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第6話 会議は大層踊った様です。-2-
しおりを挟む時は私が王宮で茶番に巻き込まれる前日まで遡る。
「さて、これからの対策を協議しましょう。まず、この件に関して動いている人物がモンロー夫妻である以上、いくら茶番であると分かっているとは言え、この婚約申し込みを私の方から断る事は不可能だわ。何が何でも成就させようと躍起になっているに違いないもの」
屋敷の居間で私は高らかにそう宣言した。
自慢ではないが、モンロー夫妻は私の事をそれはそれは溺愛している。
昨日は父様と母様の暴走を笑っていたモンロー夫妻であるが、それはそのまま本人たちにも当てはまるのだ。
「モンロー夫妻の暴走以前に正式ではないとは言え公爵家からの申し込みですからね、そもそも身分を考慮すればこちらからは断る事など出来ません。ですが、恐らく件の公爵様は、お嬢様との婚約はなかった事とされるでしょう。そもそもまだ正式に婚約の申し込みが来た訳では無いのでおそらく有耶無耶にされるのではと愚考します」
「私もそう思うけれどエミリッタは随分とはっきりと言い切るのね。正式な婚約は避けつつ口約束だけの体の良い風よけとして使われる可能性もあるのじゃないかしら?」
「恐れ多くも申し上げさせていただくなら、お嬢様はもう少しご自身の周囲の評判というものをお考えになった方が良いかと。貴族の社交にほとんど顔を出さないくせに、平民とは親しく付き合う阿婆擦れと専らの評判でございますから。普通の殿方であればもう少しマシな方と婚約したいと考えるのは当然かと。ましてや件の公爵様は身分良し、見目良しでございます。この様なくだらない戯言で周りを巻き込む様な人物ですので、器量については甚だ疑問はありますが、ご令嬢の方々にとってはさぞ優良物件である事でしょう。そんな殿方がお嬢様と婚約など、なんのメリットもございません。寧ろ汚点でございます」
侍女の容赦ない批評に私の心は大いに傷ついた。
そこに更に執事が追い打ちをかける。
「悪い噂一つない評判の良いご令嬢であれば、無下に扱えば名に傷をつけてしまいますが、貧乏、阿婆擦れ、クソビッチと名高いお嬢様であれば、根も葉もない噂を信じて厚かましくも公爵に婚約を迫り無残にフラれた痴れ者と言われても、今更傷つく名などありません。公爵としても無下に扱っても問題のない人物であれば、エミリッタの予想は正しいかと」
「お嬢様にはクソビッチという賤称もあるのですね。私は初めて耳に致しました」
「こちらはエルマール伯爵家の末妹様が仰っておりました」
「マテウスの情報収集能力は流石ですね。私ももっと精進しなければ」
「何事も経験ですよ。エミリッタも後10年もすれば自ずと身につくでしょう」
等と従者たちが楽しそうに会話をしている横で、私は大層傷ついていた。
「まあこの際、お嬢様の評判は一度置いておきましょう。どうでもいい事です」
「どうでもよくないわよ。私今すごく傷ついてるわよ。慰めなさいよ」
「モンロー夫人の行動力を考えますに、既に水面下で動き回っていることでしょう。こちらが対策に取れる時間はかなり少ないかと思います」
「ちょっと?私を無視して話を進めないで頂戴」
そんな、私にエミリッタは、はぁと大きなため息をついた。全くもって納得できない。
「そもそも裏からとは言え公爵家から申込みがあり、モンロー夫人が動いていて、公爵本人にお嬢様と婚約する気がないであろう時点で、お嬢様の賤称コレクションに新たな賤称が加わる事は確定しているのです。今更変えられない未来について協議するなど無駄な事でございます」
「賤称コレクションってなに!?誰も好き好んで集めてないわよ。と言うか、この状況を回避する方法を協議するのではなくて?貴方たちは何について協議するつもりだったの?」
「当然、お嬢様の悪評がアーレンハイム子爵家に影響を及ぼさない様、いかに上手く切り捨てるかにございます」
私付きの侍女はそれはそれはいい笑顔で、そんな物騒な事を宣った。
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