妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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「くっ……!」

 パヴェルは剣を抜き、こちらへ飛んできた瓦礫をいくつか叩っ切ったものの、次々に大の大人よりも大きな破片が飛んでくるのだ。
 キリが無かった。

 王妃様とモーラは、互いに拳から青白い閃光を放ちながら、殴りあっている。
 殴打する音に混じり、かすかに声が聞こえた。
 それは陛下の陛下に関することで、おそらく私が口にしたら不敬罪になる。
 私たちは知りたくなかった主君の情報を耳にしながら、次々に飛んでくる瓦礫片を黙々と叩き割った。
 ひゅんひゅん飛んでくる瓦礫片を、虚無顔でかわしながら思った。

 ──あれ、私、何でここにいるんだっけ……?

 いや、覚えている。
 忘れていない。
 でも、一瞬忘れそうになった。この世紀末感半端ない空間にいると、己の怒りなどちっぽけなものに感じるのだ。
 強大な力を持つ二人の闘いは、私の復讐心を奪ってしまったのかもしれない。
 それに、必死で私を守ろうとするパヴェルを見て、思うことがないと言ったら嘘になる。
 ここを上手く切り抜けて、この人と一緒になりたいと、強く思ってしまった。

「クソッ! キリがないな」
「二人の闘いが終われば、瓦礫ももう飛んで来ないはずよ」

 パヴェルの言うとおり、さっさと逃げれば良かったのだ。でも、二人の闘いの行方がどうしても気になった。

 青白い光の塊となって宙に浮き、殴り合う二人。
 目で追うのがやっとだ。
 私ははじめから、モーラの相手ではなかったのだ。

「……義姉上は、もとから自分がモーラと闘うつもりだったんだろうな。レベルが違う」
「ええ」

 一侍女のために用意するには、この復讐の舞台は立派すぎた。
 
 ──王妃様……

 長年連れ添った、愛する人に裏切られた痛みはいかばかりか。婚約者に裏切られた時でさえ、私は四肢を引き裂かれるような思いをしたのに。
 王妃様は私にこれだけ良くしてくださったのに、私は何もできない。
 悔しかった。

「レティシア!」

 パヴェルは私の名を呼ぶ。
 二つあった光の塊の一つが、ものすごい勢いで地面に叩きつけられたのだ。

 とうとう決着がついた。
 私たちは吹き飛ばされないように、互いに抱きつく。
 ごくりと喉をならし、朦々と立ちこめる土埃の先を見つめる。


 土埃の中、その場に立っていたのは王妃様だった。
 逞しい背中が見えた。

「王妃様!」

 パヴェルと二人、わっと感嘆の声を出し、王妃様の元へ駆け寄る。やっと闘いは終わったのだ。
 脚をもつれさせながら、瓦礫の山となった地面を飛び越える。
 涙で目の前が霞んだ。
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