11 / 14
夫婦の別れ
しおりを挟む
話し合いの場であるシティホテルの一室には、シーラを呼び出したジェイムス、それにシーラの夫ジョン、シーラの付き添い人であるレオポールがいた。
シーラに「別れてほしい」と言ったジョンは、テーブルの上に通帳や権利書を並べる。
「……夫婦の財産はすべてシーラ、君のものだ。役所の退職金も君に渡す。だから、私と別れてほしい」
(二十年も連れ添ったのに……夫婦の別れとは呆気ないものだな)
レオポールは三十九年生きているが、結婚したことは一度もない。女性と長く付き合った経験すらない。だから、伴侶との別れを迎えた者の気持ちがどんなものであるのか、想像するしかなかった。
(……俺なら、シーラさんと会えなくなるぐらいなら死んだほうがマシだな)
レオポールはもう、五年もシーラに片思いしている。こんなにも長い間、一人の女性を想ったことは他になかった。
「はい……」
シーラはすべての感情が消え失せたような、そんな顔をして、頷いた。
レオポールはシーラに嘘をついていた。
ジョンの浮気調査をした際、『ジェイムスと出会ってジョンは男に目覚めた』と言ったが、あれは嘘だ。
元々ジョンがゲイだったのだと、そんな残酷なことは言えなかったのだ。
◆
シーラはジョンと離婚した。
夫婦で築いてきた財産はすべてシーラの物となり、役所を辞めたジョンの退職金も、慰謝料としてまるまる彼女に渡された。
ジョンはもう、この街にいない。
ジェイムスと共に旅立ってしまった。
寄宿学校に通うヨエルには、まだ離婚のことは伝えていない。長期休暇で戻ってきた時にゆっくり話そうとシーラは考えている。
(まだ十四歳の多感な時期に両親が離婚だなんて……。ショックよね)
それにヨエルは仲が良かった両親の姿しか知らないのだ。離婚しただなんて、すぐには信じられないかもしれない。
ヨエルのこと、今後のこと。考えなければならないことは山ほどある。
だが、夫が浮気しているかもしれないと、悩み続けたあの三ヶ月間のことを思えば、まだ気は楽だ。
「シーラさん、大丈夫かい?」
「ええ……まだ、整理がついてないこともあるけど」
「しばらく仕事を休んでもいいんだよ」
それにレオポールが何かと気遣ってくれる。
彼には感謝しかなかった。
「そうだ。明日は事務所も休みだし、家で呑まないか?」
「……レオポールさんの家で?」
「気分転換に、どうかな?」
レオポールは指先で少し赤くなった頬を掻いている。
シーラはぱちぱちと瞬きした。
(そうか、私は独身になったものね……)
男が一人暮らししている家に行っても、誰にも咎められることはないのだ。
シーラに「別れてほしい」と言ったジョンは、テーブルの上に通帳や権利書を並べる。
「……夫婦の財産はすべてシーラ、君のものだ。役所の退職金も君に渡す。だから、私と別れてほしい」
(二十年も連れ添ったのに……夫婦の別れとは呆気ないものだな)
レオポールは三十九年生きているが、結婚したことは一度もない。女性と長く付き合った経験すらない。だから、伴侶との別れを迎えた者の気持ちがどんなものであるのか、想像するしかなかった。
(……俺なら、シーラさんと会えなくなるぐらいなら死んだほうがマシだな)
レオポールはもう、五年もシーラに片思いしている。こんなにも長い間、一人の女性を想ったことは他になかった。
「はい……」
シーラはすべての感情が消え失せたような、そんな顔をして、頷いた。
レオポールはシーラに嘘をついていた。
ジョンの浮気調査をした際、『ジェイムスと出会ってジョンは男に目覚めた』と言ったが、あれは嘘だ。
元々ジョンがゲイだったのだと、そんな残酷なことは言えなかったのだ。
◆
シーラはジョンと離婚した。
夫婦で築いてきた財産はすべてシーラの物となり、役所を辞めたジョンの退職金も、慰謝料としてまるまる彼女に渡された。
ジョンはもう、この街にいない。
ジェイムスと共に旅立ってしまった。
寄宿学校に通うヨエルには、まだ離婚のことは伝えていない。長期休暇で戻ってきた時にゆっくり話そうとシーラは考えている。
(まだ十四歳の多感な時期に両親が離婚だなんて……。ショックよね)
それにヨエルは仲が良かった両親の姿しか知らないのだ。離婚しただなんて、すぐには信じられないかもしれない。
ヨエルのこと、今後のこと。考えなければならないことは山ほどある。
だが、夫が浮気しているかもしれないと、悩み続けたあの三ヶ月間のことを思えば、まだ気は楽だ。
「シーラさん、大丈夫かい?」
「ええ……まだ、整理がついてないこともあるけど」
「しばらく仕事を休んでもいいんだよ」
それにレオポールが何かと気遣ってくれる。
彼には感謝しかなかった。
「そうだ。明日は事務所も休みだし、家で呑まないか?」
「……レオポールさんの家で?」
「気分転換に、どうかな?」
レオポールは指先で少し赤くなった頬を掻いている。
シーラはぱちぱちと瞬きした。
(そうか、私は独身になったものね……)
男が一人暮らししている家に行っても、誰にも咎められることはないのだ。
386
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる