最弱職【掃除士】が実は環境最強でした ~ダンジョンの浄化で世界を救う~

宵町あかり

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第12話 古代遺跡への挑戦

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 朝の冒険者ギルドは、いつもと違う緊張感に包まれていた。

 昨日発見された古代遺跡の入口。瘴気噴出事故の処理中に偶然見つかったその場所は、すでに噂となって広まり始めている。石造りの重厚な扉には、千年以上前の文字が刻まれ、その奥から濃密な瘴気が漏れ出していた。

「準備はいいか?」

 俺は振り返って、浄化士ギルドの仲間たちを見渡した。

 大きなリュックサックを背負ったリクが、緊張した面持ちで頷く。肩から提げた革袋には、応急処置用の包帯や薬草がぎっしりと詰まっている。昨夜遅くまで準備していたのだろう、目の下にはうっすらとクマができていた。

「は、はい! 松明も予備のロープも、全部用意しました」

 アンナは腰に下げたポーチを確認しながら、きりっとした表情を作る。家政術師として培った整理整頓の技術で、必要な道具を効率的に収納していた。ただ、その手が微かに震えているのを俺は見逃さなかった。

「ふむ、瘴気濃度測定器も正常に作動しておる」

 グスタフが手にした真鍮製の機器を見つめながら言う。経験豊富な施設管理士である彼の落ち着いた態度が、若い二人の不安を和らげているようだった。

「おい、本気か?」

 声をかけてきたのは、近くのテーブルで朝食を取っていた冒険者だった。革鎧に身を包んだ戦士風の男が、心配そうな顔でこちらを見ている。

「昨日の瘴気噴出で分かっただろう。あの遺跡は危険すぎる。少なくともレベル50以上のパーティーじゃないと――」

「大丈夫です」

 俺は静かに答えた。確かに危険は伴う。だが、瘴気を浄化できるのは俺たちだけだ。

「行こう。日が高くなる前に出発したい」



 遺跡の入口は、街の北東にある採石場跡の奥にあった。

 朝露に濡れた草を踏みしめながら進むと、ひんやりとした空気が肌を撫でる。鼻を突く瘴気の臭いが、徐々に強くなっていく。腐った卵のような、吐き気を催す悪臭だ。

「うぅ……」

 アンナが口元を押さえた。瘴気に慣れていない彼女にとって、この臭いはきついだろう。

「【浄化】」

 俺は軽く手をかざし、周囲の空気を浄化した。淡い光が広がり、悪臭が和らぐ。

「あ、ありがとうございます」

「無理はするな。体調が悪くなったらすぐに言ってくれ」

 やがて、巨大な石造りの扉が姿を現した。

 高さは優に5メートルを超え、表面には複雑な文様が刻まれている。古代文字で何かが書かれているが、風化が激しく判読は困難だった。扉の隙間から、紫色の瘴気が霧のように漏れ出している。

「瘴気濃度、通常の20倍じゃ」

 グスタフが測定器を見ながら眉をひそめた。

「これほどの濃度となると、普通の人間なら数分で意識を失うレベルじゃな」

「だからこそ、俺たちが行く意味がある」

 俺は扉に手を当てた。冷たい石の感触が、掌から腕へと伝わってくる。長い年月を経た石には、無数の傷と苔が付着していた。

「【浄化】――レベル5」

 光が扉全体を包み込む。紫色の瘴気が、まるで朝霧が日光に晒されるように消えていく。同時に、扉に刻まれた文様が淡く光り始めた。

 ゴゴゴゴ……

 重い音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。千年の時を経て、封印が解かれる瞬間だった。

「すげぇ……」

 リクが息を呑む。

 扉の向こうには、長い石造りの廊下が続いていた。壁には等間隔で松明を置くための金具が設置されているが、当然ながら火は消えている。代わりに、壁自体がぼんやりと光を放っていた。瘴気と反応して発光する、特殊な鉱物が含まれているのかもしれない。

「松明に火を」

 グスタフの指示で、リクが松明に火を灯した。パチパチと燃える炎の音が、静寂の中に響く。オレンジ色の光が石壁に揺らめき、不気味な影を作り出した。

「では、参ろう」

 俺を先頭に、一列になって廊下を進む。足音が石造りの空間に反響し、まるで誰かがついてきているような錯覚を覚えた。湿った空気が肌にまとわりつき、カビ臭さが鼻腔を刺激する。

