【R18・長編版】王太子の当て馬係

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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第一章

◆側女に恋慕するなど






「ベイジル、大丈夫?」
「は、はい……お気遣い頂き、ありがとうございます」

 ベイジルになみなみに水が注がれたグラスを渡すと、彼はごくごくと喉を鳴らし、一気にそれを飲み干した。

 一体何が起こったのかと言えば、ベイジルはたった今、盛大に吐精した。
 私が彼の陽根を口に含んだと同時に彼は叫び、がくがく腰を震わせたと思ったら、私の口の中へと熱い白濁を流し込んだのだ。
 喉に直接注がれたドロドロとした昂り。えずいた私は思わず床へ吐き出してしまった。

「申し訳ございません……」
「いいのよ、生理現象ですもの」

 ベイジルは泣いていた。彼は私の口の中へ出すつもりは微塵もなかったらしい。しかし、はじめて感じる生温かい感触に耐えられ無かったそうだ。
 彼はやはり童貞だった。

「今日ははじめてだったから耐えられなかったかもしれないけど、何回も練習すればきっと慣れるわ」
「ありがとうございます! そうですよね、千回も二千回もすれば、きっと耐えられるようになりますよね!」
「任期は三年だから、二千回は無理ね」

 ベイジルは腰に大判タオルを巻いていたが、脚の間がまたこんもり盛り上がっている。あれだけ精を吐き出したのに。

 同じベッドに座る私たちの前で、ミラテはう~~んと唸っている。

「米汁さん、ちょっと敏感すぎますね~」
「申し訳ございません、ミラテ様……」
「リアネ様のような性体験のまったくない方の手技口技であっさり果てちゃうなんて。もしかして米汁さん、リアネ様に惚れてます?」
「ぶふぅっ‼︎」

 ベイジルはおかわりの水を吹き出した。
 私はゲホゲホと激しく咳き込む、彼の広い背中をさする。

「わ、私はリアネ様の御付きである前に、王太子殿下の側近の近衛騎士です! 側女の女性に恋慕するなどあり得ません!」
「そうですわ、ミラテ様。それに我々はまだ出逢ったばかり。よく知りもしない相手を好きになるなんて……」

 ベイジルは素直な良い方だなと思うが、それだけだ。ベイジルだって、私のことはただの護衛対象としか思っていないはず。私に対し顔が赤くなりがちなのは、女性にまだ免疫がないからだろう。

 反論する私たちに、ミラテはにやにやしている。
 そして、聞き捨てならない言葉を発した。

「あなたたち、とても良いペアですね。きっと王太子殿下も気にいられると思いますわ」


 ◆


 後宮に来て早くも二週間が経った。
 まだ、王太子殿下からのお渡りはない。
 ここに来てから、すでに月の触りは一回迎えている。いつ交わっても問題ないはずなのに。

 そっと下腹に手をやる。ここの後宮には、破瓜の血を王や王位継承者に浴びせてはならないというルールがある。私は張り形で処女の証を失っていた。
 冷めた紅茶が半分入ったカップを見つめながら、ため息をつく。
 処女膜は破られた。もう後戻りはできない。
 一回王太子殿下と交われば心も決まると思うのに、なかなかお渡りがないのでヤキモキしていた。
 後宮に来た初日は王太子殿下と交わるなんて……と思っていたが、本格的な閨教育が始まり、具体的に自分がするべきことが分かってくると、役目がなかなか果たせない焦りの気持ちが沸いてくる。
 ベイジルも己の身を犠牲にしてまで、協力してくれているのに。ベイジルのためにも、なんとかお役目を果たしたい。

 考え事をしていると、部屋の戸を叩く音がした。
 返事をすると、明るい声が飛んできた。

「リアネ様……! 庭師からお花を頂いてきました。飾っても良いでしょうか?」

 ベイジルだ。彼は両手いっぱいの紫陽花を抱えてきた。
 満面の笑みを浮かべながら。

「まあ、どうしたの?」
「雨ばかり降っていてお外へ出られないでしょう? 退屈かと思いまして。ここのお部屋から中庭は見えますけど、ちょっと遠いですからね」

 紫色や薄緑色の花弁の間から覗く笑顔がまぶしい。
 私も彼に微笑み返した。

「ありがとう、ベイジル。とても嬉しいわ」

 お礼を言うと、頬を染めるベイジルはとても愛らしいと思う。歴とした成人男性を愛らしいなどと表現するのは間違っているかもしれないけど、ベイジルを見ていると微笑ましい気持ちになった。
 ベイジルと私は同じ年齢だが、ふと、弟がいたらこんな感じだろうかと思った。私は末っ子で、下の子を可愛がるという経験がなかった。お姉さんぶれるのはなんとなく嬉しい。

「こ、こちらこそ! 私に素敵な笑みを頂きありがとうございます!」
「ふふっ、一緒に花を飾りましょうね。ハサミを取ってくるわ」

 床の上にベイジルが持ってきてくれた麻布を広げ、紫陽花を並べる。桃色、紫、薄緑……と花弁の色ごとに分ける。確かに紫陽花は土の成分で花弁の色が決まるはず。ベイジルは色んな色の紫陽花を集めるために、わざわざ複数の花壇を回ったのだろうか。

「大変だったでしょう? こんな色とりどりの紫陽花を集めるの」
「リアネ様の喜ぶ顔が見られるのなら、これしき! 苦労でも何でもありませんよ」
「ありがとう」

 ベイジルの気遣いが嬉しい。

 ボイツェフから婚約破棄されてからと言うもの、ずっと心は沈んだままだったが、ベイジルと一緒にいると不思議と心が軽くなった。彼に閨事の練習台をさせているのは申し訳ないと思うが、彼があれは仕事だと割り切ってくれているからか、気まずくなることもなく、交流が出来ている。
 ベイジルにはいくら感謝してもしたりない。
 もしも私の御付きの騎士が彼ではなかったら、私は今頃辛い閨教育に涙していたかもしれない。


「うん、良い感じね!」

 部屋の中にある、四箇所の花瓶に紫陽花を生けた。
 ちょうど前の花がしなびてきたところだったので、部屋自体が新鮮になったような気がする。

「ベイジル、お礼に紅茶を淹れるわ」
「わぁっ、ありがとうございます。頂きます!」

 冷めた紅茶のカップを片付けながら、ベイジルに声をかける。彼の人懐っこい感嘆の声に、また私の心は温まった。

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