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第39話 封印強化の手がかり
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朝靄がまだ残る王宮の大会議室に、重苦しい空気が立ち込めていた。
昨夜の偵察報告を受けて、緊急招集された幹部たちの表情は一様に険しい。虚無王の「一ヶ月後に完全覚醒」という宣告が、皆の心に重くのしかかっている。
「一ヶ月...」フリードリヒ3世が深いため息をついた。白髪が朝の光に照らされて銀色に輝いている。「全軍の準備を整えるには、あまりにも短い」
俺は拳を握りしめた。手のひらに爪が食い込む痛みが、現実を突きつける。時間がない。でも、諦めるわけにはいかない。世界を、仲間を、そしてエリーゼを守るために。
「陛下」
ソフィアが前に出た。昨夜から眠らずに古文書と格闘していたのだろう、目の下には薄いクマができている。彼女の透けた右腕には、古代文字がびっしりと書かれた羊皮紙が握られていた。
「昨夜、古代の封印について新たな発見がありました」
全員の視線がソフィアに集まった。張り詰めた空気が、一層重くなる。
「封印の仕組みが、ある程度判明しました」彼女は羊皮紙を広げた。インクの匂いが微かに漂う。「1000年前の大賢者アルカディウスの記録によれば、封印には『愛の力を結晶化し、犠牲により定着させる』必要があるそうです」
愛の力を結晶化?俺とエリーゼは顔を見合わせた。エリーゼの翡翠色の瞳に、不安と期待が混じり合っている。
「つまり、どういうことだ?」リクが身を乗り出した。
「詳しくは分かりません。ただ...」ソフィアは言葉を選ぶように続けた。「愛という感情を、何らかの方法で物理的な力に変換し、そして誰かの犠牲によってその力を世界に定着させる、ということのようです」
犠牲。その言葉が、石のように重く響いた。
グスタフ老が杖をついて立ち上がった。老賢者の瞳が、鋭い光を放つ。
「王立図書館の禁書庫に、何かあるはずじゃ」彼の声は枯れていたが、確信に満ちていた。「ただし、あそこに入るには王族の血が必要じゃよ」
「王族の血...」エリーゼが呟いた。
「同時に」ヴァルガスが重い声で割って入った。「戦力強化も必要だ。封印を強化できたとしても、虚無の軍勢と戦う力がなければ意味がない」
「その通りです」ノーザリア王国の将軍が頷いた。「全兵士に浄化の基礎訓練を施すべきでしょう。レベルが低くても、浄化の力があれば戦いやすくなるはずです」
議論が白熱し始めた時、突然エリーゼが椅子から崩れ落ちた。
「エリーゼ!」
俺は慌てて彼女を抱きとめた。額に手を当てると、熱い。そして腹部の紋様が、薄く光を放っているのが服越しにも分かった。熱を持ち、まるで生きているかのように脈動している。
◆
王立図書館の地下深く、俺たちは禁書庫の前に立っていた。
エリーゼとローラは王宮で療養中だ。医師たちが総出で看ているが、原因は分からないという。俺も側にいたかったが、エリーゼ自身が「早く手がかりを見つけて」と懇願したのだ。
「ここが禁書庫か」リクが重厚な扉を見上げた。黒い金属でできた扉には、複雑な魔法陣が刻まれている。「いかにも『開けるな』って感じだな」
ミーナが魔法陣を調べている。青い魔力が指先から流れ、陣の構造を解析していく。
「強力な封印ね。王族の血がなければ、絶対に開かない仕組みよ」
俺は懐からエリーゼの髪の毛を取り出した。彼女が倒れる前に、「これを使って」と渡してくれたものだ。金色の髪が、薄暗い地下通路でも輝いて見える。
髪の毛を魔法陣の中心に置くと、扉がゆっくりと開き始めた。古い蝶番が軋む音が、地下空間に響く。
中は想像以上に広かった。天井まで届く本棚が迷路のように並び、埃の匂いが鼻を突く。何千、いや何万という古文書が、整然と並べられている。
「すごい...」レオが目を輝かせた。「ここは知識の宝庫ですね」
「でも、これだけあったら探すのに何日もかかりそうだ」カールが額の汗を拭った。
