異界の相対者

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学校編

完璧

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バリシアがレポートを書くのに助かればと言って、シズに持っている本を貸した。図書館でアザムに会ったことをシズが話せば、アザムが読んだ本はなんだとバリシアは食いついてきた。教えれば明日買いにいこうとぼやきながら、バリシアは部屋を出て行った。
 試験があと一週間とせまり、ランニングと柔軟体操は欠かさないが、シズは机にかじりつく時間が多くなった。実技の試験もあるからもちろんアシスを連れて訓練棟に行き、自主練をしている。リュークにも相手をしてもらっているが、カザンとやっていることが多いため、シズとはそんなにはしてくれない。カザンはあれからシズに話しかけてこない。迷っているのかシズのことを切ったのか。シズはとりあえず今は引いている。
「シズ、ホットレモン作るけど飲む?」
 シズが勉強をしていると、簡易キッチンからアシスがホットレモンを作りだした。部屋のストーブの上でヤカンが湯気を吹き出している。
「飲む」
 アシスはキッチンの上にマグカップを二つ置き、右左それぞれにレモンをそのまま持つ。そして絞ると、素手でそこまで果汁が出るかというぐらいにマグカップに零れる。もちろん彼女は綺麗に手を洗っている。そしてヤカンのお湯をそそぐとスプーンを添えて、シズのデスクまでアシス特製豪快ホットレモンを持って来た。ちなみに夏は豪快レモンスカッシュだった。
「蜂蜜使うなら」
 渡された蜂蜜を少しだけ入れ、スプーンでかき混ぜる。シズは一休みする。
「あー、うまい」
「ありがとう。シズ入学当時では考えられないぐらい最近勉強してるよね」
「まあな。城人なれなかったらここ来た意味ねぇから」
 ホットレモンを飲みながら、シズは書きかけのレポートを眺める。デスクの端にはそこそこ分厚い本が五冊。授業のノートも広げている。ベッドの上には教科書が散らばっている。
「不思議だな」
「何が?」
 シズは独り言のつもりだったが、アシスに聞こえてしまった。
「私がこんなに勉強してるのが。一年前の自分じゃ到底想像できねぇわ」
 シズは学校ではノートなんてとらなかった。テスト勉強なんて高校入って三分もしてない。寝るか食べるか喧嘩だった。まあ、異世界に飛ばされるなんてふざけたことになるとは思うわけない。
「私も少し不思議。最近、自分が城人になるのに少し必死になってるの」
 アシスも頷く。
「え? 」
「私さ、そんなに大きな志があってここ受けたわけじゃないから。ただ人より優れたものがあるからそれを活かしてみようって」
 アシスは自分の手を開いたり閉じたりした。
「私、兄弟多いの。しかも長女。城人って安定してるし月賦もいい。退職して田舎に戻っても仕事のあてはある。両親の自慢にはなる、とかそんなくだらないことでなろうって思ったの」
「くだらなくなんかないよ」
「だって見栄ばっかだよ」
 アシスは自虐する。
「でも、家族を理由に将来決められるのは凄いことだよ」
 シズは高校卒業したら遊べる程度にバイトしようぐらいのことしか考えていなかった。アシスは照れたように微笑んだ。
「けど最近それだけじゃないの。シズが苦手な勉強をやったり、バリシアが毎日寝不足になっても本を読んでたり、リョークが朝走っている姿を窓から見たりするとこうしちゃいられないって思う。シズ達と一緒に城人になりたいって思う。だから、」
 アシスがシズをしっかり見た。
「今度の試験は三点とらないでね」
「やかましいわ」
 それからホットレモンが冷めきった夜更けに、シズはレポートを書き上げた。

 レポート提出が無事終わるとあとは二日後の中間試験だ。アカクラスは筆記の範囲は少ないが実技がある。実技は自信があるが警棒がちょっと不安だからリョークを掴めると、少し相手をしてくれるという。リョークはカッコイイが理由九十センチの警棒を使っている。正直やりにくいがいい相手だ。ちなみにアシスは一番短い三十センチだ。
 訓練棟に行くのに渡り廊下をシズが走っていると、写真が目に入る。そういえばあれから百期生の写真は見に行っていないと思い出す。立ち止まりアカクラスの写真から自分を捜す。仏頂面で写っていた。九十七期生のアオクラスの写真を見る。自分にしか見えない顔がいる。相違しない仏頂面で写っている。ふと人の気配がした。
「カンダ、なにのんびりしてるんだ」
「セッシサン教官」
セッシサンが不精髭を撫ぜながら歩いてくると、九十七期生の写真を覗くように見た。
「お前の双子の片割れ見てたのか?」
「え? 」
「事務室行った時に話を聞いた。あまり問題を起こすなよ」
 シズは苦笑いでごまかした。セッシサンは本当にそっくりだな、と呟いた。
「双子ってのは本当なのか? 」
「いや、適当です。けどここまでそっくりって気持ち悪いじゃないですか。名前知りたくて」
「その気持ちも分からんこともないな」
「教官は九十七期生の時はもう副局長だったんですか?」
「いや、俺は九十七期生の悲劇があった後になった。あれで一人副局長が死んだからな」
 四局のみ副局長が二人いる。それはこの学校が理由だ。アカクラスの担当教官は必ず四局の副局長だ。一人なら毎年クラスを持つことになってしまうから特例として二人いる。
「ラス・トイサキレウっていう人でな。俺の上司だった。飲みにもよく行っていたよ。九十七期生を受け持ってすぐに飲み行った時に言ってたよ。あいつらは完璧すぎるって」
「超優秀だったんですよね」
「そうだ」
 セッシサンは歯切れが悪かった。
「優秀なら分かる。あいつらは完璧過ぎた。アルガー塾生は。勉強、学校生活すべてが完璧。仲間への思いやりはあり、お互い励まし合うこともあった。それさえも完璧だった。ただの堅物じゃない。ジョークも完璧。トイサキレウ副局長はまるで脚本があるみたいだったって言っていた」
「脚本?」
「演じているみたいだってことだ。アルガー塾生は役者だと思えばしっくりくるってな」
 アルガー塾生。ドッペルゲンガーもそこの塾生だったのだろうかとシズは考える。
「その、アルガー塾ってまだあるんですか?」
「いや。九十七期生のことがショックで塾やめてどっかにいっちまったってよ」
 もしまだあったなら私と同じ顔の塾生いましたか?って聞けたのに。うまくいかないとシズは肩を落とす。
 それから二日間、最後の追い込みをして、シズは中間試験に挑んだ。分からないところもあったが入学試験とは手ごたえが雲泥の差だった。あとは祈るだけだ。
 軽くなった気持ちで廊下を歩いていると後ろからシズは声をかけられた。セドニだ。
「なんですか?」
 低い声で睨むようにシズはセドニと向き合った。
「お前はなんでそう喧嘩腰なんだ」
 セドニは呆れたような馬鹿にしているような腹立つ口調で言った。お前が尾行してくるからだとかは、シズはまだ言わない。証拠がない。この男には何度もカマをかけたがうまい事かからなかった。次に問い詰めるなら徹底的にしてやるとシズは計画する。
「今のところあんたは私の敵だからだ」
 シズはそう言い捨てて顔を背けると歩き出した。それからもシズから監視の気配が消えることはなかった。
 一週間後中間試験の結果発表が出た。結果はレポート良、筆記可、実技優。不可はなく、シズは無事にベグテクタに行ける。そして三点を返上した。


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