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#006

3コール

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 人が死ぬのが日常になりつつあるこの学校で誰も誰かの死を気にかけなくなってしまっている中、俺の心臓は早鐘のごとく拍動していた。血管が脈を打つ音に頭が支配されて、喪失感と虚無感も相まって考えが上手くまとまらない。いつもアニメやドラマでこういう緊急事態の時、冷静に動くことが出来ないキャラを見てよくイライラするのだが、実際に自分が立たされると、なるほど、何をしていいのか頭が真っ白になるな。

 昼休み終了を告げるチャイムがなって警察を引き連れた教師が慌ただしい様子で駆け付けてきた後も教師に教室に戻れと言われるまで俺はその場でしばらく立ち尽くしていた。

 正直、俺が今何をするべきなのかさっぱり分からなかった。大きな目標としては「河内森キョウコを殺す」、それは分かっているのだが、精神的支柱でもあり、俺たちの参謀でもあった宮之阪を失ってしまった今、そのためにどう動けばいいのかが分からない。

 頼りにしようとしていた宮之阪のメモ帳も、死んでしまった宮之阪は持っていなかったし、文字通り八方塞がりになってしまった。

 結局、俺一人じゃあ何も出来ないのだ。改めて無力な自分に心底ガッカリするぜ。頭も良くなければ、戦えるわけでもない。会社勤めになれば「自分から仕事を見つけろ」って上司にいの一番に言われるのが目に浮かぶ。

 俺は素直に教室に向かう気にもなれず、遠回りをして飲み物でも買うべく自動販売機の元へとぼとぼと短い歩幅で向かいつつ、妹が言い残した「宮之阪は人間である」という言葉を思い返した。

 あれは一体どういう事だ。あいつは何が言いたかったんだ。何が面白くてあの時笑っていたんだ。妹ははっきりと言った。「ヒント」であると。そこにKに対する何か大きな手がかりがあるのだろうか。なぞなぞとか言うようなキャラでは無さそうだから、あいつの言ったヒントとやらをそのままの言葉の意味で考えればいいとは思うのだが。

 その後も、俺はその事について放課後の全校集会で宮之阪の自殺死体が見つかったという訃報を聞きながらも考えていた。

 鳥に勝るとも劣らない俺の脳みそで何とか考えついた可能性は一つ。そんな奴がいるとは思えないが宮之阪をよく思っていない奴が以前のように「学校の悪魔」を語って殺したという可能性だ。だとすれば全校集会終了後にはユウキから相手違いの抗議の電話がかかってくるはずであるが。

 俺は檀上で話す「強欲」を絵に描いたような小太りな見た目の校長から視線を切ってユウキが並んでいるはずのクラスの列へと向けた。だが、校長と対極にあるような見目麗しいユウキの姿はそこにはなかった。……ふむ、あいつは俺がこうして絶望している間も世界を救うのに必死なのだろう。

 しかし、さっきの俺の推理が間違っていたとして、仮に宮之阪がKになってしまったとは言え「学校の悪魔」という名のサークル仲間の一人をあっさり殺してしまうあたり、あいつは世界を救う事しかやはり頭にないのだろうか。

 俺はラノベとかでよく見る、ヒロインが死ねば主人公が助かるような場面で「殺して」と涙を流して懇願するヒロインを殺したりは絶対出来ないのだが、あいつはそうではないらしい。思い切りが良いと言うか、世界を救うこと以外はどうでもいいと割り切っているというか。

 清々しいまでの徹底された正義に、俺はあいつが時々怖くなる。

 まぁ、何にせよ宮之阪の事について一度あいつとはコンタクトを試みるべきだろう。現状報告や今後の事について聞きたいことが山ほどあるからな。

 ……我ながら今の自分の冷静さが怖くなるな。俺もまた心がマヒしてきているのだろう。

 宮之阪の死について知らなかった生徒達が体育館入口でたむろしどよめく中をさっとすり抜け早足で自分の教室へと向かった俺はその道中でユウキに一つメールを送った。しかし、『今何してるんだ?』の質問に対する返答はなし。教室に着き、自分のスクールバッグを手に取った所で追加でメールを送ったが、それにも反応はなかった。

 はて、やはり忙しいのだろうか。かと言って、いきなり俺から電話をかけるというのも、相手がユウキとは言えど躊躇される。

 と、なんだかんだと葛藤すること数分。結局、校門にまでたどり着いてしまったところで、俺はようやくユウキに電話することにした。本当はこの間にあいつの方から先に電話をかけてくれないかと思っていたのだが、そういった運命的なもんというのはそうそうそこらに転がっていないみたいだ。

 俺は少しばかり緊張しつつ、ユウキの携帯番号にかけた。数秒後、コール音が鳴った。

 ……。

 ……。

「……。」

 ……。

 ……。

 充電のし忘れ?それとも家に置いてきたとかか?……そんなはず無い。あいつがそんな事をするはずがない。あいつは言った。スリーコール。それはお互いの無事を確認する最短、最易の確認方法だと。

 その瞬間、頭をよぎった予感は一つ。

 そんなわけないと思い、何度かけ直しても俺のスマホから響くコール音は数度鳴ったあと、相手が電波の届かないところにいるかスマホの充電が入っていないというメッセージに変わるだけだった。

 つまり、ユウキが電話に出れない状況にあるというわけだ。

 そういう結論にたどり着いた瞬間、俺は手に持ったスクールバッグを投げ捨て駆け出していた。目指すはあいつのクラス。幸い、俺は全校集会後すぐに体育館から出てきたから、あいつが「普通」というカテゴリーに属しているかは分からんが普通の生徒達はまだ下校してないはずだ。

 しかしながら、生徒達が帰り支度をするあいつの教室の中に、その姿はどこにもなかった。
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