「手分けして探そう」俺は提案した。「封印、愛、犠牲、虚無...関連しそうなキーワードを含む文献を片っ端から調べるんだ」
皆が散らばって捜索を始めた。古い紙をめくる音だけが、静寂を破る。
一時間ほど経った頃、レオが叫んだ。
「あ、ここ埃が少ない...」
彼は本棚の隙間を掃除していた。小さな箒で埃を払っていると、壁に不自然な継ぎ目を見つけたのだ。
「隠し扉?」ミーナが駆け寄った。
慎重に継ぎ目を押すと、壁の一部が内側に回転した。奥には小さな部屋があり、中央の台座に一冊の本が置かれていた。
『創世の掃除士伝説』
表紙にはそう書かれていた。古い革装丁で、触れるのも憚られるほど年月を感じさせる。
「掃除士...」俺は息を呑んだ。
ソフィアが慎重にページをめくる。パリパリと乾いた音がした。
「始まりの掃除士...世界創造の時、最初に虚無を浄化した存在...」彼女は読み上げた。「レベル200の壁を超えた、唯一の人間...」
レベル200。今の俺がレベル100。その倍もの力を持っていたというのか。
「ここ、見てください」レオが重要な一節を指差した。
『限界を超えるには、最愛の者との完全なる調和が必要である。二つの魂が一つになった時、真の力が目覚める。しかし、その代償は...』
ページが破れていた。肝心な部分が読めない。
「くそっ」リクが拳を壁に打ちつけた。
その時、俺の懐で伝令石が光った。
◆
「各地で虚無の活動が活発化している」
浄化士ギルド本部からの伝令は、緊急事態を告げていた。
王宮の会議室に戻ると、アルテミスが部下30名と共に到着していた。彼女のレベルは60に上がっている。各地での戦いで成長したのだろう。
「翔太様」アルテミスが膝をついた。「我々も戦います。もはやギルドの枠を超えた、世界の危機です」
彼女の後ろに並ぶ浄化士たちも、皆決意に満ちた表情をしている。
「報告させてください」別の浄化士が前に出た。「東部では、レベル50の虚無獣を何とか撃退しました。しかし、被害は甚大です」
「南部では」もう一人が続けた。「村一つが虚無に飲み込まれかけました。住民500名を避難させましたが、建物の半分は消失しました」
「西部が最も深刻です」アルテミスが顔を曇らせた。「浄化士10名が行方不明。最後の連絡では、『黒い霧に包まれた』と...」
状況は刻一刻と悪化している。第二の太陽の光も、昨夜より明らかに弱まっていた。
「僕も戦わせてください!」
レオが突然立ち上がった。小さな体が震えているが、瞳は真っすぐだった。
「レオ、君はまだ...」
「レベルは低いです。でも」彼は両手を握りしめた。小さな浄化の光が灯る。「この力で、少しでも役に立ちたいんです」
俺は彼の肩に手を置いた。温かい決意が伝わってくる。
「君の勇気は、誰にも負けない」俺は微笑んだ。「一緒に戦おう」
「浄化士軍団を結成します」アルテミスが宣言した。「各地から精鋭100名を集めます。3日後には全員集合できるはずです」
「そういえば」別の浄化士が思い出したように言った。「伝説の老浄化士グレイスも、クリスタル様のことを聞いて動き始めたという噂があります」
「グレイス殿が?」アルテミスの目が輝いた。「彼女が来てくれれば、百人力だ」
希望の光が、少しずつ集まり始めていた。
◆
医務室のベッドで、エリーゼは高熱にうなされていた。
俺は彼女の手を握り続けた。細い指が、時折ぴくりと動く。額の汗を拭いながら、俺は彼女の名前を呼び続けた。
「私は...封印の...鍵...」
突然、エリーゼがうわ言を発した。熱に浮かされた声だったが、妙にはっきりしていた。
「千年前...約束した...守るために...」
「エリーゼ?」俺は彼女の頬に触れた。熱い。
「愛する人を...守るために...私は...」
ローラが慌てて入ってきた。手には小さな薬瓶を持っている。
「記憶を呼び覚ます薬です」彼女は真剣な表情で説明した。「リスクはありますが、エリーゼ様の症状と関係があるかもしれません」
俺は迷った。リスクがあるなら...
