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最高の舞台
しおりを挟むそれから十日後。
私は旧王城の古びた大広間にいた。
大きな天窓から、燦々と日の光が注がれている。鉄が錆びた匂いと少し埃っぽい空気に、いやがおうにでも気合いが入る。
私は王妃様から贈られた、新品の道着の帯を締め直した。黒い帯には赤い糸でこう刺繍されていた。
──あなたは、ぜったいに勝つ。
「レティシア。あなたのために最高の舞台を整えました……。──思いっきり、やりなさい」
「はい‼︎」
現在使われている王城は、十年前に建てられたものだ。
今、私や王妃様がいらっしゃるここは旧王城の大広間で、シャンデリアを含む装飾物の一切が取り払われている。
確かに王妃様の仰るとおり、最高の舞台だった。
金目のものはすでに運び出されている。王妃様いわく、『柱はアレですけど、壁ならいくらでも壊してくれてかまいませんからね。ハツリをする手間がはぶけますから』とのこと。
この旧王城は近々取り壊される予定になっていた。
新しい王城には劣るが、それなりの広さがあり、何より、古い建造物特有の荘厳さがある。
最初で、恐らく最後の姉妹ガチバトルにふさわしい場だ。
「頑張れよ、レティシア」
パヴェルが声を掛けてきた。
私に復讐のきっかけをくれた大事な幼馴染。
彼があの日、私の辛い心のうちを聞いてくれなければ、復讐を提案してくれなければ、きっと私は今でも毎日ウジウジしながら城で働いていた事だろう。
──パヴェルのためにも、私はあいつらをブッ潰す。
私が深呼吸していると、キィィと音を立てて、大きな扉が開かれた。
扉の先にはいたのは、髪を結い上げ、薄桃色のドレスを身にまとい、若奥様風の格好をした妹モーラだった。
「お姉様……」
モーラの声が、大広間に響く。
彼女は眉を顰めると、左右をキョロキョロ見回しながらこちらへとやってきた。
王妃様はモーラの姿を確認すると、スッと姿を消された。
姉妹対決に水をささないよう、配慮してくださったのだろう。
パヴェルも目立たないところでこちらを見守っている。
「その格好……。いったい何の御用ですの?」
モーラは私の髪飾りをつけ、私のお気に入りだったドレスを着ていた。
私は半端、追い出されるように実家の屋敷を出た。両親は『お前の部屋の物は後日王城へ送る』と言っていたのに、三ヶ月経った今も、ドレスの一着すら送られてこない。
案の定、モーラが私のドレスや髪飾りを猫糞していた。
いや、猫糞と言ったら猫に失礼だ。
モーラはただのウンコ野郎だ。
「おい、ウンコ野郎」
「ウッ……⁉︎ お姉様、いきなりなんですの⁉︎ 私を排泄物呼ばわりするなんて酷いわ」
「うるさいわね! どっちが酷いのよ! 後から産まれてきたくせに、人のモンを根こそぎ奪いやがって。ぜったいに許さない!」
「クッ……! 女の癖に、暴力で私に復讐しようというのですか? 野蛮ですわ!」
「うるせえっつってんだろ! 私はなぁ、実家やお前の不正を暴いて断罪するとか、そういうチマチマチマチマした復讐とか、嫌いなんだよ‼︎‼︎ ……女だって、拳で決着つけたっていいだろがァ‼︎ あァン⁉︎」
顎を突き出し、目をひんむいて、東洋の化け物阿修羅のごとくモーラを威嚇する。
ヒロインがしていい顔じゃないことは百も承知だが、私の腑は煮えくりかえっていた。
「ウオオオオオオオオラアアアア‼︎‼︎‼︎」
拳をさらに力強く握りしめ、私はモーラの右頰に向かってげんこつを繰り出した。
しかし、その渾身の拳は空を切る。
モーラはたしかにそこにいたはずなのに、消えていた。
「なに⁉︎」
「ほほほ……お姉様、甘いですわ!」
「‼︎……後ろ⁉︎」
背後にモーラがいる。
そう気がついた時には、私の身体はふっとび、大広間の壁に勢いよく叩きつけられていた。
「ぐはぁっ⁉︎」
ガラガラと、埃とともに崩れおちる壁。
ぶつかった場所は蜘蛛の巣のような割れ目が出来ていた。
──運動オンチのモーラが、なぜ……?
こちらの身体がふっ飛ぶほどの、すさまじい勢いの体当たり。
土埃のなか佇むモーラは、頭につけていた髪飾りを取り外し、床に投げ捨てた。
おいそれ、私のやぞ。
「……お姉様には隠してましたけど、実は私も武術の心得がありますの。ただではやられませんわ!」
モーラは重心を落とし、身構えた。
──薄桃色の、ドレス姿のままで。
「フッ……。そうこなくちゃ、叩き潰しがいが無いわ‼︎」
──私は絶対に勝つ‼︎
私は血が混じったツバをブッと吐き捨て、モーラの元へ突進した。
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