 壁画が、松明の光に照らされて浮かび上がった。

「これは……」

 アンナが立ち止まる。壁一面に描かれているのは、巨大な戦いの様子だった。空を覆う黒い雲、地を這う紫色の霧、そしてそれに立ち向かう人々の姿。千年前の大戦を描いたものだろうか。

「瘴気との戦いですね」

 リクが壁画を見上げながら呟いた。確かに、紫色の霧は瘴気を表現しているように見える。そして、光を放つ剣を持った戦士たちが、それに立ち向かっている。

「待て」

 グスタフが測定器を見ながら警告を発した。

「瘴気濃度が上昇しておる。この先は、さらに危険じゃ」

 確かに、廊下の奥から流れてくる瘴気が濃くなっていた。紫色の霧が、まるで生き物のように蠢いている。普通の冒険者なら、ここで引き返すレベルだ。

「【浄化領域展開】」

 俺は新しく習得したスキルを発動させた。体を中心に、半径5メートルほどの浄化空間が生まれる。仲間たちを瘴気から守るバリアのようなものだ。

「おお、息がしやすくなった」

 リクが驚きの声を上げる。確かに、浄化領域の中では瘴気の影響が完全に遮断されていた。

 廊下の突き当たりに、大きな広間が現れた。

 天井は高く、中央には巨大な石像が鎮座している。人型をした守護像のようだが、全身が紫色の瘴気に覆われていた。まるで、瘴気の鎧を纏っているかのようだ。

 その瞬間――

 ゴゴゴゴ……

 石像が動き始めた。

━━━━━━━━━━━━━━━
【鑑定結果】
 汚染された守護像
 レベル:45
 HP:2,500 / 2,500
 状態:瘴気汚染(重度)
━━━━━━━━━━━━━━━

「ひっ!」

 リクが後ずさる。無理もない。レベル45の敵は、普通なら熟練の冒険者でも苦戦する相手だ。

 石像が重い足取りで近づいてくる。その一歩一歩が、地面を震わせた。握られた石の拳は、人の頭ほどもある。

「下がってろ!」

 俺は聖剣エクスカリバーを抜いた。銀色の刀身が、瘴気に反応して淡く光を放つ。

 石像が拳を振り上げた。風を切る音が耳を打つ。俺は横に跳んで攻撃を避ける。拳が床に激突し、石の破片が飛び散った。その破片の一つが頬をかすめ、熱い痛みが走る。

「【浄化】レベル8!」

 光の刃が石像を切り裂く。紫色の瘴気が霧散し、石像の動きが一瞬止まった。だが、完全には浄化できない。レベル45の敵を一撃で倒すには、まだ俺の力は足りなかった。

「翔太さん!」

 アンナの声が響く。振り返ると、彼女が小さな光を手に宿していた。

「私も……【浄化】!」

 彼女の浄化適性レベル2の力が、石像に向かって放たれる。威力は俺の百分の一にも満たないが、確かに瘴気を削っていた。

「俺も!」

 リクも続く。レベル1の浄化適性でも、仲間の力になろうとする姿勢が嬉しかった。

「ふむ、儂もやってみるかの」

 グスタフまでもが、浄化の光を放つ。三人の小さな光が、石像を包み込む。

 その時、俺は気づいた。

 三人の浄化が、俺の浄化と共鳴している。まるで、小さな川が大河に合流するように、力が増幅されていく。これが、浄化士ギルドの真の力なのかもしれない。

「みんな、タイミングを合わせよう!」

 俺は叫んだ。

「3、2、1――」

「「「「【浄化】!」」」」

 四つの光が一つになり、巨大な光の柱となって石像を貫いた。紫色の瘴気が完全に霧散し、石像が膝をついた。

 そして――

 ガラガラと音を立てて、石像が崩れ落ちた。ただの石の山と化した守護像の残骸から、小さな光の玉が浮かび上がる。

━━━━━━━━━━━━━━━
【戦闘結果】
 守護像を浄化しました
 経験値を獲得しました
 隠し通路が開きました
━━━━━━━━━━━━━━━

 石像があった場所の奥の壁が、音もなくスライドして開いた。その先には、下へと続く階段が見えた。

「やった……」

 リクが息を吐いた。その額には汗が浮かび、手は微かに震えていた。初めての本格的な戦闘で、相当緊張していたのだろう。

「みんな、よくやった」

 俺は仲間たちに声をかけた。正直、レベル6や7の彼らにとって、レベル45の敵は恐怖の対象だったはずだ。それでも逃げずに立ち向かってくれた。その勇気が、俺の心を熱くした。