「翔太」ローラが俺の目を見つめた。「私は、エリーゼ様を信じています」
俺は頷いた。ローラが慎重に薬をエリーゼの口に含ませる。苦い匂いが漂った。
数分後、エリーゼの瞳がゆっくりと開いた。翡翠色の瞳に、いつもと違う深みがあった。
「翔太...」彼女の声は弱々しかったが、確かだった。「私、思い出した」
「何を?」
「私の先祖は、1000年前の封印に関わっていた」彼女は俺の手を強く握った。冷たい汗が手のひらに伝わる。「王家の血には、封印を強化する力が宿っている。それは代々受け継がれてきた使命...」
彼女の腹部の紋様が、複雑な模様を描き始めた。まるで生きた地図のように、線が絡み合い、形を作っていく。
「でも、肝心なことが...」エリーゼの瞳が曇った。「大切な何かを、まだ思い出せない...」
そして再び、彼女は意識を失った。紋様は光り続けている。
◆
夜、俺は一人で王宮の屋上に上った。
第二の太陽を見上げる。その光は明らかに弱まっていた。時折、稲妻のような光が走るが、それも力なく消えていく。
風が頬を撫でる。北から吹く風は、虚無の匂いを運んでいた。
「浄化王よ...」
突然、声が聞こえた。頭の中に直接響くような、不思議な声だった。
「誰だ?」
「我は...第二の太陽の精霊...」
声は途切れ途切れだった。まるで遠くから必死に呼びかけているような。
「第二の太陽に精霊が?」
「我は...世界のバランサー...虚無を抑える...最後の砦...」
風が強くなった。俺の髪が激しく揺れる。
「だが...我も限界に近い...あと20日が...限界...」
20日。一ヶ月より短い。
「何か方法はないのか?」俺は空に向かって叫んだ。
「最後の力を...君に託そう...」
第二の太陽から、小さな光が降ってきた。それは俺の手のひらに収まる、温かい光の結晶だった。触れると、途方もない力を感じる。
「ただし...使えるのは...一度だけ...」
光の結晶は、俺の手の中で静かに脈動していた。まるで小さな太陽のように。
「翔太!」
振り返ると、リクたちが屋上に上がってきていた。ミーナ、カール、マルコ、ソフィア、レオ。皆、心配そうな顔をしている。
「一人で抱え込むな」リクが俺の肩を叩いた。「俺たちは仲間だろ」
「みんな...」
「第二の太陽と話していたのか?」ミーナが光の結晶を見つめた。
俺は事情を説明した。皆、真剣に聞いている。
「つまり、切り札が一つ増えたってことか」カールが腕を組んだ。
「でも、一度しか使えない」ソフィアが付け加えた。「使いどころが重要ね」
俺たちは夜空を見上げた。北の地平線には、巨大な影がうごめいている。虚無王の影だ。昨日より、確実に大きくなっている。
「必ず勝つ」俺は拳を握った。「全員で、この世界を守り抜く」
「「「おう!」」」
皆の声が、夜空に響いた。
◆
翌朝、全軍2100名を前に、俺は作戦の説明を始めた。
朝日を背に、整列した兵士たちの顔は緊張している。でも、そこには諦めはなかった。
「封印強化には、三つの要素が必要です」俺は声を張り上げた。「愛の力、王族の血、そして浄化の極致」
兵士たちがざわめいた。
「全員の力が必要です。一人も欠けてはいけない」
「はい!」という声が、波のように広がった。
訓練が始まった。リク、ミーナ、カールが指導役となり、兵士たちに浄化の基礎を教えていく。
「浄化は心が大切だ」リクが模範を見せる。「守りたいものを思い浮かべろ」
兵士たちの手に、小さな光が灯り始めた。レベル10にも満たない者がほとんどだが、その光は確かに虚無を払う力を持っている。
その頃、ソフィアは一人で古文書と格闘していた。
破れたページの復元を試みていたのだ。特殊な魔法薬を使い、消えた文字を浮かび上がらせる。
「これは...」
彼女の顔が青ざめた。復元された文字には、こう書かれていた。
『代償は、使用者の寿命。愛の力を結晶化する者は、己の命を削ることになる』
ソフィアは震える手で本を閉じた。この事実を、翔太には言えない。言えば、彼は封印強化を諦めてしまうかもしれない。
でも、このままでは...
