最近、夫の様子がちょっとおかしい

野地マルテ

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夫婦の別れ

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 話し合いの場であるシティホテルの一室には、シーラを呼び出したジェイムス、それにシーラの夫ジョン、シーラの付き添い人であるレオポールがいた。

 シーラに「別れてほしい」と言ったジョンは、テーブルの上に通帳や権利書を並べる。

「……夫婦の財産はすべてシーラ、君のものだ。役所の退職金も君に渡す。だから、私と別れてほしい」

(二十年も連れ添ったのに……夫婦の別れとは呆気ないものだな)

 レオポールは三十九年生きているが、結婚したことは一度もない。女性と長く付き合った経験すらない。だから、伴侶パートナーとの別れを迎えた者の気持ちがどんなものであるのか、想像するしかなかった。

(……俺なら、シーラさんと会えなくなるぐらいなら死んだほうがマシだな)

 レオポールはもう、五年もシーラに片思いしている。こんなにも長い間、一人の女性を想ったことは他になかった。

「はい……」

 シーラはすべての感情が消え失せたような、そんな顔をして、頷いた。

 レオポールはシーラに嘘をついていた。
 ジョンの浮気調査をした際、『ジェイムスと出会ってジョンは男に目覚めた』と言ったが、あれは嘘だ。
 元々ジョンがゲイだったのだと、そんな残酷なことは言えなかったのだ。

 ◆

 シーラはジョンと離婚した。
 夫婦で築いてきた財産はすべてシーラの物となり、役所を辞めたジョンの退職金も、慰謝料としてまるまる彼女に渡された。

 ジョンはもう、この街にいない。
 ジェイムスと共に旅立ってしまった。

 寄宿学校に通うヨエルには、まだ離婚のことは伝えていない。長期休暇で戻ってきた時にゆっくり話そうとシーラは考えている。

(まだ十四歳の多感な時期に両親が離婚だなんて……。ショックよね)

 それにヨエルは仲が良かった両親の姿しか知らないのだ。離婚しただなんて、すぐには信じられないかもしれない。
 ヨエルのこと、今後のこと。考えなければならないことは山ほどある。
 だが、夫が浮気しているかもしれないと、悩み続けたあの三ヶ月間のことを思えば、まだ気は楽だ。

「シーラさん、大丈夫かい?」
「ええ……まだ、整理がついてないこともあるけど」
「しばらく仕事を休んでもいいんだよ」

 それにレオポールが何かと気遣ってくれる。
 彼には感謝しかなかった。

「そうだ。明日は事務所も休みだし、家で呑まないか?」
「……レオポールさんの家で?」
「気分転換に、どうかな?」

 レオポールは指先で少し赤くなった頬を掻いている。
 シーラはぱちぱちと瞬きした。

(そうか、私は独身になったものね……)

 男が一人暮らししている家に行っても、誰にも咎められることはないのだ。
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