異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア

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第2章

第5話 再び此処に

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 海堂たちの姿が見えなくなるのを確認して、深海は俺の元にやって来る。無言で深海が、地面に腰を下ろしたままの俺に手を差し出す。俺は、その手を取らずに立ち上がる。

「ありがとう、助かったよ」

 俺が礼を言うと、差し出した手を戻した深海は首を横に振り、風巻は溜め息を吐いた。

 ここで、もう一度2人を良く見る。
 風巻刹那の見た目は、艶のある黒髪黒目。艶のある黒髪をポニーテールにしている。そして、まるでモデルの様な女性的な体型をしており、雪の様に白い肌、薄桃色の唇、どれを取っても校内屈指の美少女、と言われているだけはある。それに、実家は剣道の道場を開いており、剣の扱いにも長けている。部活動として参加する剣道では、何度も表彰台に登った経歴のある猛者らしい。
 性格は、誰に対して分け隔たりなく接し、いつも凛としている。噂では、数多の男性が告白し撃沈したとか、ないとか……。
 確か、元カレは澤輝らしい。

 深海庸平の見た目は、一言で言えば巨漢。又は、熊だ。190cmにもなる長身に広い肩幅と厚い胸板、国から支給された服の上からでも分かる程に、鍛え上げられた筋骨隆々の肉体。そして、母方の祖母がロシア人だった為か、黒髪に灰色の髪が混ざり、鋭い瞳と相まって獣の様な印象を受ける。
 深海は柔道部で、3年連続全国大会出場、中学も含めれば6年連続出場し、3度も全国1位になっている。確か、柔道意外にも剣道、空手やボクシングなどの格闘技もやっていると生徒の噂で前に聞いた事がある。
 性格は、無口。人前では、余り喋る事はない。今でこそ喋る様になったが、昔は筆談で会話をする程酷かった。
 因みに、俺とは小学校からの幼馴染だ。とは言っても、俺は中学3年生の夏に異世界に召喚されて、5年間を異世界で過ごしたので、戻って来た当初は名前もうろ覚えになっていた。

「前より酷くなっているけど大丈夫なの?」

 風巻が俺を気遣って声をかけてくれた。こんな所をクラスの男子に見つかれば、第2、第3の海堂を生み出しかねない。

「これくらい大丈夫。固有スキルのおかげで傷は直ぐ治るから」
「そういう事を言っているんじゃないんだけど。そうだ、私が一度海堂を半殺しにしてくる?」

 あっ、この目はマジな奴だ。
 元仲間たちが、宿屋で出たゴキ○リに似た生物を剣と魔法を使って、オーバーキルしようとした時の目と全く同じだ。

「悪いけど、俺とは関わらない方が良い」

 俺の言葉に2人は表情を顰める。

「……嫌だ」

 そういえば、深海の会話するのは随分久しぶりな気がする。

「地球にいた時、凍夜は俺を救ってくれた。……だから、恩返しをしたい」

 隣で風巻が、少し驚いている。深海がこんなに長く喋る事は、授業以外では殆どない。それより、まだあんな昔の事を気にしていたのか。本当に律儀な奴だ。

「必要ないよ。今までと同じ様に接してくれたら、それで良いから」
「俺は、凍夜が、変わってしまったのに……気付けなかった。いや、気付いていたのに…何もしなかった……」

 何も出来なかった、ではなく、しなかった、か.....深海らしい言葉だ。深海の顔は、自分への怒りや後悔、俺に対しての謝罪の気持ちで染まっている。
 どうやら、深海は地球にいた頃の事を気にしているのだろうが、それこそ見当違いも良いところだ。地球では、異世界から戻った俺が異端にならない様に、何かしら補正を受けていた可能性がある。
 そうでなければ、親が一目で分かる俺の変化をあんな簡単に流すはずが無い。そして、異世界に来だ事で、その補正がなくなったのかもしれない。