午後、俺はヴァルガスと個人訓練を行っていた。
レベル85の実力者との訓練は、過酷を極めた。
「力だけでは虚無には勝てない」ヴァルガスの剣が俺の浄化を弾く。「大切なのは、守りたいという想いだ」
俺は浄化の力を高めた。エリーゼの笑顔、仲間たちの顔、この世界の美しさ。全てを守りたいという想いが、力に変わる。
「いいぞ」ヴァルガスが初めて笑った。「その想いがあれば、必ず道は開ける」
夕方、エリーゼが目を覚ました。
「翔太...」
俺は慌てて彼女の元へ駆けつけた。顔色は少し良くなっているが、まだ本調子ではない。
「無理するな」俺は彼女の手を握った。
「私、戦うわ」エリーゼの瞳に決意が宿っていた。「この紋様には、きっと意味がある。それを見つけるまで、諦めない」
俺たちが手を繋ぐと、不思議なことが起きた。二人の間に、温かい光が生まれたのだ。金色と緑色が混じり合い、美しい虹色を作り出す。
「これは...」
「愛の力の結晶化?」ソフィアが息を呑んだ。
光はすぐに消えたが、確かに何かが起きた。希望の兆しだった。
窓の外を見ると、北の空が不気味に脈動していた。虚無王の影が、さらに巨大化している。黒い稲妻が走り、空を引き裂いていく。
「時間がない...」俺は呟いた。
でも、諦めない。必ず封印を強化し、虚無王を止めてみせる。
愛する人たちを守るために。
━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
職業:真なる浄化王/愛の浄化王
レベル:100
HP:13,000 / 15,000(訓練回復)
MP:7,000 / 8,000(訓練回復)
スキル:
・聖浄化 Lv.MAX
・愛の結晶化 Lv.10(上昇)
・調和浄化 Lv.8
・聖愛浄化・調和 Lv.3
特殊装備:
・太陽の欠片
・光の結晶(第二の太陽より授与・一回使用可)
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【エリーゼ】
職業:王女/古代封印術師の血統
レベル:43
HP:3,000 / 4,300
MP:4,000 / 5,600
状態:腹部の紋様が複雑化・記憶一部回復
スキル:
・王族の威光 Lv.5
・封印術基礎 Lv.4(上昇)
・古代の記憶 Lv.1(NEW)
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【パーティーメンバー】
リク(真勇者)Lv.52
HP:8,500 / 8,500
MP:3,500 / 3,500
新スキル:指導者の素質 Lv.2
ミーナ(大魔導師)Lv.56
HP:4,500 / 4,500
MP:9,000 / 9,000
新スキル:魔法指導 Lv.2
カール(聖騎士)Lv.46
HP:7,000 / 7,000
MP:2,800 / 2,800
ローラ(薬師)Lv.34
HP:2,200 / 2,200
MP:1,800 / 1,800
新スキル:記憶回復薬 Lv.3
ソフィア(情報屋)Lv.27
HP:1,900 / 1,900
MP:2,300 / 2,300
状態:右腕半透明
新スキル:文書復元術 Lv.2
※封印の代償を知る(寿命消費)
レオ(見習い浄化士)Lv.25
HP:1,700 / 1,700
MP:1,000 / 1,000
新スキル:純粋な心 Lv.1
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【浄化士ギルド】
アルテミス(ギルド支部長)Lv.60
HP:6,000 / 6,000
MP:4,500 / 4,500
※浄化士軍団100名招集中
ヴァルガス(ノーザリア最強騎士)Lv.85
HP:12,000 / 12,000
MP:4,000 / 4,000
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【重要情報】
創世の掃除士:Lv.200超え
封印強化条件:
・愛の力の結晶化
・王族の血
