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24 この調子じゃあ、遠からず言い負かされてしまいそうですよ!

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 ダイヤの指輪が見つからないとさわぎ始めたザマスおばさんはおばさんBも巻きこんで、あわててテーブルの周囲をあちこち探し始めましたが、それでも指輪は見つからないでいるようです。

 そんな彼女らの様子を見て、わたしはあきれて息をこぼします。ほら言わんこっちゃありません(言っていませんが)。あんな小さなものを置きっぱなしにするから、なくしたりするのですよ。

 どうしましょう。わたしも探すのを手伝ってあげるべきでしょうかと考えていると、ザマスおばさんは何故か怒りの表情を浮かべ、ルルと駿介しゅんすけのいるテーブルのほうへと歩み寄っていきます。

「あなたザマスね? アタシのダイヤの指輪をったのは!」

「……はあっ?」×2

 なんと。こともあろうにザマスおばさんは駿介の顔をじろりと憎々にくにくしげににらみつけると、そんなとんでもない言いがかりをつけたのでした。これには駿介はもちろん、ルルも目を真ん丸く見開きながら驚愕きょうがくの表情を浮かべます。

「はあじゃないザマス! 先程あなたがトイレに入っていた間は、指輪は間違いなくコーヒーカップの脇に置いてあったザマス。ところがあなたがトイレから出てきた途端とたん、指輪は影も形もなくなってしまったんザマスよ? つまりあなたが盗んだことは間違いない事実ザマス」

「そ、そんな! ぼくはそんなもの知りませんよ! そもそもダイヤの指輪なんてものがあったなんてことも知らなかったくらいなんですから」

「そうですよ! 駿介くんが泥棒どろぼうなんかするわけじゃないですか!」

 駿介はへどもどとした口調で無実をうったえ、ルルは椅子をって立ち上がると怒りのため顔を真っ赤にしながら、つばを飛ばしつつもう抗議こうぎをします。

「言いがかりザマスって? じゃあ何故その子がアタシたちのテーブルの脇を通った途端とたんにあたくしの指輪がなくなったんザマスか?」

「し、知らないですよ。本当です。信じてください」

「おおかた自分でしまっておいて忘れたとか、その辺に落としたとかじゃないんですかっ? 駿介くんに言いがかりをつける前に、まずきちんと探してみたらどうなんです!?」

「いいえ~。指輪がついさっきまでテーブルの上にあったのは私も見ていたから、しまったのを忘れたってことはありえないわね~。それに私もあちこち探してみたけど、指輪なんかどこにも落ちていないのよね~」

 おばさんBもザマスおばさんに加勢かせいしてそんなことを言ってきたため、駿介たちのテーブルは四人が二対二で言い争う大騒ぎになってしまいました。

「お客さま、どうなされたのですか?」

 やがて騒ぎを聞きつけて、ウェイトレスのお姉さんがけつけてきました。ザマスおばさんはものすごいいきおいでお姉さんのほうに向き直ると、駿介の顔を指差しながらヒステリックに怒鳴り声をあげます。

「この子が、アタシのダイヤの指輪を盗んだんザマス! しかもそのことを指摘してきされてもあやまりもせず、それどころか開き直ってそんなものは知らないなんてとぼける始末ザマスよ!」

「だって、ぼくは本当に知らないんですから……」

「まあ~。とぼけちゃって~。最近の子って、本当図々ずうずうしいわねえ~」

「ちょっと! 駿介くんは知らないって言ってるじゃないですか! これ以上失礼なことを言うようだったら、あたしも本気で怒りますよ!?」

 おばさん二人とルルはまるでトラとライオンの決闘けっとうよろしく、たがいに闘志とうしき出しにしながら一歩もゆずらぬ構えで声をらげていますが。そんな女性陣に対して肝心かんじんの駿介はいまにも泣きそうな表情で、どうしたらいいか分からないと言うようにおろおろしているだけです。

 そのため実質的に二対一となってしまい、ルルのほうが多少分が悪い感じですね。

「ど、どうしよう宮部みやべ? なんか大変なことになってしまったみたいだけど」

 渋谷しぶやさんも動謡どうようしたように顔面を蒼白そうはくにして、か細い声でわたしにささやきかけてきます。

 わたしは渋谷さんにはこたえることなく。無言のまま、おばさん二人がさっきまで座っていたテーブルの上にと目を向けました。

 そこに置かれていたのは砂糖さとうつぼやミルクピッチャーなどの他はほとんど中身がっていないコーヒーのカップと、水の入ったコップがそれぞれ二つずつ。あとはザマスおばさんのカップの脇に置かれた、リング状のストラップがじゃらじゃらとついたスマートフォンのみです。

「……なるほどねです」

「は? なるほどって、なにが?」

 渋谷さんの疑問ぎもんに応えるべく、わたしは口を開こうとしましたが。その直前にウェイトレスのお姉さんが事態じたいを整理しようとして声をあげたため、わたしは口唇くちびるに人差し指を当てて渋谷さんに静かにするよう求めてから、再び駿介たちのほうへ注意を向けます。

「つまり。こちらのお客さまがトイレから出てきて、そちらのお客さまのテーブルの脇を通った途端とたん、それまでテーブルの上にあったダイヤの指輪がなくなった、ということですか?」

「その通りザマス! つまりその子以外に、あたくしのダイヤの指輪を盗むチャンスがあった人物は存在しないザマス! だからその子が指輪を盗んだ犯人なんザマス!」

ぎぬだわ! 大体駿介くんがトイレから出てくるまで指輪がテーブルの上にあったっていうのはあなたたちの自己じこ申告しんこくでしょう? 本当はその前になくなっていたか、あるいは家に置き忘れてきただけなのを、盗まれたと勘違かんちがいしてるだけかもしれないじゃないですか!」

「そんなことはないわよ~。さっきも言ったけれど、指輪は確かにあったわよ~。私はこの目で見たし、この手でさわりもしたんだから~。その男の子がトイレから出てくるまでテーブルの上にあったのも確かよ~。私が保証するわ~」

「そんな……で、でも、仲間同士の証言なんて当てにならないし……」

 うわ。ルル、かなり押されていますねえ。この調子じゃあ、遠からず言い負かされてしまいそうですよ! 駿介は相変わらずおろおろしながら目に涙を浮かべているだけですし。

 愛らしい顔立ちをしているため、小さいころから周囲の人間にちやほやされることが多かったせいか、駿介は結構打たれ弱いんですよねえ。具体的には、敵意や悪意をもってせまってこられると、自分は悪くなくても萎縮いしゅくしてなにも言い返すことが出来なくなってしまうような。

 だから、わたしもむかしから思っていたのですよ。

 駿介は、わたしがずっと守っていてあげなくちゃいけないんだ、と。




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