「いえ、翔太さんがいたからこそです」

 アンナが微笑む。その顔には、達成感と自信が滲んでいた。

「これが、浄化士ギルドの力なんですね」

 そう、今の戦いで証明された。レベルの差があっても、浄化の力を合わせれば、強大な敵にも立ち向かえる。これこそが、俺たちの強みだ。

「さて、この先じゃが……」

 グスタフが階段を覗き込む。螺旋状に下へと続く石段は、底が見えないほど深い。そこから立ち上る瘴気は、さらに濃密だった。

「瘴気濃度が異常じゃ。通常の50倍以上ある」

 測定器の針が振り切れそうになっている。これは、さらなる危険が待ち受けている証拠だ。

「一度態勢を整えよう」

 俺は提案した。

「みんな、怪我はないか? 疲労は?」

「大丈夫です!」

 リクが元気よく答える。初めての勝利に興奮しているのだろう。

「私も問題ありません」

 アンナも頷く。ただ、その額には汗が浮かんでいた。浄化を使ったことで、MPを消費したのだろう。

「少し休憩しましょう」

 俺は広間の隅にある、比較的瘴気の薄い場所を見つけた。

「この先は、もっと危険になるはずだ。万全の状態で臨みたい」

 仲間たちが座り込む。アンナがポーチから水筒を取り出し、みんなに配る。冷たい水が喉を潤し、緊張が少しほぐれた。

「なあ、翔太さん」

 リクが口を開いた。

「この遺跡って、何のためにあるんだろう?」

「千年前の大戦の遺物かもしれんの」

 グスタフが答える。

「あの壁画を見る限り、瘴気との戦いがあったことは確かじゃ。この遺跡も、その戦いに関係しているのかもしれん」

「でも、なぜ今になって瘴気が噴出したんでしょうか?」

 アンナが疑問を投げかける。

「封印が弱まっているのかもしれない」

 俺は推測した。

「千年という時間は、どんな封印でも劣化させる。だからこそ、俺たちが浄化する必要があるんだ」

 仲間たちが頷く。そこには、使命感が宿っていた。

 十分ほど休憩した後、俺たちは立ち上がった。

「行こう」

 俺は階段の前に立つ。

「この先に何があるか分からない。でも、みんながいれば大丈夫だ」

「はい!」

 リクが力強く返事をする。

「浄化士ギルドの初仕事、最後までやり遂げましょう!」

 アンナも決意を新たにする。

「儂も老骨に鞭打って頑張るとするかの」

 グスタフが微笑む。

 俺たちは、暗い階段を下り始めた。

 一段一段、慎重に足を進める。松明の光が揺らめき、石壁に不気味な影を作り出す。瘴気の濃度は、下るほどに増していく。

 やがて、壁に新たな壁画が現れた。

 一人の戦士が、巨大な怪物と対峙している。その手には、光り輝く何かが握られている。まるで、俺たちの今の状況を予言しているかのようだ。

「これは……」

 アンナが息を呑む。

「千年前にも、同じような戦いがあったんですね」

 そうかもしれない。歴史は繰り返す。千年前の戦士も、今の俺たちと同じように、瘴気に立ち向かったのだろう。

 階段の先に、微かに紫色の光が見える。

「あれは……」

 俺は目を凝らした。

 どうやら、この階段の終点が近づいているようだ。そして、その先には――

「みんな、気を引き締めろ」

 俺は仲間たちに警告した。

「きっと、この先にこの遺跡の核心がある」

 緊張が走る。だが、恐怖よりも、使命感と好奇心が勝っていた。

 俺たちは、未知なる深部へと、一歩一歩進んでいった。

━━━━━━━━━━━━━━━
【ステータス】
 佐藤翔太 Lv.53
 職業:掃除士
 称号:聖剣の主、宮廷浄化士、聖泉守護者、王城浄化官、ギルド創設者
━━━━━━━━━━━━━━━
 HP  :930/930
 MP  :1480/1480
 攻撃力:113(+300)
 防御力:403(+50)
 敏捷 :113(+50)
━━━━━━━━━━━━━━━
【スキル】
 浄化 Lv.12
 └効果:概念浄化まで可能
 鑑定 Lv.5
 └効果:隠された情報も取得可能
 収納 Lv.4
 剣術 Lv.2
 └効果:基本剣技習得
 浄化効率:65
 汚染耐性:30
━━━━━━━━━━━━━━━
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