妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

文字の大きさ
4 / 13

この方にお仕え出来て良かった

しおりを挟む



「レティシア……。あなたの拳から、並々ならぬ闘気を感じます。何かあったのですか?」
「王妃様」

 構えを解き、振り返る。
 そこには道着姿の王妃様がいらっしゃった。

 王城では皆が皆、闘えるように訓練を受ける。それは貴族家出身の侍女も同様で、私はここに来て三ヶ月、毎日城内の道場で汗を流していた。

 武器を使う訓練ももちろん行うが、侍女は基本、丸腰だ。腰に剣を下げて給仕はできない。敵が急にあらわれても、対抗手段は己の拳のみということは充分ありえる。

 私は王妃様つきの侍女。弱くては話にならない。
 毎日、血の滲むような鍛錬を重ねてきた。
 汗の浮く拳に視線を落とし、それをさらに力を込めて握りしめた。

「王妃様、私、どうしてもブッ潰したい存在が出来たのです……!」
「レティシア、あなたの敵は想像がつきます。辛かったですね……」

 王妃様は懐からハンカチを取り出すと、目元を拭う。王妃様は最初から私の事情をご存知だった。当たり前だろう。本来、この役目は妹のモーラのものだったのだから。

 ──モーラでは、この役目は務まらなかったでしょうね。

 フッと鼻で笑う。
 妹は大の運動オンチだった。
 行進すれば手と足が同時に出、スキップすら満足にできなかった。
 体術なぞ到底会得は出来なかっただろう。

 私が鈍臭い妹のことを思い出していると、王妃様は泣き止んだのか、瞼を閉じ、軽く咳払いをなさった。

「レティシア、あなたの事情はよく存じあげております。でも、私の元に来てくれたのが貴女で良かったわ。こんなに覚えの良い娘は初めてよ」
「王妃様……」

 王妃様はめっちゃお強い。
 たぶん、その辺の将校なぞワンパンで倒す。
 つい先日も、王妃様は城に忍び込んだ間者の頭を掴みあげ、『……この程度の力で妾を殺せるとでも思ったか?』とつぶやき、壁に全身をめり込ませていた。

 正直、ここまで強けりゃ侍女を鍛えあげる必要なんかないだろうと思ったが、王妃様いわく『私がすぐに駆けつけられるとは限りません、それに人質にされたら厄介です。一人一人が強くなっておくことに越したことはありません』とのこと。
 ご立派な考えだ。

「私なんかまだまだです。でも、私は過去を乗り越えたいのです」
「モーラと、その夫の事ですか……。私も、モーラや夫、あなたのご両親の所業が許せなくて、イリス家に全力で圧力を掛け、社交界でいびりにいびり倒しています。おそらく、あと一月で勝手に自滅することでしょう。でも、あなたは自分の拳で実家を壊滅させたい……そうですね?」
「はい」

 深く頷く。

「パヴェルが私に言ってくれたのです。復讐しようと」
「まあ、あのおもらしばかりしていたパヴェルが?」

 おもらし。一体いくつの時の話をしているのか。
 王妃様とパヴェルは親子ほど歳が離れている。そりゃ、赤子時代のパヴェルのことも知っているだろうが。

 ちなみに私はパヴェルとは幼馴染だったが、他の王族の方々とはたいして面識がなかった。
 父は伯爵家の嫡男で近衛騎士だったが、あまり器用なタイプではなかったのだろう。わたしを使って王家に取り入ろうとはしなかったようだ。

 無骨で不器用な父のことは嫌いではなかったが、妹を過剰に可愛がるところだけは頂けない。


「パヴェルももう二十二歳ですよ?」
「そうですね、もう立派な大人ですね……。しかし、私から見ればまだまだひよっこです。どうせ復讐も、うちの主人を頼るつもりなのでしょう?」

 頷く。
 本当に王妃様には何もかもお見通しだ。

「ぬるすぎますね……。身内に制裁を加えて貰おうなど笑止‼︎」
「ですよね~~。まだ自分一人で実家に焼き討ちに行ったほうが何倍もマシです」

 少女小説や恋愛小説だと、実家の悪事を暴いてブッ潰すのがセオリーだが、残念ながらイリス家は不正などしていない。ここ数年は私が取り仕切っていたからね。

 だからこそ、己の拳で叩き潰す必要があった。

「……あなたの気持ちは痛いほど分かりますが、焼き討ちを行なってはあなたの罪になってしまいます。ここは私が復讐の場を整えましょう」
「えっ、いいんですか?」
「ええ、可愛い弟子のためですもの」

 王妃様はたおやかに微笑むと、私の手を取った。
 
 ──この方にお仕え出来て良かった……。

 妹に婚約者を寝取られ、跡取りの座からも引きずり落とされた事は悔しかったが、王城勤めが出来たことは不幸中の幸いだった。

 私は闘う力を得ることが出来たからだ。

 ──ぜったいにモーラもスオルクも両親もボコボコにしてみせる!

 私は決意を新たにした。
 ぜったいにあいつらをすり潰す‼︎
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。 そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。 母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。 アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。 だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

【完結】妹に婚約者まであげちゃったけれど、あげられないものもあるのです

ムキムキゴリラ
恋愛
主人公はアナスタシア。妹のキャシーにほしいとせがまれたら、何でも断らずにあげてきた結果、婚約者まであげちゃった。 「まあ、魔術の研究やりたかったから、別にいいんだけれどね」 それから、早三年。アナスタシアは魔術研究所で持ち前の才能を活かしながら働いていると、なんやかんやである騎士と交流を持つことに……。 誤字脱字等のお知らせをいただけると助かります。 感想もいただけると嬉しいです。 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...