ブレーメン

もちっぱち

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ここにいる理由

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緑多い茂った山の上流には綺麗な川が
流れていた。

水は澄んでいて、透明度が高かった。

太陽に反射して、キラキラと輝いている。

小さな滝があちこちにできている。

大きな木から一枚の葉っぱが
落ちて、勢いのある川に流れていく。

岩にぶつかりながら、少しずつ流れていく。

少し流れが落ち着いている先で、
ミドリカメのオリヴァは、
妹のイライジャとともに、
メダカを捕まえていた。

「お兄ちゃん、そっち行ったよ!!」

「お、おう。
 あ、ああ、あーーーー、
 逃げられた……。」

 必死で追いかけようとするが
 なかなか捕まえられない。

 小さいからか、素早いからか。

 2人は何度も挑戦して、
 やっとこそバケツに3匹を捕まえては
 食事にありついた。

 2人で3匹を分けると
 1匹余る。

 オリヴァはイライジャに分け与えた。

「もう1匹食べていいぞ。」

「嘘、やった。ありがとう。
 何、何、どんな風の吹き回し?
 珍しいじゃん。」

「いいから。
 食べろって。
 俺の気が変わらないうちに。」

「え、うん。」

 イライジャはかじりついた。

「美味しかった!」

 ごちそうにありついたイライジャは
 たいそう喜んだ。

「いつになったら、
 この生活から抜け出せる?」

 山の上流に住み始めて数ヶ月。

 オリヴァは、
 アシェルと同じで国の生活保護を
 受けながら、妹のイライジャと
 ここに住んでいた。

 左腕にマイクロチップを
 埋め込まれている。

 毎日の情報はこのボタンから
 得られていた。


 両親は不慮の事故で亡くなってしまい、
 家は借金返済のために売り払われ、
 住む場所を失った。

 親戚もいない。

 夢も希望も失っていたところに
 1通のメールマガジンを見た。

 いつもは気にならない
 【舞台俳優募集!】の文字が目に入った。

 詳しく眺めると、
 【うさぎとかめ】のかめ役欠員募集と
 なっていた。

 うさぎとかめと言えば、
 徒競走して、
 足の速いうさぎはとちゅうで
 のんびり休み
 足が遅いかめは
 必死でゴールに向かって、
 1位になったという
 早く走れれば良いってものじゃ無いと
 いう物語だ。

 それに出られて、仕事ができるならと
 すぐにメール送信して
 応募申し込みした。

 一刻も早く、妹のイライジャのために
 お腹いっぱい食べさせてやりたいという
 思いが強かった。

 お腹が大きな音を立てて鳴った。

「お兄ちゃん、お腹空いてるんでしょう。」

「違うよ。
 甲羅がうずいただけさ。」

「そうなの?」

 変に心配かけたくなかった。
 
 早く自由に平和に幸せになりたかった。

 ここじゃない屋根のある
 家の中で過ごしたい。

 木の葉っぱでは、雨粒でさえ、
 落ちてくる。

 水は嫌いじゃない。

 亀でも屋根は欲しい。

 切実な願いだった。


***


 翌朝、オリヴァはいつものように
 魚を捕まえようと
 川の中を潜って泳いでいた。

 あと少しで秋刀魚を捕まえそうだと
 言うところで、
 電話が大きな音を立てて
 鳴り響いた。

 水の中でも聞こえるようになっていた。

 滅多に電話がかかることのないため、
 びっくりして、
 水から顔を出して、
 すぐにボタンを押した。

「もしもし。」

 電話に出ると
 左腕の上に青いディスプレイ
 表示された。
 話した声が文字に変換されている。

『お忙しいところ、申し訳ありません。
 オリヴァさんでいらっしゃいますか?』

「はい、オリヴァです。」

『この度は、舞台俳優【うさきのかめ】の
 オーデイションに応募いただき
 ありがとうございます。
 今回担当しますのは、
 株式会社スタジオHITヒット
 グレースと申します。
 早速なんですが、
 オリヴァさんのエントリーシートを
 拝見しました。
 書類審査を通過致しましたので
 オーディションの日程の連絡を
 差し上げました。
 メモはよろしいでしょうか?』

「あ、え、はい。
 審査通過ですね。
 ありがとうございます。
 あとで記録できますので
 気にしないでください。
 そのまま話してください。」

 ボタンを押して、話してる内容を
 文字と声で保存できるように設定した。

 便利な機械だ。

『承知いたしました。
 それでは
 オーディション会場と日時を
 お伝えします。
 アクアマリン市 東駅近くの
 当社の  Bスタジオ に 
 9月10日 午前10時に
 お越しください。

 当日はリクルートスーツ着用で
 お願いします。
 衣装はこちらで準備いたします。
 何かご質問はありますか? 』
 
 とかげのグレースは優しく問いかける。
 画面越しで表情が見えた。

「と、特に問題ないです。」

『それでは 9月10日に
 お会いできるのを楽しみにしております。
 失礼いたします。』

 グレースは深々とお辞儀すると
 プツンと電話切った。

 深呼吸をして、また川に背中からびたんと
 倒れた。

 ぷかぷかと浮かんで、
 青い空に浮かぶ
 ふわふわわたあめのような雲を見つめた。

 空が綺麗に見えると言うことは
 心が澄んでいる。

 何とか、一歩前進できると晴れやかに
 なった。

 浮かんでいるオリヴァに水をかける
 イライジャ。

「うわ、何するんだよ。」

「水掛け合いっこ!!」

「やったな!」

 バシャバシャと掛け合って 
 水遊びを楽しんだ。

 
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