「……」

 深海は無口だが、感情が顔に出る。

 周囲の人間は、深海の事を「考えている事が分からない」と話す。

 だが、俺からすれば、深海以上に分かり易い人間に地球では、出会った事がない。だから、昔は仲が良かった。

「うーん、私には2人の会話が良く分からないのだけど.....」
「兎に角、俺の事は放って置いてくれ」
「ちょっとっ」

 俺はそれだけ言い残し、足早に城の中の自室に向かった。そして、まずシャワーを浴び、部屋にある荷物をアイテムボックスの中に放り込み、街で買ったサンドイッチの様な物を食べたり、魔法の練習などをして予定の時間を待った。


■■■■■

 昼の鐘が鳴り、城の中を歩き廻っているクラスメイト達や騎士の多くが食堂や自室に戻り食事を取り始める。この時間帯は、見張りも少ないし、何より海堂達の様な面倒な連中に会わなくてすむ。
 召喚された異世界人は、聖王国から行動の制限は受けてはいない。城の外に出ようが、王都から出て魔物と戦おうが基本は自己責任だと言われている。

 だが、戦闘を得意としていたと過程しても、聖王国周辺に生息する魔物は、召喚されたばかりの生徒では勝つのが難しい敵だ。
 更に近隣に国はなく、歩いて1番近い小国でも4日以上はかかることも事前に説明を受けている。
 図書館で下調べをしたが、情報が改竄されていない限り嘘ではなさそうだ。其れ等の情報を頭で整理しつつ、俺は王都の外に向かって歩いている。

 だが、一定の距離を空けて3つの魔力が付いて来てしまっていた。城を出た直後から付けて来ているが、下手くそな尾行に隠れる気が無いとすら思える。

 俺は3人が、日常的に他人を尾行している姿を想像して寒気がした。
 2人は兎も角、残りの1人は警察に連絡されても不思議じゃない。
 顔を少し上げれば、聖都ティファナを囲む様に作られている城壁が目に入る。あの城壁は、高い壁というだけでなく、様々な魔法が付与されている。まさに、国と国民を護る盾だ。

 城壁が近くなって来た所で、俺は脇道に進み先を変える。ここは、事前に下調べをしていた道だ。この道の奥は、滅多に人が通らず、少しの戦闘くらいなら行える広さがある。
 下調べ通り、広い敷地を壁で囲んだ場所で止まり、背後を振り返り、3人を待つ。

「何か用か?」
「「「!!」」」

 路地の奥でで待ち構えていた俺を見て、3人は驚く。あの程度の尾行で、気付かれていないと思う方がどうかしている。

「それで、俺に何の様だ?深海、風巻、それと早乙女」

 物陰から、デコボコトリオである深海、風巻、早乙女が姿を見せる。

「いや、僕達は、その……」
「帰れ」

 これ以上は、時間の無駄だ。

「これ以上俺に関われば、容赦はしない」
「そ、そんな……」
「……断る」
「私も嫌よ」

 俺は何も答えず、3人を睨む。

「……ここで、凍夜を見失ったら…2度と、届かない気がする」

 届かない、か……。案外外れていない。
 俺はもうクラスメイトとも、戦争とも関わるつもりはない。世界がどうなろうと、どれだけ他人が傷付こうと俺には関係ない事だ。

「しょうがない。第三階梯魔法〝静音サイレント〟、第四階梯魔法〝濃霧ミスト〟」

 俺はまずこの場から音が漏れない様にし、水の第四階梯魔法〝濃霧ミスト〟で外側からの視界を封じた。
 今ここは、俺達を中心に球体型の濃霧を発生させた事で、簡易的ではあるが3人の視界を塞がずに戦う事の出来る環境を創り上げた。
 これは、召喚されて数日の異世界人では不可能な芸当だ。
 風巻と深海はその事に気付いている。

