妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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とんでもない幼馴染との再会

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「ふーん……大変だな。俺と結婚しようか、レティシア」

 目の前にいる幼馴染の、夏の青空のような瞳がキラリと光ったような気がした。
 かっちりとしたクラシックタイプのメイド服姿で給仕をしていた私は、ささっと左右を確認し、小声で騎士服姿の幼馴染をたしなめた。

「……冗談キッツいわ、パヴェル」
「俺がこんな笑えない冗談を言う男だと思うか? 俺は出自は王子だが、職業はお堅い近衛騎士だぞ?」

 パヴェル・アレクサンド・ナスタースシア、二十二歳。ナスタースシア王国、現王の八番目の弟である。王とは二十五歳も歳が離れている上、王には王妃様との間に五人もの王子がいた。

 パヴェルは一応王位継承権を持つが、そう簡単には王位は回ってこないということで、十六歳で騎士になり、今では王族や公爵家の警備に日々奔走している。
 彼と私は幼馴染だった。
 うちの父はその昔、実家の伯爵家を継ぐまではこの城で騎士として働いていた。
 先王は末の息子のため、同い年の友達がいたほうがいいだろうと考え、うちの父に命令して私を登城させていたのだ。

 幼い私たちはすぐに打ち解けあい、仲良くなった。でもそれはあくまで友人としての仲で、将来を誓い合ったりはしていない。

 ──バカなことを言ったわ。

 心の中で舌打ちをする。
 気のおけない幼馴染とひさしぶりに再会し、つい油断して余計なことをぺらぺら話してしまった。
 いくら二人きりとはいえ、妹に婚約者を寝取られて婚約破棄したことなど、こんなところで話すべきではなかった。

 パヴェルは不憫な私に同情して、結婚しようなどと言い出したのだろう。

 私は現在王城で侍女をしているが、これは本来、妹の役割だった。
 働くことは嫌いではないが、婚約者を寝取られたことはショックだ。しかも元婚約者は私の初恋の相手ときたもんだ。

 私は昔から、なんでも妹に奪われてきた。

 私のドレスも靴も宝石も、妹がほしいと騒げばすべて妹のものになる。両親は私とは違い、可愛らしい外見をした妹に甘かったから。
 初恋の相手だって、背中に羽のはえた妖精のように愛らしい妹のことを好きになった。
 
 寝取られた婚約者は、私が生まれて初めて愛した相手だった。
 もう、名前すら思い浮かべたくない。
 私は妹と元婚約者が愛し合う現場をみてしまったのだ。
 あの日のことはもう忘れたいのに、松脂のように頭の中にこびりついて離れない。
 
 もっとも辛かったのは、両親は不貞を犯した妹の味方をしたことだ。
 味方をしたどころか、妹のほうが跡取りとして相応しいと言い出す始末。
 妹可愛さに、両親は私にも落ち度があったんじゃないかと、罵った。
 信じられなかった。

 もう実家には帰れない。
 帰りたくもない。
 親の顔も見たくない。
 妹は私から婚約者だけでなく、実家も両親も何もかもを奪ったのだ。
 

「……気に入らねぇな。モーラも、ヨーグラー伯の次男坊も」

 パヴェルは私に求婚したあと、苛立たしげに、モーラとヨーグラー伯の息子をぶっ殺してやりたいと言った。
 モーラは妹の名である。
 婚約者は中堅伯爵家の次男だった。

 ふと、パヴェルは妹のモーラのことを嫌っていたことを思い出す。
 理由はよくわからない。
 とにかくパヴェルは昔から、私の味方をしてくれた。皆が妹の肩をもつ場面でもだ。

「ありがとう、パヴェル」
「何で礼なんか言うんだよ」
「ふふ、あなたが怒ってくれたから、胸がすっきりしたわ」

 この幼馴染は口は悪いが、いつも私の想いを代弁してくれた。
 不器用で優しい、パヴェルが好きだった。
 この気持ちが恋なのかどうかはわからないが。

 パヴェルと再会し、久しぶりに笑ったような気がする。
 持つべきものは昔馴染みの友達だ。

「なあ、レティシア」
「なあに?」
「復讐しないか? モーラとヨーグラー伯の息子によ」

 復讐、の言葉にぱちぱち瞬きする。
 パヴェルの切れ長の目は本気だった。
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