・犠牲(寿命)
第二の太陽:残り20日で限界
虚無王覚醒:30日未満
翔太+エリーゼ:虹色の光発生
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【状況】
軍団:総勢2,100名(浄化訓練中)
浄化士軍団:100名(3日後集合)
各地の虚無活動:
東部:Lv.50虚無獣出現
南部:村が半壊
西部:浄化士10名行方不明
━━━━━━━━━━━━━━━
昨夜の偵察報告を受けて、緊急招集された幹部たちの表情は一様に険しい。虚無王の「一ヶ月後に完全覚醒」という宣告が、皆の心に重くのしかかっている。
「一ヶ月...」フリードリヒ3世が深いため息をついた。白髪が朝の光に照らされて銀色に輝いている。「全軍の準備を整えるには、あまりにも短い」
俺は拳を握りしめた。手のひらに爪が食い込む痛みが、現実を突きつける。時間がない。でも、諦めるわけにはいかない。世界を、仲間を、そしてエリーゼを守るために。
「陛下」
ソフィアが前に出た。昨夜から眠らずに古文書と格闘していたのだろう、目の下には薄いクマができている。彼女の透けた右腕には、古代文字がびっしりと書かれた羊皮紙が握られていた。
「昨夜、古代の封印について新たな発見がありました」
全員の視線がソフィアに集まった。張り詰めた空気が、一層重くなる。
「封印の仕組みが、ある程度判明しました」彼女は羊皮紙を広げた。インクの匂いが微かに漂う。「1000年前の大賢者アルカディウスの記録によれば、封印には『愛の力を結晶化し、犠牲により定着させる』必要があるそうです」
愛の力を結晶化?俺とエリーゼは顔を見合わせた。エリーゼの翡翠色の瞳に、不安と期待が混じり合っている。
「つまり、どういうことだ?」リクが身を乗り出した。
「詳しくは分かりません。ただ...」ソフィアは言葉を選ぶように続けた。「愛という感情を、何らかの方法で物理的な力に変換し、そして誰かの犠牲によってその力を世界に定着させる、ということのようです」
犠牲。その言葉が、石のように重く響いた。
グスタフ老が杖をついて立ち上がった。老賢者の瞳が、鋭い光を放つ。
「王立図書館の禁書庫に、何かあるはずじゃ」彼の声は枯れていたが、確信に満ちていた。「ただし、あそこに入るには王族の血が必要じゃよ」
「王族の血...」エリーゼが呟いた。
「同時に」ヴァルガスが重い声で割って入った。「戦力強化も必要だ。封印を強化できたとしても、虚無の軍勢と戦う力がなければ意味がない」
「その通りです」ノーザリア王国の将軍が頷いた。「全兵士に浄化の基礎訓練を施すべきでしょう。レベルが低くても、浄化の力があれば戦いやすくなるはずです」
議論が白熱し始めた時、突然エリーゼが椅子から崩れ落ちた。
「エリーゼ!」
俺は慌てて彼女を抱きとめた。額に手を当てると、熱い。そして腹部の紋様が、薄く光を放っているのが服越しにも分かった。熱を持ち、まるで生きているかのように脈動している。
◆
王立図書館の地下深く、俺たちは禁書庫の前に立っていた。
エリーゼとローラは王宮で療養中だ。医師たちが総出で看ているが、原因は分からないという。俺も側にいたかったが、エリーゼ自身が「早く手がかりを見つけて」と懇願したのだ。
「ここが禁書庫か」リクが重厚な扉を見上げた。黒い金属でできた扉には、複雑な魔法陣が刻まれている。「いかにも『開けるな』って感じだな」
ミーナが魔法陣を調べている。青い魔力が指先から流れ、陣の構造を解析していく。
「強力な封印ね。王族の血がなければ、絶対に開かない仕組みよ」
俺は懐からエリーゼの髪の毛を取り出した。彼女が倒れる前に、「これを使って」と渡してくれたものだ。金色の髪が、薄暗い地下通路でも輝いて見える。
髪の毛を魔法陣の中心に置くと、扉がゆっくりと開き始めた。古い蝶番が軋む音が、地下空間に響く。
中は想像以上に広かった。天井まで届く本棚が迷路のように並び、埃の匂いが鼻を突く。何千、いや何万という古文書が、整然と並べられている。
「すごい...」レオが目を輝かせた。「ここは知識の宝庫ですね」
