46 / 57
第46話 絶体絶命の危機
しおりを挟む
(くそっ、身体が動かない……っ!)
クレマティスが一人でストメリナと応戦しているというのに、何もできない。
ディルクはクレマティスが張ったバリアの中でもがこうとするも、腕一つ持ちあげることができなかった。
魔法も、スペルを唱えようにも集中がすぐに途切れてしまう。
(情けない……)
クレマティスを危険なめに遭わせたくないと思い、あえて二手に分かれる提案をし、彼にはストメリナがいない道を選ばせたのに。
結局、クレマティスを危険に晒しているうえに、彼に助けられてしまった。
(ちくしょう……! 俺は何もできないのか)
クレマティスは先ほどから両刃剣を召喚しては、ストメリナへ向けて撃ち込もうとしているが、悉く巨氷兵に弾かれている。
(クレマティス将軍がいくら魔力自慢でも、いつまでもこの状態が持つとは思えない。俺を守るためのバリアもずっと張り続けているんだぞ……!)
胸骨を折ってしまったのか、息がしづらい。ぜえはあとディルクは荒い息をはく。
この状況をなんとか打開せねばと頭を動かそうにも、脳に酸素が回らないせいか、意識を保っているのがやっとだ。
ディルクの視界が暗くなりだした、その時。
彼はこの場に大きな魔力が近づくのを、ふいに感じた。
(なんだ……?)
それはどんどん近づいてくる。
だが、ストメリナやクレマティスは気がついていないようだ。
「あっはははっ!! 無駄っ! ムダよっ! そんなぬるい攻撃で、私を刺せると思って?」
「くっ……!」
クレマティスの攻撃を難なく防ぎきったストメリナは、高笑いをする。そして、彼女は反撃に出ようした。
「……宰相の息子だからって、お父様から目をかけられている憎い男。ずっとあんたのことが邪魔だったのよ、クレマティス将軍……!」
ストメリナはその頭上に巨大な氷の塊を呼び出す。
幸か不幸か、坑道内でもこの場は他の通り道よりもずっと天井が高かった。彼女は大岩のような氷を呼び出すことができたのだ。
「死ねっっ!!」
ストメリナが叫ぶと、ものすごい勢いでこちらへ向かって氷の塊が飛んでくる。
もう駄目だとディルクが覚悟した、その時だった。
「焔よ!!」
ディルクとクレマティスの目の前に、突如火柱が何本も上がった。
ストメリナが放った巨大な氷の塊は、火柱の間を通り抜けることができず、その場で割れてぼとぼとと落ちていった。
「……アザレア様!!」
クレマティスが後方へ向かって叫ぶ。
「クレマティス将軍、ディルク様っ! ご無事ですか!?」
ディルクが感じ取った魔力の正体。それはアザレアのものだった。
「ディルク殿、大丈夫ですか!?」
「さ、サフタール殿……」
サフタールも一緒だった。
(ああ……情けねぇな)
ディルクは、アザレアとサフタールがこの場に駆けつけてくれて、心底安心してしまった自分が情けないと思った。
(俺とクレマティス将軍だけでなんとかするつもりだったが……)
ほっとしたせいか、ディルクの目尻からは涙がこぼれ落ちる。
「ふんっ、何人来ようと無駄よ。……むしろちょうどいいわ。あんた達みんな、まとめて殺してあげるわっ! 行けっ! 巨氷兵よっ!!」
「そうはさせないわ!! ストメリナ!!」
ストメリナの命令を受けて、ウオオオオオオオオと唸り声をあげ、立ち向かってくる二体の巨氷兵。それを、アザレアはぐるぐるととぐろを巻く巨大な火柱を起こし、足止めしようとする。
(朱い魔石を取り込んだ巨氷兵相手に、火柱は通用するのか?)
ディルクは心配したが、朱く染まった巨氷兵にも炎魔法は効果的だったらしく、二体の巨氷兵は炎を纏った幅広剣を地面に落とすと、その場で苦しみ出したのだった。
(嘘だろ……!? あの巨氷兵が……!!)
ディルクは信じがたい光景に、目を見開く。
「クレマティス将軍、私がバリアを張りますので、あなたはディルク殿の手当を」
「サフタール様、かたじけない……っ! ……ディルク様っ!」
クレマティスはサフタールに頭をサッと下げると、泣き出しそうな顔をしながらこちらへ向かってくる。
「大丈夫ですか? ディルク様。苦しくないですか? 今、私がお助けしますっ!」
「いや、俺のことはどうでもいいんで、サフタール殿と一緒にバリアやらシールドやらを張ってきてくださいよ……」
クレマティスはディルクの側に両膝をつくと、彼の身体の上に淡い光を呼び出した。
「……私が参戦したところで、邪魔にしかなりません。アザレア様もサフタール様も、私とは比べ物にならない力をお待ちだ」
やるせないと言わんばかりの顔をするクレマティス。
彼のその表情に、ディルクの胸の奥が軋む。
「……クレマティス将軍」
「なんですか? ディルク様」
「助けてくれて、ありがとうございます。あと、迷惑かけてすみません……」
ディルクが礼と謝罪の言葉を口にすると、赤い目をしたクレマティスは、スンッと鼻を鳴らし、首をおおきく横に振ったのだった。
クレマティスが一人でストメリナと応戦しているというのに、何もできない。
ディルクはクレマティスが張ったバリアの中でもがこうとするも、腕一つ持ちあげることができなかった。
魔法も、スペルを唱えようにも集中がすぐに途切れてしまう。
(情けない……)
クレマティスを危険なめに遭わせたくないと思い、あえて二手に分かれる提案をし、彼にはストメリナがいない道を選ばせたのに。
結局、クレマティスを危険に晒しているうえに、彼に助けられてしまった。
(ちくしょう……! 俺は何もできないのか)
クレマティスは先ほどから両刃剣を召喚しては、ストメリナへ向けて撃ち込もうとしているが、悉く巨氷兵に弾かれている。
(クレマティス将軍がいくら魔力自慢でも、いつまでもこの状態が持つとは思えない。俺を守るためのバリアもずっと張り続けているんだぞ……!)
