妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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最高の舞台

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 それから十日後。
 私は旧王城の古びた大広間にいた。
 大きな天窓から、燦々と日の光が注がれている。鉄が錆びた匂いと少し埃っぽい空気に、いやがおうにでも気合いが入る。

 私は王妃様から贈られた、新品の道着の帯を締め直した。黒い帯には赤い糸でこう刺繍されていた。

 ──あなたは、ぜったいに勝つ。


「レティシア。あなたのために最高の舞台を整えました……。──思いっきり、やりなさい」
「はい‼︎」

 現在使われている王城は、十年前に建てられたものだ。
 今、私や王妃様がいらっしゃるここは旧王城の大広間で、シャンデリアを含む装飾物の一切が取り払われている。

 確かに王妃様の仰るとおり、最高の舞台だった。
 金目のものはすでに運び出されている。王妃様いわく、『柱はアレですけど、壁ならいくらでも壊してくれてかまいませんからね。ハツリをする手間がはぶけますから』とのこと。
 この旧王城は近々取り壊される予定になっていた。

 新しい王城には劣るが、それなりの広さがあり、何より、古い建造物特有の荘厳さがある。
 最初で、恐らく最後の姉妹ガチバトルにふさわしい場だ。


「頑張れよ、レティシア」

 パヴェルが声を掛けてきた。
 私に復讐のきっかけをくれた大事な幼馴染。
 彼があの日、私の辛い心のうちを聞いてくれなければ、復讐を提案してくれなければ、きっと私は今でも毎日ウジウジしながら城で働いていた事だろう。

 ──パヴェルのためにも、私はあいつらをブッ潰す。

 私が深呼吸していると、キィィと音を立てて、大きな扉が開かれた。
 扉の先にはいたのは、髪を結い上げ、薄桃色のドレスを身にまとい、若奥様風の格好をした妹モーラだった。

「お姉様……」

 モーラの声が、大広間に響く。
 彼女は眉を顰めると、左右をキョロキョロ見回しながらこちらへとやってきた。

 王妃様はモーラの姿を確認すると、スッと姿を消された。
 姉妹対決に水をささないよう、配慮してくださったのだろう。
 パヴェルも目立たないところでこちらを見守っている。

「その格好……。いったい何の御用ですの?」

 モーラは私の髪飾りをつけ、私のお気に入りだったドレスを着ていた。
 私は半端、追い出されるように実家の屋敷を出た。両親は『お前の部屋の物は後日王城へ送る』と言っていたのに、三ヶ月経った今も、ドレスの一着すら送られてこない。

 案の定、モーラが私のドレスや髪飾りを猫糞ネコババしていた。
 いや、猫糞と言ったら猫に失礼だ。
 モーラはただのウンコ野郎だ。

「おい、ウンコ野郎」
「ウッ……⁉︎ お姉様、いきなりなんですの⁉︎ 私を排泄物呼ばわりするなんて酷いわ」
「うるさいわね! どっちが酷いのよ! 後から産まれてきたくせに、人のモンを根こそぎ奪いやがって。ぜったいに許さない!」
「クッ……! 女の癖に、暴力で私に復讐しようというのですか? 野蛮ですわ!」
「うるせえっつってんだろ! 私はなぁ、実家やお前の不正を暴いて断罪するとか、そういうチマチマチマチマした復讐とか、嫌いなんだよ‼︎‼︎ ……女だって、拳で決着つけたっていいだろがァ‼︎ あァン⁉︎」

 顎を突き出し、目をひんむいて、東洋の化け物阿修羅のごとくモーラを威嚇する。
 ヒロインがしていい顔じゃないことは百も承知だが、私のはらわたは煮えくりかえっていた。

「ウオオオオオオオオラアアアア‼︎‼︎‼︎」

 拳をさらに力強く握りしめ、私はモーラの右頰に向かってげんこつを繰り出した。
 しかし、その渾身の拳はくうを切る。
 モーラはたしかにそこにいたはずなのに、消えていた。

「なに⁉︎」
「ほほほ……お姉様、甘いですわ!」
「‼︎……後ろ⁉︎」

 背後にモーラがいる。
 そう気がついた時には、私の身体はふっとび、大広間の壁に勢いよく叩きつけられていた。

「ぐはぁっ⁉︎」

 ガラガラと、埃とともに崩れおちる壁。
 ぶつかった場所は蜘蛛の巣のような割れ目が出来ていた。

 ──運動オンチのモーラが、なぜ……?

 こちらの身体がふっ飛ぶほどの、すさまじい勢いの体当たり。
 土埃のなか佇むモーラは、頭につけていた髪飾りを取り外し、床に投げ捨てた。
 おいそれ、私のやぞ。


「……お姉様には隠してましたけど、実は私も武術の心得がありますの。ただではやられませんわ!」

 モーラは重心を落とし、身構えた。
 ──薄桃色の、ドレス姿のままで。

「フッ……。そうこなくちゃ、叩き潰しがいが無いわ‼︎」

 ──私は絶対に勝つ‼︎

 私は血が混じったツバをブッと吐き捨て、モーラの元へ突進した。
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