転生王子はスライムを育てたい ~最弱モンスターが世界を変える科学的飼育法~

宵町あかり

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第60話 静かな夜の語らい

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【研究ノート・絆の考察】

祭りの後、みんなで語り合った。それぞれの過去、現在、未来。科学者として「データ」を超えた何かを学んだ気がする。これが「絆」というものの本質なのかもしれない。数式では表せない、でも確かに存在する力。

---

 祭りから戻った研究室は、静かで穏やかな空気に包まれていた。

 窓の外には月明かりが差し込み、七人が浴衣姿のままテーブルを囲んでいる。フィルミナが入れた温かいお茶から、ゆらゆらと湯気が立ち上っていた。

「今日は本当に楽しかったね」

 レオンが満足そうに微笑む。

「花火も綺麗だったし、みんなと一緒に回れて」

「うん!祭りってこんなに楽しいんだね!」

 マリーナが目を輝かせる。綿菓子の袋がまだ手元にあった。

「500年間で...一番幸せな一日だった」

 エオリアがしみじみと呟く。空色の浴衣が月明かりに映えていた。

「こういう時間が、一番大切よね」

 フィルミナが優しく微笑む。藍色の浴衣姿は、どこか神聖な美しさを湛えている。

「...みんなと、一緒」

 テラが小声で、でも確かに嬉しそうに言った。

「本当に...この時間が、いつまでも続けばいいのに」

 クリスタが心から頷く。

 リヴィエルは腕を組んだまま、少し照れたように視線を逸らした。

「...今日は、楽しかった」

 素直な言葉。それだけで、みんなの顔がほころんだ。

 温かいお茶を啜りながら、七人は祭りの思い出を語り合う。射的でマリーナが当てたぬいぐるみ、金魚すくいでテラが見せた意外な才能、焼きとうもろこしを頬張るエオリアの幸せそうな顔。

 穏やかな笑い声が研究室に響く。

(こんな時間が、こんなに温かいなんて)

 レオンは胸の奥が満たされていくのを感じていた。

---

「ねえ」

 マリーナがふと思いついたように言った。

「せっかくだから、もっとお互いのこと知らない?過去のこととか...」

 少しの沈黙。

 けれど、誰も嫌な顔はしなかった。今日という日が、心の扉を開いていたのかもしれない。

「私から...話してもいい?」

 エオリアが静かに口を開いた。

「500年間、空中遺跡で一人だった」

 その声は穏やかだったが、どこか遠くを見つめていた。

「濡れ衣を着せられて...誰も、信じてくれなくて」

 500年。想像もつかない孤独。空の上で、ただ一人。

「でも」

 エオリアの瞳が潤む。

「レオンは、最初から信じてくれた。何の証拠もないのに、私の言葉だけで」

(あの時のエオリアの表情、今でも覚えてる)

 レオンは胸が締め付けられた。

「私も...話すわ」

 クリスタが静かに続けた。

「300年、氷の中で眠っていた。孤独で...寂しくて...目覚めても、世界は変わっていて、私だけが取り残されていた」

 深緑の浴衣が、月明かりの中で揺れる。

「最初に目覚めた時、近くにいた学者に話しかけたの。でも誰も、私の言葉を信じてくれなかった。『300年前の人間が生きているわけがない』って。まるで幽霊を見るような目で見られて...」

 クリスタの声が少し震えた。

「でもレオンと出会って、初めて理解してくれる人ができた。研究のこと、考えていること...全部、聞いてくれた。300年前の知識を、『古い』じゃなくて『貴重だ』って言ってくれたのは、レオンが初めてだったわ」

「私は」

 フィルミナが目を伏せた。

「帝国第一皇女として...常に完璧を求められた。自分の想いなんて、押し殺すしかなかった」

 優雅な佇まいの裏にあった重圧。誰にも見せられなかった孤独。

「レオン様と出会って...初めて『自分』でいられた。フィルミナとして、ただの私として」

 その言葉に、レオンの胸が熱くなる。

「僕は地底で生まれて、外の世界を知らなかった」

 マリーナが明るく、でもどこか真剣な声で言った。

「地上に出てレオンと冒険して...初めて『生きてる』って感じた。太陽も、風も、全部が新しくて」

「...精霊の森で、一人だった」

 テラが静かに語り始めた。いつもより、少しだけ言葉が多い。

「言葉が、少ない。だから、みんな怖がる。近づいてくれない」

 淡い紫の浴衣が、小さな肩を包んでいる。

「話しかけても、返事がない。だから、もっと話さなくなる。そうすると、もっと...怖がられる。悪循環、だった」

 テラの目に、かすかに涙が光った。

「でも...レオンは、違った。私が黙っていても、側にいてくれた。言葉、なくても...わかってくれる。『話さなくていいよ』って、笑ってくれた」

 その言葉に、みんなが静かに頷いた。

「護衛騎士として...一人で任務をこなしてきた」

 リヴィエルが腕を組んだまま、天井を見上げた。

「仲間なんて、必要ないと思っていた。一人のほうが楽だと」

 黒地に赤い花の浴衣。クールな印象の奥にあった孤独。

「でもお前たちと一緒にいて...一人じゃないって、こんなに温かいんだな」

 照れ隠しの口調。でも、声は震えていた。

 六人の過去。それぞれの孤独。

 レオンは深く息を吸った。

「僕も...話すよ」

 みんなの視線が集まる。

「前世では、仕事ばかりで...大切なものを見失っていた」

 研究室の静寂の中、レオンの声だけが響く。

「家族も、友人も、全部後回しにして。気づいたときには...」

 言葉が詰まる。

「この世界に転生して、みんなと出会えて...本当に良かった。これが、僕の新しい人生だ」

 七人の間に、静かな涙が流れた。

 言葉にならない共感。それぞれの孤独を知ったからこそ、今の幸せがどれほど尊いか分かる。

「みんなと出会えて...良かった」

 誰からともなく、その言葉が重なった。

---

「過去はもう変えられない」

 レオンが穏やかに言った。

「でも、未来は...これからは、どうしたい?」

 優しい問いかけ。

 フィルミナが最初に答えた。

「ずっと、一緒にいたい。レオン様の側で、支え続けたい」

 静かだが、強い意志を込めた声。

「冒険を続けたい!」

 マリーナが目を輝かせる。

「レオンと一緒に、世界中を旅したい!まだ見たことない場所、いっぱいあるもん!」

「...レオンの、側に」

 テラが小さく言った。

「それだけで...幸せ。言葉はいらない。ただ、一緒にいられれば」

 短い言葉に、深い想いが込められていた。

「研究を一緒に続けたい」

 クリスタが微笑む。

「レオンの知識と、私の技術で...もっと素晴らしいことができる。きっと」

「守り続ける」

 リヴィエルが真剣な目で言った。

「お前たちを...家族を」

 照れながら、でも揺るぎない声で。

「自由に、でもみんなと一緒に」

 エオリアが願いを込めて言った。

「この幸せが、ずっと続けばいい」

 それぞれの想い。それぞれの未来。

 レオンは六人を見回した。

(みんな、こんなに...)

 胸が熱くなる。言葉が自然と溢れ出た。

「僕も...みんなとずっと一緒にいたい」

 心からの想い。

「家族みたいに、いや...」

 レオンは穏やかに微笑んだ。

「もう家族だよね」

 その瞬間、研究室が静まり返った。

 六人の目が、大きく見開かれる。

「レオン様...」

 フィルミナの声が震えた。

「家族...」

 エオリアの頬を涙が伝う。

「家族、って...」

 マリーナも目を潤ませている。

 テラは静かに涙を流し、クリスタは唇を噛んで感情を堪えていた。リヴィエルでさえ、視線を逸らしながら目元を拭っている。

「ずっと...一緒」

 誰かが呟いた。

 その言葉が、七人の心を繋いだ。

 自然と、みんなの手がテーブルの中央で重なった。

 月明かりが、その光景を優しく照らしていた。

---

 しばらくして、マリーナがふっと笑った。

「ふふ...でもさ」

 いたずらっぽい目でレオンを見る。

「レオンって、本当に鈍感だよね」

「え?」

 レオンが首を傾げる。

「何が?僕、何か鈍感なこと言った?」

「...何でもありませんわ、レオン様」

 フィルミナが微笑みながら涙を拭う。

「そうね、何でも...」

 クリスタが意味深に笑った。

「まったく...」

 リヴィエルが呆れたように、でも口元は緩んでいる。

「...ふふ」

 テラが小さく笑う。珍しい光景だった。

「まあ、それがレオンの良いところだけどね」

 エオリアが優しく笑った。

「???」

 レオンは完全に困惑している。

 六人が顔を見合わせて、くすくすと笑った。

 温かい笑い声が、研究室に響き渡った。

---

 深夜。

 七人は窓辺に並んで、星空を見上げていた。

 満天の星が、夜空を彩っている。月明かりが優しく七人を照らし、静かな時間が流れていた。

「今日は...最高の一日だった」

 レオンが呟いた。

「ええ...本当に」

 フィルミナが静かに頷く。

「こんな日が、ずっと続けばいいのにね」

 マリーナが夢見るように言った。

「...続く。きっと」

 テラが小声で、でも確信を込めて答えた。

「私たちは、これからも共に」

 クリスタが微笑む。

「...約束だ」

 リヴィエルが静かに誓った。

「終わりのない幸せを...」

 エオリアが願いを込めて呟いた。

 七人のシルエットが、星空を背景に浮かび上がる。

 言葉は少なくても、心は繋がっていた。

 この幸せを、ずっと守りたい。

 星明かりの下、七人は静かにそう誓った——
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