胸骨を折ってしまったのか、息がしづらい。ぜえはあとディルクは荒い息をはく。
この状況をなんとか打開せねばと頭を動かそうにも、脳に酸素が回らないせいか、意識を保っているのがやっとだ。
ディルクの視界が暗くなりだした、その時。
彼はこの場に大きな魔力が近づくのを、ふいに感じた。
(なんだ……?)
それはどんどん近づいてくる。
だが、ストメリナやクレマティスは気がついていないようだ。
「あっはははっ!! 無駄っ! ムダよっ! そんなぬるい攻撃で、私を刺せると思って?」
「くっ……!」
クレマティスの攻撃を難なく防ぎきったストメリナは、高笑いをする。そして、彼女は反撃に出ようした。
「……宰相の息子だからって、お父様から目をかけられている憎い男。ずっとあんたのことが邪魔だったのよ、クレマティス将軍……!」
ストメリナはその頭上に巨大な氷の塊を呼び出す。
幸か不幸か、坑道内でもこの場は他の通り道よりもずっと天井が高かった。彼女は大岩のような氷を呼び出すことができたのだ。
「死ねっっ!!」
ストメリナが叫ぶと、ものすごい勢いでこちらへ向かって氷の塊が飛んでくる。
もう駄目だとディルクが覚悟した、その時だった。
「焔よ!!」
ディルクとクレマティスの目の前に、突如火柱が何本も上がった。
ストメリナが放った巨大な氷の塊は、火柱の間を通り抜けることができず、その場で割れてぼとぼとと落ちていった。
「……アザレア様!!」
クレマティスが後方へ向かって叫ぶ。
「クレマティス将軍、ディルク様っ! ご無事ですか!?」
ディルクが感じ取った魔力の正体。それはアザレアのものだった。
「ディルク殿、大丈夫ですか!?」
「さ、サフタール殿……」
サフタールも一緒だった。
(ああ……情けねぇな)
ディルクは、アザレアとサフタールがこの場に駆けつけてくれて、心底安心してしまった自分が情けないと思った。
(俺とクレマティス将軍だけでなんとかするつもりだったが……)
ほっとしたせいか、ディルクの目尻からは涙がこぼれ落ちる。
「ふんっ、何人来ようと無駄よ。……むしろちょうどいいわ。あんた達みんな、まとめて殺してあげるわっ! 行けっ! 巨氷兵よっ!!」
「そうはさせないわ!! ストメリナ!!」
ストメリナの命令を受けて、ウオオオオオオオオと唸り声をあげ、立ち向かってくる二体の巨氷兵。それを、アザレアはぐるぐるととぐろを巻く巨大な火柱を起こし、足止めしようとする。
(朱い魔石を取り込んだ巨氷兵相手に、火柱は通用するのか?)
ディルクは心配したが、朱く染まった巨氷兵にも炎魔法は効果的だったらしく、二体の巨氷兵は炎を纏った幅広剣を地面に落とすと、その場で苦しみ出したのだった。
(嘘だろ……!? あの巨氷兵が……!!)
ディルクは信じがたい光景に、目を見開く。
「クレマティス将軍、私がバリアを張りますので、あなたはディルク殿の手当を」
「サフタール様、かたじけない……っ! ……ディルク様っ!」
クレマティスはサフタールに頭をサッと下げると、泣き出しそうな顔をしながらこちらへ向かってくる。
「大丈夫ですか? ディルク様。苦しくないですか? 今、私がお助けしますっ!」
「いや、俺のことはどうでもいいんで、サフタール殿と一緒にバリアやらシールドやらを張ってきてくださいよ……」
クレマティスはディルクの側に両膝をつくと、彼の身体の上に淡い光を呼び出した。
「……私が参戦したところで、邪魔にしかなりません。アザレア様もサフタール様も、私とは比べ物にならない力をお待ちだ」
やるせないと言わんばかりの顔をするクレマティス。
彼のその表情に、ディルクの胸の奥が軋む。
「……クレマティス将軍」
「なんですか? ディルク様」
「助けてくれて、ありがとうございます。あと、迷惑かけてすみません……」
ディルクが礼と謝罪の言葉を口にすると、赤い目をしたクレマティスは、スンッと鼻を鳴らし、首をおおきく横に振ったのだった。
67
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
これで、私も自由になれます
たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる