転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~

宵町あかり

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第45話 記憶技術と帰還の誓い

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 朝日が氷原を照らし、白銀の世界がキラキラと輝く。六人が焚き火の跡の前に集まり、レオンが各国の代表たちを呼び寄せた。

「みんなに見てもらいたいものがある」

 レオンが笑顔で言うと、ガルヴァン、メルキオール、チェン・ロンが警戒した表情で近づいてくる。昨夜の五色の光を目撃した三人は、明らかに緊張していた。

「記憶を結晶化する技術を公開したいんだ。医療や教育に使えると思う」

 科学者の純粋な目が輝く。三人が顔を見合わせた。

 ガルヴァンが震える声で尋ねる。

「医療…ですか?」

「もちろん!認知症の患者さんの記憶を保存できる。亡くなった人の教えも残せるし、歴史の証言者の記憶も保存できる」

 レオンが興奮気味に説明しながらノートを広げてカリカリと図を描き始める。

「実演してみよう。クリスタ、お願い」

 クリスタが頷くと、白銀の魔力が溢れ出した。レオンが簡単な記憶——今朝見た朝日の光景——を抽出し、氷の結晶に転写する。プリマが共鳴能力で記憶を可視化すると、虹色の光がゴォオオオンと空に舞い上がり、結晶の中に封じ込められていく。

 数秒後、手のひらサイズの美しい結晶が完成した。シャラシャラと風鈴のような音を立てて、レオンの手に降りてくる。

「触ってみて」

 ガルヴァンが恐る恐る結晶に触れると目を見開いた。朝日の光景が脳裏に浮かび上がり、まるで自分がその場にいたかのような感覚だ。

「これは…!」

 メルキオールとチェン・ロンも次々と結晶に触れ、驚愕の表情を浮かべる。

「すごい…本当に記憶が見える」

 三人の目に涙が浮かんだ。昨夜、それぞれが大切な人の記憶を結晶化してもらったことを思い出す。この技術が、どれほど尊いものか——心の底から理解していた。

---

 しかし、技術の説明が終わると、三人は複雑な表情を浮かべた。

 ガルヴァンが部下たちを集めて、真剣な顔で命令を下す。

「記憶防衛訓練を開始する!もし敵に記憶を抜かれたら…」

 部下たちが困惑する。ガルヴァンは本気だ。

「瞑想訓練だ!記憶を守る精神力を鍛えろ!」

 兵士たちが整列して瞑想を始めると、コメディのような光景が広がる。しかし、ガルヴァンの表情は真剣そのものだ。

 レオンが近づいてくる。

「ガルヴァンさん、どうしたの?」

「レオン殿下…もし私の記憶を消されたら、娘の顔を忘れてしまう」

 声が震える。昨夜、亡き娘の記憶を結晶化してもらったガルヴァンは、その大切さを痛感していた。

「娘が五歳の時に病で亡くなりました。最後に笑った顔、『パパ、大好き!』と言ってくれた声——あの記憶だけは守りたいんです」

 涙が頬を伝い、大柄な体が震えていた。

「あの子が笑ってくれた時の温かさ、小さな手が私の手を握った時の感触——全部、全部忘れたくない」

 レオンが優しく微笑む。

「大丈夫です。悪用されないように、技術を厳重に管理します。記憶を奪うのではなく、大切な思い出を守るための技術ですから」

 ガルヴァンが深く頷いた。涙を拭いながら、胸に秘めた結晶を握りしめる。

---

 一方、メルキオールは別の場所で葛藤していた。

 聖水の瓶を取り出し、記憶の結晶に向かって祈りを捧げる。

「神よ、この技術を浄化したまえ」

 聖水を結晶にかけると、ジュウウウウと音を立てて結晶が凍り始めた。メルキオールが慌てる。

「あ、あれ?浄化したはずが…」

 結晶がガチガチに凍りつき、聖水が氷になってしまった。フィルミナたちが吹き出す。

「神官様、クリスタの氷は聖水より強いですよ」

 メルキオールが項垂れたが、すぐに真剣な表情になる。

「正直に言います。この技術は、神の教えに反するかもしれない」

 震える声で告白する。

「記憶を操作する力——それは人間が持つべきではないのかもしれない。でも…師の教えを残したいんです。私は神への疑念を抱いていますが、師だけは本物でした」

 昨夜、師の優しい笑顔、温かい教えを結晶化してもらったメルキオールは、その重みを理解していた。

「師は言いました。『信仰とは、心の中にあるものだ』と。だから、記憶も信仰の一部なんです」

 レオンが近づいて、優しく言う。

「記憶は信仰を深めるためにも使えます。大切な教えを次の世代に伝えるために」

 メルキオールが涙を拭いながら頷いた。

「ありがとうございます。信仰と記憶、両方を守りたいんです」

---

 チェン・ロンは、山のような契約書を作成していた。

 カリカリカリとペンが走り、羊皮紙が次々と埋まっていく。

「特許権、著作権、使用料、利益配分…」

 商人の本能が炸裂している。レオンが困惑した表情で近づいてくる。

「チェン・ロンさん、それは…」

「レオン殿下!この技術の価値は計り知れません!適切な契約が必要です!」

 算盤を弾く音がパチパチパチパチと響く。商人魂が爆発していた。

 しかし、ふと手を止める。

「……いや、待てよ。実は、平和が一番儲かるんですよ」

 意外な本音が飛び出す。

「争いは損失です。物が壊れ、人が死に、商売ができなくなる。でも平和なら、みんなが物を買う。旅ができる。商売が繁盛する」

 商人としての哲学を語り始める。

「私は亡き妻に誓いました。『平和な世界で商売をする』と。彼女は争いを嫌っていました」

 涙が頬を伝う。昨夜、妻の優しい笑顔を結晶化してもらったチェン・ロンは、その誓いを思い出していた。

「だから、この技術が平和のために使われるなら——無償でもいい」

 レオンが笑顔で答える。

「実は、無償公開するつもりです」

 チェン・ロンが驚愕して、算盤を落とした。パラパラパラと玉が転がる音が響く。

「む、無償ですか!?」

「みんなで使えばいいじゃないですか」

 レオンの純粋な科学者魂が輝く。チェン・ロンが苦笑しながら頭を振った。

「レオン殿下は…商売には向いていませんね」

 でも、その笑顔は温かかった。

---

 極北調査が終わり、帰還準備が始まった。

 夜、最後の焚き火を囲んで座った。薪がパチパチと弾ける音が静寂に響き、温かい光が六人の顔を照らす。

 レオンが言う。

「さあ、みんなの誓いを聞かせて」

 フィルミナが最初に立ち上がった。

「私は、レオン様を支える心になります」

 優しく微笑むと、母のような温かさが溢れる。胸の奥で密かに想いを秘めながら、それでも彼を支えることを選ぶ。

 プリマが続く。

「私は、みんなを繋ぐ絆になる!」

 元気いっぱいに宣言すると、虹色の光が瞬く。

 テラがゆっくりと立ち上がる。

「私は、土台を支える礎になります」

 どっしりとした安定感が伝わってくる。

 マリーナが流れるように立つ。

「私は、流れを導く水になります」

 波のような優雅さで誓いを述べる。

 最後にクリスタが立ち上がった。震える声だが、力強い。

「私は、守る盾になります」

 涙が溢れる。

「300年前、私は失敗しました。救世主として期待されながら、何も守れなかった」

 過去の痛みが蘇る。

「でも、今度は違います。レオン様と、みんなと一緒なら——今度こそ、守れる」

 五体が手を繋ぐ。焚き火の光が温かく揺れ、星空が広がっていた。

 レオンが微笑む。

「みんながいれば、何でもできる」

 六人の絆が、完全に確立された瞬間だった。

---

 夜が更け、リヴィエルとクリスタが二人で話していた。

 少し離れた場所、星空の下。二人は座って、静かに語り合う。

「実は…私、レオン様が好きなの」

 リヴィエルが小さく告白する。頬が赤く染まっていた。

 クリスタが驚いて、でもすぐに微笑む。

「私も…レオン様に救われた」

 二人が顔を見合わせた。恋敵になるはずだった。

「でも、友達でいよう」

 リヴィエルが手を差し出す。

「レオン様を一緒に支えよう。恋より、友情を選ぶの」

 クリスタが涙を浮かべながら、その手を握った。

「ありがとう。あなたは…私の初めての女友達」

 お互いの過去を語り合う。リヴィエルは貴族の道具として扱われた幼少期、クリスタは300年の孤独——追放された者同士、深く共感し合った。

「私たち、似てるね」

「うん。だから、わかるの」

 二人が微笑む。恋ではなく、友情を選んだ女性たちの美しい絆が生まれた瞬間だった。

---

 翌朝、国境の町に到着した。

 各国の代表が集まり、協定調印式が執り行われる。記憶技術の平和的利用に関する協定——表面上は平和な合意だ。

 クリスタが前に出て、力強く宣言する。

「追放された私が、今度は守る側に立ちます。レオン様と共に、新しい世界を作ります」

 周囲が静まり返る。各国の代表が感動して拍手を送った。追放者が英雄になる瞬間——物語の美しい逆転劇だ。

 レオンが笑顔で立ち上がる。

「さあ、帰ろう。帝都へ」

 六人が出発する。白銀の世界に別れを告げ、新しい冒険へと歩き出す。

 クリスタが最後に振り返った。300年間過ごした氷の宮殿が、遠くに見える。

「さようなら…そして、ありがとう」

 涙が頬を伝うが、それは悲しい涙ではない。新しい人生への感謝の涙だ。

 六人が並んで歩く姿が、朝日に照らされて美しく輝いていた。新しい世界へ——新しい物語の始まりだ。
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