置いていかないで下さい。誰かに持っていかれたらどうするんですか」
「素朴な疑問なんだけど。今日が高内と弟くんのデートなんだっていうことを、どうして宮部は知ってたんだ?」
「ああ。それはこの前わたしがたまたま駿介の部屋の扉に耳をくっつけていたら、あの子が電話でルルと話している声が漏れ聞こえてきて。今度の日曜日に二人で一緒に出かけようとか、待ち合わせ時間と場所はとかいう話をしていたからです」
「たまたま扉に耳をくっつけてたって……」
何故か急に呆れたような目つきになって言う渋谷さんでした。心なしかどこか疲労しているような感じですね。別に疲れるようなことなんかしていないのにどうしたんでしょう?
「それで君はそんな変てこな変装をして、高内と弟くんのデートをのぞき見しようと待ち伏せてたわけかい。親友として言わせてもらうけど、あまりいい趣味とは言えないねえ」
「失礼な! のぞき見なんかではありません。これは正義のための行動なのです!」
右の拳を強く握り締めて天に向け掲げながら、選手宣誓をする甲子園球児のような口ぶりで言うわたしです。
そんなわたしを見て渋谷さんは『正義?』とでも問い返そうとしたのか口を開きかけましたが、わたしは慌ててその口をふさぎます。
と言うのも、ようやく公園に姿を現したからです。もう一人のターゲット、高内流溜が。
ルル参上!
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