「でも、これだけあったら探すのに何日もかかりそうだ」カールが額の汗を拭った。
「手分けして探そう」俺は提案した。「封印、愛、犠牲、虚無...関連しそうなキーワードを含む文献を片っ端から調べるんだ」
皆が散らばって捜索を始めた。古い紙をめくる音だけが、静寂を破る。
一時間ほど経った頃、レオが叫んだ。
「あ、ここ埃が少ない...」
彼は本棚の隙間を掃除していた。小さな箒で埃を払っていると、壁に不自然な継ぎ目を見つけたのだ。
「隠し扉?」ミーナが駆け寄った。
慎重に継ぎ目を押すと、壁の一部が内側に回転した。奥には小さな部屋があり、中央の台座に一冊の本が置かれていた。
『創世の掃除士伝説』
表紙にはそう書かれていた。古い革装丁で、触れるのも憚られるほど年月を感じさせる。
「掃除士...」俺は息を呑んだ。
ソフィアが慎重にページをめくる。パリパリと乾いた音がした。
「始まりの掃除士...世界創造の時、最初に虚無を浄化した存在...」彼女は読み上げた。「レベル200の壁を超えた、唯一の人間...」
レベル200。今の俺がレベル100。その倍もの力を持っていたというのか。
「ここ、見てください」レオが重要な一節を指差した。
『限界を超えるには、最愛の者との完全なる調和が必要である。二つの魂が一つになった時、真の力が目覚める。しかし、その代償は...』
ページが破れていた。肝心な部分が読めない。
「くそっ」リクが拳を壁に打ちつけた。
その時、俺の懐で伝令石が光った。
◆
「各地で虚無の活動が活発化している」
浄化士ギルド本部からの伝令は、緊急事態を告げていた。
王宮の会議室に戻ると、アルテミスが部下30名と共に到着していた。彼女のレベルは60に上がっている。各地での戦いで成長したのだろう。
「翔太様」アルテミスが膝をついた。「我々も戦います。もはやギルドの枠を超えた、世界の危機です」
彼女の後ろに並ぶ浄化士たちも、皆決意に満ちた表情をしている。
「報告させてください」別の浄化士が前に出た。「東部では、レベル50の虚無獣を何とか撃退しました。しかし、被害は甚大です」
「南部では」もう一人が続けた。「村一つが虚無に飲み込まれかけました。住民500名を避難させましたが、建物の半分は消失しました」
「西部が最も深刻です」アルテミスが顔を曇らせた。「浄化士10名が行方不明。最後の連絡では、『黒い霧に包まれた』と...」
状況は刻一刻と悪化している。第二の太陽の光も、昨夜より明らかに弱まっていた。
「僕も戦わせてください!」
レオが突然立ち上がった。小さな体が震えているが、瞳は真っすぐだった。
「レオ、君はまだ...」
「レベルは低いです。でも」彼は両手を握りしめた。小さな浄化の光が灯る。「この力で、少しでも役に立ちたいんです」
俺は彼の肩に手を置いた。温かい決意が伝わってくる。
「君の勇気は、誰にも負けない」俺は微笑んだ。「一緒に戦おう」
「浄化士軍団を結成します」アルテミスが宣言した。「各地から精鋭100名を集めます。3日後には全員集合できるはずです」
「そういえば」別の浄化士が思い出したように言った。「伝説の老浄化士グレイスも、クリスタル様のことを聞いて動き始めたという噂があります」
「グレイス殿が?」アルテミスの目が輝いた。「彼女が来てくれれば、百人力だ」
希望の光が、少しずつ集まり始めていた。
◆
医務室のベッドで、エリーゼは高熱にうなされていた。
俺は彼女の手を握り続けた。細い指が、時折ぴくりと動く。額の汗を拭いながら、俺は彼女の名前を呼び続けた。
「私は...封印の...鍵...」
突然、エリーゼがうわ言を発した。熱に浮かされた声だったが、妙にはっきりしていた。
「千年前...約束した...守るために...」
「エリーゼ?」俺は彼女の頬に触れた。熱い。
「愛する人を...守るために...私は...」
ローラが慌てて入ってきた。手には小さな薬瓶を持っている。
「記憶を呼び覚ます薬です」彼女は真剣な表情で説明した。「リスクはありますが、エリーゼ様の症状と関係があるかもしれません」
俺は迷った。リスクがあるなら...
