転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~

宵町あかり

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第47話 風の呼びかけ

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 レオンの研究室に、四人の覚醒個体が集まっていた。

 広々とした部屋の中央に、奇妙な装置が設置されている。複数の魔法結晶が円形に配置され、その中心に大きな球体が浮かんでいた。共鳴装置——四人の魔力を同調させて、遠くの気配を探知する機器だ。

 フィルミナが装置の前に立ち、手を伸ばす。シュワアアアと白い光が指先から溢れ、球体に吸い込まれていく。クリスタ、マリーナ、テラも同様に魔力を送り込むと、球体が四色に輝き始めた。

 レオンが研究ノートを開き、装置の数値を確認する。

「前回感じた気配…まだ微弱だけど、確かに存在している」

 レオンの指が装置のダイヤルを調整すると、球体の中に地図が浮かび上がった。アルケイオス大陸全体が映し出され、一点が青白く光っている。

「西部…ウィンドヘイブン地方から発せられています」

 レオンの声に、四人が身を乗り出す。

 フィルミナが球体の光を見つめながら、瞳を輝かせる。

「第6覚醒個体…ついに見つかりましたね」

 その言葉に、クリスタも静かに頷いた。300年前の自分を思い出すように、小さく呟く。

「私たちと同じ…追放された者。きっと、孤独の中で生きてきたのね」

 マリーナが嬉しそうに両手を合わせる。

「新しい仲間!また家族が増えるわ!早く会いたい!」

 その明るさに、テラが冷静な声で釘を刺す。

「気持ちは分かるけど、まだ覚醒していないかもしれません。接触は慎重に」

 レオンが微笑む。新しい個体との出会い——研究者としての興奮が胸に溢れてくる。どんな能力を持っているのだろう。どんな物語を抱えているのだろう。

(新しい個体…どんな能力を持っているんだろう。風の力—— 空気の流れを操るのか、それとも気圧を変化させるのか。もしかしたら、音波を操る能力かもしれない。追放された者たちは皆、想像を超える力を持っていた。この出会いが、また新しい発見をもたらしてくれる)

 心の中で期待が膨らむ。でも同時に、慎重さも忘れない。追放された者たちは、皆深い傷を抱えている。急ぐ必要はない。

 リヴィエルが地図を見つめながら呟く。

「ウィンドヘイブン…風の高原地帯ですね」

 クリスタが思い出すように言う。

「300年前、あの地方には強力な風使いの一族がいたはず」

 レオンが頷く。

「調査の価値はあります。準備を始めましょう」

 五人が顔を見合わせ、同時に頷いた。新しい仲間を迎えに行く——また家族が増える期待感が、全員の心を満たしていた。

(新しい仲間…また家族が増える)

 一方その頃、帝都の各国大使館では、緊急会議が開かれていた。

 ガルヴァンが机を拳で叩き、炎のような勢いで立ち上がる。

「レオン殿下が西部に向かうぞ!これは次の覇権拡大作戦に違いない!」

 その興奮に対し、メルキオールは静かに占星盤を凝視していた。星々の配置が、彼の確信を強めていく。

「世界統一の次の段階…間違いない。神の啓示が、この動きを示している」

 チェン・ロンは冷静に算盤を弾きながら、低い声で呟いた。

「西部制圧作戦の開始か…恐るべき戦略家だ。我々も遅れを取るわけにはいかない」

 三人の温度差が、また始まろうとしていた。

---

 帝都の大会議室に、王族と各国代表が集まった。

 円卓の中央にレオンが立ち、西部調査の計画を説明している。大きな地図が壁に掛けられ、ウィンドヘイブン地方が赤い円で囲まれていた。

「西部ウィンドヘイブン地方に、新しい覚醒個体の気配を感じました。平和的な接触を行い、もし可能であれば、帝都に迎えたいと思います」

 レオンの兄、第一王子アレクシスが真面目な表情で尋ねる。

「西部は地形が険しい。護衛は十分か?」

 姉のイザベラ王女が心配そうに付け加える。

「あなたは私たちの大切な弟なのよ。危険な場所に行かせるなんて…」

 レオンが優しく微笑む。

「大丈夫です。五人の覚醒個体がいます。それに、これは世界の調和のために必要な調査です」

(この調査は、世界の調和のために必要だ。追放された者たちを救い、その力を正しく理解する。それが、この世界をより良くする第一歩になる。科学者として、そして王子として——僕には、その責任がある)

 使命感が胸を満たす。追放された者たちを救い、世界をより良くする——それが自分の役割だと信じている。

 ガルヴァンが勢いよく立ち上がる。

「炎龍騎士団を全軍投入します!1000人の精鋭で護衛を!」

 メルキオールが続く。

「聖教国も氷魔法部隊500人を派遣します!神の加護を!」

 チェン・ロンが算盤を叩く。

「商連合は地龍工兵団300人で道を整備します!補給も万全に!」

 レオンが困惑した表情で手を振る。

「…そんなに大規模な護衛は必要ありません」

 でも、三人は聞いていない。それぞれの心の中で、別の考えが渦巻いていた。

 ガルヴァン(西部制圧の軍事作戦…我が国も貢献しなければ)

 メルキオール(世界統一の布石…遅れを取るわけにはいかない)

 チェン・ロン(新しい市場開拓の先兵…商機を逃すな)

 レオンが苦笑する。

「皆さん、これは調査です。軍事行動ではありません」

 フィルミナが立ち上がり、凛とした声で言う。

「レオン様をお守りします。私たちがいれば、大丈夫です」

(みんなを守りながら、新しい仲間を迎えに行く。追放者から英雄へ、そして今はリーダーとして。300年前の孤独な日々を思えば、今この瞬間がどれほど奇跡的か。レオンが私たちに与えてくれた、新しい人生。今度は私が、他の追放者にその希望を届ける番だ)

 リーダーとしての責任感が胸に宿る。追放者から英雄へ——そして今、仲間たちのリーダーとして、新しい役割を果たそうとしていた。

 会議が終わり、西部への旅が正式に決定した。出発は三日後。準備の時間は十分にあった。

---

 帝都の市場は、いつも以上に活気に満ちていた。

 レオン、四人の覚醒個体、リヴィエル、そしてスライムが、買い物に出かけている。西部の気候に合わせた装備を揃えるためだ。

 クリスタが厚手のコートを手に取り、嬉しそうに羽織ってみせる。モフモフの襟に顔を埋めながら、心配そうに尋ねた。

「風の高原って、すごく寒いのかな?こんな厚いコートでも足りないかも…」

 その姿に、リヴィエルが苦笑しながら冷静に指摘する。

「クリスタ、そんなに着込んだら戦闘の時に動けませんよ。魔法使いは身軽さも大切です」

 マリーナが笑いながら、自分の手のひらに小さな水球を浮かべてみせる。

「私は水の魔法で体温調整できるから、薄着でも平気よ」

 テラも真面目な表情で頷きながら、足元の石畳に手を触れた。

「私も大地の力で温かくできます。地熱を引き出せば、寒さは問題ありません」

 スライムが「シュワアア」と鳴いて、クリスタの肩に飛び乗る。まるで「僕も手伝うよ!」と言っているようだった。

 レオンが微笑む。みんなが楽しそうに準備している姿——それが何よりも嬉しかった。

(みんなが楽しそうで、僕も嬉しい)

 追放された者たちが、今は笑顔で日常を過ごしている。こんな平和な光景が、ずっと続けばいい。

 装備店の奥で、フィルミナが丈夫な革製の靴を手に取っていた。底の厚さと縫製の丁寧さを確認しながら、リーダーとしての責任を感じる。

「長い旅になるかもしれません。全員分、しっかりした靴を揃えましょう」

 その隣で、リヴィエルが大きな地図を広げ、指で経路を辿っていく。

「ウィンドヘイブンまで、帝都から約10日の行程ですね。途中の補給地点も確認しておきましょう」

 クリスタが横から地図を覗き込み、遠い目をした。300年前、まだ追放される前の記憶が蘇る。

「10日…あの頃は一人で旅をすることなんて、考えたこともなかった。いつも家族が一緒だったから」

 その言葉に気づいたマリーナが、優しくクリスタの肩に手を置く。

「今は一人じゃないよ。私たちがいる。新しい家族と一緒だから、どこへだって行けるわ」

 テラも柔らかく微笑みながら頷いた。

「そうです。一緒なら、どんな困難な道も乗り越えられます」

 クリスタの目に涙が浮かぶ。300年前には想像もできなかった光景——仲間たちと一緒に、新しい冒険に向かう幸せ。

(こんなに温かい日常…300年前には想像もできなかった。あの頃の私は、氷の女王として恐れられ、誰も近づいてこなかった。凍てついた城で、一人きりで何百年も過ごした。でも今は違う。仲間がいる、家族がいる、笑顔がある。この温かさを、新しい仲間にも伝えたい)

 市場の人々が、六人を温かく見守っていた。

「レオン様たちが西部に行くんだって」

「新しい仲間を迎えに行くらしいわ」

「追放された者を救う…本当に優しい方ね」

 人々の声が、温かい風のように六人を包み込んでいた。

---

 出発の朝、帝都の西門には、信じられない光景が広がっていた。

 ガルヴァンが率いる炎龍騎士団1000人が、赤い鎧で整列している。メルキオールの氷魔法使い500人が白い法衣で並び、チェン・ロンの地龍工兵団300人が緑の制服で待機していた。

 レオンが呆然と立ち尽くす。

「…これ、調査じゃなくて軍事行動に見えるんですけど」

 フィルミナが苦笑する。

「少し…大げさですね」

 市民たちが西門の周りに集まり、歓声を上げている。

「世界統一戦争の開始だ!」

「歴史的瞬間!」

「レオン様万歳!」

 レオンの心境は複雑だった。

(みんなの期待は嬉しいけど…こんなに大げさにしなくても。ただの調査なのに、なぜ毎回こんな大軍になってしまうんだろう。僕は科学者として、静かに研究がしたいだけなのに。でも、みんなの善意は本物だ。拒否すれば、傷つけてしまう。仕方ない…受け入れるしかないか)

 純粋に調査をしたいだけなのに、なぜこんなに大事になってしまうのだろう。でも、みんなの善意は感じる。拒否するわけにはいかなかった。

 ガルヴァンが馬に跨り、剣を掲げる。

「炎龍騎士団、出発!」

 メルキオールが杖を振る。

「氷魔法部隊、前進!」

 チェン・ロンが算盤を鳴らす。

「地龍工兵団、行軍開始!」

 圧倒的な行列が、西門を出発した。レオンと四人の覚醒個体、リヴィエルは、その中央の馬車に乗っている。スライムが窓から顔を出し、「シュワアア」と鳴いていた。

 朝日が帝都を照らし、壮大な旅の始まりを告げる。市民たちの歓声が、空高く響いていた。

 フィルミナが決意を胸に秘める。

(どんな困難が待っていても、みんなと一緒なら大丈夫)

 新しい冒険——それは不安もあるけれど、仲間たちと共にあれば何も怖くない。

---

 帝都から西への街道を、壮大な行列が進んでいた。

 馬車の中で、レオンとみんなが地図を広げている。夕暮れ時、オレンジ色の光が窓から差し込んでいた。

 レオンが地図の一点を指す。

「ウィンドヘイブン…風の高原地帯。標高が高く、一年中風が吹いています」

 馬車が揺れる中、フィルミナは膝の上に広げた地図を見つめていた。ウィンドヘイブンの文字が、オレンジ色の夕日に照らされている。

「風の覚醒個体…一体どんな方なのかしら。どんな力を持っているのか、どんな物語を抱えているのか…」

 その声に、リヴィエルが少し不安そうな表情を見せた。自分たちが追放された時の孤独を思い出しながら、小さく呟く。

「私たちを受け入れてくれるでしょうか。もしかしたら、人間に心を閉ざしているかもしれない…」

 クリスタが優しく微笑みながら、リヴィエルの手を握った。

「きっと大丈夫よ!レオンがいるもの。あの人なら、どんな心も開いてくれるわ」

 マリーナが窓の外に視線を向けると、遠くに連なる山々のシルエットが見えてきた。

「見て、遠くに山が見えてきたわ。あれが西部の山岳地帯ね」

 テラが地図と外の風景を見比べながら、静かに頷く。

「そうです、西部の山岳地帯。地図通りなら、もうすぐウィンドヘイブン地方に入ります」

 レオンがノートに何かを書き込む。

「風の力…どんな能力なんだろう」

 スライムが「シュワアア」と鳴いて、レオンの膝に乗る。まるで「僕も会いたい!」と言っているようだった。

 四人が顔を見合わせる。お互いの絆が、言葉なしに伝わってくる。

(私たちは家族。どんな困難も乗り越えられる)

 追放された者たちが、今は家族のように結ばれている。新しい仲間を迎えるために、みんなで力を合わせる。

 レオンが窓の外を見つめる。

「みんなで、新しい仲間を迎えに行こう」

(新しい仲間…世界の調和が、また一歩前進する)

 研究者としての期待、でも同時に人としての温かさ——レオンの心の中で、二つの想いが調和していた。

 その時、遠くの空に、奇妙な光景が見えた。

 フィルミナが目を細める。

「あれは…」

 空中に、何か大きな構造物が浮かんでいる。石で作られた建造物のようだが、地面から浮いている。

 クリスタが息を呑む。

「空中遺跡…?」

 フィルミナが共鳴能力で感じ取る。

「強い魔力を感じます…古代の力」

 レオンが研究ノートを開き、素早く図を描き始める。

「空中に浮かぶ遺跡…風の力で浮いているのか?それとも別の原理?」

 マリーナが興奮した声で言う。

「もしかして、あそこに第6覚醒個体が!?」

 テラが冷静に分析する。

「可能性は高いです。あの遺跡の魔力反応、共鳴装置の気配と一致しています」

 馬車が、遠くに浮かぶ遺跡に向かって進んでいく。夕日がオレンジ色に空を染め、遺跡のシルエットを美しく浮かび上がらせていた。

 レオンが呟く。

「新しい冒険が…始まる」

 全員が、期待と不安を胸に、遠くの遺跡を見つめていた。新しい仲間、新しい力、新しい物語——全てが、あの空中遺跡の中で待っている。

 スライムが「シュワアア」と鳴き、まるで「行こう!」と言っているようだった。

 馬車は、夕暮れの道を西へ西へと進んでいった。
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