ブレーメン

もちっぱち

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順調だと思っていた

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いよいよ、メンバー全員の
音合わせの日だった。

ハンバーガーをお腹いっぱい食べた
アシェルとリアムは
休むのも束の間、
もう一度、練習して
自分の演奏や歌声が合っているか確認した。

クレアとオリヴァはだいぶ、
音が落ち着いたと
社長室の自動コーヒーメーカーでカフェオレを飲んで、休んでいた。

ボスはというと、
何年振りかのベースギターの演奏で
なかなか思うような音が出ず、苦戦していた。

「ボス、いくら経験者でも、
 練習をおろそかにすると
 できないもんなんですね。」

「うっせーな。
 俺だって、まさか弾くとは思わないから。
 経験者って言っても、
 少しやっただけで、
 担当はボーカルだったから!!」

「言い訳も何だか、弱々しいですよぉー。」

 ルークとボスとのやりとりが
 漫才コンビに見えてくる。
 長い付き合いだからか。

「…俺もやっぱりクレアじゃないけど、
 できるものってことでボーカル
 しようかな。」

「ボス?
 アシェルさんより前に出たら、
 ボスの作品になりますよ?
 それでもいいんですか?」

「あ、まぁ。確かに…。
 それは若い奴に任せた方がいいよな。
 ちょっと、自信がなかっただけだよ。
 ったく、
 俺だってやる仕事、
 他にもあるんだからな。」

「まぁまぁ、そう言わずに
 今日は、初めてのメンバー全員で
 揃える日ですよ。」

「そうだよな。そろそろ、合わせてみるか。
 ルーク、みんなホールに
 集めてくれないか。」

「わかりました。」

 ルークはそれぞれのレッスン室で 
 練習しているメンバーをホールに
 集め出した。

 一通り、まるまる1曲を演奏できるように
 なったため、みな自信に溢れていた。

 楽器をどんどんステージに運び込まれる。

 ドラムは大きくて、運ぶのに時間が
 かかっていた。

 準備が整った。


「緊張する。」

 ボスがみんなの前に
 立っていた。

「さて、今日、初めて合わせて
 練習するわけだけど。
 まぁ、初めてだし、
 リラックスして、
 やってみよう。
 それぞれ楽器を持って!」

 ボスはベースギターのアンプを調整して、
 ドラム近くに移動した。

 スタンドマイクの前には
 ギターを持ったアシェル。
 その隣にはフルートを持ったクレア。
 ドラムにオリヴァがいた。

 観客席はないが、メンバーの前に
 ルークとシャウトが真ん中にいた。

 オリヴァのスティックのリズムに
 合わせて、演奏が始まった。

 初めての割には、みな揃っていて、
 綺麗な音と、聴き心地の良い歌声だった。

 数週間で練習してできたとは思えない
 完成度だった。

 ルークは歌が終わると
 拍手を大きな音を立てて
 響き渡らせた。

「すごいです!
 ライブを見てるみたいでした。
 私は初めて聴きましたが、
 ほぼほぼ完成してると思いますよ。
 ボスは、どう思いました?」

「……俺も、良かったと思う。
 我ながら、なんとか弾けたし。
 歌も、熱意があったというか。」

「本当っすか!? 
 それは良かった。」

 胸をなでおろすアシェル。

 クレアはまずまずといったところ。

 リアムも納得の様子。

 どこか不安な顔なのは、オリヴァだった。

「本当に大丈夫なんでしょうか。」

「どうした、オリヴァ。
 そんなに自信ないのか?」

「目の前にお客さんがいないですし。
 本当に届いているのかなって
 ただの自己満足で終わってないかなって
 心配です。」


「そっか。
 自信ないか。
 やっぱり、現場で演奏してみないと
 手応えって見えてこないもんな。
 よし、会場手配してみるから、
 やってみよう。
 無名のメンバーだから集まるか
 分からないけど。」

 ボスは、思い切ってやろうと
 気合いが入った。

 ルークは慌てて、会場の手配をするために
 いろんな業者に電話をかけた。

 自信が満たされるのは何だろうと考えながら、オリヴァは何度も練習を繰り返した。

 アシェルは、自分の声を録音したものを
 聴いて、どこか修正点はないかと探した。

 クレアは念の為、
 最初から最後まで練習を繰り返し
 繰り返し行った。

 リアムは、
 キーボードの音の調整を確認して、
 繰り返し練習した。

 まだまだ修正できるところはありそうだと
 腕を組んで、見守るのはボスだった。

 そう考えながらも自分自身のベースの演奏も少し自信がなかった。

 大きな会場で演奏するまで、
 何度も練習が行われた。

 自信持って大丈夫だと言えるくらいまで
 昼夜問わず、繰り返した。

 腕がバキバキ、喉がガラガラになるまで
 やったが、体力を回復するのに時間が
 かかって本当に大丈夫かと
 メンバーみんなが不安になっていた。

 明日こそ、成功させるそんな思いで
 夜明けを待つことが多かった。
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