「翔太」ローラが俺の目を見つめた。「私は、エリーゼ様を信じています」
俺は頷いた。ローラが慎重に薬をエリーゼの口に含ませる。苦い匂いが漂った。
数分後、エリーゼの瞳がゆっくりと開いた。翡翠色の瞳に、いつもと違う深みがあった。
「翔太...」彼女の声は弱々しかったが、確かだった。「私、思い出した」
「何を?」
「私の先祖は、1000年前の封印に関わっていた」彼女は俺の手を強く握った。冷たい汗が手のひらに伝わる。「王家の血には、封印を強化する力が宿っている。それは代々受け継がれてきた使命...」
彼女の腹部の紋様が、複雑な模様を描き始めた。まるで生きた地図のように、線が絡み合い、形を作っていく。
「でも、肝心なことが...」エリーゼの瞳が曇った。「大切な何かを、まだ思い出せない...」
そして再び、彼女は意識を失った。紋様は光り続けている。
◆
夜、俺は一人で王宮の屋上に上った。
第二の太陽を見上げる。その光は明らかに弱まっていた。時折、稲妻のような光が走るが、それも力なく消えていく。
風が頬を撫でる。北から吹く風は、虚無の匂いを運んでいた。
「浄化王よ...」
突然、声が聞こえた。頭の中に直接響くような、不思議な声だった。
「誰だ?」
「我は...第二の太陽の精霊...」
声は途切れ途切れだった。まるで遠くから必死に呼びかけているような。
「第二の太陽に精霊が?」
「我は...世界のバランサー...虚無を抑える...最後の砦...」
風が強くなった。俺の髪が激しく揺れる。
「だが...我も限界に近い...あと20日が...限界...」
20日。一ヶ月より短い。
「何か方法はないのか?」俺は空に向かって叫んだ。
「最後の力を...君に託そう...」
第二の太陽から、小さな光が降ってきた。それは俺の手のひらに収まる、温かい光の結晶だった。触れると、途方もない力を感じる。
「ただし...使えるのは...一度だけ...」
光の結晶は、俺の手の中で静かに脈動していた。まるで小さな太陽のように。
「翔太!」
振り返ると、リクたちが屋上に上がってきていた。ミーナ、カール、マルコ、ソフィア、レオ。皆、心配そうな顔をしている。
「一人で抱え込むな」リクが俺の肩を叩いた。「俺たちは仲間だろ」
「みんな...」
「第二の太陽と話していたのか?」ミーナが光の結晶を見つめた。
俺は事情を説明した。皆、真剣に聞いている。
「つまり、切り札が一つ増えたってことか」カールが腕を組んだ。
「でも、一度しか使えない」ソフィアが付け加えた。「使いどころが重要ね」
俺たちは夜空を見上げた。北の地平線には、巨大な影がうごめいている。虚無王の影だ。昨日より、確実に大きくなっている。
「必ず勝つ」俺は拳を握った。「全員で、この世界を守り抜く」
「「「おう!」」」
皆の声が、夜空に響いた。
◆
翌朝、全軍2100名を前に、俺は作戦の説明を始めた。
朝日を背に、整列した兵士たちの顔は緊張している。でも、そこには諦めはなかった。
「封印強化には、三つの要素が必要です」俺は声を張り上げた。「愛の力、王族の血、そして浄化の極致」
兵士たちがざわめいた。
「全員の力が必要です。一人も欠けてはいけない」
「はい!」という声が、波のように広がった。
訓練が始まった。リク、ミーナ、カールが指導役となり、兵士たちに浄化の基礎を教えていく。
「浄化は心が大切だ」リクが模範を見せる。「守りたいものを思い浮かべろ」
兵士たちの手に、小さな光が灯り始めた。レベル10にも満たない者がほとんどだが、その光は確かに虚無を払う力を持っている。
その頃、ソフィアは一人で古文書と格闘していた。
破れたページの復元を試みていたのだ。特殊な魔法薬を使い、消えた文字を浮かび上がらせる。
「これは...」
彼女の顔が青ざめた。復元された文字には、こう書かれていた。
『代償は、使用者の寿命。愛の力を結晶化する者は、己の命を削ることになる』
ソフィアは震える手で本を閉じた。この事実を、翔太には言えない。言えば、彼は封印強化を諦めてしまうかもしれない。
でも、このままでは...
