12 / 13
ここからまた、はじまる
しおりを挟むモーラは王妃様の眼下で事切れていた。
片目の眼球は吹き飛び、首は明後日の方角に折れ曲がっている。
ひどい死に様だ。
念のため脈を確認したが、何も感じられなかった。
たった今、妹が死んだというのに、感情が何も浮かばない。
あえて言うならば、ホッとした。
もっとスッキリするかと思っていたのに。
ざまぁみろという気持ちよりも、妹がこの世からいなくなった、安心感のほうが強いかもしれない。
妹と仲が良かった瞬間が少しでもあれば彼女の死を悲しく思ったかもしれないが、残念ながらまったくない。
妹は生まれながらの敵だった。
ずっと、私の人生を害する存在だった。
私は王妃様に深々と頭を下げた。
「……ありがとうございました、王妃様」
「……レティシア、ごめんなさい。あなたのドレスがぼろぼろになってしまいましたね」
「そんなの、いいんですよ。モーラが死んだのです。それで、私は充分です」
「だめよ。お詫びに、もっともっと素敵なドレスを貴女に贈るわ」
「王妃様……」
王妃様の優しい微笑みに、また頰に熱い涙が伝う。
隣にいたパヴェルが、眉尻を下げた。
「レティシア……」
「パヴェルもありがとう。私を守ってくれて」
「いや、俺は……。たいして役に立たなかったよな……」
「そんなことないわよ」
お互い、土埃で真っ黒な顔をして小さく笑いあう。
復讐劇は結局、王妃様頼みになってしまったけど、私はこれで良かったと思う。
もしも私一人で復讐を貫徹させていたら、今、こんな感情は芽生えていないだろう。
私を守ろうとするパヴェルはとてもかっこよかった。
私はパヴェルが好きだ。口は悪いけど、がむしゃらに私の復讐に協力してくれようとした彼に、胸の奥が疼いた。
「……パヴェル」
「何だ?」
「あなたのことが大好き。……こんな私だけど、結婚してくれる?」
まあ! と王妃様が感嘆の声をあげる。
パヴェルは目を見開いて固まってしまった。
かかかーーっと、みるみるうちに顔が赤く染まる。
「お、おっ、マジか……! いいのか? 俺はクソ嬉しいけどよ……」
「まあ! まあ! 素敵ね~~‼︎ 盛大な結婚式をしましょうね!」
照れるパヴェルに、大喜びする王妃様。
私はすべてを失ってなど、いなかった。
私を愛してくれる人と、まるで自分のことように私の幸せを喜んでくれる主人がいた。
胸の奥がじわりと温かくなる。
「さっ、一度戻りましょう。もろもろの報告を陛下へしなくては。……モーラは死にました。旧王城の崩落に巻き込まれて。……突如起こった未曾有の災害に、あなたの妹は遭ってしまった。そう、陛下へお伝えします」
「よろしくお願いします」
災害でもなんでもなく、人同士の争いでこの旧王城の一部は消し飛んでしまったのだが、王妃様の発言は絶対だ。
パヴェルに手を引かれ、瓦礫の山を歩く。
晴れ渡っていた空は、すっかり橙色に染まっていた。
心地よい、夕暮れの風が吹く。
私の人生は、ここからまた始まるのだ。
21
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】妹に婚約者まであげちゃったけれど、あげられないものもあるのです
ムキムキゴリラ
恋愛
主人公はアナスタシア。妹のキャシーにほしいとせがまれたら、何でも断らずにあげてきた結果、婚約者まであげちゃった。
「まあ、魔術の研究やりたかったから、別にいいんだけれどね」
それから、早三年。アナスタシアは魔術研究所で持ち前の才能を活かしながら働いていると、なんやかんやである騎士と交流を持つことに……。
誤字脱字等のお知らせをいただけると助かります。
感想もいただけると嬉しいです。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる