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#006

宮之阪の過去

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 私はこのクラスが好きだ。

 真面目なクラスとは到底言い難いが、みんな明るくて優しいし、時にはいざこざがあったりするけれど互いに協力し合えるところが好きだ。

 私はこの学校が好きだ。

 正直なところヤンチャな人も結構いる。いじめだって極たまにだけど見かける。でも、注意すればちゃんと直してくれるし、先生も頼れば応えてくれる。勉強熱心かと言えばそうではないけれど、他人を想うことが出来る生徒で溢れているこの学校が好きだ。

 この街が好きだ。

 決して治安が良い訳ではないけど、私の家族に優しくしてくれる暖かい商店街やご近所さんが住んでいるこの街が好きだ。

 この話をすると仲良くしてくれる友達はいつもこんな事を言う。

「買いかぶりすぎだよ」

 そんなことは無いと思う。少なくとも、私はそう思っている。だって実際に、この教室の、この学校の、この街の人みんなみんな私に優しくしてくれるから。

「それはあんたがみんなに親切にしてあげてるからだよ。人間なんて優しくして貰わないと優しくしてあげようと思わない中、あんたが自分から慈悲を配り歩くような事をしてきたからこそ、みんなあんたには優しくするのさ。だって私はあんた以外から優しくされた覚えなんてないからね」

 困ったもんだよ、と彼女は言った。

「目に付く困ってる人を一人一人助けるような女子高生あんたしかいないっての。おかげでこの辺りのみんなは神様よりあんたを信仰している節があるよ。みんながみんな『宮之阪カエデ』の名前を知ってるからね」

 それだったらそのこそ私の事を買いかぶりすぎだと思う。だって、困っている人を助けるのは当然の事でしょ?

「そんなことを思えるのはあんただけだよ」

 その友達は煙草に火をつけようとしたのでそれを没収すると、どこか嬉しそうにため息をはいてから、

「普通の人間ってのはそんなふうには出来ていないんだよ。必ず見返りを求め行動する。逆に報酬が無いと頑張れないのさ」

 誰かを助けるのに理由なんていらないでしょ?

「そう思う事が出来るあんたは―――変わり者だ」

 聞き慣れたその物言いに私はいつも通り首を傾げた。どうして困っている人を助ける事が変わっているのだろうか、と。

 家までの帰り道、少し遠回りをして河川敷沿いをのんびり歩きつつ、私は友達が言っていたことについて改めて考えてみた。

 彼女は、の人間はそんな慈悲深く出来ていないと言った。誰かに優しくは出来るが、代わりに見返りを求めるのが普通の人間だと言った。

 逆に、見返りを求めない人間は普通じゃないそうだ。

 確かに小さい頃から「優しい」という褒め言葉に伴ってよく「変わっている」と言われていた。

 「変わっている」とはつまり普遍的ではないということで、他の人とは何か少し違っているというわけだ。

 それがどうして「変わっている」なのか、家に着くまでじっくり考えても私には分からなかった。

 私にとってはそれが日常だったから。

 でも、高校生になって、義務教育を終えて客観的に私の方が変わっていたことに気が付いた。

 衝撃だった。

 同時に「大人になる」ということはこういうことなのだと理解した。子供のころから「いい子」というのは困っている人を助ける子のことだと教えられてきたが、まさしく「子供の頃の話」である。

 だから、私は高校性になるタイミングで社会的に「いい子」であろうとした。親に心配されてしまうような「変わり者」にならないように。

 けど彼は違った。

 高校一年の春の話である。

 彼が捨て猫ならぬ捨て少女を拾った時の話だ。人外にも思えるほど美しいその少女は、道端で泣いていたところを彼—————天野ヶ原君に拾われた。道行く人その誰もが泣いている小さな少女をまるでそこにいないかのようにふるまう中、天野ヶ原君だけが優しく声をかけたのだ。

 さらに、その少女はこの世界とは違う「異世界」来た、加えて政府の息がかかった機関から命を狙われていると自己紹介するものだから、天野ヶ原君は家にかくまうことしかできず最終的には天野ヶ原君まで命を狙われる始末。

 だが、少女を必死に助けようとする姿に、私は心を打たれた。

 彼こそが「人間」であると。

 私が「大人」にならなくてもいい、「人間」らしくありたいと思ったのもこの時だ。

 だから私も彼を助けようと思った。
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