午後、俺はヴァルガスと個人訓練を行っていた。
レベル85の実力者との訓練は、過酷を極めた。
「力だけでは虚無には勝てない」ヴァルガスの剣が俺の浄化を弾く。「大切なのは、守りたいという想いだ」
俺は浄化の力を高めた。エリーゼの笑顔、仲間たちの顔、この世界の美しさ。全てを守りたいという想いが、力に変わる。
「いいぞ」ヴァルガスが初めて笑った。「その想いがあれば、必ず道は開ける」
夕方、エリーゼが目を覚ました。
「翔太...」
俺は慌てて彼女の元へ駆けつけた。顔色は少し良くなっているが、まだ本調子ではない。
「無理するな」俺は彼女の手を握った。
「私、戦うわ」エリーゼの瞳に決意が宿っていた。「この紋様には、きっと意味がある。それを見つけるまで、諦めない」
俺たちが手を繋ぐと、不思議なことが起きた。二人の間に、温かい光が生まれたのだ。金色と緑色が混じり合い、美しい虹色を作り出す。
「これは...」
「愛の力の結晶化?」ソフィアが息を呑んだ。
光はすぐに消えたが、確かに何かが起きた。希望の兆しだった。
窓の外を見ると、北の空が不気味に脈動していた。虚無王の影が、さらに巨大化している。黒い稲妻が走り、空を引き裂いていく。
「時間がない...」俺は呟いた。
でも、諦めない。必ず封印を強化し、虚無王を止めてみせる。
愛する人たちを守るために。
━━━━━━━━━━━━━━━
【翔太】
職業:真なる浄化王/愛の浄化王
レベル:100
HP:13,000 / 15,000(訓練回復)
MP:7,000 / 8,000(訓練回復)
スキル:
・聖浄化 Lv.MAX
・愛の結晶化 Lv.10(上昇)
・調和浄化 Lv.8
・聖愛浄化・調和 Lv.3
特殊装備:
・太陽の欠片
・光の結晶(第二の太陽より授与・一回使用可)
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【エリーゼ】
職業:王女/古代封印術師の血統
レベル:43
HP:3,000 / 4,300
MP:4,000 / 5,600
状態:腹部の紋様が複雑化・記憶一部回復
スキル:
・王族の威光 Lv.5
・封印術基礎 Lv.4(上昇)
・古代の記憶 Lv.1(NEW)
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【パーティーメンバー】
リク(真勇者)Lv.52
HP:8,500 / 8,500
MP:3,500 / 3,500
新スキル:指導者の素質 Lv.2
ミーナ(大魔導師)Lv.56
HP:4,500 / 4,500
MP:9,000 / 9,000
新スキル:魔法指導 Lv.2
カール(聖騎士)Lv.46
HP:7,000 / 7,000
MP:2,800 / 2,800
ローラ(薬師)Lv.34
HP:2,200 / 2,200
MP:1,800 / 1,800
新スキル:記憶回復薬 Lv.3
ソフィア(情報屋)Lv.27
HP:1,900 / 1,900
MP:2,300 / 2,300
状態:右腕半透明
新スキル:文書復元術 Lv.2
※封印の代償を知る(寿命消費)
レオ(見習い浄化士)Lv.25
HP:1,700 / 1,700
MP:1,000 / 1,000
新スキル:純粋な心 Lv.1
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【浄化士ギルド】
アルテミス(ギルド支部長)Lv.60
HP:6,000 / 6,000
MP:4,500 / 4,500
※浄化士軍団100名招集中
ヴァルガス(ノーザリア最強騎士)Lv.85
HP:12,000 / 12,000
MP:4,000 / 4,000
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━
【重要情報】
創世の掃除士:Lv.200超え
封印強化条件:
・愛の力の結晶化
・王族の血
・犠牲(寿命)
第二の太陽:残り20日で限界
虚無王覚醒:30日未満
翔太+エリーゼ:虹色の光発生
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━━━━━━━━━━━━━━━
【状況】
軍団:総勢2,100名(浄化訓練中)
浄化士軍団:100名(3日後集合)
各地の虚無活動:
東部:Lv.50虚無獣出現
南部:村が半壊
西部:浄化士10名行方不明
━━━━━━━━━━━━━━━
4
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