「2つの魔法を同時に発動!?」
「第四階梯!?」

 クラスメイトの中でも、五本の指に入る程の実力者である2人の反応を見て早乙女もこの場の異常に気付く。

「俺は、国を出る。そして、2度とお前達とは関わるつもりはない」
「駄目だ。凍夜……」

 必死に言葉を探す深海の姿は、今の状況と深海らしくなさ過ぎて滑稽に見える。

「遅過ぎるぞ。深海」

 事前に発動していた〝身体強化〟と風属性魔法を合わせて、深海へと迫る。
 〝身体強化〟で何倍にも上昇した身体能力と風属性魔法による加速によって、武術の達人である深海が反応するより速く彼の服の襟を掴み軽々と地面に叩き付けた。

「がはっ」
「お前も遅い」

 風巻が、咄嗟に剣を抜こうとするより速く、細剣の柄を抑え込む。剣を抜く事が出来ず、驚愕する風巻を魔法で弾き飛ばす。
 深海と風巻には、大してダメージを残さない様に攻撃をした。

 だが、それだけでも互いの力量差を突き付けるには十分な結果となった筈だ。それでも、深海は立ち上がった。そして、風巻も平然とした姿で砂埃を斬り裂いて姿を見せる。

「……」
 
 2人の震える手足を見て、強がっている事が丸わかりだ。
 武術に精通している故に、加減された事が理解出来てしまう。俺と自分達の歴然とした実力差に気付いてしまったが故に、体が本能的に怯えていた。

「実力差は歴然だぞ?」

 俺の忠告に、深海と風巻は揺るがない視線のみで答える。
 油断なく、冷静に武器を構えて俺を見据える2人からは、先程とは別人と思える程の覚悟が伝わって来た。俺にとっては、早乙女を加えた3人が相手であろうと負ける様な相手ではない。

 だが、半端な力で戦う事は、2人の覚悟を侮辱する事になる。それは、嘗ての俺の思いを踏み躙った連中と同じ行いだ。それだけは、出来ない。
 
 混ざり合った様々な想いと記憶を整理する為に、3人から距離を取る。そして、全力で戦う覚悟を決めた。

「分かった」

 その言葉と同時に、俺から解き放たれた魔力が物理的な圧力となり3人を襲う。

「何っ」
「ひぃ!?」
「何て魔力なの!?もしかして、澤輝以上……」
「俺が、澤輝以上か。本当に、そう思うか?」

 比べられる対象が、眼中にすらなかった男であった事に無意識に笑みを浮かべてしまった。
 現在、生徒達の主な行動範囲が城内である事や召喚されて日数自体少ない故にしょうがない事ではある。

「どういう、意味だ?」
「俺は、紛い物の勇者とは次元が違うぞ」

 押さえ込んでいた魔力が、〝濃霧ミスト〟の内部で暴れ狂う。それだけで、3人の息は荒くなり、本能的な恐怖から彼等の闘争心を削って行く。

 お前達の覚悟は、所詮そんなものか。

「どうした。俺を止めるんじゃないのか?」
「そうだ」

 俺の言葉に反応し、3人はそれぞれの武器を構え直す。特に、深海は荒れ狂う魔力の嵐の中で、俺に向かって足を踏み出した。それは、本能的な恐怖を深海の精神力が捻じ伏せた証拠に他ならない。

「構えは上々だ。戦意はギリギリ及第点、そして、良い覚悟だ」

 これくらいの魔力の圧に耐えられないなら、魔王と戦う何て夢のまた夢だ。そして、いつ逃げ出すかと思っていた早乙女も、ガタガタと震えながら剣を構えている。
 正直、見直した。だからこそ、3人の覚悟に答えるには、俺も全力で相手をするしかない。

「お前等の覚悟に敬意を表して、俺も全力で行くぞ」
「「「!!」」」

 3人の顔には大粒の汗が流れ、顔色も緊張の為かだんだんと悪くなっている。それでも構えを緩める様子はない。
 俺の3人に向けて突き出した右手に、魔力が集まり剣の姿に変わって行く。


■■■■■


 
 10年前に行われた人間連合軍による、勇者討伐作戦。それは、『各国の精鋭たちが集まり、力に溺れ魔へと堕落した勇者を正義の元に裁く戦い』と語られている。
 
 戦いは、勇者を退けた人間連合軍が勝利した。

 だが、生き残った者達は、戦士や魔導師としての道を歩む事、あるいは極める事を諦めた。その理由は単純。
 身体と心に刻み付けられた恐怖と絶望感だ。
 戦闘に参加した者達は、個人対国だからといって油断していた訳ではない。覚悟がなかった訳でもない。
 寧ろ、最強の勇者を相手に、死すら覚悟して戦った。

 しかし、勇者が与えた恐怖と絶望は、その覚悟すら易々と超えた。
 人の領域を超越した魔法、自分とは次元が違う存在が放つ圧倒的覇気。全てを消し去る聖剣。
 自分がどんなに努力しても、決して超えられない壁に絶望し、その全てが彼らの理解を超え、心に消えない恐怖として刻み付けられた。そして、戦士や魔導師を辞めた者たちは口を揃えてこう言った。

『自分たちが今まで信じて築いた全てが、1つの魔法、剣の一振りの前に打ち砕かれた。……俺 (私)は、この程度の力を誇って、一体何がしたかったんだ』

 と。そして、他にもこう言う声も多く聞かれた。

『あの聖剣は化け物だ!』

 と。

 第3者が聞けば、何を言っているのか理解出来ない。聖剣が強力な武器な事は、多くの人々がお伽噺や実話を通して知っている事だ。

 しかし、だからといって見てもいない事を信じられる程、人間は甘くはない。『剣が化け物?剣が生きている訳でもあるまいに』と、良い笑い話しになるだけだっだ。
 つまり《神導の勇者》が振るった聖剣の恐ろしさを知っていたのは、その戦闘に参加し、生き残った者達だけなのだ。何故なら、勇者はその力を嫌い、否定し、滅多に抜く事が無かったからだ。故に、《神導の勇者》の記録の殆どにその聖剣は登場しない。

 だが、今 10年の時を超え、聖王国の聖王都ティファナに、その聖剣が顕現した。


■■■■■


「底無き欲望宿りし聖剣よ 我が手に顕現せよ!万物を喰らい尽くせ【聖剣・暴食王ベルゼネス】!!」

 顕現した剣は、万物を喰らい尽くす、漆黒の刀身を持つ聖剣。
 俺はこの聖剣が嫌いだった。これは、己の欲望の為に全てを喰らう力。
 嘗て、勇者だった俺は、奪うのではなく護る為の力を望んでいた。

 だが、今の俺は勇者じゃない。護るべき人も背負う責任もない。だからこそ、俺はこの聖剣ちからを否定しない。

「聖剣!?澤輝と同じ……」
「澤輝の剣は、聖剣じゃない」

 澤輝のスキルは聖剣じゃない。何故なら、聖剣はスキルではないからだ。
 幾つか説はあるが、歴史の中で全く同じ聖剣が存在しない事から、聖剣とは勇者の域へと達した人間の魂が具現化した姿だと言われている。
 事実、俺のステータスには聖剣は表示されていない。

「え?」
「……どういう事だ?」

 俺は、深海の問いに答えず、【暴食王ベルゼネス】を振るう。たったそれだけの動作によって、嵐の様に暴れ狂っていた周囲の魔力が消えた。
 いや、厳密には喰い尽くされた。
 
「あれ、魔力が……」 

 状況を理解出来ていない早乙女と風巻は、汗が肌を伝い地面に落ち、呼吸が荒くなっている深海に気付く。

「……凍夜…それは一体何だ?」
「言った筈だ。聖剣、だと」
「馬鹿な事を言うな!それが……そんな物が、剣な筈がない!」

 明らかに、普段の深海からは想像出来ない程に焦っている。
 
 そうか。お前も、感じたんだな。

「お前に教える必要はない」

 そろそろ時間がない。

「終わらせるぞ」
「来る!」
「「……っ!」」

 3人の構えに戦意が宿る。
 
 
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