妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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ここからまた、はじまる

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 モーラは王妃様の眼下で事切れていた。
 片目の眼球は吹き飛び、首は明後日の方角に折れ曲がっている。
 ひどい死に様だ。
 念のため脈を確認したが、何も感じられなかった。

 たった今、妹が死んだというのに、感情が何も浮かばない。
 あえて言うならば、ホッとした。
 もっとスッキリするかと思っていたのに。

 ざまぁみろという気持ちよりも、妹がこの世からいなくなった、安心感のほうが強いかもしれない。

 妹と仲が良かった瞬間が少しでもあれば彼女の死を悲しく思ったかもしれないが、残念ながらまったくない。
 妹は生まれながらの敵だった。
 ずっと、私の人生を害する存在だった。

 私は王妃様に深々と頭を下げた。


「……ありがとうございました、王妃様」
「……レティシア、ごめんなさい。あなたのドレスがぼろぼろになってしまいましたね」
「そんなの、いいんですよ。モーラが死んだのです。それで、私は充分です」
「だめよ。お詫びに、もっともっと素敵なドレスを貴女に贈るわ」
「王妃様……」

 王妃様の優しい微笑みに、また頰に熱い涙が伝う。
 隣にいたパヴェルが、眉尻を下げた。

「レティシア……」
「パヴェルもありがとう。私を守ってくれて」
「いや、俺は……。たいして役に立たなかったよな……」
「そんなことないわよ」

 お互い、土埃で真っ黒な顔をして小さく笑いあう。
 復讐劇は結局、王妃様頼みになってしまったけど、私はこれで良かったと思う。

 もしも私一人で復讐を貫徹させていたら、今、こんな感情は芽生えていないだろう。
 私を守ろうとするパヴェルはとてもかっこよかった。 

 私はパヴェルが好きだ。口は悪いけど、がむしゃらに私の復讐に協力してくれようとした彼に、胸の奥が疼いた。

「……パヴェル」
「何だ?」
「あなたのことが大好き。……こんな私だけど、結婚してくれる?」

 まあ! と王妃様が感嘆の声をあげる。
 パヴェルは目を見開いて固まってしまった。
 かかかーーっと、みるみるうちに顔が赤く染まる。

「お、おっ、マジか……! いいのか? 俺はクソ嬉しいけどよ……」
「まあ! まあ! 素敵ね~~‼︎ 盛大な結婚式をしましょうね!」

 照れるパヴェルに、大喜びする王妃様。
 私はすべてを失ってなど、いなかった。
 私を愛してくれる人と、まるで自分のことように私の幸せを喜んでくれる主人がいた。
 胸の奥がじわりと温かくなる。


「さっ、一度戻りましょう。もろもろの報告を陛下へしなくては。……モーラは死にました。旧王城の崩落に巻き込まれて。……突如起こった未曾有の災害に、あなたの妹は遭ってしまった。そう、陛下へお伝えします」
「よろしくお願いします」

 災害でもなんでもなく、人同士の争いでこの旧王城の一部は消し飛んでしまったのだが、王妃様の発言は絶対だ。

 パヴェルに手を引かれ、瓦礫の山を歩く。
 晴れ渡っていた空は、すっかり橙色に染まっていた。

 心地よい、夕暮れの風が吹く。
 私の人生は、ここからまた始まるのだ。
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